吸血鬼嫌いの吸血鬼、ヴィルヘルミナ

takahiro

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序章 世話焼きの吸血鬼

人間と吸血鬼

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「あなたに俺達を喰い殺そうとするつもりがないのは明らかだ! どうか待って欲しい!」
「何言ってる! お前も見ただろ! こいつは化け物だ!」
「化け物っていうのは、人を見境なく喰い殺すような奴のことを言うんだろうが!」
「はぁ……。結局どっちなんだ」

 村人達は当の本人を置き去りにして、真っ二つに割れて言い争いをしている。ヴィルヘルミナは黙ってその様子を眺めていた。この論争がここにいる人間だけで完結する筈もなく、村全体が紛糾した。

 ヴィルヘルミナは村の端っこで待たされることになり、彼女は律儀に言われたことを守った。

「結論は出たのかな?」

 数時間後、ようやく村人がヴィルヘルミナを迎えに来た。いや、村人だけでなく、村長のカールも姿を現した。

「ヴィルヘルミナ殿、あなたにお礼をしたい。それが村の総意です」
「……そう。吸血鬼にお礼がしたいなんて、珍しいこともあるものだね」

 ――本当に珍しいこともあるものだ。待っててよかった。

「我々はヴィルヘルミナ殿に命を救って頂いたのです。当然のことでしょう」
「それでも、化け物を拒絶する人間はたくさんいるけどね」
「我々はそうではない。ただそれだけです」
「そうかい」
「それで、ヴィルヘルミナ殿には何かお望みのものはありますかな? 何分、吸血鬼と関わりを持ったことなどないものでして」
「ははっ。吸血鬼が欲しいものなんて、一つしかないに決まってるじゃないか」

 ヴィルヘルミナがその言葉を発した途端、またしても空気が凍りついた。村長も含め、村人達の顔が曇る。一部は無意識に武器を握りしめてすらいた。

「……それは、血液ですかな?」
「ああ。だって吸血鬼なんだから」
「村長! こいつはやっぱり、俺達を殺す気だ!」
「黙っておれ! ……申し訳ない。ヴィルヘルミナ殿、それは誰かを喰い殺そうという意味ですかな?」
「いいや、まさか。皆から少しずつ血をもらうだけだよ。誰も殺す気はないし、特に害はない」
「それだけで、本当によいのですか?」
「ああ。吸血鬼が生きるのに必要な生命力は、それほど多くはないからね」
「しかし……そうであるのなら、どうして我々はこのように多くが殺されたのですか?」

 生存に必要な血の量が人を殺すほどではないのなら、吸血鬼がこんなにも大勢の人間を殺す必要などなかった筈だ。カールはヴィルヘルミナを完全に信用しきったわけではない。

「それは簡単な話だよ。生きるのに必要以上の食事を摂ってはいけないなんてルールはないだろう? 現に、人間の大半は生きるのに最低限の食事しかしないが、貴族や王族は贅沢三昧している。それに加えて、吸血鬼は基本的に食べ過ぎにはならないんだ。血を吸えば吸うだけ、生命力として体内に蓄えることができる」
「つまり奴らは、人を喰うのを楽しんでいたということですか」
「そういうことになるね。もちろん私はそんなつもりはないよ」
「では……命を救っていただいたお礼です。まずは儂から、血を吸ってくださればよい」
「じゃあ、腕を出してくれるかな? できるだけ動かないでね」

 ヴィルヘルミナは膝立ちになって、カールの右の上腕に噛み付いた。鋭い牙がほんの一部だけ突き刺さり、血を吸い出す。

「ふむ。痛くないですな」
「ちょっとした魔法で痛みを消してるんだ。別にそんなことしなくても、大して痛いわけじゃないけど」

 吸血は数十秒で終わった。ヴィルヘルミナはカールの傷口を魔法で塞ぎ、何の痕も残さなかった。

「体調はどうかな? 目眩がしたりしないかい?」
「いいえ。不調は全くありませんな」
「加減を間違えてないようでよかった。次は誰かな」

 というわけで、ヴィルヘルミナは健康な村人全員から少しずつ血をもらい、腹を満たした。

「――とは言え、何もしなければあの連中が戻ってくるかもしれない」
「左様ですな……」

 ヴィルヘルミナがいなくなれば、ヘルムートらが再びヴレデック村を襲ってくることは間違いない。

「仕方ないから、私が暫くここに残ることにするよ」
「それは……本当によいのですかな?」
「ああ。安心して寝られる場所を引き続き提供してくれるなら、喜んで。まあ昨日借りた洞窟をそのまま使わせてくれればいいんだけど」
「痛み入ります……。どうか、お願いします」

 カールは深々と頭を下げた。人間にそんな風に頼まれることなど久しぶりで、ヴィルヘルミナは少々面食らってしまった。

「よしてくれ。そろそろ日が昇るから、私は寝るよ。お休み」
「え、ああ、左様ですな。ごゆっくりとお休みくだされ」
「そんなに畏まらないで欲しいんだけど」

 ヴィルヘルミナはむず痒さを覚えながら、昨日も寝た近くの洞窟に入った。吸血鬼は昼に寝て夜に活動するものである。

 彼女が寝ているうちに朝と昼が終わり、太陽は地平線の下に落ち、再び夜がやって来た。

「近くに吸血鬼がいる気配はない。私を警戒してるんだろうね」
「それはよかった……」
「ただ、人間が大勢近寄ってきている気配はするけどね」
「なんですと? ようやく救援でもやって来たのですかな」
「さあ。どうだろうね」

 間もなく、村の見張り台から伝令がやって来た。
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