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第二十三章 ワシントン決戦
ワシントン要塞Ⅱ
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一九五六年六月十六日、首相官邸ホワイトハウス。
「首相閣下、ご報告します。先の艦砲射撃により、ノーフォーク海軍基地とニューポート・ニューズ造船所は壊滅しました。これにより、チェサピーク湾内で軍艦の修理と整備を行う能力は失われたと言ってもいいでしょう」
スプルーアンス元帥はアイゼンハワー首相にそう報告した。
「造船所くらい他にもあるだろう。それでどうにかならないのか?」
「重巡洋艦程度までなら小規模の造船所でも整備くらいは行えますが、戦艦や空母を整備することは不可能です」
「そうか……。分かった」
アイゼンハワー首相はすっかり意気消沈していたが、一番の当事者であるスプルーアンス元帥は案外そうでもない。首相は元帥が平然としているのを見て、その理由を尋ねた。
「――どうしてかと言われましても、そもそもほとんどの軍艦は今や必要ありますまい。ワシントン要塞から一歩外に出れば、グラーフ・ローン級戦艦などに一瞬で沈められることは間違いないのですから」
「海軍の総司令官がそんなことを言っていいのか?」
「事実ですから。しかし、制空権だけは維持しなければなりません」
「そうじゃないか。エンタープライズが損傷したらどうするつもりだ?」
陸海問わずワシントン周辺の制空権はエンタープライズに頼り切りである。陸軍の航空機など全て鉄屑にして彼女の艦載機にした方がいいと言われる始末である。
「最悪の場合、船魄さえ生きていれば、問題はありません。他の空母から、或いは飛行場から艦載機を飛ばせばいいのですから」
「ワシントンに引き籠っている限り、エンタープライズの飛行甲板そのものは必要ないということか。我々が勝っていた頃の日本軍の気持ちがよく分かった」
航空母艦のどこに価値があるかと言えば、広大な洋上のどこでも航空機を展開できるところである。逆に言えば、陸地が近いならば陸地から航空機を出した方がいい。飛行甲板という極めて狭い滑走路から飛び立つ必要もそこに降り立つ必要もないのだ。
さて、チェサピーク湾の一番奥、ワシントンの手前くらいであれば、大西洋からの距離は180km。ロケット砲弾でも届きはしない。この辺りに艦隊を集めておけば暫くは安全だろう。80cm砲が破壊されない限りは。
○
ドイツ軍は航空戦力によってワシントン要塞を突破しようと試みていた。ソ連やイタリアの空母とも協力しながら、およそ600機の戦力でチェサピーク湾に襲撃を掛けたのである。
それを迎え撃つのは当然ながらエンタープライズであり、250機のF9Fを操って、チェサピーク湾入口の上空で国連軍と交戦状態に入った。
船魄の能力を明らかに超えた数の艦載機を同時に操って倍以上の敵と戦っている訳だが、エンタープライズは楽しそうに笑いながら戦っている。
「ふふ、大したことはありませんね。国連軍なんて名前だけですね」
「まあ、大半の艦は実戦経験がないからな。お前と比べれば弱いだろう」
マッカーサー元帥はエンタープライズに全幅の信頼を寄せていた。それは首相を初めとする上層部も同様であろう。
「どうだ? 敵に脅威になりそうな奴はいるか?」
「ペーター・シュトラッサーだけはそれなりに脅威ですが、他は雑魚ですね。数が多いだけです」
「そのシュトラッサーは艦載機の数が少ない、か。やれるな」
「さっきからそう言っているだけではありませんか」
「そうだった。まあ、多少押されても構わないぞ。80cm砲のトーチカを破壊するには、戦略爆撃機を投入しないと不可能だからな」
こういう分厚い鉄筋コンクリートを破壊する地中貫通爆弾は、第二次世界大戦でドイツ軍やイギリス軍が開発していた。ドイツ軍は主にイギリス軍の地下司令部を粉砕する為に、イギリス軍はUボートブンカーを破壊する為である。
とは言え、こういう爆弾は重さが10t近くに達し、艦上爆撃機などでは絶対に運べない。鈍重な戦略爆撃機が必要であるが、それを運用するには絶対的な制空権が必要である。逆に言えばエンタープライズは敵に圧力を加えてさえいればいいのである。
その程度の仕事ならエンタープライズには容易いこと。国連軍がエンタープライズを圧倒することは遂に叶わなかった。ドイツ軍が月虹と手を組むことを依然として嫌がっているからでもあるが。
さて、戦闘が開始してから40分程のことであった。
「……おや、四発爆撃機のようです」
「何? この状況で戦略爆撃機を投入してきたのか?」
噂をすればと言うべきか、地中貫通爆弾を搭載できる戦略爆撃機が10機、姿を見せた。
「そのようです。ふふ、私をちょっと押し込んだくらいで爆撃機が安全だと思ったんでしょうか」
「落とせるか?」
「ええ、もちろん。こんな作戦に付き合わされる兵士達が可哀想ですが」
と言いつつ、エンタープライズは口元に笑みを浮かべながら戦闘機を差し向ける。ドイツ軍の戦闘機が食い止めようとするが、簡単に突破される。あっという間に20機の編隊がドイツの爆撃機に襲い掛かった。
「これで終わりです。さようなら」
戦略爆撃機など、護衛を突破されれば無力そのもの。空中で爆発するか海面に叩きつけられるかの違いはあったが、一瞬にして全機が撃墜されたのであった。
「首相閣下、ご報告します。先の艦砲射撃により、ノーフォーク海軍基地とニューポート・ニューズ造船所は壊滅しました。これにより、チェサピーク湾内で軍艦の修理と整備を行う能力は失われたと言ってもいいでしょう」
スプルーアンス元帥はアイゼンハワー首相にそう報告した。
「造船所くらい他にもあるだろう。それでどうにかならないのか?」
「重巡洋艦程度までなら小規模の造船所でも整備くらいは行えますが、戦艦や空母を整備することは不可能です」
「そうか……。分かった」
アイゼンハワー首相はすっかり意気消沈していたが、一番の当事者であるスプルーアンス元帥は案外そうでもない。首相は元帥が平然としているのを見て、その理由を尋ねた。
「――どうしてかと言われましても、そもそもほとんどの軍艦は今や必要ありますまい。ワシントン要塞から一歩外に出れば、グラーフ・ローン級戦艦などに一瞬で沈められることは間違いないのですから」
「海軍の総司令官がそんなことを言っていいのか?」
「事実ですから。しかし、制空権だけは維持しなければなりません」
「そうじゃないか。エンタープライズが損傷したらどうするつもりだ?」
陸海問わずワシントン周辺の制空権はエンタープライズに頼り切りである。陸軍の航空機など全て鉄屑にして彼女の艦載機にした方がいいと言われる始末である。
「最悪の場合、船魄さえ生きていれば、問題はありません。他の空母から、或いは飛行場から艦載機を飛ばせばいいのですから」
「ワシントンに引き籠っている限り、エンタープライズの飛行甲板そのものは必要ないということか。我々が勝っていた頃の日本軍の気持ちがよく分かった」
航空母艦のどこに価値があるかと言えば、広大な洋上のどこでも航空機を展開できるところである。逆に言えば、陸地が近いならば陸地から航空機を出した方がいい。飛行甲板という極めて狭い滑走路から飛び立つ必要もそこに降り立つ必要もないのだ。
さて、チェサピーク湾の一番奥、ワシントンの手前くらいであれば、大西洋からの距離は180km。ロケット砲弾でも届きはしない。この辺りに艦隊を集めておけば暫くは安全だろう。80cm砲が破壊されない限りは。
○
ドイツ軍は航空戦力によってワシントン要塞を突破しようと試みていた。ソ連やイタリアの空母とも協力しながら、およそ600機の戦力でチェサピーク湾に襲撃を掛けたのである。
それを迎え撃つのは当然ながらエンタープライズであり、250機のF9Fを操って、チェサピーク湾入口の上空で国連軍と交戦状態に入った。
船魄の能力を明らかに超えた数の艦載機を同時に操って倍以上の敵と戦っている訳だが、エンタープライズは楽しそうに笑いながら戦っている。
「ふふ、大したことはありませんね。国連軍なんて名前だけですね」
「まあ、大半の艦は実戦経験がないからな。お前と比べれば弱いだろう」
マッカーサー元帥はエンタープライズに全幅の信頼を寄せていた。それは首相を初めとする上層部も同様であろう。
「どうだ? 敵に脅威になりそうな奴はいるか?」
「ペーター・シュトラッサーだけはそれなりに脅威ですが、他は雑魚ですね。数が多いだけです」
「そのシュトラッサーは艦載機の数が少ない、か。やれるな」
「さっきからそう言っているだけではありませんか」
「そうだった。まあ、多少押されても構わないぞ。80cm砲のトーチカを破壊するには、戦略爆撃機を投入しないと不可能だからな」
こういう分厚い鉄筋コンクリートを破壊する地中貫通爆弾は、第二次世界大戦でドイツ軍やイギリス軍が開発していた。ドイツ軍は主にイギリス軍の地下司令部を粉砕する為に、イギリス軍はUボートブンカーを破壊する為である。
とは言え、こういう爆弾は重さが10t近くに達し、艦上爆撃機などでは絶対に運べない。鈍重な戦略爆撃機が必要であるが、それを運用するには絶対的な制空権が必要である。逆に言えばエンタープライズは敵に圧力を加えてさえいればいいのである。
その程度の仕事ならエンタープライズには容易いこと。国連軍がエンタープライズを圧倒することは遂に叶わなかった。ドイツ軍が月虹と手を組むことを依然として嫌がっているからでもあるが。
さて、戦闘が開始してから40分程のことであった。
「……おや、四発爆撃機のようです」
「何? この状況で戦略爆撃機を投入してきたのか?」
噂をすればと言うべきか、地中貫通爆弾を搭載できる戦略爆撃機が10機、姿を見せた。
「そのようです。ふふ、私をちょっと押し込んだくらいで爆撃機が安全だと思ったんでしょうか」
「落とせるか?」
「ええ、もちろん。こんな作戦に付き合わされる兵士達が可哀想ですが」
と言いつつ、エンタープライズは口元に笑みを浮かべながら戦闘機を差し向ける。ドイツ軍の戦闘機が食い止めようとするが、簡単に突破される。あっという間に20機の編隊がドイツの爆撃機に襲い掛かった。
「これで終わりです。さようなら」
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