吸血鬼嫌いの吸血鬼、ヴィルヘルミナ

takahiro

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序章 世話焼きの吸血鬼

吸血鬼の戦い方

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「おいおいおい、どうすんだよ!」
「あいつやられちまったぞ!?」

 ヴィルヘルミナの闘争を背中から見ていた村人達は、いよいよ死を覚悟した。魔法もほとんど使えない彼らの武器は、吸血鬼を前にしてはあってないようなものだ。

 だが、その時であった。

 どこからか、嘲るような笑い声が響いた。それは天からの声か、或いは地獄の底から響いているのか、それとも耳元で亡霊が囁いているのか。不気味な声が辺り一帯を満たしている。

 直後、吸血鬼達が踏みつけていた血の海が波打ち始め、散らばっていた肉片が蠢き始めた。

「……下がれ」

 ヘルムートが手下に命じると、彼らはヴィルヘルミナの死体から素早く距離を取った。

 不気味な現象を敵も味方も固唾を飲んで見つめる中、散乱していた肉片が徐々に一箇所に集まり始めた。それはやがて大きな肉塊となり、やがて人の形を取り直した。

 血の池が広がっていた真ん中に、先程粉々にされた筈の吸血鬼が五体万全で立っていたのだ。

「ただいま、諸君」
「あの状態から再生するとは。面白い」

 ヘルムートは相変わらず、一瞬だけ驚く様子を見せるだけで、動揺というものをまるで見せない。冷えきった目で甦ったヴィルヘルミナを観察していた。

「私が勝てる見込みもなしに喧嘩を売ったとでも思っているのかな?」
「お前を過小評価していたようだ。しかしお前、わざわざ服まで再生したのか?」
「――え、だって、裸で再生するのは公序良俗に反するだろう? 生き返るならちゃんと服も作らないと」

 魔法であっという間に生み出されたのは、喪服のような黒いドレス。だが、最初に纏っていた外套を再生する気はないらしい。お陰で彼女の病的に白い肌の色がよく目立つ。

「吸血鬼は、長く生きるか多くの人間を喰うことで、人間だった部分が失われていく。そしてそれに応じて肌や髪の色が抜けていく。お前は人間だった部分がほとんど残っていないようだな」
「よく知ってるね」
「お前、何年生きてるんだ? 俺は精々300年ばかりしか生きてねえが」
「それは秘密だ。まあ調べたら大体わかるんだけど」
「本にでも載ってるのか?」
「さあ、どうだろうね」
「まあいい。もう少しだけ小手調べだ」

 ヘルムートが右手を上げ、先程の合図を発する。次の瞬間ヴィルヘルミナの右の肘から先が吹き飛ばされる。だが、彼女が鼻で笑うと同時に、失われた腕が瞬く間に再生した。

「吸血鬼の中でも相当に上位の再生能力、と言ったところか。こいつは勝ち目がねえな」
「ああ。余興は終わりだ。君達は全員、ここで殺させてもらうよ」

 ヴィルヘルミナの右手には再び煌めく剣が握られている。その切っ先を、彼女はヘルムートの頭に向ける。

「君達は吸血鬼に相応しくない。これからも人間に被害をもたらす。その前に、私がここで根絶やしにする」
「生憎だが、殺されてやるつもりはねぇ。撤収だ」
「逃がしてやるとでも!?」

 抉れるほどの勢いで地面を蹴りつけ、ヴィルヘルミナはヘルムートに斬りかかる。だが、その剣は何も斬ることはなかった。そこに吸血鬼の姿はなく、代わりに赤黒い霧が視覚を妨害する。

 ――霧になった? こいつらの固有魔法か。

「ははっ。逃げるのに特化した吸血鬼なんて、笑わせてくれるね。そんなんだから君達は吸血鬼に相応しくないんだよ」

 ヘルムートだけでなく、群れの全員がその魔法を持っていた。ヴィルヘルミナの挑発に耳を貸す気もなく、一瞬にして霧となった吸血鬼達は森の奥に消えていった。

「か、勝ったのか……?」

 信じられないとでも言いたげに、村人が尋ねてくる。

「ああ、今のところはね。とは言え、奴らのうちの2人しか殺せていない。また襲いかかってくるかもね」
「そ、それもそうか」
「そ、そんなことより! あんたも吸血鬼だったってことだよな……?」
「今更そんなことも分からないのかい?」
「縄張り争いしてる相手を追い払ったら、あ、あんたが俺達を喰い殺すつもりなんじゃないのか!?」

 空気が凍てつく。勝利に酔っていた村人達も、その言葉に顔が青くなった。ヴィルヘルミナがとても人間ではない化け物だということは、疑いようもない事実だ。

 ヴィルヘルミナは、残念で短絡的な思考をしている村人達にがっかりした。

「まったく……。仮に私が君達を喰いに来たのなら、別にあの連中と殺しあう必要もないし、そもそも昨日の時点で君達を皆殺しにしているよ。やっぱり、君達は人間以外の種族を、人間ではないという理由だけで排斥するんだね」

 せっかく助けてやったのに、化け物としか認識されない。そんな仕打ちは数え切れないほど受けてきたが、何度でも落胆する。その度に人間に期待したのは愚かだったと後悔するのだ。ヴィルヘルミナはこの村への興味をすっかり失ってしまった。

「ま、待ってくれ! あんたは村の恩人だ! あいつらと同じだなんて思っていない!」
「うん?」

 村を去るヴィルヘルミナの背中に叫ぶ男が一人。
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