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第二十一章 北太平洋海戦
結末
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『浮かんでいるのが不思議なくらいぶっ壊れてますね~』
土佐は武蔵に向かって呑気な感想を呟いた。
武蔵の船体は41cm砲弾を150発は喰らい、酷い有様である。艦首と艦尾は原型を留めないほどに破壊され、艦尾の格納庫などは完全に破壊されて艦載機や装載艇が木っ端微塵になっている。中央部のバイタルパートだけで浮かんでいるような状況であった。
「流石に、私も限界であります……。暫く休ませて、もらうのであります……」
『どうぞ~、ごゆっくり~』
戦闘の勢いで誤魔化していたが、武蔵は引き裂かれるような痛みに晒され続けていた。武蔵はもうこれ以上の戦闘には耐えられそうもなく、艦橋に持ってきていた寝袋の上に倒れ込んで、そのまま深く眠りについた。
土佐から武蔵の状況を聞かされた連合艦隊司令部は、直ちに武蔵に医者など救護要員を送り込んだ。武蔵は上甲板も舷梯も粉砕されていたので、ヘリコプターからロープを垂らして降下するという荒業であったが。
『武蔵さんは大丈夫ですか~?』
武蔵の様子を見に来ていた岡本平八技術中将に、土佐は問い掛けた。
「ああ、問題はない。ただ疲れて眠っているだけだ」
『よかったです~』
「とは言え、これ以上戦闘に使うのは無理だろうな」
『その状態の武蔵さんをこれ以上戦わせようとしてたんですか~?』
「戦闘が可能ならば武蔵を使いたいのは当然だろう?」
『あれで戦闘が可能な訳ないじゃないですか~』
「そのくらい分かっている」
いずれにせよ、武蔵は速力もかなり落ちているし、とても戦闘を継続できる状態ではない。大和型戦艦は移動させるだけでも困難だが、幸いにして同じ大和型の信濃がいたので曳航することができた。三隻の戦艦は艦隊に戻った。
○
所変わって、第一機動艦隊に戻ってきた和泉の艦内。草鹿大将は次の手を考えていた。
「今一決め手に欠くな……。どう決着を着ければいいものか」
「既にこちらの方が有利なんだ。全艦隊で突撃すればいいんじゃないかな?」
和泉は提案する。既に全ての艦種において戦力は上回っている。ここで総攻撃を行えば、確実に勝利を掴むことができるだろう。
「それも一つの手であるが、それなりの損害は出るだろうな」
「じゃあ、航空戦力で全力で攻撃するとか?」
「悪くはない。敵の水上戦力は随分と数を減らしているからな」
それだけ高角砲や機銃の数が減ったということだ。こちらが全力で航空隊を出せば、アメリカ軍は迎撃しきれまい。
「それでいいじゃないか」
「いや、もう少し考えさせてくれ」
「草鹿、君は決断力がないな」
「ああ、よく言われる。私も本当は連合艦隊司令長官など向いていないとは思うんだが」
「まあ他に適任の人間なんてそうそういないか」
草鹿大将は全艦隊を一気に動かすという決断をなかなかできずにいた。だが、迷っている内にアメリカ軍が動き出した。
「敵艦隊、北西に向かって移動を始めたようです」
「逃げるのか。まあ確かに、アメリカに勝ち目はない以上、逃げるのは妥当な判断だな」
アメリカ軍はこれ以上の戦闘が無意味だと判断して逃走を始めた。それはベーリング海峡の制海権を譲るということである。
「敵が逃げるのなら、追撃するのが定石ってものだよね?」
「そうだな。あまり艦載機を失いたくはないが、追撃した方がよさそうだ。全艦隊に全艦載機を出撃させるよう通達してくれ」
逃げるアメリカ軍を追って、国連艦隊のほぼ全ての艦載機、およそ一千二百が飛び立った。
○
「て、敵軍の総攻撃です!」
「敵の艦載機の数は千を超えています!」
「やはりそう来たか。全艦、速やかに艦上戦闘機を発艦させよ。敵を近付かせるな!」
アメリカ側も素早く対応し、四百五十機程の艦上戦闘機を上げた。すぐさまアメリカ艦隊の上空で航空戦が幕を開ける。艦上攻撃機・爆撃機を護衛しながら戦う日本の戦闘機と、相手を落とすことだけ考えていればいいアメリカ軍とでは、アメリカ軍の方がやりやすいことは違いない。
「レキシントン、戦況はどうだ?」
シャーマン大将は艦橋のレキシントンに電話で尋ねる。
『意外と何とかなっているよ。こっちは艦隊を密集させたからだろうね』
「別に対空砲火の密度は変わらないと思うが」
アメリカ海軍は数が減った分だけ陣形を縮小しているのであって、これまでより緻密にした訳ではない。
『戦闘機が動き回らなくていいからね。こっちとしてはやりやすいよ』
「なるほど。そういうことか」
『ああ。陣形のどこでも目が届くから――おっと危ない』
レキシントンは相変わらず危機感のない声で。
「どうした?」
『誰か分からないけどクリーブランド級の子が爆撃されそうになっていた』
「撃退したのか?」
『もちろん。何とかなるって言っただろう?』
「そのようだな」
アメリカの航空艦隊は日本軍を迎撃できる程度の能力は持っていたようで、シャーマン大将は一先ず安堵した。日本軍は20分ほど交戦すると去っていった。アメリカ艦隊の被害は駆逐艦三隻のみであった。
ベーリング海峡の制海権を賭けた北太平洋海戦は、国連海軍の圧勝に終わったのである。しかしアメリカ海軍も壊滅は免れ、ある程度の戦力を温存させることに成功した。
土佐は武蔵に向かって呑気な感想を呟いた。
武蔵の船体は41cm砲弾を150発は喰らい、酷い有様である。艦首と艦尾は原型を留めないほどに破壊され、艦尾の格納庫などは完全に破壊されて艦載機や装載艇が木っ端微塵になっている。中央部のバイタルパートだけで浮かんでいるような状況であった。
「流石に、私も限界であります……。暫く休ませて、もらうのであります……」
『どうぞ~、ごゆっくり~』
戦闘の勢いで誤魔化していたが、武蔵は引き裂かれるような痛みに晒され続けていた。武蔵はもうこれ以上の戦闘には耐えられそうもなく、艦橋に持ってきていた寝袋の上に倒れ込んで、そのまま深く眠りについた。
土佐から武蔵の状況を聞かされた連合艦隊司令部は、直ちに武蔵に医者など救護要員を送り込んだ。武蔵は上甲板も舷梯も粉砕されていたので、ヘリコプターからロープを垂らして降下するという荒業であったが。
『武蔵さんは大丈夫ですか~?』
武蔵の様子を見に来ていた岡本平八技術中将に、土佐は問い掛けた。
「ああ、問題はない。ただ疲れて眠っているだけだ」
『よかったです~』
「とは言え、これ以上戦闘に使うのは無理だろうな」
『その状態の武蔵さんをこれ以上戦わせようとしてたんですか~?』
「戦闘が可能ならば武蔵を使いたいのは当然だろう?」
『あれで戦闘が可能な訳ないじゃないですか~』
「そのくらい分かっている」
いずれにせよ、武蔵は速力もかなり落ちているし、とても戦闘を継続できる状態ではない。大和型戦艦は移動させるだけでも困難だが、幸いにして同じ大和型の信濃がいたので曳航することができた。三隻の戦艦は艦隊に戻った。
○
所変わって、第一機動艦隊に戻ってきた和泉の艦内。草鹿大将は次の手を考えていた。
「今一決め手に欠くな……。どう決着を着ければいいものか」
「既にこちらの方が有利なんだ。全艦隊で突撃すればいいんじゃないかな?」
和泉は提案する。既に全ての艦種において戦力は上回っている。ここで総攻撃を行えば、確実に勝利を掴むことができるだろう。
「それも一つの手であるが、それなりの損害は出るだろうな」
「じゃあ、航空戦力で全力で攻撃するとか?」
「悪くはない。敵の水上戦力は随分と数を減らしているからな」
それだけ高角砲や機銃の数が減ったということだ。こちらが全力で航空隊を出せば、アメリカ軍は迎撃しきれまい。
「それでいいじゃないか」
「いや、もう少し考えさせてくれ」
「草鹿、君は決断力がないな」
「ああ、よく言われる。私も本当は連合艦隊司令長官など向いていないとは思うんだが」
「まあ他に適任の人間なんてそうそういないか」
草鹿大将は全艦隊を一気に動かすという決断をなかなかできずにいた。だが、迷っている内にアメリカ軍が動き出した。
「敵艦隊、北西に向かって移動を始めたようです」
「逃げるのか。まあ確かに、アメリカに勝ち目はない以上、逃げるのは妥当な判断だな」
アメリカ軍はこれ以上の戦闘が無意味だと判断して逃走を始めた。それはベーリング海峡の制海権を譲るということである。
「敵が逃げるのなら、追撃するのが定石ってものだよね?」
「そうだな。あまり艦載機を失いたくはないが、追撃した方がよさそうだ。全艦隊に全艦載機を出撃させるよう通達してくれ」
逃げるアメリカ軍を追って、国連艦隊のほぼ全ての艦載機、およそ一千二百が飛び立った。
○
「て、敵軍の総攻撃です!」
「敵の艦載機の数は千を超えています!」
「やはりそう来たか。全艦、速やかに艦上戦闘機を発艦させよ。敵を近付かせるな!」
アメリカ側も素早く対応し、四百五十機程の艦上戦闘機を上げた。すぐさまアメリカ艦隊の上空で航空戦が幕を開ける。艦上攻撃機・爆撃機を護衛しながら戦う日本の戦闘機と、相手を落とすことだけ考えていればいいアメリカ軍とでは、アメリカ軍の方がやりやすいことは違いない。
「レキシントン、戦況はどうだ?」
シャーマン大将は艦橋のレキシントンに電話で尋ねる。
『意外と何とかなっているよ。こっちは艦隊を密集させたからだろうね』
「別に対空砲火の密度は変わらないと思うが」
アメリカ海軍は数が減った分だけ陣形を縮小しているのであって、これまでより緻密にした訳ではない。
『戦闘機が動き回らなくていいからね。こっちとしてはやりやすいよ』
「なるほど。そういうことか」
『ああ。陣形のどこでも目が届くから――おっと危ない』
レキシントンは相変わらず危機感のない声で。
「どうした?」
『誰か分からないけどクリーブランド級の子が爆撃されそうになっていた』
「撃退したのか?」
『もちろん。何とかなるって言っただろう?』
「そのようだな」
アメリカの航空艦隊は日本軍を迎撃できる程度の能力は持っていたようで、シャーマン大将は一先ず安堵した。日本軍は20分ほど交戦すると去っていった。アメリカ艦隊の被害は駆逐艦三隻のみであった。
ベーリング海峡の制海権を賭けた北太平洋海戦は、国連海軍の圧勝に終わったのである。しかしアメリカ海軍も壊滅は免れ、ある程度の戦力を温存させることに成功した。
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