軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~

takahiro

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第二十五章 瀬戸際外交

大和の復活

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 一九五六年十二月四日、アメリカ連邦フロリダ州ジャクソンヴィル、メイポート補給基地。

 月虹がメイポート補給基地に入ってから1ヶ月程度が経過した。各艦の修理と整備は順調に進んでおり、そして大和を目覚めさせる計画も順調に推移している。

「瑞鶴、大和を目覚めさせる準備は整いました。上手くいっていれば、最後の電気ショックを加えれば、彼女は目覚める筈です」

 アメリカの技師は瑞鶴にそう報告した。大和の身体には十数本の導線が繋がっており、さながらフランケンシュタインに蘇らせれる死体のようである。

「あ、そう……。意外と、早かったわね……」

 瑞鶴はもう大和と再開する時のことを想像して上の空と言った様子である。

「あー、その、最後の作業を開始して大丈夫ですか?」
「え、ええ、そうね。もちろんよ。但し、ここにいる全員に言っておくけど、大和にもしものことがあったら、全員大和と同じ運命を辿るってことは分かってるわね?」

 瑞鶴は腰に提げた拳銃をチラつかせる。

「は、はい、もちろん。我々としてはできる限りのことをさせて頂きましたし、万が一の際の安全策も講じています」
「そう。じゃあ始めてちょうだい」
「はい。危険ですから、瑞鶴は離れていてください」

 最後の工程が開始される。技師達も大和の身体から離れ、その一人が物々しいレバーを下ろすと大和の身体に電流が流され、その身体がビクビクと震える。僅かに焦げ臭い。その通電は10秒間程度に渡った。

「こ、これで、大和は目覚める筈です」
「そう。あんた達は全員外に出てって」
「し、しかし、そうすると万が一の際に対処ができません!」

 万が一の際に殺されたくないからか、或いは技術者としての誇り故か、彼らは大和から離れることを拒否した。

「……分かった。じゃあ、ちょっとだけ離れてて」

 技術者達は大和から数歩離れ、瑞鶴は大和の目の前に。寝息を立てる大和にそっと呼び掛ける。

「大和。起きて、大和」
「…………ん……う……」
「大和……?」

 か細く呻くような声を出しながら、大和の瞼がゆっくりと開かれる。

「大和? 私が分かる、大和?」
「瑞鶴、彼女は10年以上も眠っていたんです。急に話しかけると、混乱させるだけです」
「あ、そ、そうね」
「…………あ……」

 大和はまだ意識が朦朧としているようで、しきりに天井や壁に視線を移して、自分の存在を確かめているかのようだった。瑞鶴には大和が壊れやすいガラス細工のように思えて、話しかけることができなかった。

「ねえ、本当に大丈夫なんでしょうね?」
「軽くうたた寝してから起きた時ですら、人は暫く混乱状態になります。長期間の昏睡状態にあった人ならば、それどころではありません」
「……そう、ね」
「暫く待って、彼女の意識が覚醒するのを待ちましょう」
「え、ええ……」

 瑞鶴は大和の傍に立ち、その時を待った。本当に大和が正常な状態なのかも分からず、瑞鶴には何十分にも感じられたが、実際は3分程度であった。大和の目の焦点が定まってきて、顔に生気が宿り、その視線は瑞鶴を捉えた。

「瑞鶴、さん……? ですか……?」
「え……ええ! そうよ! 瑞鶴よ!」
「大和は……どうなっている、のですか……? エンタープライズは、どうなりましたか……?」

 大和の記憶は当然、先代のエンタープライズに沈められた時点で止まっている。彼女は今でも1945年にいるのだ。

「エンタープライズなら、沈めたわ。あなたは何も心配する必要はないのよ」
「そう、でしたか……。よかった、です……」

 大和は起き上がろうとするが、しかし身体がついてこない。

「あ、あれ……? 身体に、力が、入らない……」
「そ、そうね。心配する必要はないわ。ゆっくり起きましょう」

 瑞鶴は大和の上半身をゆっくりと起こした。大和自身は力を入れられず、ほとんど瑞鶴の力で起き上がったようなものだったが。しかし大和が体を起こすと、周囲を取り囲む技術者達が嫌でも目に入る。

「この人達は……?」
「ああ、心配しないで。私の捕虜よ。あなたの治療を手伝わせてたの」
「そう、ですか……。大和は、どうなっている、のですか……?」
「彼女にはあまり一気に話し過ぎないよう、気を付けてください。彼女を混乱させてしまうだけです」

 技術者の一人が耳打ちした。そうは言われても、何から言えばいいかはよく分からなかった。

「大和、あなたはエンタープライズに沈められたの。覚えてる?」
「そう、ですね……。そうだと、思ったのですが……」
「ええ。あなたの艦は沈んだけど、あなたは長い間眠っていたの」
「今は……いつ、なのですか……?」
「落ち着いて聞いてね。今は、昭和31年よ」
「そう、ですか……。大和は、10年も眠っていたのですね……」
「そう、だから、身体も動かしにくいと思う。でも安心して。私がずっとあなたに付き添うから」
「瑞鶴さんは、10年も……大和の身体を、世話してくれていたのですか……?」
「え、ええ、そうよ。当たり前でしょう?」
「そんなこと、普通の人ならできないですよ。ありがとうございます、瑞鶴さん」

 大和は少し憂いを含んだ笑みを浮かべるが、瑞鶴にそんなことに気付く余裕はなかった。

「大和……」
「瑞鶴さん……?」

 瑞鶴は大和に抱きついた。10年ぶりに感じる大和の体温を手放したくなくて、気が済むまで延々と大和を抱きしめ続けた。
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