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第二十章 キューバ戦役
サンフランシスコの最期
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一九五六年三月二十五日、メキシコ合衆国カリフォルニア州サクラメント。
アメリカ軍がメキシコ湾の制海権を失ったニューオーリンズ海戦から一週間。日本軍とソ連軍の航空支援が届かないカリフォルニア州では、アメリカ軍の活動は依然として活発であった。
アメリカのメキシコ侵攻軍を任されていたのは、罷免されていた筈のカーチス・ルメイ空軍大将であった。メキシコ侵攻の総司令官など戦争が終わればまず間違いなく処刑されるので、アイゼンハワー首相はルメイにこの役を押し付けたのである。しかしルメイは久しぶりに軍隊の指揮を任されて、やる気に満ち溢れていた。
カルフォルニア州を電撃的に侵略したアメリカ軍は次々と都市を占領し、ルメイはサンフランシスコの北東にある中規模の都市サクラメントに司令部を移した。
「いい加減サンフランシスコは落ちないのか!?」
ルメイは幕僚達を前にして机を叩き付けた。
「は、はい……。サンフランシスコに立て籠る日本軍とメキシコ軍の士気は高く、一歩進むだけで一苦労なのです……」
「ならば空爆しろ! サンフランシスコを瓦礫の山にしろ!!」
「お、お言葉ですが閣下、サンフランシスコには既に、高さ3m以上の建築物は残っておりません。これ以上の空爆は無意味かと」
「じゃあどうして敵は抵抗できるんだ!?」
「あちこちに地下壕や塹壕がありまして、敵は地下に潜伏して抵抗を続けています。その全容を掴むことはほとんど不可能でして……」
「なら焼夷弾だ! サンフランシスコを火の海にしろ!」
「焼夷弾に効果があるとは……」
「何を言っている? 地下壕に籠っているのなら、熱で焼き殺せばいいだけの話だろう!」
「そ、それは、戦時国際法に反する行為なのでは……」
不要な苦痛を与える兵器を使用すること、またそのような戦術を用いることはハーグ陸戦条約で禁止されている。先の大戦でドイツの諸都市に焼夷弾を投下して多数の市民を焼き殺した英軍のハリス大将などは戦争犯罪人として処刑された。
「戦時国際法だと? そんなものを守ったところでどうなる? 勝てばどんな戦争犯罪も帳消しだし、負ければどんな清廉潔白な人間でも罪をでっち上げられて処刑されるんだ。どんな手を尽くしてでも勝つ方がいいに決まっている」
「は、はい……」
「いいか、全員よく聞け! 24時間以内にサンフランシスコを完全に占領するぞ!!」
ルメイは民間人が多数残っていること、その中にはアメリカ系住民もいることを知った上で、容赦ない大量虐殺を命じた。
○
既にマトモに地上に出ることも叶わない辻中将らは、爆撃の中で何もできなかった。流石に方面軍司令部の地下壕は頑丈であり、爆撃の被害を直接受けることはなかったが、被害の報告を受けた辻政信中将は平然としてはいられなかった。
「これは……なんということだ……。アメリカの鬼畜め!」
「民間人の避難していた地下施設などは、ほとんど全滅です。軍用の地下壕も、浅いものだと壊滅したようです」
アメリカ空軍が投下した焼夷弾は、もちろん地下壕に直接届くことはない。しかし焼夷弾は他に燃えるものがなくても自ら燃え続け、地面を焼いてその熱は地下にまで至った。それほど深くない地下に避難していた人々は、熱と酸欠によって一つの傷もなく死んでいたのだ。
民間人の被害はおよそ2万人に及び、軍人もまた6千人ほどが死亡した。この虐殺は後にサンフランシスコ空襲として世界に知れ渡り、アメリカ軍の異常さを世界に知らしめることになる。
「閣下! 敵が、敵が動き出しました! 総攻撃です!」
「クソッ。これまでか……」
空襲で多数の兵を失い、辻中将は抵抗が不可能であることを悟った。
「閣下……」
「アメリカ軍に降伏の意志を伝えろ。私は、自決する」
「な、何を仰いますか!?」
「敗軍の将が恥を晒す訳にはいくまい」
「それは……恥をかきたくないから自決なさるということですよね?」
「そ、そんな話では――」
「閣下はこんなこところで死ぬべきではありません! 閣下は生きて、メキシコ防衛の指揮を執るのです! それが責任の取り方というとのでしょう! 死んで責任を取るなどとは思わないことです!」
「…………分かった」
辻中将は密かにサンフランシスコを脱出し、その直後、北米方面軍司令部はルメイに全面降伏の意を伝えた。カリフォルニア州は完全に占領されたのであった。
○
「ほら見ろ、一日で落ちただろう。実に簡単だったな」
「はっ……」
サンフランシスコを陥落させ、ルメイ大将は浮かれきっている。しかし生来の異常さが衰えることはない。
「さて、カリフォルニアは合衆国に帰還したが、残念ながらこの土地は独裁者の手先に穢されてしまった。我々はこれを民主主義の炎で浄化しなければならない」
「はぁ……」
「であるからして、まずはカリフォルニアに存在する全てのメキシコ人を殺す。すぐに実行せよ」
「なっ……」
「だが、殺すのは大人だけだぞ。子供はきちんと教育を受けさせれば、立派な民主主義者に更生することができるからな! 大人は皆殺しにし、子供はしっかりと保護して民主主義を教育せよ。言うまでもないが、メキシコの歴史もスペイン語も忘れさせろ。偉大なる合衆国の歴史と民主主義さえ知っていればいいのだ!」
ルメイの命令が完全に実行されることはなかったものの、カリフォルニア出身の兵士などは率先してメキシコ人を虐殺した。良心の残っていた者は殺したフリをして密かにメキシコ本土へ脱出させた。いずれにせよ、カリフォルニア全土で行われた虐殺で、最低でも50万人のメキシコ人が殺され、同じくらいの子供達が孤児になった。
アメリカ軍がメキシコ湾の制海権を失ったニューオーリンズ海戦から一週間。日本軍とソ連軍の航空支援が届かないカリフォルニア州では、アメリカ軍の活動は依然として活発であった。
アメリカのメキシコ侵攻軍を任されていたのは、罷免されていた筈のカーチス・ルメイ空軍大将であった。メキシコ侵攻の総司令官など戦争が終わればまず間違いなく処刑されるので、アイゼンハワー首相はルメイにこの役を押し付けたのである。しかしルメイは久しぶりに軍隊の指揮を任されて、やる気に満ち溢れていた。
カルフォルニア州を電撃的に侵略したアメリカ軍は次々と都市を占領し、ルメイはサンフランシスコの北東にある中規模の都市サクラメントに司令部を移した。
「いい加減サンフランシスコは落ちないのか!?」
ルメイは幕僚達を前にして机を叩き付けた。
「は、はい……。サンフランシスコに立て籠る日本軍とメキシコ軍の士気は高く、一歩進むだけで一苦労なのです……」
「ならば空爆しろ! サンフランシスコを瓦礫の山にしろ!!」
「お、お言葉ですが閣下、サンフランシスコには既に、高さ3m以上の建築物は残っておりません。これ以上の空爆は無意味かと」
「じゃあどうして敵は抵抗できるんだ!?」
「あちこちに地下壕や塹壕がありまして、敵は地下に潜伏して抵抗を続けています。その全容を掴むことはほとんど不可能でして……」
「なら焼夷弾だ! サンフランシスコを火の海にしろ!」
「焼夷弾に効果があるとは……」
「何を言っている? 地下壕に籠っているのなら、熱で焼き殺せばいいだけの話だろう!」
「そ、それは、戦時国際法に反する行為なのでは……」
不要な苦痛を与える兵器を使用すること、またそのような戦術を用いることはハーグ陸戦条約で禁止されている。先の大戦でドイツの諸都市に焼夷弾を投下して多数の市民を焼き殺した英軍のハリス大将などは戦争犯罪人として処刑された。
「戦時国際法だと? そんなものを守ったところでどうなる? 勝てばどんな戦争犯罪も帳消しだし、負ければどんな清廉潔白な人間でも罪をでっち上げられて処刑されるんだ。どんな手を尽くしてでも勝つ方がいいに決まっている」
「は、はい……」
「いいか、全員よく聞け! 24時間以内にサンフランシスコを完全に占領するぞ!!」
ルメイは民間人が多数残っていること、その中にはアメリカ系住民もいることを知った上で、容赦ない大量虐殺を命じた。
○
既にマトモに地上に出ることも叶わない辻中将らは、爆撃の中で何もできなかった。流石に方面軍司令部の地下壕は頑丈であり、爆撃の被害を直接受けることはなかったが、被害の報告を受けた辻政信中将は平然としてはいられなかった。
「これは……なんということだ……。アメリカの鬼畜め!」
「民間人の避難していた地下施設などは、ほとんど全滅です。軍用の地下壕も、浅いものだと壊滅したようです」
アメリカ空軍が投下した焼夷弾は、もちろん地下壕に直接届くことはない。しかし焼夷弾は他に燃えるものがなくても自ら燃え続け、地面を焼いてその熱は地下にまで至った。それほど深くない地下に避難していた人々は、熱と酸欠によって一つの傷もなく死んでいたのだ。
民間人の被害はおよそ2万人に及び、軍人もまた6千人ほどが死亡した。この虐殺は後にサンフランシスコ空襲として世界に知れ渡り、アメリカ軍の異常さを世界に知らしめることになる。
「閣下! 敵が、敵が動き出しました! 総攻撃です!」
「クソッ。これまでか……」
空襲で多数の兵を失い、辻中将は抵抗が不可能であることを悟った。
「閣下……」
「アメリカ軍に降伏の意志を伝えろ。私は、自決する」
「な、何を仰いますか!?」
「敗軍の将が恥を晒す訳にはいくまい」
「それは……恥をかきたくないから自決なさるということですよね?」
「そ、そんな話では――」
「閣下はこんなこところで死ぬべきではありません! 閣下は生きて、メキシコ防衛の指揮を執るのです! それが責任の取り方というとのでしょう! 死んで責任を取るなどとは思わないことです!」
「…………分かった」
辻中将は密かにサンフランシスコを脱出し、その直後、北米方面軍司令部はルメイに全面降伏の意を伝えた。カリフォルニア州は完全に占領されたのであった。
○
「ほら見ろ、一日で落ちただろう。実に簡単だったな」
「はっ……」
サンフランシスコを陥落させ、ルメイ大将は浮かれきっている。しかし生来の異常さが衰えることはない。
「さて、カリフォルニアは合衆国に帰還したが、残念ながらこの土地は独裁者の手先に穢されてしまった。我々はこれを民主主義の炎で浄化しなければならない」
「はぁ……」
「であるからして、まずはカリフォルニアに存在する全てのメキシコ人を殺す。すぐに実行せよ」
「なっ……」
「だが、殺すのは大人だけだぞ。子供はきちんと教育を受けさせれば、立派な民主主義者に更生することができるからな! 大人は皆殺しにし、子供はしっかりと保護して民主主義を教育せよ。言うまでもないが、メキシコの歴史もスペイン語も忘れさせろ。偉大なる合衆国の歴史と民主主義さえ知っていればいいのだ!」
ルメイの命令が完全に実行されることはなかったものの、カリフォルニア出身の兵士などは率先してメキシコ人を虐殺した。良心の残っていた者は殺したフリをして密かにメキシコ本土へ脱出させた。いずれにせよ、カリフォルニア全土で行われた虐殺で、最低でも50万人のメキシコ人が殺され、同じくらいの子供達が孤児になった。
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