アルカディア・クロノクル ゲーム世界に囚われた俺を救うのは、妹か、かつての仲間か

織部

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動乱の幕開け

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 そこは、マリスフィア侯爵が幽閉されているはずの教会だった。

「……誰もいない」
 もぬけの殻だった。だが、つい先ほどまで人がいた気配――熱と息の残滓が空気に滲んでいる。

「閉じ込めていた馬鹿息子が、エドガー王子と王都に逃げ出したからだ。無駄な殺し合いはしたくないからな」

 アルマダは、口の端を吊り上げてにやりと笑った。
「さて、迎えに行こうか」

 古びた教会の造りと、地下への道筋を熟知しているかのように、迷いなく歩を進めていく。

「――ここだ」
 色の変わった石床の一角に目を留めると、腰の剣を抜きざま、何のためらいもなく斬り裂いた。

 どしゃ――。
 崩れた石の隙間から、闇へと沈む階段が口を開ける。

 深く、息苦しいほど冷たい空気に満ちた階段を降りると、やがて地下教会が現れた。石造りの空間は静まり返っており、祭壇の奥には、厚い扉で隔てられた小部屋があるようだ。

「やっと来たか?」
 扉の向こうから、野太く響く声。
「ははは、囚われの身で偉そうに!」

 アルマダが笑いながら、重い石扉に手をかけると、ギィ、と鈍い音を立てて開いた。
 そこにいたのは、一人の男。両手両足を魔道具付きの拘束紐で磔にされた、初老の男――マリスフィア侯爵その人だった。

「おお、マリスフィア侯爵。ご無事ですか?」
 オタルとヤハタが駆け寄り、絡みつくような紐を、手間取りながらも丁寧に外していく。

「助かるよ。気の短いアルマダだと、紐ごと腕を斬りかねないからな。大変だった」
 解放された男は、ゆっくりと両手足を回して血流を戻しながら、口元にうっすらと笑みを浮かべた。

「そうは見えんがな。……ところで、お前を何て呼べばいいんだ? お前の馬鹿息子は、マリスフィア侯爵を名乗ってたぞ」

 アルマダが肩をすくめて笑いながら言う。
「そうか。まあ、爵位くらい譲ってやろう。あれでも、亡き妻の忘れ形見だ。……ヴェスバスとでも呼んでもらおうか」

「お前が甘やかすから、つまらぬことをするんだ。……それより、大切な話がある」

 ヴェスバスの表情が引き締まる。彼が囚われていた理由――ヴァイオレット王女の行方に関わる情報が明かされた。

「なんだって、大魔物の森の中に町があるとは……? そこで保護されているのか?」
「ああ。あの監視塔の辺りだ。それに、その町を支配している男は……エリス神の保護を受けている」

「そんなことが……」
 アルマダの口から語られた情報に、ヴェスバスだけでなく、オタルとヤハタも目を見開く。

 魔物の森に人の町があるというだけでも異常だ。ましてや、神の名まで絡むとなれば――。

「火山も噴火したし、魔物の襲来も近い。元侯爵として民を守るのだ。地上に出るといい」

 ヴェスバスが教会の外に出ると、どこからともなく彼の親衛隊が姿を現した。訓練された兵たちは無言で列をなし、主の命を待っていた。

「……なんだ。いつでも脱出できたのか?」
「まあな。だが、肝心の情報が得られていなかった。お前もいなくなったしな」

 苦笑を漏らした彼は、すぐに態度を切り替えると、隊長に視線を向けた。
「全配下の貴族に告げよ。魔物との戦闘体制を敷き、緊急に集結せよ。詳細は……お前に任せる」

「はっ!」
 その一言で隊長は動き、分隊長たちに命が下る。次の瞬間には、数十の早馬が疾風のように教会を駆け出していった。
 ――元侯爵ヴェスバス。真のマリスフィア侯爵。
 その名が、再び動き出す。



 マリスフィア元侯爵が、解放される少し前。
 エドガー王子とヤハタ部隊を除いた全ての王国第二騎士団、それとマリスフィア侯爵とその取り巻きは、王都に急遽帰還することにした。

「私たちはどうすれば?」
 セーヴァスの門にいるヤハタ部隊の一員が、通り過ぎていく行軍に叫ぶ。

「お前たちはここを死守しろ! 援軍の依頼をしてくる。待っていろ!」

 峠道を、上がっていく。
「よしここで少し休憩だ」
 峠の頂上に行く前にある休憩所に入った。だが、そこはかつての商店が並んでいた場所では無かった。

 すべての商店は、扉が閉じられただけでなく、頑丈な囲いに覆われていた。
「こちらにいた住民は、魔物との戦争を恐れてすべて退居したようです」

 エドガー王子に説明をしているのは、副騎士団長だ。
「ふん、臆病者どもが、何を怖がる必要があるのだ」
「はい、その通りです。魔物が出れば蹴散らしてやりましょう」
「ああ、そうだな」

 エドガー王子、魔物との戦いをしたことがある。だが、それは安全に配慮された中でのパワーレベリングにすぎない。だから彼には、所詮、魔物の強さはその程度だと言う印象が出来ていた。

 それに、第二王国騎士団は、騎士団の中で最強と言われている。人数が一番多く、しかも能力の高いものも多いからだ。

 最大の弱点は、騎士団としての実践経験と、団体戦での戦術が無いことだ。
  それは致命的だったかもしれない。

 休憩を終えて、峠に向かう。側道には、柵が立っていた。

 それを見て安心をしたその瞬間。峠の上から魔物の声がした。
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