軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~

takahiro

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第二十五章 瀬戸際外交

アメリカ月虹同盟Ⅱ

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「取り敢えず現状を確認する。あなた達の主砲は戦闘によって損傷するか、或いは摩耗するかで、全体的に交換が必要な状況」
「そうですよね……。そろそろ主砲も限界がきている感じがします……」

 どんな大砲でも使えば徐々に摩耗していくものである。砲身は消耗品なのだ。定期的に砲身そのものか、その内筒を交換しなければならない。

「だけど、アメリカ軍には日本の8インチ砲の備蓄はない。当たり前だけど」
「アメリカ軍の主砲を使うしかないですよね……」
「うん。ドイツ軍の8インチ砲も使えなくはないけど」
「主砲身を交換する必要性は分かるけど、外国の主砲を混ぜるなんて考えられないわ。普通に考えて論外でしょ」

 愛宕は言う。一般的に、主砲というのは全て統一されるべきである。射程や威力が全て揃っているからこそ、前弩級戦艦などと比べ射撃管制が大幅に効率化され、戦闘能力を向上させられるのである。

「これは愛宕の言う通りですね。複数の主砲を使うのは船魄と言えども厳しいものがありますね」

 高雄は以前に受けた修理で四番五番砲塔がドイツ製のものに置き換えられている。砲身が別物になると、高雄でも制御することは難しい。

「分かってる。だから、アメリカ海軍としては、全ての主砲を私達の主砲――Mk.16にすることを提案する」
「主砲をアメリカ製に置き換える、ですか……」

 妙高は第一印象として、受け入れ難いと思った。アメリカは日本にとって怨敵である。主砲という軍艦にとって最も重要な部分をアメリカ製にするというのは、流石に嫌悪感がある。

「嫌だと思われるとは分かっている。私だって、主砲を日本の三年式に置き換えろと言われたら、多分拒否するから」
「しかし、この状況で最善の手段はそれ、ということですね」

 高雄は言う。複数の主砲を混在させるのは、軍艦にとって紛れもなく最悪である。それを回避できるのであれば、例え全ての主砲がアメリカ製になるとしても、それを受け入れるべきである。それが論理的な結論というものだ。

「でもアメリカの重巡はみんな3連装砲じゃない。大丈夫なの?」
「愛宕……交換するのは主砲身だけですよ」
「え、あ、そう」
「もちろん、日本の規格に合わせる為には、それなりの改造は必要かと思われますが」
「うん。その時間は必要。でも、それほど大変な訳ではないと思う」
「何ヶ月くらい掛かりそうですか……?」

 妙高は不安げに尋ねた。

「私にはよく分からないけど、2ヶ月程度と聞いている。もちろん、あなた達の主砲を調査させてもらうことが前提ではあるけど」
「おお、意外と早いですね。妙高は問題ないと思うけど、どうかな、高雄?」
「いずれ必要なことです。反対する理由はありません。愛宕はどうですか?」
「別に構わないわよ。不愉快だけど仕方ないわ」
「またそんなことを言って……」

 愛宕の態度に高雄は頭を抱えるが、デモインは全く気にしない。

「私達は敵同士だった。不快に思われるのも仕方ない。じゃあ、主砲身の交換と修理を始めるよう、軍部に言ってくる」

 かくして、重巡洋艦三隻の本格的な修理と整備が始まった。もちろん費用は全てアメリカ海軍持ちである。

 ○

 さて、乾ドックに入った重巡洋艦三隻は暇であった。修理中でも艦内にいることは可能ではあるが、工事の音が煩く安らげないので、月虹の船魄達はアメリカ軍の宿舎を貸してもらっていた。アメリカ軍が妙な行動を起こさないよう、建物一つを丸ごと借りて、その周囲をキューバ軍に警備してもらっている。

 基本的に部屋は有り余っているので、船魄達は一人一部屋を使う気でいたのだが、やはりと言うべきか愛宕は高雄と一緒の部屋で寝たがる。

「お姉ちゃん、ここでも一緒に寝ましょう?」

 と言いながら、愛宕は高雄と腕を絡める。だが、高雄の返答は愛宕にとって全く予想外のものであった。

「愛宕……わたくしは結構怒っています。あなたは人のことを考えなさ過ぎです」
「え……? な、何を言っているの、お姉ちゃん……?」

 愛宕の顔は真っ青になっていた。

「愛宕は暫く一人で反省してください! わたくしは妙高と一緒に寝ます!」

 愛宕の腕を振り解き、高雄は妙高の部屋に向かった。愛宕は驚きのあまり立ち竦んでしまった。

「ま、待って……待ってよ、お姉ちゃん……」
「わたくしはあなたを甘やかし過ぎたのです。少し厳しくさせてもらいます」
「そ、そうじゃ、なくて……」

 愛宕はすっかり気が動転して、廊下の真ん中で固まっていた。と、そこに空気を読まないグラーフ・ツェッペリンがやってきた。

「どうしたのだ、お前? 一族郎党が殺されたような顔をして」
「ええ……そうね。私にとってはお姉ちゃんが全てなの。お姉ちゃんがいなかったら、私はどうしようもないのよ」
「は? 何を言ってるんだ、お前は」
「本当ね。何を言ってるのかしら、私は」
「愛宕、お前本当にどうしたんだ? 我でよかったら相談に乗るぞ?」
「あんたに相談? そんなことするくらいなら、とっとと寝た方がマシね」
「はぁ? わ、我のことを何だと思っているんだ貴様!?」
「ちょっと元気が出たわ。ありがとう、ツェッペリン」
「お、おう……?」

 愛宕はとぼとぼと自分の寝室に入っていった。ツェッペリンも何が何だか分からないまま寝室に戻った。
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