617 / 766
第三十章 月虹と世界
ドイツの意志
しおりを挟む
それから4日後。東條元帥が再び瑞鶴達を訪ねてきた。
「結論は出たか?」
「ええ。出たわ。日本に戻ってもいいわよ。但し、条件付きでね」
「条件とは?」
「私達は船魄が殺し合わない為に戦っているわ。だから、私達に不本意な戦争には参加しない。それでどうかしら?」
自分達の都合で命令を拒否するという、軍隊にあるまじき要求である。それを認めては帝国海軍に所属しているとすら言えないだろう。瑞鶴は拒否されることを見込んで、この要求を突きつけた。
だが、東條元帥からの答えは想定外のものであった。
「よかろう。その条件で、帝国海軍に復帰してくれ」
「え、いいの? 私達が好き勝手やるって条件だと思うんだけど、分かってる?」
「そこまで耄碌はしていない。ただ、元より君達に帝国の戦争に協力してもらうつもりなどなかったのだ」
「どういうことよ?」
瑞鶴は日本が月虹の軍事力を求めているのだと思っていた。
「瑞鶴、君は確かに優れた船魄であるし、君より巨大な空母を何隻も同時に相手取ることが可能だろう。だが、帝国は既に、そう言った個人の技量に頼る戦術を採用していない。戦争とは工業力の戦いだ」
「そう。私なんかいなくてもいいってことね」
日本に戻るつもりなどなかったが、しかし必要ないと言われると、瑞鶴は少しばかり悲しくなった。曲がりなりにも日本を守ったという矜持は残っていたからだ。
「確かに、君がいなくとも帝国の国策に影響はない」
「じゃあ、何で私を呼び戻そうとしてるのよ」
「脱走兵を野放しにしているのは、帝国陸海空軍の威信に関わる」
「なるほどね」
帝国海軍は脱走兵がのうのうと暮らしていることを許容できないのである。極論を言えば瑞鶴を殺せば問題解決なのだが、日本としても救国の英雄である瑞鶴を殺したくはない。
「私を勧誘したいなら、もっと私をおだてればいいのに」
「嘘を言ってもいずれは知れよう」
「まあね」
「君の条件には応えた訳だが、これで問題ないか? 日本に戻ってきてくれるか?」
「……ええ、分かったわ。ちゃんと私達の条件を履行するなら、日本に戻ってあげるわ。まあドイツがどう反応するから知らないけど」
「感謝する。ドイツとも必ず、交渉を成功させてみせよう」
瑞鶴と東條元帥は握手を交わした。後は、ドイツがグラーフ・ツェッペリンの移籍を承認してくれるかどうかにかかっている。
○
一九五九年一月十二日、ドイツ国大ベルリン大管区ベルリン、ミッテ区総統官邸。
日本からグラーフ・ツェッペリンを手放してくれとの要請を受け、ヨーゼフ・ゲッベルス大統領は会議を開いた。国防軍最高司令部の会議という建前であるが、日本の大本営政府連絡会議のようなものである。
「――日本は代償に、蟠竜型空母一隻の無償譲渡を提案してきている。あの東條英機から直々の言葉とあれば、信用していいだろう」
日本の空母としては鳳翔型原子力空母の一世代前にあたる蟠竜型空母。その全長は300mを超え、次世代の主力空母と位置づけられている。もちろんグラーフ・ツェッペリンより遥かに巨大で大量の艦載機を搭載することができる。
「僕としては悪くない取引だと思っているんだが、デーニッツ国家元帥、どう思う?」
「まず、我々に有利な取引とはいえ、寝返りを許すというのはドイツの威信に関わる問題かと思いますが、それについては如何お考えなのですか?」
海軍総司令官カール・デーニッツ国家元帥はゲッベルス大統領に逆に聞き返した。
「まあ、裏切りだと言わなければいいだけじゃないか? 兵器の輸出入なんて普通のことだろう? ザイス=インクヴァルト外務大臣、それでいいよな?」
「はい。問題ありませんかと」
ツェッペリンが脱走したことを無視すれば、普通の兵器の取引である。まあ先進国同士で完成品の軍艦を取引することはほとんどないのだが、政治的にはそれほど問題ではない。
「それで、軍事的にはどう思う?」
「完成したての蟠竜型空母とグラーフ・ツェッペリンとでは、ツェッペリンの方が優れていると言えるでしょう。船魄の能力差が大き過ぎますから」
「まあ、それはそうだろうね」
「しかし、この取引を蹴ったとして、どの道ツェッペリンは戻らないのです。であれば、空母を一隻手に入れた方がよいかと」
「確かに、その通りだ」
何の意味もない所有権を対価に実際の空母を買えるのであれば、ドイツにとって非常によい取引である。
「じゃあ、海軍としてはこの取引を受けてもいいということでいいな?」
「はい。問題ありません」
「分かった。じゃあ、日本に取引を受けるよう、伝えておいてくれ」
ドイツもまた、あっさりと東條元帥の要請を受け入れた。ドイツの了承が得られたことにより、月虹は日本海軍に復帰することになるだろう。
「結論は出たか?」
「ええ。出たわ。日本に戻ってもいいわよ。但し、条件付きでね」
「条件とは?」
「私達は船魄が殺し合わない為に戦っているわ。だから、私達に不本意な戦争には参加しない。それでどうかしら?」
自分達の都合で命令を拒否するという、軍隊にあるまじき要求である。それを認めては帝国海軍に所属しているとすら言えないだろう。瑞鶴は拒否されることを見込んで、この要求を突きつけた。
だが、東條元帥からの答えは想定外のものであった。
「よかろう。その条件で、帝国海軍に復帰してくれ」
「え、いいの? 私達が好き勝手やるって条件だと思うんだけど、分かってる?」
「そこまで耄碌はしていない。ただ、元より君達に帝国の戦争に協力してもらうつもりなどなかったのだ」
「どういうことよ?」
瑞鶴は日本が月虹の軍事力を求めているのだと思っていた。
「瑞鶴、君は確かに優れた船魄であるし、君より巨大な空母を何隻も同時に相手取ることが可能だろう。だが、帝国は既に、そう言った個人の技量に頼る戦術を採用していない。戦争とは工業力の戦いだ」
「そう。私なんかいなくてもいいってことね」
日本に戻るつもりなどなかったが、しかし必要ないと言われると、瑞鶴は少しばかり悲しくなった。曲がりなりにも日本を守ったという矜持は残っていたからだ。
「確かに、君がいなくとも帝国の国策に影響はない」
「じゃあ、何で私を呼び戻そうとしてるのよ」
「脱走兵を野放しにしているのは、帝国陸海空軍の威信に関わる」
「なるほどね」
帝国海軍は脱走兵がのうのうと暮らしていることを許容できないのである。極論を言えば瑞鶴を殺せば問題解決なのだが、日本としても救国の英雄である瑞鶴を殺したくはない。
「私を勧誘したいなら、もっと私をおだてればいいのに」
「嘘を言ってもいずれは知れよう」
「まあね」
「君の条件には応えた訳だが、これで問題ないか? 日本に戻ってきてくれるか?」
「……ええ、分かったわ。ちゃんと私達の条件を履行するなら、日本に戻ってあげるわ。まあドイツがどう反応するから知らないけど」
「感謝する。ドイツとも必ず、交渉を成功させてみせよう」
瑞鶴と東條元帥は握手を交わした。後は、ドイツがグラーフ・ツェッペリンの移籍を承認してくれるかどうかにかかっている。
○
一九五九年一月十二日、ドイツ国大ベルリン大管区ベルリン、ミッテ区総統官邸。
日本からグラーフ・ツェッペリンを手放してくれとの要請を受け、ヨーゼフ・ゲッベルス大統領は会議を開いた。国防軍最高司令部の会議という建前であるが、日本の大本営政府連絡会議のようなものである。
「――日本は代償に、蟠竜型空母一隻の無償譲渡を提案してきている。あの東條英機から直々の言葉とあれば、信用していいだろう」
日本の空母としては鳳翔型原子力空母の一世代前にあたる蟠竜型空母。その全長は300mを超え、次世代の主力空母と位置づけられている。もちろんグラーフ・ツェッペリンより遥かに巨大で大量の艦載機を搭載することができる。
「僕としては悪くない取引だと思っているんだが、デーニッツ国家元帥、どう思う?」
「まず、我々に有利な取引とはいえ、寝返りを許すというのはドイツの威信に関わる問題かと思いますが、それについては如何お考えなのですか?」
海軍総司令官カール・デーニッツ国家元帥はゲッベルス大統領に逆に聞き返した。
「まあ、裏切りだと言わなければいいだけじゃないか? 兵器の輸出入なんて普通のことだろう? ザイス=インクヴァルト外務大臣、それでいいよな?」
「はい。問題ありませんかと」
ツェッペリンが脱走したことを無視すれば、普通の兵器の取引である。まあ先進国同士で完成品の軍艦を取引することはほとんどないのだが、政治的にはそれほど問題ではない。
「それで、軍事的にはどう思う?」
「完成したての蟠竜型空母とグラーフ・ツェッペリンとでは、ツェッペリンの方が優れていると言えるでしょう。船魄の能力差が大き過ぎますから」
「まあ、それはそうだろうね」
「しかし、この取引を蹴ったとして、どの道ツェッペリンは戻らないのです。であれば、空母を一隻手に入れた方がよいかと」
「確かに、その通りだ」
何の意味もない所有権を対価に実際の空母を買えるのであれば、ドイツにとって非常によい取引である。
「じゃあ、海軍としてはこの取引を受けてもいいということでいいな?」
「はい。問題ありません」
「分かった。じゃあ、日本に取引を受けるよう、伝えておいてくれ」
ドイツもまた、あっさりと東條元帥の要請を受け入れた。ドイツの了承が得られたことにより、月虹は日本海軍に復帰することになるだろう。
0
あなたにおすすめの小説
【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記
糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。
それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。
かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。
ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。
※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。
If太平洋戦争 日本が懸命な判断をしていたら
みにみ
歴史・時代
もし、あの戦争で日本が異なる選択をしていたら?
国力の差を直視し、無謀な拡大を避け、戦略と外交で活路を開く。
真珠湾、ミッドウェー、ガダルカナル…分水嶺で下された「if」の決断。
破滅回避し、国家存続をかけたもう一つの終戦を描く架空戦記。
現在1945年夏まで執筆
天竜川で逢いましょう 〜日本史教師が石田三成とか無理なので平和な世界を目指します〜
岩 大志
歴史・時代
ごくありふれた高校教師津久見裕太は、ひょんなことから頭を打ち、気を失う。
けたたましい轟音に気付き目を覚ますと多数の軍旗。
髭もじゃの男に「いよいよですな。」と、言われ混乱する津久見。
戦国時代の大きな分かれ道のド真ん中に転生した津久見はどうするのか!!???
そもそも現代人が生首とか無理なので、平和な世の中を目指そうと思います。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる