軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~

takahiro

文字の大きさ
381 / 766
第二十章 キューバ戦役

キューバの反撃Ⅱ

しおりを挟む
 一九五六年三月二十六日、キューバ国首都ハバナ。

 アメリカ軍キューバ遠征軍総司令官のマーク・クラーク大将は、アイゼンハワー首相からの命令を受けて今度の大規模攻勢の指揮を執っていた。

「大将閣下、迎撃に出た基地航空隊は全滅しました。日本軍はサンタ・クララ周辺の道路を爆撃し、我が軍の補給線は壊滅状態です」
「まったく、船魄というものは恐ろしい。人間では相手にならないな」

 日本空軍はメキシコでの総力戦に忙しくキューバに回す戦力がほとんどないので、空について心配することはないだろうとクラーク大将は思っていたのだが、この有様である。

「敵が発艦した時点でエンタープライズに救援を要請していたとしても、間に合いませんでした……」
「ああ。海軍の連中がフロリダに引き籠ってるのが悪いんだ。800km先からどうやってキューバの制空権を維持するつもりなんだか」

 日本軍がキューバに張り付いているのに対して、エンタープライズらは遥か彼方のジャクソンヴィルにいる。ここに来るだけで1時間近くかかるので、日本軍が動き出してから出撃しても間に合わないのだ。

 クラーク大将が海軍に文句を言っていると、海軍の連絡将校が苛立った口調で反論する。

「お言葉ですが、軍艦というのは四六時中稼働できるものではありません。常に整備が必要ですし、損傷したとなればなおのことです」
「超大型空母を三隻一緒に整備しているのか?」
「エンタープライズ以外の空母を、彼女なしでここに寄越しても意味がありません」

 アメリカ海軍の東半分は今やエンタープライズに頼り切りである。エンタープライズに他の空母の制御を与えるのは常態化しているし、そうでないと日本の船魄に全く太刀打ちできないのだ。

「海軍は危機管理がなってないんじゃないか?」
「そのご指摘ならば甘んじて受け入れますが、海軍は決して怠慢によってメイポート補給基地に留まっている訳ではないことを、ご理解いただきたい」
「分かった分かった。で、エンタープライズはいつ自由に動けるようになるんだ?」
「それについては未定ですが……陸軍がそれを強く希望するのであれば、可能な限り早く動かせるようにします」
「具体的には?」
「個人的な予想を申し上げることをお許しいただけるのなら、10日程度かと」
「おお、結構早いじゃないか。それで頼む」
「はっ……」

 実際、クラーク大将がスプルーアンス元帥に問い合わせたところ、海軍としても10日でエンタープライズを前線に復帰させることは可能という返答を得た。

「しかし閣下、補給が寸断されている現状、10日も前線を維持することは不可能なのでは……」
「ああ。何とかしないとな。まずは、工兵隊を全部出して道路の敷設だ」
「日本軍に襲われたら一溜りもないのでは?」
「……構わん。幾ら死んでも構わない。全力で道路を修理させるんだ」
「は、はあ……」
「そして、それを囮にして、本命の作戦を行う」
「囮、ですか?」
「ああ、囮だ。そもそも幾ら道路を直したところですぐに破壊されるだけだろう」
「では何をするおつもりで?」
「海上輸送だ。海から物資を運び込む。それならエンタープライズとも歩調を合わせられるからな」
「しかし、あの辺りにマトモな港はないのでは……」
「戦車揚陸艦で物資を運べばいい」

 基本的に強襲上陸を目的にしている戦車揚陸艦であるが、物資の輸送にも使い勝手はいい。クラーク大将は海軍に協力を要請して(揚陸艦もエンタープライズも海軍の管轄なのだが)作戦は早速開始された。

 ○

 さて、その動きは帝国海軍がすぐに察知した。アメリカ東海岸に配置されている伊六百七潜水艦が、メイポート補給基地を出航してキューバ中部に向かう船団を確認したのである。その報せは有賀中将を通してすぐ瑞鶴やゲバラに伝わった。

「――どうやら、海から補給物資を運び込むつもりみたいだ」

 鳳翔艦内の会議室で、ゲバラは船魄達にそう告げた。

「なるほど。船ならエンタープライズの護衛も付けられるって訳ね」
「ああ。空にはエンタープライズの艦載機が飛び回っている」
「エンタープライズが全力で護衛する中で船を沈めるか……」
「君でも厳しいのか?」
「相手の数にもよるけど、何十っていう桁でいるなら、全部を沈めるのはまず無理ね。キューバに到着する前に撃沈するっていう条件があるなら尚更よ」
「そうか……。阻止するのは無理か」
「私達には無理でも、妙高達ならできるんじゃない?」

 と唐突に話を振ると、妙高は一瞬理解が及ばずに固まってから大声を上げた。

「えっ、妙高ですか!?」
「そう言ったわ」
「つまり……敵の輸送船団を攻撃してこい、ということですか……?」
「ええ。私達がエンタープライズは押さえておくから、その間に揚陸艦を沈めるのよ」
「な、なるほど。最近はあまりやってませんでしたけど、通商破壊は巡洋艦の役目です。妙高は大丈夫です。高雄と愛宕さんは?」
「わたくしも喜んで出撃します。巡洋艦の本懐を果たしましょう」
「ちゃんと護衛してくれなかったら帰るわ」
「うん、問題ないわね。あんまり時間はなさそうだから、今すぐに出撃して」

 制空権があるとは言え、重巡洋艦三隻だけの戦隊とは寂しいものである。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記

糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。 それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。 かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。 ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。 ※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

対ソ戦、準備せよ!

湖灯
歴史・時代
1940年、遂に欧州で第二次世界大戦がはじまります。 前作『対米戦、準備せよ!』で、中国での戦いを避けることができ、米国とも良好な経済関係を築くことに成功した日本にもやがて暗い影が押し寄せてきます。 未来の日本から来たという柳生、結城の2人によって1944年のサイパン戦後から1934年の日本に戻った大本営の特例を受けた柏原少佐は再びこの日本の危機を回避させることができるのでしょうか!? 小説家になろうでは、前作『対米戦、準備せよ!』のタイトルのまま先行配信中です!

徳川慶勝、黒船を討つ

克全
歴史・時代
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 尾張徳川家(尾張藩)の第14代・第17代当主の徳川慶勝が、美濃高須藩主・松平義建の次男・秀之助ではなく、夭折した長男・源之助が継いでおり、彼が攘夷派の名君となっていた場合の仮想戦記を書いてみました。夭折した兄弟が活躍します。尾張徳川家15代藩主・徳川茂徳、会津藩主・松平容保、桑名藩主・松平定敬、特に会津藩主・松平容保と会津藩士にリベンジしてもらいます。 もしかしたら、消去するかもしれません。

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...