軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~

takahiro

文字の大きさ
468 / 766
第二十三章 ワシントン決戦

ワシントン要塞Ⅱ

しおりを挟む
 一九五六年六月十六日、首相官邸ホワイトハウス。

「首相閣下、ご報告します。先の艦砲射撃により、ノーフォーク海軍基地とニューポート・ニューズ造船所は壊滅しました。これにより、チェサピーク湾内で軍艦の修理と整備を行う能力は失われたと言ってもいいでしょう」

 スプルーアンス元帥はアイゼンハワー首相にそう報告した。

「造船所くらい他にもあるだろう。それでどうにかならないのか?」
「重巡洋艦程度までなら小規模の造船所でも整備くらいは行えますが、戦艦や空母を整備することは不可能です」
「そうか……。分かった」

 アイゼンハワー首相はすっかり意気消沈していたが、一番の当事者であるスプルーアンス元帥は案外そうでもない。首相は元帥が平然としているのを見て、その理由を尋ねた。

「――どうしてかと言われましても、そもそもほとんどの軍艦は今や必要ありますまい。ワシントン要塞から一歩外に出れば、グラーフ・ローン級戦艦などに一瞬で沈められることは間違いないのですから」
「海軍の総司令官がそんなことを言っていいのか?」
「事実ですから。しかし、制空権だけは維持しなければなりません」
「そうじゃないか。エンタープライズが損傷したらどうするつもりだ?」

 陸海問わずワシントン周辺の制空権はエンタープライズに頼り切りである。陸軍の航空機など全て鉄屑にして彼女の艦載機にした方がいいと言われる始末である。

「最悪の場合、船魄さえ生きていれば、問題はありません。他の空母から、或いは飛行場から艦載機を飛ばせばいいのですから」
「ワシントンに引き籠っている限り、エンタープライズの飛行甲板そのものは必要ないということか。我々が勝っていた頃の日本軍の気持ちがよく分かった」

 航空母艦のどこに価値があるかと言えば、広大な洋上のどこでも航空機を展開できるところである。逆に言えば、陸地が近いならば陸地から航空機を出した方がいい。飛行甲板という極めて狭い滑走路から飛び立つ必要もそこに降り立つ必要もないのだ。

 さて、チェサピーク湾の一番奥、ワシントンの手前くらいであれば、大西洋からの距離は180km。ロケット砲弾でも届きはしない。この辺りに艦隊を集めておけば暫くは安全だろう。80cm砲が破壊されない限りは。

 ○

 ドイツ軍は航空戦力によってワシントン要塞を突破しようと試みていた。ソ連やイタリアの空母とも協力しながら、およそ600機の戦力でチェサピーク湾に襲撃を掛けたのである。

 それを迎え撃つのは当然ながらエンタープライズであり、250機のF9Fを操って、チェサピーク湾入口の上空で国連軍と交戦状態に入った。

 船魄の能力を明らかに超えた数の艦載機を同時に操って倍以上の敵と戦っている訳だが、エンタープライズは楽しそうに笑いながら戦っている。

「ふふ、大したことはありませんね。国連軍なんて名前だけですね」
「まあ、大半の艦は実戦経験がないからな。お前と比べれば弱いだろう」

 マッカーサー元帥はエンタープライズに全幅の信頼を寄せていた。それは首相を初めとする上層部も同様であろう。

「どうだ? 敵に脅威になりそうな奴はいるか?」
「ペーター・シュトラッサーだけはそれなりに脅威ですが、他は雑魚ですね。数が多いだけです」
「そのシュトラッサーは艦載機の数が少ない、か。やれるな」
「さっきからそう言っているだけではありませんか」
「そうだった。まあ、多少押されても構わないぞ。80cm砲のトーチカを破壊するには、戦略爆撃機を投入しないと不可能だからな」

 こういう分厚い鉄筋コンクリートを破壊する地中貫通爆弾は、第二次世界大戦でドイツ軍やイギリス軍が開発していた。ドイツ軍は主にイギリス軍の地下司令部を粉砕する為に、イギリス軍はUボートブンカーを破壊する為である。

 とは言え、こういう爆弾は重さが10t近くに達し、艦上爆撃機などでは絶対に運べない。鈍重な戦略爆撃機が必要であるが、それを運用するには絶対的な制空権が必要である。逆に言えばエンタープライズは敵に圧力を加えてさえいればいいのである。

 その程度の仕事ならエンタープライズには容易いこと。国連軍がエンタープライズを圧倒することは遂に叶わなかった。ドイツ軍が月虹と手を組むことを依然として嫌がっているからでもあるが。

 さて、戦闘が開始してから40分程のことであった。

「……おや、四発爆撃機のようです」
「何? この状況で戦略爆撃機を投入してきたのか?」

 噂をすればと言うべきか、地中貫通爆弾を搭載できる戦略爆撃機が10機、姿を見せた。

「そのようです。ふふ、私をちょっと押し込んだくらいで爆撃機が安全だと思ったんでしょうか」
「落とせるか?」
「ええ、もちろん。こんな作戦に付き合わされる兵士達が可哀想ですが」

 と言いつつ、エンタープライズは口元に笑みを浮かべながら戦闘機を差し向ける。ドイツ軍の戦闘機が食い止めようとするが、簡単に突破される。あっという間に20機の編隊がドイツの爆撃機に襲い掛かった。

「これで終わりです。さようなら」

 戦略爆撃機など、護衛を突破されれば無力そのもの。空中で爆発するか海面に叩きつけられるかの違いはあったが、一瞬にして全機が撃墜されたのであった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記

糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。 それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。 かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。 ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。 ※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。

大日本帝国、アラスカを購入して無双する

雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。 大日本帝国VS全世界、ここに開幕! ※架空の日本史・世界史です。 ※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。 ※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。

天竜川で逢いましょう 〜日本史教師が石田三成とか無理なので平和な世界を目指します〜

岩 大志
歴史・時代
ごくありふれた高校教師津久見裕太は、ひょんなことから頭を打ち、気を失う。 けたたましい轟音に気付き目を覚ますと多数の軍旗。 髭もじゃの男に「いよいよですな。」と、言われ混乱する津久見。 戦国時代の大きな分かれ道のド真ん中に転生した津久見はどうするのか!!??? そもそも現代人が生首とか無理なので、平和な世の中を目指そうと思います。

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

対ソ戦、準備せよ!

湖灯
歴史・時代
1940年、遂に欧州で第二次世界大戦がはじまります。 前作『対米戦、準備せよ!』で、中国での戦いを避けることができ、米国とも良好な経済関係を築くことに成功した日本にもやがて暗い影が押し寄せてきます。 未来の日本から来たという柳生、結城の2人によって1944年のサイパン戦後から1934年の日本に戻った大本営の特例を受けた柏原少佐は再びこの日本の危機を回避させることができるのでしょうか!? 小説家になろうでは、前作『対米戦、準備せよ!』のタイトルのまま先行配信中です!

電子の帝国

Flight_kj
歴史・時代
少しだけ電子技術が早く技術が進歩した帝国はどのように戦うか 明治期の工業化が少し早く進展したおかげで、日本の電子技術や精密機械工業は順調に進歩した。世界規模の戦争に巻き込まれた日本は、そんな技術をもとにしてどんな戦いを繰り広げるのか? わずかに早くレーダーやコンピューターなどの電子機器が登場することにより、戦場の様相は大きく変わってゆく。

大東亜戦争を有利に

ゆみすけ
歴史・時代
 日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を

処理中です...