吸血鬼嫌いの吸血鬼、ヴィルヘルミナ

takahiro

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序章 世話焼きの吸血鬼

吸血鬼というもの

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 翌晩、ヴィルヘルミナは洞窟から姿を現した。村のあちらこちらには松明が立てられ、揺らめく炎が村人らを力なく照らしている。彼らはほとんど全員が剣や槍を携えていたが、吸血鬼相手にはまず役に立たないだろう。

「やあ、おはよう。カールだっけ?」
「ええ。村長のカールです」
「敵が来たら、すぐに伝えてくれ。私が全員ぶっ殺すよ」
「……左様ですか」

 と言った矢先のことであった。村の北部から角笛の音が響いた。

「奴らです。前と同じく、北から来ましたな」
「そうか。じゃあ行ってくるよ。朗報を期待していてね」
「え、ええ」
「それと、余計な手出しは無用だよ」

 ヴィルヘルミナは気楽な様子で手を振りながら、吸血鬼が現れた方面に向かった。

 カールはヴィルヘルミナの言葉を信じ、どうしようもなくなるまでは戦わないよう村人達に通達した。吸血鬼の群れは特に戦うこともなく村の土塁の内側に侵入し、そして彼女と鉢合わせた。

「やあ、君達。何をしているのかな?」

 全部で15人程度だろうか。堂々と行進する吸血鬼の集団の前に、彼女はたった一人で立ち塞がったのである。

「何だお前? 死にたいのか?」
「殺していいっすか、親分?」
「いや、待て」

 群れの真ん中から吸血鬼のリーダーと思わしき男が出てきた。いかにも山賊の頭領と言うべき汚らしい身なり、厳ついガタイに、巨大な斧を背負っている。だが、その肌は宮殿に引きこもっている貴族のように白く、髪は金髪に近い。

「お前、吸血鬼だな?」
「おや。気配だけで分かるとは。そこそこ高位の吸血鬼のようだね」
「ふん。伊達に吸血鬼はやってねぇ。で? 吸血鬼が吸血鬼の邪魔をするのか?」

 男が尋ねると、吸血鬼ヴィルヘルミナは不愉快そうに眉を顰めた。

「力のない人間を襲って喰い殺すなんて、君達には名誉というものがないのかな? 君達は吸血鬼の恥さらしだ」
「名誉だと? 吸血鬼は人間が食糧ってだけだ。人間が野で獣を狩るように、吸血鬼は人間を狩る。ただそれだけの話だろ」
「なるほど。そういう認識なのであれば、話し合いに意味はなさそうだ。私は、君達の敵だ」

 宣戦を布告すると、ヴィルヘルミナは右腕を前に突き出した。彼女の右手の中に剣の柄が現れたと思うと、瞬く間に煌めく刀身が生えてきた。彼女の手には美しい剣が握られている。

「ほう……」
「さあ。殺し合おうじゃないか」
「いいだろう。だが、殺し合う前に名前くらいは教えてくれてもいいんじゃねぇか? 俺はヘルムート。見ての通り、こいつらの頭目だ」
「私はヴィルヘルミナ。君達みたいな連中が嫌いな吸血鬼だ」
「そうか。んじゃ、殺せ」

 ヘルムートが冷たい声で言い放つと、すぐさま2人の吸血鬼が彼の背後から飛び出した。錆びついた斧を振り上げた吸血鬼が、掛け声も上げずヴィルヘルミナに飛びかかる。

 ――よく統制されている。とは言え、この程度は敵じゃないけど。

 敵の斧が頭をかち割る寸前、ヴィルヘルミナは右手に握られた剣を一振りした。次の瞬間、2人の吸血鬼は胸から上と下に分割された。真っ二つになった吸血鬼の肉塊が地面に叩きつけられ、それらは全く動かなくなった。

「おや、こんな程度で死んだのか。つまらないな」
「ほう……」

 ヘルムートは驚いて目を見開いたが、それ以上の反応は示さない。興味深げにヴィルヘルミナを観察していた。

「吸血鬼の膂力なら、身体を真っ二つにする程度は大したことじゃねえ。それより、心臓を精確に切断しているな。お前やっぱり、タダモノじゃねぇな」
「ああ。そうでもなければ、この数を相手に喧嘩を売ったりしないよ」
「ははっ。面白いじゃねぇか。んじゃ、次の手だ」

 ヘルムートが右手を挙げた。何かの合図だろう。そしてその手を振り下ろすと、次の瞬間、ヴィルヘルミナの右肩が吹き飛んだ。右腕がもげたのは言うまでもなく、およそ肩と呼べる部位が抉り取られていた。まるで彼女の肩の中に火薬が入っていて、それが炸裂したかのようだ。

 ヴィルヘルミナの肩が跡形もなくなると、一瞬遅れて破裂音のようなものが森の奥から聞こえた。

 ――弓兵を配置していたとでも? それに、この威力は。

「矢尻に銀でも塗っていたのかな?」
「当たりだ」
「わざわざ吸血鬼用の武器を用意しているなんて、驚きだね」
「魔物も人間も相手じゃねぇ。唯一邪魔になるのは同業者だ。お前みたいなのに備えておくのは当然だろ?」

 ヴィルヘルミナは溜息を吐く。

「まったく。無駄に頭が回る連中だね」
「余裕かましてる場合か? お前を狙っている伏兵はまだまだいるぜ?」
「私が逃げるとでも?」
「逃げた方が賢明だと思うがな」
「そんなつもりはないよ」
「そうか。なら、今度こそ死んでもらう」

 ヘルムートが再び腕を使って合図を飛ばす。その右腕が振り下ろされた瞬間、ヴィルヘルミナの身体は弾け飛んだ。両腕と両脚それに頭すらも胴を離れ、その胴体も幾つかの肉片となってばら撒かれた。

 血の海の中に、元が何だったのかすら分からない肉片が散らばる。

「大見得切ってた割には、大したことねえじゃねぇか」

 ヘルムートと彼の手下達は、ヴィルヘルミナだった血肉を踏み荒らした。
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