軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~

takahiro

文字の大きさ
461 / 766
第二十三章 ワシントン決戦

ジュノー襲撃

しおりを挟む
 国連軍はウィルミントンに上陸して北上を続ける。ソ連軍はカナダとアメリカの国境を越えようとしている。マーシャル元帥は徹底的な焦土作戦を繰り広げ、国連軍に犬小屋一つ使わせないほど徹底的に文明の産物を破壊していた。焦土作戦と並行して、兵士の大半にはゲリラ戦を命じて後方を撹乱すると同時に、国連軍に隙が見えれば虎の子の戦車師団を投入して押し返すという巧みな采配を振り、国連軍の進撃を可能な限り食い止めていた。

 とは言え、それも僅かな時間稼ぎにしかならない。北から迫るソ連軍、西から迫るドイツ軍、南で圧力を加える日本軍を同時に相手取ることなど、元より生産力でソ連一国に劣っているアメリカには到底不可能なのだ。

 ○

 一九五六年六月十三日、カナダ共和国ブリティッシュ・コロンビア州、ジュノー。

 ジュノーに籠城しているアメリカ第1艦隊であるが、ジュノーは完全に包囲され、戦況に積極的に寄与する能力は失われていた。

 もちろん、第1艦隊の戦力は依然として無視できないものではある。それ故に国連海軍は常に大規模な艦隊を眼前に配置し、地上部隊がレキシントンやサラトガに襲撃されることに備え大規模な航空隊を配備せざるを得ない。敵の戦力をそれなりに拘束することができており、現存艦隊主義の目的は果たせていると言えるだろう。

 ジュノーは複雑な入江の奥深くにあり、かつ46cm砲を含む要塞砲や隠顕された魚雷発射管が大量に配置されており、国連海軍も迂闊には手を出せない。

 その筈だったのだが、その日、事態は唐突に動き出した。

「閣下! 魚雷です! 魚雷を探知しました!」
「何だと!? あり得ない!」

 ジュノーは多くの島々に守られている。魚雷をここに届かせるには、遠くとも30km以内には近寄らなければならない。だが、その距離まで近付いた敵影を見逃すというのは全く考えられない。

「し、しかしこれは――」
「全艦に通達!! 今すぐに回避行動を取れ!」

 しかし、余りにも突然の出来事であるし、対応できる猶予もなかった。結果としてサラトガの左舷に3発の魚雷が命中した。

「サラトガが被弾! 浸水が発生しているとのこと!」
「ダメージコントロールを急がせろ! それと、最悪の場合に備え港に入れ!」

 港の中で沈めば引き揚げて修理することもできる。サラトガはみるみるうちに傾いていき、本当に沈んでしまいそうだ。

「浸水が激しく、傾斜が回復できません!」
「クッ……。サラトガに繋いでくれ」
「はっ!」

 シャーマン大将はサラトガの船魄と直接通信を繋いだ。自身の損傷を一番良く認識できるのは船魄である。

「サラトガ、まだ動けるか?」
『あー、動けないことはないよ』

 気だるそうな声が返ってくる。危機感はまるで感じないが、それはレキシントンと同じく感情表現というものを知らないからだろう。

「浸水は食い止められるか?」
『それは無理そう』
「分かった。ならば埠頭に突っ込め。港に着底させるんだ」
『それで生きてるって言えるの?』
「今すぐやれ!」
『はいはい』

 サラトガに対処を命令したところで、シャーマン大将にはすぐさまやらなければならないことがある。どこから魚雷が飛んできたのか確かめることである。

「周辺に本当に敵艦はいないんだな?」
「はい。複数のレーダーで確認していますが、周囲30km以内に敵の姿はありません」
「なら、水上艦の攻撃ではないな。やはり潜水艦だ。レキシントンに通達。今すぐ偵察機を出して潜水艦を炙り出せ!」

 潜水艦以外あり得ないと判断したシャーマン大将は、レキシントンに対潜哨戒を行わせた。だが、ジュノー周辺の狭い水路を探せばいいだけにも拘わらず、敵を発見することはできなかった。

『潜水艦なんてどこにもいないよ。これ以上探すのは無駄だね』
「分かった。だが警戒は続けてくれ」
『了解』
「一体、どうなっているんでしょうか……」
「もう逃げたのか、或いは空からでは見つけられないほど深く潜れる潜水艦でもいるのか……。論理的に考えればそれくらいしか考えられないな」
「では、後者の可能性を考えて、こちらも潜水艦で索敵を行いましょう」

 索敵範囲は航空機と比べ物にならないほど狭いが、潜水艦を見つけることに一番秀でているのは潜水艦である。シャーマン大将はジュノーから6隻の潜水艦を出撃させ索敵を続ける。だがジュノーに魚雷が届く範囲に敵を発見することはできなかった。

「やはり、敵はもう逃げたのでしょうか」
「そうとしか考えられないが、魚雷を一回撃って逃げることに何の意味がある?」
「我々への脅しになるのでは? いつでも攻撃することができるのだと」
「既に我々は警戒を強めた。二度目の攻撃はあり得ない」
「た、確かに……」

 シャーマン大将は敵の意図を全く読めなかった。だがその時であった。すぐ上にいるレキシントンから通信が入る。

『敵の魚雷を確認したよ。ここから南東に50km地点』
「何だと? そんな場所に魚雷があったところでジュノーには届かないが」
『うーん……。どうやら、魚雷が曲がっているみたいだ』
「何? 誘導魚雷ということか?」
『それは知らないけど、人の手で操縦されてる感じはするね。何か大きいし』
「……分かった。君は引き続き警戒をしていてくれ」

 レキシントンに毅然と命令するが、シャーマン大将は頭を抱えるしかなかった。

「て、敵は一体、何なのですか?」
「この世界に実用的な誘導魚雷は一つしかない。日本軍の回天だ」

 帝国海軍が開発していた人間魚雷こと回天。世界初の特攻専用兵器であるが、実用に供されることはなかった。それが今になって姿を現したらしい。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

徳川慶勝、黒船を討つ

克全
歴史・時代
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 尾張徳川家(尾張藩)の第14代・第17代当主の徳川慶勝が、美濃高須藩主・松平義建の次男・秀之助ではなく、夭折した長男・源之助が継いでおり、彼が攘夷派の名君となっていた場合の仮想戦記を書いてみました。夭折した兄弟が活躍します。尾張徳川家15代藩主・徳川茂徳、会津藩主・松平容保、桑名藩主・松平定敬、特に会津藩主・松平容保と会津藩士にリベンジしてもらいます。 もしかしたら、消去するかもしれません。

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記

糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。 それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。 かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。 ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。 ※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

対ソ戦、準備せよ!

湖灯
歴史・時代
1940年、遂に欧州で第二次世界大戦がはじまります。 前作『対米戦、準備せよ!』で、中国での戦いを避けることができ、米国とも良好な経済関係を築くことに成功した日本にもやがて暗い影が押し寄せてきます。 未来の日本から来たという柳生、結城の2人によって1944年のサイパン戦後から1934年の日本に戻った大本営の特例を受けた柏原少佐は再びこの日本の危機を回避させることができるのでしょうか!? 小説家になろうでは、前作『対米戦、準備せよ!』のタイトルのまま先行配信中です!

日本が危機に?第二次日露戦争

歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。 なろう、カクヨムでも連載しています。

小沢機動部隊

ypaaaaaaa
歴史・時代
1941年4月10日に世界初の本格的な機動部隊である第1航空艦隊の司令長官が任命された。 名は小沢治三郎。 年功序列で任命予定だった南雲忠一中将は”自分には不適任”として望んで第2艦隊司令長官に就いた。 ただ時局は引き返すことが出来ないほど悪化しており、小沢は戦いに身を投じていくことになる。 毎度同じようにこんなことがあったらなという願望を書き綴ったものです。 楽しんで頂ければ幸いです!

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記

颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。 ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。 また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。 その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。 この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。 またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。 この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず… 大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。 【重要】 不定期更新。超絶不定期更新です。

処理中です...