アルカディア・クロノクル ゲーム世界に囚われた俺を救うのは、妹か、かつての仲間か

織部

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死の森との戦い

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難民――いや、移民の大旅団が、マリスフィアから移動を開始した。

「もう、セレナ様はどこ行ってたんですか?」
 冒険者ギルド長で、今は入国審査官を務めるリアナが怒り気味に問いただす。

「道中の安全確保!」
 セレナは笑って答え、旅団全体を見回した。
 旅団の先頭には、ルナたち狼とゴブリンの子らが並ぶ。

 そのすぐ後ろには、エリシオン国旗を掲げる旗手、ハイエルフのエリオンがいた。大きな旗に長い手旗棒が目立っている。

「これ、重いんだけど?」
「貸してみて。ん、どこが?」
「あわわっ……!」
 投げ返された旗を、エリオンは必死に受け止めた。

「まあ、頑張って!」
 その後ろには数十人の獣人族の代表者たち、そしてアルマダ、ネグラロサの運送隊が続く。
 これは、何度かに分けて移動するうちの最初の旅団だった。他の獣人族はマリスフィアに残り、順番に移送される予定だ。

 エリシオン国とマリスフィア侯爵領は、すでに友好条約を結んでいる。
 セレナは獣人族に選択の自由を与えたものの、「セレナ様についていきます」という彼らの意思は固かった。さらに、マリスフィアの獣人族や一部の人族にも移住希望者が現れている。

 峠の小屋でゴブリンに捕らえられていた女たちと、ゴブリンの子供も救出された。女たちはハートフェルトの馬車で、ゴブリンの子らは歩いて後方についてきている。
 女たちは、人族やエルフ族の者たちだった。

「マリスフィアに戻ってもいいのよ?」
 セレナが優しく声をかける。
「いえ……ゴブリンに捕らえられた者として蔑まれるのは、耐えられません」

 元冒険者としての誇りがある。仲間をすべて失った痛みも、まだ癒えてはいなかった。
「好きにすればいいわ。困ったことがあったら言ってね」
「ありがとうございます」
 彼女たちは深く礼をした。
「きっと、楽しいと思うから」
 セレナはさらに優しく言葉を添えた。

 旅団の周囲には、狼たちが鋭い目で警戒を続けている。
「船は、もう船着場に来ているはずだ」
 旅団は峠の手前から森へ入り、船着場へ向かった。
 着いてみれば、そこにはすでにエリシオンからの船団が到着していた。

「乗ってくれ!」
 船員たちはテキパキと動き、狼やゴブリンの数に驚きつつも、そこはネグラロサの男たちだ。すぐに対応する。

 船団は川を悠々と逆行して進んでいく。
 魔物の森は、いつにも増して不気味なほど静かだった。


 一方その頃、マリスフィア侯爵軍は峠の休憩所を、防衛拠点として造り直していた。
「さらなる進軍を!」
 馬鹿な配下の進言に、侯爵ヴェスバスは耳を貸さなかった。

「ウエストグレンに侵攻したとして、今や魔物の砦と化しているアズーリア村から進軍されたら挟まれるだけだ」

 本音を言えば、セレナにも戦に加わってほしかった。しかし、「私は関係ない」と逃げられてしまったのだ。

「さて、エリシオンの主とはどんな者か。いちど見てみたいものだな」
「もしかしたら、すでに会っているかもしれません。人の良さそうな魔術師で、まだ少年でしたが……エリス神の信徒で、アキラと言ってました」
 ヤハタが侯爵に報告する。

「俺を助けてくれた少年だな。あの強かったオークどもを一掃したと聞いた」
 オタルが、当時の戦闘を思い出しながら言った。

「信徒なら、弱いわけがない。それに、村の名前がエリシオンだからな」
「相手に与えられるものがあると良いんだが……」
 ヴェスバスは悩ましげに呟いた。


 セレナの長い旅が終わるまでの間にも、“死の森”と呼ばれた南の森からは、何度か攻撃があった。
 だが、それは散発的なもので、本格的な侵攻ではなかった。

 死の森と牙狼の森の間では、ドワーフが川に防波堤を築き、コボルトたちが警備をしていた。
 そこに聖騎士アゼリアが成長し、光魔術を放つことで戦線は一気に傾く。

「まずいな。聖女ほどではないが、これではなんの成果も得られず、死者が砂に帰ってしまう」
 戦線を眺めながら、ヴェルミラが呟く。

「まあ、こちらに攻めてくることはありますまい」
 ゼル=ラザールの楽観に、彼女は首を振った。
「見てみろ。光魔術が当たった森……浄化されてしまっている」

 死の軍団は個の力では強くない。むしろ弱者の部類だ。
 死が死を呼び、その恐怖で相手が怯えてくれなければ成り立たない。

 だが今、灰になる恐怖に怯えているのは自分たちの方だった。
 対岸が慌ただしい。
「狼たちが森に戻ってきたようです」
「ああ、あのうるさい遠吠えだ」

 奴らは闇に生きる者。夜戦を得意とする。
 対岸に、ずらりと狼が並ぶ。
 中央には牙狼と牙狼族の娘、そして聖騎士の姿。強者の気配が濃い。

「まずい、退却させろ!」
 聖騎士が広域の光魔術を放つ。それを合図に、狼たちが川を渡り始めた。
 光魔術に焼かれた死の森は、光の炎を上げている。

 小舟には牙狼の娘と聖騎士、そして数名の冒険者らしき者たち。いずれも腕が立つ。
 狼たちの狩りに、死の兵は次々と撃破されていった。

「どこまで侵食されるかだ」
 敵は一直線に居城へ向かってくる。
「領土的な野望ではなく、私を亡き者にしようとしているのか……」

「どうしますか?」
「今なら聖騎士もいない。こちらも敵の主人を狙う」

 ヴェルミラとゼル=ラザールは空へ飛び、迂回してエリシオン国へ侵入した。

 そして闇に紛れ、ついにアキラの屋敷を探り当てた。
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