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第二十九章 外交攻勢
決裂
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「言っておくけど、今回連れてきた兵士は結構一杯いるよ? アドルフ・ヒトラー特攻隊なんて、諜報部隊でしかないと思うけど?」
「ああ、確かに、軍隊としての我々は、警備員程度に過ぎない。だからこそ、既に協力を要請してある。キューバ軍にな」
「キューバ? 確かに月虹と仲がよかったとは思うけど」
「まあ、そういうことよ。ゲバラに手伝ってもらってるから、抵抗するだけ無駄。諦めなさい」
「用意周到だねえ……」
ヴェールヌイは海上要塞に侵入していたKGBの部隊にこれを報告した。無線機の向こうからは激しい銃声が聞こえてくる。
結局のところ、ソ連の陰謀は失敗に終わった。ヴェールヌイが連れてきた150人ばかりの部隊はチェ・ゲバラ率いる千人以上のキューバ軍に容易く制圧されたのであった。
そのゲバラは、KGBを片付けた後、瑞鶴やヴェールヌイがいる応接間にやって来た。
「ありがと、ゲバラ」
「君達からの恩を少し返しただけだよ。こんなものではとても足りないとは思っているけどね」
「あ、そう」
「しかし、いいのかい? これでキューバはソ連を敵に回すことになる訳だけど」
ヴェールヌイはゲバラに尋ねる。するとゲバラは説教するように答えた。
「この任務は非公式の筈だ。ソ連ともあろう国がこんな姑息な真似をするとは、公式には言えないだろう?」
「まあ、そうかもしれないね」
「だから、ソ連は表立っては文句を言えない。もっとも、ソ連との関係が悪化したところで、僕達にそれほどの不利益はないんだけどね」
「なるほど。分かったよ」
キューバは社会主義国ではあるが、ソ連との繋がりは薄い。ソ連も支援はしているが、日本からの支援の方が遥かに多いのである。
「キューバには是非とも、ドイツの盟友になって欲しいものだがね」
ヒムラーが冗談めかしてゲバラに言う。
「遠慮させていただきます。はっきり言って、あなた方とは反りが合わない」
「それは残念だ」
「じゃあ、私は帰るよ」
ヴェールヌイは敵兵に囲まれているにも拘わらず、平然と立ち上がって帰ろうとする。
「ちょっと、待ちなさいよ。こんなことして無事に帰れると思ってるの?」
瑞鶴は苛立った口調で尋ねる。
「あー、別に私を拘束しても構わないよ。ソビエト連邦との関係が面倒になるのを承知するならね」
「……確かに、あんたを捕まえておく理由はないけど」
ヴェールヌイを鹵獲したところで、月虹にとって特にいいことはない。
「じゃあ私は帰るよ」
「ヒムラー、あんたはどうなの? ソ連の駆逐艦に興味はないの?」
「駆逐艦の一隻ごとき、捕まえたところで何になる」
「……そう言われるとちょっと腹が立つけど、まあいいや。じゃあね、瑞鶴」
ヴェールヌイは連れてきた兵士と共にニカラグアに帰っていった。まるで竜巻のようにあっという間の出来事であったが、ソ連と月虹の敵対関係が決定的になったという結果は残った。
「さて、晴れて君達はソ連と敵対関係になった訳だ。USAを滅ぼすことに迷いはあるまい」
ヒムラーは唐突に語り出す。
「ええ、まあ、そうだけど」
「何が言いたいのだ、お前?」
「アメリカ合衆国を滅亡させる作戦を、ドイツと日本が密かに進めているのだよ」
「初耳なんだけど」
「だろうね。秘密を徹底して保持し、交渉を重ねてきたのだから」
「そんなことを私に言うってことは、また私達に何かやらせるつもりなの?」
ヒムラーの話が本当であれば、たった今ドイツと日本の機密保持は破綻した。月虹を巻き込みたいのでなければ、そんな話はしないだろう。
「ああ。君達にやってもらいたいことがある」
「何だ? 早く言え」
勿体ぶるヒムラーをツェッペリンが急かす。
「君達にやってもらいたいことは、ワシントンへの攻撃だ」
「ワシントン? 別にいいけど、それが何なの?」
ワシントンへの空襲は既にCA空軍が何度も行っている。今更瑞鶴がやったところで特に意味があるとは思えない。或いは要人暗殺でもさせるつもりだろうか。
「君がやることが重要なのだよ、瑞鶴」
「え、私?」
「ああ、そうだ。日の丸を翼に煌めかせる爆撃機がワシントンを空襲することに、意味があるのだよ」
「全然分かんないんだけど」
「ワシントンが君の艦載機の空襲を受ければどうなるか。ワシントンの狂った市民達は、日本に敵意を向けること違いない。つまり、今でも営業を続けているワシントンの日本大使館が攻撃を受ける可能性が高いということだ」
「大使館が攻撃されたらどうなるの?」
「そうすれば、日本軍が参戦することができる。USAをたちまち滅ぼしてくれるだろう。君の望むところでもある筈だ」
「まあねえ……」
USAに日本大使館を攻撃させ日本が戦争に介入する理由を作るという、池田勇人首相の腹案である。先制攻撃を受けたとあればソ連も文句は言えず、日ソ関係にそれほどの亀裂は入らない。
「ああ、確かに、軍隊としての我々は、警備員程度に過ぎない。だからこそ、既に協力を要請してある。キューバ軍にな」
「キューバ? 確かに月虹と仲がよかったとは思うけど」
「まあ、そういうことよ。ゲバラに手伝ってもらってるから、抵抗するだけ無駄。諦めなさい」
「用意周到だねえ……」
ヴェールヌイは海上要塞に侵入していたKGBの部隊にこれを報告した。無線機の向こうからは激しい銃声が聞こえてくる。
結局のところ、ソ連の陰謀は失敗に終わった。ヴェールヌイが連れてきた150人ばかりの部隊はチェ・ゲバラ率いる千人以上のキューバ軍に容易く制圧されたのであった。
そのゲバラは、KGBを片付けた後、瑞鶴やヴェールヌイがいる応接間にやって来た。
「ありがと、ゲバラ」
「君達からの恩を少し返しただけだよ。こんなものではとても足りないとは思っているけどね」
「あ、そう」
「しかし、いいのかい? これでキューバはソ連を敵に回すことになる訳だけど」
ヴェールヌイはゲバラに尋ねる。するとゲバラは説教するように答えた。
「この任務は非公式の筈だ。ソ連ともあろう国がこんな姑息な真似をするとは、公式には言えないだろう?」
「まあ、そうかもしれないね」
「だから、ソ連は表立っては文句を言えない。もっとも、ソ連との関係が悪化したところで、僕達にそれほどの不利益はないんだけどね」
「なるほど。分かったよ」
キューバは社会主義国ではあるが、ソ連との繋がりは薄い。ソ連も支援はしているが、日本からの支援の方が遥かに多いのである。
「キューバには是非とも、ドイツの盟友になって欲しいものだがね」
ヒムラーが冗談めかしてゲバラに言う。
「遠慮させていただきます。はっきり言って、あなた方とは反りが合わない」
「それは残念だ」
「じゃあ、私は帰るよ」
ヴェールヌイは敵兵に囲まれているにも拘わらず、平然と立ち上がって帰ろうとする。
「ちょっと、待ちなさいよ。こんなことして無事に帰れると思ってるの?」
瑞鶴は苛立った口調で尋ねる。
「あー、別に私を拘束しても構わないよ。ソビエト連邦との関係が面倒になるのを承知するならね」
「……確かに、あんたを捕まえておく理由はないけど」
ヴェールヌイを鹵獲したところで、月虹にとって特にいいことはない。
「じゃあ私は帰るよ」
「ヒムラー、あんたはどうなの? ソ連の駆逐艦に興味はないの?」
「駆逐艦の一隻ごとき、捕まえたところで何になる」
「……そう言われるとちょっと腹が立つけど、まあいいや。じゃあね、瑞鶴」
ヴェールヌイは連れてきた兵士と共にニカラグアに帰っていった。まるで竜巻のようにあっという間の出来事であったが、ソ連と月虹の敵対関係が決定的になったという結果は残った。
「さて、晴れて君達はソ連と敵対関係になった訳だ。USAを滅ぼすことに迷いはあるまい」
ヒムラーは唐突に語り出す。
「ええ、まあ、そうだけど」
「何が言いたいのだ、お前?」
「アメリカ合衆国を滅亡させる作戦を、ドイツと日本が密かに進めているのだよ」
「初耳なんだけど」
「だろうね。秘密を徹底して保持し、交渉を重ねてきたのだから」
「そんなことを私に言うってことは、また私達に何かやらせるつもりなの?」
ヒムラーの話が本当であれば、たった今ドイツと日本の機密保持は破綻した。月虹を巻き込みたいのでなければ、そんな話はしないだろう。
「ああ。君達にやってもらいたいことがある」
「何だ? 早く言え」
勿体ぶるヒムラーをツェッペリンが急かす。
「君達にやってもらいたいことは、ワシントンへの攻撃だ」
「ワシントン? 別にいいけど、それが何なの?」
ワシントンへの空襲は既にCA空軍が何度も行っている。今更瑞鶴がやったところで特に意味があるとは思えない。或いは要人暗殺でもさせるつもりだろうか。
「君がやることが重要なのだよ、瑞鶴」
「え、私?」
「ああ、そうだ。日の丸を翼に煌めかせる爆撃機がワシントンを空襲することに、意味があるのだよ」
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