軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~

takahiro

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第三十章 月虹と世界

ドイツの意志

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 それから4日後。東條元帥が再び瑞鶴達を訪ねてきた。

「結論は出たか?」
「ええ。出たわ。日本に戻ってもいいわよ。但し、条件付きでね」
「条件とは?」
「私達は船魄が殺し合わない為に戦っているわ。だから、私達に不本意な戦争には参加しない。それでどうかしら?」

 自分達の都合で命令を拒否するという、軍隊にあるまじき要求である。それを認めては帝国海軍に所属しているとすら言えないだろう。瑞鶴は拒否されることを見込んで、この要求を突きつけた。

 だが、東條元帥からの答えは想定外のものであった。

「よかろう。その条件で、帝国海軍に復帰してくれ」
「え、いいの? 私達が好き勝手やるって条件だと思うんだけど、分かってる?」
「そこまで耄碌はしていない。ただ、元より君達に帝国の戦争に協力してもらうつもりなどなかったのだ」
「どういうことよ?」

 瑞鶴は日本が月虹の軍事力を求めているのだと思っていた。

「瑞鶴、君は確かに優れた船魄であるし、君より巨大な空母を何隻も同時に相手取ることが可能だろう。だが、帝国は既に、そう言った個人の技量に頼る戦術を採用していない。戦争とは工業力の戦いだ」
「そう。私なんかいなくてもいいってことね」

 日本に戻るつもりなどなかったが、しかし必要ないと言われると、瑞鶴は少しばかり悲しくなった。曲がりなりにも日本を守ったという矜持は残っていたからだ。

「確かに、君がいなくとも帝国の国策に影響はない」
「じゃあ、何で私を呼び戻そうとしてるのよ」
「脱走兵を野放しにしているのは、帝国陸海空軍の威信に関わる」
「なるほどね」

 帝国海軍は脱走兵がのうのうと暮らしていることを許容できないのである。極論を言えば瑞鶴を殺せば問題解決なのだが、日本としても救国の英雄である瑞鶴を殺したくはない。

「私を勧誘したいなら、もっと私をおだてればいいのに」
「嘘を言ってもいずれは知れよう」
「まあね」
「君の条件には応えた訳だが、これで問題ないか? 日本に戻ってきてくれるか?」
「……ええ、分かったわ。ちゃんと私達の条件を履行するなら、日本に戻ってあげるわ。まあドイツがどう反応するから知らないけど」
「感謝する。ドイツとも必ず、交渉を成功させてみせよう」

 瑞鶴と東條元帥は握手を交わした。後は、ドイツがグラーフ・ツェッペリンの移籍を承認してくれるかどうかにかかっている。

 ○

 一九五九年一月十二日、ドイツ国大ベルリン大管区ベルリン、ミッテ区総統官邸。

 日本からグラーフ・ツェッペリンを手放してくれとの要請を受け、ヨーゼフ・ゲッベルス大統領は会議を開いた。国防軍最高司令部の会議という建前であるが、日本の大本営政府連絡会議のようなものである。

「――日本は代償に、蟠竜型空母一隻の無償譲渡を提案してきている。あの東條英機から直々の言葉とあれば、信用していいだろう」

 日本の空母としては鳳翔型原子力空母の一世代前にあたる蟠竜型空母。その全長は300mを超え、次世代の主力空母と位置づけられている。もちろんグラーフ・ツェッペリンより遥かに巨大で大量の艦載機を搭載することができる。

「僕としては悪くない取引だと思っているんだが、デーニッツ国家元帥、どう思う?」
「まず、我々に有利な取引とはいえ、寝返りを許すというのはドイツの威信に関わる問題かと思いますが、それについては如何お考えなのですか?」

 海軍総司令官カール・デーニッツ国家元帥はゲッベルス大統領に逆に聞き返した。

「まあ、裏切りだと言わなければいいだけじゃないか? 兵器の輸出入なんて普通のことだろう? ザイス=インクヴァルト外務大臣、それでいいよな?」
「はい。問題ありませんかと」

 ツェッペリンが脱走したことを無視すれば、普通の兵器の取引である。まあ先進国同士で完成品の軍艦を取引することはほとんどないのだが、政治的にはそれほど問題ではない。

「それで、軍事的にはどう思う?」
「完成したての蟠竜型空母とグラーフ・ツェッペリンとでは、ツェッペリンの方が優れていると言えるでしょう。船魄の能力差が大き過ぎますから」
「まあ、それはそうだろうね」
「しかし、この取引を蹴ったとして、どの道ツェッペリンは戻らないのです。であれば、空母を一隻手に入れた方がよいかと」
「確かに、その通りだ」

 何の意味もない所有権を対価に実際の空母を買えるのであれば、ドイツにとって非常によい取引である。

「じゃあ、海軍としてはこの取引を受けてもいいということでいいな?」
「はい。問題ありません」
「分かった。じゃあ、日本に取引を受けるよう、伝えておいてくれ」

 ドイツもまた、あっさりと東條元帥の要請を受け入れた。ドイツの了承が得られたことにより、月虹は日本海軍に復帰することになるだろう。
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