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第二十五章 瀬戸際外交
帝国への揺さぶり
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さて、言い出しっぺである高雄に加え愛宕と妙高は、IK作戦を実行すると連絡しに、ケネディ中将を訪ねた。アメリカ海軍大西洋艦隊司令部はここメイポート補給基地に設置されているので、中将はすぐそこである。
「――そんなものを隠していたとは驚きだね」
「如何でしょうか?」
「私達と君達は同盟関係だ。事前に連絡してくれたことには感謝するが、我々から君達の行動を制限することはできない」
「そうは仰いましても、わたくし達としてもアメリカの不利益になることは望んでいません。アメリカとして懸念されることがあれば、どうぞお申し付けください」
高雄にそこまで言われると、ケネディ中将は暫し考え込んだ。
「日本軍が君達の行動を見てアメリカに攻め込んでくるとは、とても考えられない。こう言うのはあれだが、日本の船魄の戦意が低下するのなら、こちらとしても望ましいところだ」
感情豊かな日本の船魄がアメリカの船魄を情け容赦なく殺せていたのは、敵味方識別装置のお陰が大きいだろう。それが取り除かれるのであれば、帝国海軍の戦力は実質的に低下すると考えられる。
「分かりました。IK作戦を始めさせていただきます。アメリカの方々に手は煩わせません」
「ああ。だが今言った通り、寧ろアメリカに利益がある。何か手伝えることがあったら言ってくれ」
「そこまでしていただかなくても――」
高雄は社交辞令的な挨拶で済まそうとしたのだが、そこに妙高が割って入った。
「あ、あの、ケネディさん」
「何だい?」
「敵味方識別装置を解除する装置を、アメリカで量産してもらうことはできないでしょうか? そうすれば、帝国政府をより強く揺さぶることができるかと!」
「なるほど……。確かに可能であれば、そうした方がいいだろうね。しかしすまないが、私にはそれが可能かどうか判断のしようがない」
「夕張が勝手に作ったんでしょ? アメリカが本気になればすぐできるでしょ」
愛宕は言う。確かにこの装置、夕張が恐らく誰の協力も得ず勝手に作成したものである。個人で作れるものが国家に作れない訳もない。
「まあ、それはそうだとは思うが。その点は私から各所に話を通しておこう。だが、わざわざ本当に量産する必要もないんじゃないか? 量産することも可能だと宣伝するだけで、十分な効果が得られると思う」
「確かに、そうですね……」
「では、中将閣下にはこの装置の量産が可能かどうか、検討していただきたく存じます。そしてわたくし達の方では、量産が可能だということにして、帝国政府に交渉してみようかと」
「分かった。こちらで量産が可能だと判断してから発表してもいいとは思うが、どうだい?」
「それでは時間が掛かりすぎますかと。世界情勢が不安定な今のうちに揺さぶりをかけるべきかと存じます」
「分かった。日本に何か問い合わされても、上手くはぐらかしておくよ」
「多分なご配慮、ありがとうございます」
アメリカ海軍から快諾も得られたことだし、月虹は作戦を開始することにした。
○
一九五七年一月二日、大日本帝国東京都麹町区、皇宮明治宮殿。
月虹は取り敢えず、アメリカを通じて帝国政府に書簡を送り届けた。敵味方識別装置を無効化する装置を開発し、かつアメリカに量産を依頼したから、使われたくなかったら敵味方識別装置を自ら解除するべし、という内容である。書いたのは高雄である。
それを受け、緊急の大本営政府連絡会議が開催された。主上の御前にて、月虹から届いた書簡が一通り読み上げられる。
「――という内容の書簡が届きました。甚だ形式を無視した子供の手紙のようですが、無視できる内容ではありませんかと」
重光葵外務大臣は言う。
「これはまた、大変なことになってしまったね。この敵味方識別装置というのは、実際のところどういうものなんだ?」
池田首相は神大将に問う。大将は敵味方識別装置について改めて詳細に説明した。
「――申し訳ありませんが船魄達の心の機微などについては分かりかねます」
「ここに年頃の女の子の心情を理解できる人間がいるとは思えないね」
「まったくです」
「では、船魄に一番詳しい岡本技術中将を呼び出すことにしようか」
会議は一旦休止し、池田首相は岡本技術中将を海軍艦政本部から呼び出した。岡本中将はたまたま霞ヶ関の海軍省にいたので、すぐさま明治宮殿に参上した。
「――それで首相閣下、今回は何の御用ですか?」
「瑞鶴からこんな書簡が届いたんだ」
首相は月虹からの書簡の写しを岡本中将に渡させた。中将は注意深く、興味深そうに、その一言一句に目を通した。
「これは面白い話ですね。事実だとすれば、ですが」
「技術中将、実際のところ解除装置とやらを作成することは可能か?」
神大将は尋ねる。
「船魄の技術に通じたものの助けがあれば、それほど難しくはありません」
「ではこの書簡は事実として受け取ろう。その上で仮に敵味方識別装置を全て解除したとして、どうなると考える?」
「さて、どうなるでしょうか。最悪の場合は帝国海軍そのものが反乱を起こすことになりますし、最良の場合は寧ろ船魄の能力を引き出すことになります」
「能力を引き出すとは?」
「敵味方識別装置は船魄にとっては雑音です。その能力を十全に発揮する上で妨げになりますから」
「そうか。で、中将はどう転ぶとどう考える?」
「そんなこと私にも分かりませんよ。年頃の女の子の気持ちを理解できる方などいらっしゃるんですか?」
岡本中将にも本当に分からないのである。船魄の人格形成は中将の担当するところではない。
「――そんなものを隠していたとは驚きだね」
「如何でしょうか?」
「私達と君達は同盟関係だ。事前に連絡してくれたことには感謝するが、我々から君達の行動を制限することはできない」
「そうは仰いましても、わたくし達としてもアメリカの不利益になることは望んでいません。アメリカとして懸念されることがあれば、どうぞお申し付けください」
高雄にそこまで言われると、ケネディ中将は暫し考え込んだ。
「日本軍が君達の行動を見てアメリカに攻め込んでくるとは、とても考えられない。こう言うのはあれだが、日本の船魄の戦意が低下するのなら、こちらとしても望ましいところだ」
感情豊かな日本の船魄がアメリカの船魄を情け容赦なく殺せていたのは、敵味方識別装置のお陰が大きいだろう。それが取り除かれるのであれば、帝国海軍の戦力は実質的に低下すると考えられる。
「分かりました。IK作戦を始めさせていただきます。アメリカの方々に手は煩わせません」
「ああ。だが今言った通り、寧ろアメリカに利益がある。何か手伝えることがあったら言ってくれ」
「そこまでしていただかなくても――」
高雄は社交辞令的な挨拶で済まそうとしたのだが、そこに妙高が割って入った。
「あ、あの、ケネディさん」
「何だい?」
「敵味方識別装置を解除する装置を、アメリカで量産してもらうことはできないでしょうか? そうすれば、帝国政府をより強く揺さぶることができるかと!」
「なるほど……。確かに可能であれば、そうした方がいいだろうね。しかしすまないが、私にはそれが可能かどうか判断のしようがない」
「夕張が勝手に作ったんでしょ? アメリカが本気になればすぐできるでしょ」
愛宕は言う。確かにこの装置、夕張が恐らく誰の協力も得ず勝手に作成したものである。個人で作れるものが国家に作れない訳もない。
「まあ、それはそうだとは思うが。その点は私から各所に話を通しておこう。だが、わざわざ本当に量産する必要もないんじゃないか? 量産することも可能だと宣伝するだけで、十分な効果が得られると思う」
「確かに、そうですね……」
「では、中将閣下にはこの装置の量産が可能かどうか、検討していただきたく存じます。そしてわたくし達の方では、量産が可能だということにして、帝国政府に交渉してみようかと」
「分かった。こちらで量産が可能だと判断してから発表してもいいとは思うが、どうだい?」
「それでは時間が掛かりすぎますかと。世界情勢が不安定な今のうちに揺さぶりをかけるべきかと存じます」
「分かった。日本に何か問い合わされても、上手くはぐらかしておくよ」
「多分なご配慮、ありがとうございます」
アメリカ海軍から快諾も得られたことだし、月虹は作戦を開始することにした。
○
一九五七年一月二日、大日本帝国東京都麹町区、皇宮明治宮殿。
月虹は取り敢えず、アメリカを通じて帝国政府に書簡を送り届けた。敵味方識別装置を無効化する装置を開発し、かつアメリカに量産を依頼したから、使われたくなかったら敵味方識別装置を自ら解除するべし、という内容である。書いたのは高雄である。
それを受け、緊急の大本営政府連絡会議が開催された。主上の御前にて、月虹から届いた書簡が一通り読み上げられる。
「――という内容の書簡が届きました。甚だ形式を無視した子供の手紙のようですが、無視できる内容ではありませんかと」
重光葵外務大臣は言う。
「これはまた、大変なことになってしまったね。この敵味方識別装置というのは、実際のところどういうものなんだ?」
池田首相は神大将に問う。大将は敵味方識別装置について改めて詳細に説明した。
「――申し訳ありませんが船魄達の心の機微などについては分かりかねます」
「ここに年頃の女の子の心情を理解できる人間がいるとは思えないね」
「まったくです」
「では、船魄に一番詳しい岡本技術中将を呼び出すことにしようか」
会議は一旦休止し、池田首相は岡本技術中将を海軍艦政本部から呼び出した。岡本中将はたまたま霞ヶ関の海軍省にいたので、すぐさま明治宮殿に参上した。
「――それで首相閣下、今回は何の御用ですか?」
「瑞鶴からこんな書簡が届いたんだ」
首相は月虹からの書簡の写しを岡本中将に渡させた。中将は注意深く、興味深そうに、その一言一句に目を通した。
「これは面白い話ですね。事実だとすれば、ですが」
「技術中将、実際のところ解除装置とやらを作成することは可能か?」
神大将は尋ねる。
「船魄の技術に通じたものの助けがあれば、それほど難しくはありません」
「ではこの書簡は事実として受け取ろう。その上で仮に敵味方識別装置を全て解除したとして、どうなると考える?」
「さて、どうなるでしょうか。最悪の場合は帝国海軍そのものが反乱を起こすことになりますし、最良の場合は寧ろ船魄の能力を引き出すことになります」
「能力を引き出すとは?」
「敵味方識別装置は船魄にとっては雑音です。その能力を十全に発揮する上で妨げになりますから」
「そうか。で、中将はどう転ぶとどう考える?」
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