軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~

takahiro

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第三十章 月虹と世界

日本と月虹

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 一九五九年一月七日、アメリカ連邦フロリダ州メイポート補給基地。

 アメリカは会談場所を自領内のメイポート補給基地にすることを条件に、日本から月虹への接触を認めた。メイポート補給基地に入港したのは第五艦隊旗艦、長門であった。

 瑞鶴は一先ず、岸壁に降りてきた長門と話している。アメリカは日本を警戒し、瑞鶴に常に護衛をつけている。

「まさかあんたが来るなんてね」
「私は帝国の使節を護衛しているに過ぎない。お前達と会いに来た訳ではない」
「あ、そう。それで? 誰が交渉しに来たの?」
「お前もよく知っている人間だ」
「この状況なら一人しか考えられないわね」

 船魄にこの世で最も詳しい日本人と言えば、誰なのかは考えるまでもない。船魄の生みの親たる岡本平八技術中将であろう。

「やあ、瑞鶴。久しぶりだな」
「そうね。全然会いたくなかったけど」

 瑞鶴にとって岡本中将は大和を解剖しようとした敵なのである。当然、中将への不信感は非常に強い。

「愛しい我が子だと言うのに、手厳しいことだな」
「あんたの子供になったつもりはないけど」
「君を生み出したのは紛れもなく私だ。親のように慕ってくれとは思わないが」
「あ、そう。慕うつもりなんてないから安心して」
「君は10年経っても変わらないな。さて、今回は感動の再会が目的ではなく、君達と和平交渉をしに来たんだ」
「そうね。ついてきて」

 瑞鶴は岡本中将を会談場所に案内した。アメリカ兵に囲まれた会議場には、月虹の船魄達が全員集まっていた。

「お久しぶりにございます、岡本技術中将閣下」

 高雄が恭しく挨拶した。日本の船魄であれば中将を知らぬ者などいないのである。

「ああ、久しぶり。会えて嬉しいよ、高雄。それに妙高、愛宕」
「私は人間なんかに興味ないから」 

 愛宕は岡本中将に冷たく言い放った。

「君も相変わらずで安心したよ」

 一方、妙高は黙り込んでいた。瑞鶴から脱走の顛末を聞かされており、瑞鶴と同じくらい帝国海軍に不信感を持っているからだ。

「君はグラーフ・ツェッペリンかな?」
「いかにも。我こそはグラーフ・ツェッペリンであるが、何故分かった?」
「月虹に誰がいるかくらいは把握している。そして君がエンタープライズか」
「ええ。大東亜戦争ではよく殺し合いましたね」
「そうだな。昔の戦争のことなど、今や恨みはないが」
「私もです。それにしても、アメリカで私を生み出した連中は誰も彼もロクでもなかったですが、あなたは随分とマトモなようですね」
「高評価を頂けて嬉しいよ。もっとも、私とて、多くの人間を犠牲にしてきたがね」
「ふふ。それはそれは」

 取り敢えず挨拶を済ませ、岡本中将は瑞鶴と向かい合う席に腰を掛けた。

「さて、既に話は伝わっていると思うが、君達には帝国海軍に戻ってもらいたい」

 中将は話を切り出した。

「私達に戻る意味があるのかしら?」
「帝国海軍に戻るのだから当然、君達への補給や整備は完全に滞りなく行われる。日本製の兵器も当然に与えられる。妙高、君達はアメリカ製の主砲を使わざるを得なくなっているな?」
「え、ええ、まあ……」

 確かに月虹の重巡洋艦達は装備していた主砲身が摩耗し、全面的にアメリカ製の主砲に切り替えている。

「そういう訳だ。君達は日本の軍艦なのだから、日本にいるのが一番だと思うがね」
「それは認めるわ。でも、こっちにはツェッペリンがいるわ」
「確かにドイツ製の兵器を取り寄せるのは困難だな」

 ツェッペリンにとっては当然、日本に行くことに利点がない。

「べ、別に、我は日本の庇護など必要ないが?」
「そう? あんた一人でこれからやっていけるの?」
「そ、それは……」

 ツェッペリンは何とも言い返せなかった。

「なるほど。君は一人ぼっちにはなりたくないのか」
「そ、そんな訳あるか!」
「では、ツェッペリンを正式に手放すようドイツと交渉しておこう。それが成功すれば、この問題は解決だな」
「我の整備はどうする気だ?」
「まあ、高い値をつけられるだろうが、ドイツから艦載機を輸入してもいいだろう」
「ま、まあ、それなら悪くはないが……」
「よし。では、この件は片付いたと仮定して、話を進めよう」

 かなり不確実な仮定ではあるが、月虹と合意を得てからドイツと交渉を始める方が効率的というものだ。

「瑞鶴、単刀直入に聞くが、帝国海軍に戻ってくれはしないか?」
「え、嫌よ。嫌に決まってるでしょ。私が何で海軍から脱走したか、あんたなら知ってるわよね?」
「そうだな。私が大和を殺そうとしたからだ」
「あ、そう……。認めるのね」
「嘘を言っても仕方がないだろう。いずれバレることだ」
「だったら、あんたなんか信用できる訳がないわ」
「あの時は、大和はもう目覚めないと思っていたんだ。だから、今はもうそんなつもりはない」

 岡本中将がそう言うと、瑞鶴は露骨に中将を睨みつけた。

「目覚めるとか目覚めないとか関係ないでしょ! 大和に手を出そうした時点で、もう信用することなんて不可能よ!」
「そうか。それは困ったな」

 中将は特に何とも思っていない様子。瑞鶴にこう反応されるのも予想内だったようだ。
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