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第二十五章 瀬戸際外交
大和の覚醒
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「ええと……こういう時ってどうすればいいの? リハビリ? とか言うやつ?」
「そうですね。大和はまだ歩くことも困難でしょう。少しずつ身体を慣らしていくべきかと」
「分かった」
「それと、暫くは必要でしょうから、車椅子も用意してあります」
「準備がいいわね。ありがとう」
取り敢えずは大和の身体に繋がったケーブルなどを外し、瑞鶴は大和を車椅子に座らせた。
「ごめんなさい、瑞鶴さん。こんなことまでさせてしまって……」
「何も問題ないのよ。あなたと一緒にいれれば、他はどうだっていいの」
瑞鶴は大和を連れ、一先ずは自分の寝室に戻った。アメリカ側の技師達からは定期的に大和の状態を報告するように言われたが、瑞鶴が大和から目を離す訳がないので、杞憂というものである。
ようやく二人っきりになれたので、瑞鶴は大和に色々と状況を説明することにした。大東亜戦争は日本の勝利に終わったこと、瑞鶴は大和を守る為に日本から逃げ出したこと、瑞鶴の仲間達が月虹と名乗って国家から独立した勢力を築いていること、そしてアメリカ合衆国は滅亡し、新生したアメリカ連邦が現在の味方であること。
大和を混乱させないようゆっくりと説明し、話し込むこと2時間程。大和は現在の状況は大雑把には把握することができたようだ。
「それでは、大和の艦は今、フロリダ海峡にあるのですね」
「ええ、そうなるわ。今は有賀中将に管理してもらってるけど、あなたが目覚めたんだから引き渡してもらわないとね」
「有賀中将と敵対するようなことには、ならないですよね……?」
有賀中将はかつての大和の艦長であり、大和が大いに世話になった人物である。彼と敵対するようなことは、大和は決して望まない。
「元から、あなたの艦は私が手に入れたものよ。有賀達には臨時に管理させているだけ」
「そ、そうでしたか……」
「それはいいとして、今のあなたに艦を操るのはキツいでしょう?」
「分かりませんが……体調が全く万全ではないのは、確かですね……」
「だから、大和が本格的に復帰するのは、まだ後にしましょう。時間は十分あるわ」
大和の調子が万全に戻るまで数ヶ月単位の時間が掛かるであろうことは、瑞鶴でも容易に察せられる。だがアメリカに庇護されている限り、焦る必要は全くないのだ。
○
さて、瑞鶴は大和を一旦休ませると、大和の船魄が目覚めたと有賀中将に通告した。
『そうか……。ようやく彼女が、目覚めてくれたのか。嬉しい限りだ』
「あ、そう。大和が目覚めた以上、あなた達はもう必要ないってことになる訳だけど、分かってる?」
『もちろんだ。我々は単なる繋ぎに過ぎない。それで、我々はどうすればいい? 大和をそっちの方に運航していこうか?』
「そこまでやってくれるの?」
瑞鶴はてっきり、今すぐ有賀中将達を追い出して、大和の艦体はメイポート補給基地まで曳航してくることになるだろうと思っていた。
『これも仕事のうちだ。気にする必要はない。そちらに到着したら、我々は帝国に帰る。ああ、しかし、日本人がアメリカの領海に踏み入るのはマズいか。瑞鶴、アメリカに話を付けておいてくれるか?』
「そのくらいなら、もちろんよ。じゃあ、あなた達は今すぐ大和をこっちに持ってきて。アメリカとの折衝はこっちでやっとくわ」
瑞鶴は早速、ケネディ中将に話をつけた。ケネディ中将は特に条件をつけることもなく快諾してくれた。大和がフロリダ海峡からメイポート補給基地まで来るには、丸一日程度掛かるだろう。
○
一九五六年十二月五日、大日本帝国東京都麹町区、皇宮明治宮殿。
「大和の船魄が生き返っただって? それは一大事じゃないか?」
神大将から報告を受けて、池田首相は驚きを隠せなかった。
「以前大和を瑞鶴に引き渡したのは、大和の船魄が生き返ることは期待できず、大した脅威にならないから、そうだったな?」
「その通りです、首相閣下」
「それが蘇ってしまったら、大変じゃないか。大和は今でも十分強力な戦力なんだろう?」
「はい。世界で46cm砲以上の主砲を持つ戦艦は大和を含め14隻です。ソ連が建造中のものがありますからもう少し増えますが」
「たったそれだけのうちの一隻が、敵の手に渡るということか」
「14隻を『たった』と形容するのは戦艦の形容として不適切かとは存じますが、味方のものが敵に渡るというのは確かに由々しき事態です」
「どうにかならないのか?」
「今から大和の奪還に動けるだけの戦力はカリブ海にはありませんしアメリカと再び交戦状態に入るのは首相閣下の望むところではありませんかと。大和に乗り込んでいる有賀中将は元より軍令部の命令で動いている訳ではありませんし彼は律儀に瑞鶴との約束を履行するでしょう」
「……そうか。諦めるしかないか」
「はい。不甲斐ないことですが帝国海軍に打てる手はありません」
大和の復活は、帝国海軍の不意を見事に突いたのであった。神大将に打つ手は全く残されていたかったが、そこで手を挙げる者が一人。陸軍参謀総長の武藤章大将である。
「海軍が打つ手なしと言うのでしたら、陸軍が手を打ちましょう」
「陸軍が? 何か作戦でもあるのか?」
「ええ。ずっとこの時を待ち侘びていましたよ。強襲揚陸艦を用いた白兵戦です」
元々は瑞鶴を生け捕りにする為にカリブ海に配置していた陸軍特殊船達を、その本来の目的に使おうと言うのである。
「そうですね。大和はまだ歩くことも困難でしょう。少しずつ身体を慣らしていくべきかと」
「分かった」
「それと、暫くは必要でしょうから、車椅子も用意してあります」
「準備がいいわね。ありがとう」
取り敢えずは大和の身体に繋がったケーブルなどを外し、瑞鶴は大和を車椅子に座らせた。
「ごめんなさい、瑞鶴さん。こんなことまでさせてしまって……」
「何も問題ないのよ。あなたと一緒にいれれば、他はどうだっていいの」
瑞鶴は大和を連れ、一先ずは自分の寝室に戻った。アメリカ側の技師達からは定期的に大和の状態を報告するように言われたが、瑞鶴が大和から目を離す訳がないので、杞憂というものである。
ようやく二人っきりになれたので、瑞鶴は大和に色々と状況を説明することにした。大東亜戦争は日本の勝利に終わったこと、瑞鶴は大和を守る為に日本から逃げ出したこと、瑞鶴の仲間達が月虹と名乗って国家から独立した勢力を築いていること、そしてアメリカ合衆国は滅亡し、新生したアメリカ連邦が現在の味方であること。
大和を混乱させないようゆっくりと説明し、話し込むこと2時間程。大和は現在の状況は大雑把には把握することができたようだ。
「それでは、大和の艦は今、フロリダ海峡にあるのですね」
「ええ、そうなるわ。今は有賀中将に管理してもらってるけど、あなたが目覚めたんだから引き渡してもらわないとね」
「有賀中将と敵対するようなことには、ならないですよね……?」
有賀中将はかつての大和の艦長であり、大和が大いに世話になった人物である。彼と敵対するようなことは、大和は決して望まない。
「元から、あなたの艦は私が手に入れたものよ。有賀達には臨時に管理させているだけ」
「そ、そうでしたか……」
「それはいいとして、今のあなたに艦を操るのはキツいでしょう?」
「分かりませんが……体調が全く万全ではないのは、確かですね……」
「だから、大和が本格的に復帰するのは、まだ後にしましょう。時間は十分あるわ」
大和の調子が万全に戻るまで数ヶ月単位の時間が掛かるであろうことは、瑞鶴でも容易に察せられる。だがアメリカに庇護されている限り、焦る必要は全くないのだ。
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さて、瑞鶴は大和を一旦休ませると、大和の船魄が目覚めたと有賀中将に通告した。
『そうか……。ようやく彼女が、目覚めてくれたのか。嬉しい限りだ』
「あ、そう。大和が目覚めた以上、あなた達はもう必要ないってことになる訳だけど、分かってる?」
『もちろんだ。我々は単なる繋ぎに過ぎない。それで、我々はどうすればいい? 大和をそっちの方に運航していこうか?』
「そこまでやってくれるの?」
瑞鶴はてっきり、今すぐ有賀中将達を追い出して、大和の艦体はメイポート補給基地まで曳航してくることになるだろうと思っていた。
『これも仕事のうちだ。気にする必要はない。そちらに到着したら、我々は帝国に帰る。ああ、しかし、日本人がアメリカの領海に踏み入るのはマズいか。瑞鶴、アメリカに話を付けておいてくれるか?』
「そのくらいなら、もちろんよ。じゃあ、あなた達は今すぐ大和をこっちに持ってきて。アメリカとの折衝はこっちでやっとくわ」
瑞鶴は早速、ケネディ中将に話をつけた。ケネディ中将は特に条件をつけることもなく快諾してくれた。大和がフロリダ海峡からメイポート補給基地まで来るには、丸一日程度掛かるだろう。
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一九五六年十二月五日、大日本帝国東京都麹町区、皇宮明治宮殿。
「大和の船魄が生き返っただって? それは一大事じゃないか?」
神大将から報告を受けて、池田首相は驚きを隠せなかった。
「以前大和を瑞鶴に引き渡したのは、大和の船魄が生き返ることは期待できず、大した脅威にならないから、そうだったな?」
「その通りです、首相閣下」
「それが蘇ってしまったら、大変じゃないか。大和は今でも十分強力な戦力なんだろう?」
「はい。世界で46cm砲以上の主砲を持つ戦艦は大和を含め14隻です。ソ連が建造中のものがありますからもう少し増えますが」
「たったそれだけのうちの一隻が、敵の手に渡るということか」
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「どうにかならないのか?」
「今から大和の奪還に動けるだけの戦力はカリブ海にはありませんしアメリカと再び交戦状態に入るのは首相閣下の望むところではありませんかと。大和に乗り込んでいる有賀中将は元より軍令部の命令で動いている訳ではありませんし彼は律儀に瑞鶴との約束を履行するでしょう」
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「海軍が打つ手なしと言うのでしたら、陸軍が手を打ちましょう」
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