軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~

takahiro

文字の大きさ
509 / 766
第二十五章 瀬戸際外交

あきつ丸の襲撃

しおりを挟む
『おい瑞鶴、マズいぞ。大和を付け狙っている奴がいる』

 大和の護衛を任せていたグラーフ・ツェッペリンから瑞鶴に、緊急の通信が入る。瑞鶴は大和と二人っきりで寝室に引き籠っていたのだが、大和のこととなるとすぐさま対応する。

「付け狙ってる奴って?」
『この前の強襲揚陸艦だ。大和に近付いてきている』
「……まさか、大和を乗っ取ろうってつもり?」
『我に聞かれても知らんが、明らかに大和に近寄ってきておる』
「分かった。すぐに対処する。ツェッペリンはそのまま護衛を続けてて」

 通信は終了した。瑞鶴は自分の艦に戻る時間も惜しいので、ここから艦載機を操って大和の護衛に向かわせる。瑞鶴自体は乾ドックに入っているが、艦載機は陸上の飛行場に置かせてもらっていたので、すぐさま出撃することができる。

「瑞鶴さん……。帝国海軍と、争うのですか?」

 大和は尋ねる。今の会話からおおよその事情は察せられたのだろう。

「あっちから仕掛けてくるっていうなら、仕方ないわ」
「大和の、せいですね……」
「何言ってるの。悪いのはあなたを襲ってくる連中よ。あなたは絶対に守るわ」
「はい……」

 大和は浮かない顔をしていたが、そんなことを気にしている余裕は今はない。瑞鶴は大和を追跡する強襲揚陸艦に艦載機を差し向けた。そして寝室を出て通信室に入り、艦載機を中継する無線で相手に呼び掛ける。

「久しぶりね、あきつ丸。何の用かしら」
『何って、そりゃあ大和を奪還しにきたんだ』
「奪還? 私は大和を帝国海軍から譲渡されたの。大和は私のものよ」
『あ? そうなのか? ……そうらしいな』
「知らないでやってたの? 真面目にやってよね」
『俺はそもそもこんな仕事に興味はない』
「あっそう。じゃあとっとと帰ってよ」
『そうだな。俺は帰りたいんだが、残念だがここから先は俺とは関係ない』
「は? 何言ってるの?」

 と言っている間に、あきつ丸の飛行甲板から十数機のヘリコプターが飛び立つ。

「これはあんたが操ってるんじゃないの?」
『違う。俺の飛行甲板を使ってるだけで、普通に人間が乗っている』
「なるほどねえ……」

 相手は普通に人間が乗って人間が操縦している艦載機だ。それを攻撃することは、ほぼ確実に日本人を殺すことになる。アメリカ人は何十万人殺しても何の罪悪感も覚えないが、日本人を殺すことは道義に反する。

『どうするんだ? 俺の知ったことじゃないが、あんたは人間を殺せるのか?』
「あんた……」

 あきつ丸は誰の味方でもないかのように振る舞う。その態度が瑞鶴には酷く不快に感じられる。

「人間を殺す……? アメリカ人以外を、殺すの……?」

 瑞鶴は決断を迫られている。大和の身体を失うか、或いはついに人間を殺すという禁忌を犯すか。そこまでするという覚悟ができている訳もないが、しかし時間もない。ものの1時間程度で大和は攻撃を受けるだろう。

 取り敢えず判断は保留にして、瑞鶴は大和の有賀中将に通信を掛けた。そして現在の状況を捲し立てる。

『――状況は理解した』
「あんたから止めるよう陸軍に言ってくれない?」
『そうは言われてもな。陸軍の指揮系統は全く違うし、そもそも我々は大本営の命令を受けている訳ではない。時間稼ぎをされて有耶無耶にされる可能性が高い』
「じゃあ、攻撃されたらどうするの?」
『我々には武器がない。降伏するしかないだろう』
「大和の兵装は使っていいわよ」
『対空戦闘を行えるほどの人員は揃っていない』
「じゃあ主砲であいつら吹き飛ばして」
『無理を言わないでくれ。三式弾で対空戦闘をするには、船魄くらいの能力がないと不可能だ』
「……分かった」
『取り敢えず、大本営に掛け合ってはみよう』
「ええ、よろしく」

 有賀中将側での対処は期待できないので、月虹は自ら対処しなければならない。

「クソッ。陸軍は本気みたいだし、力ずくでやるしかないか」

 瑞鶴は再びツェッペリンに通信を掛ける。

「ツェッペリン、敵のヘリコプターを撃墜するわ」
『本気か?』
「ええ。大和を守る為なら、何でもするわ。一応報告しとくけど、あんたは何もしなくていいわ。人殺し呼ばわりされるのは私だけでいい」
『そ、そうか。ならば好きにしろ』
「ええ、そうね」

 どうしようもなさそうな瑞鶴は、最後の警告をするべく、あきつ丸に呼び掛ける。

「あんた達の螺旋翼機は撃墜することにしたわ。死にたくなければすぐに撤退しろって、そっちの鈴木中将に伝えなさい。5分だけ待つわ」
『ああ、分かった。伝えるだけ伝えはしよう』

 あきつ丸は陸軍船舶兵団長の鈴木啓司中将に瑞鶴の伝言をきちんと伝えた。しかし、5分が経ってもヘリコプター部隊の動きに変わりはなかった。

「クソッ。私が日本人を殺さないと舐めきってるって訳ね」
『本当にやるのか、瑞鶴?』
「……ええ。大和への愛の方が、陸軍の兵士の命より上よ」

 瑞鶴は飄風を繰り出し、陸軍のキ238を撃墜しようとする。だが、その時であった。

「瑞鶴さん……!」
「え、大和?」

 自力で車椅子を動かして、大和が姿を現したのだ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記

糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。 それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。 かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。 ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。 ※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

電子の帝国

Flight_kj
歴史・時代
少しだけ電子技術が早く技術が進歩した帝国はどのように戦うか 明治期の工業化が少し早く進展したおかげで、日本の電子技術や精密機械工業は順調に進歩した。世界規模の戦争に巻き込まれた日本は、そんな技術をもとにしてどんな戦いを繰り広げるのか? わずかに早くレーダーやコンピューターなどの電子機器が登場することにより、戦場の様相は大きく変わってゆく。

対ソ戦、準備せよ!

湖灯
歴史・時代
1940年、遂に欧州で第二次世界大戦がはじまります。 前作『対米戦、準備せよ!』で、中国での戦いを避けることができ、米国とも良好な経済関係を築くことに成功した日本にもやがて暗い影が押し寄せてきます。 未来の日本から来たという柳生、結城の2人によって1944年のサイパン戦後から1934年の日本に戻った大本営の特例を受けた柏原少佐は再びこの日本の危機を回避させることができるのでしょうか!? 小説家になろうでは、前作『対米戦、準備せよ!』のタイトルのまま先行配信中です!

防空戦艦大和        太平洋の嵐で舞え

みにみ
歴史・時代
航空主兵論と巨砲主義が対立する1938年。史上最大の46cm主砲と多数の対空火器を併せ持つ戦艦「大和」が建造された。矛盾を抱える艦は、開戦後の航空機による脅威に直面。その真価を問われる時が来る。

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

超克の艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
「合衆国海軍ハ 六〇〇〇〇トン級戦艦ノ建造ヲ計画セリ」 米国駐在武官からもたらされた一報は帝国海軍に激震をもたらす。 新型戦艦の質的アドバンテージを失ったと判断した帝国海軍上層部はその設計を大幅に変更することを決意。 六四〇〇〇トンで建造されるはずだった「大和」は、しかしさらなる巨艦として誕生する。 だがしかし、米海軍の六〇〇〇〇トン級戦艦は誤報だったことが後に判明。 情報におけるミスが組織に致命的な結果をもたらすことを悟った帝国海軍はこれまでの態度を一変、貪欲に情報を収集・分析するようになる。 そして、その情報重視への転換は、帝国海軍の戦備ならびに戦術に大いなる変化をもたらす。

徳川慶勝、黒船を討つ

克全
歴史・時代
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 尾張徳川家(尾張藩)の第14代・第17代当主の徳川慶勝が、美濃高須藩主・松平義建の次男・秀之助ではなく、夭折した長男・源之助が継いでおり、彼が攘夷派の名君となっていた場合の仮想戦記を書いてみました。夭折した兄弟が活躍します。尾張徳川家15代藩主・徳川茂徳、会津藩主・松平容保、桑名藩主・松平定敬、特に会津藩主・松平容保と会津藩士にリベンジしてもらいます。 もしかしたら、消去するかもしれません。

処理中です...