133 / 138
負けない娘
しおりを挟む峠の休憩所。そこは、オーガの魔術師アルドとオークの戦士ザルム、それぞれの配下が数匹いるだけの、実に寂れた拠点だった。
戦闘員以外といえば、捕虜のゴブリンや預けられた子どもが少しいる程度。主力のオーガ部隊は、すでにウエストグレンを占領してこの場を離れている。
「ここには、本当に何もないからな。誰も来たがらん」
毒薬の調合を中断し、アルドがぼやく。
「困ったものですね」
ザルムが肩をすくめる。
とはいえ、この峠には人族の屋敷が十軒以上もあった。だが彼らが襲撃した時には、全員とっくに逃げていた。察知されていたのだろう。
「まあ、気楽でいいがな」
「確かに」
「それでどうする? ゴブリン王は王子を仕留めたと自慢しておったぞ。“これで十分だろう、追加の報酬を寄越せ”とな」
「本当は生け捕りがよかったが……次はオーガ王に報酬を出させるか」
そう呟いた瞬間だった。
「アルド様、ザルム様! 大きな戦闘が起きました!」
ゴブリンが守る柵の方から、濃い煙がのぼっている。
「偵察へ行け!」
ザルムは怒鳴るが、胸の奥に悪寒が走る。
「王子を殺されて、黙っているわけがないか」
「結末は見えているようなものだがな」
本来なら、ゴブリンたちが難なく撃退するか、激戦の末に勝利するはずだった。
――負けるなど、誰も想像すらしていなかった。
しかし、その油断は瞬時に裏切られる。
「奴らが……奴らがいました!」
偵察に出たオーク兵が、息を切らして戻ってきた。
「‘奴ら’じゃわからん!」
「牙狼です! あの牙狼が、狼を従えて……その数、数十匹!」
ザルムは歯を鳴らした。
見たくなかった“敗北”の影が、静かに形を成していく。
ワオーン!
ワオーン! ワオーン!
すでに牙狼の群れは、休憩所のすぐ近くまで来ていた。
「迎え撃つしかないな。迎撃体勢をとれ!」
アルドは杖を掴む。
※
物見台から覗くと、狼たちは柵から離れた場所で座り込んでいた。
「狼の跳躍力では柵を越えられず、諦めているのでしょう」
部下が言うと、アルドは首を振った。
「いや、罠に気づいているのだろうな」
「匂いには我らより敏感ですから」
ザルムも頷く。
狼たちには戦意すらなく、眠っている者までいる。
戦場に、不気味な沈黙が流れた。
やがて、馬と兵の足音。マリスフィア侯爵軍、数百。
しかし彼らも罠を警戒し、むやみに近づいてこない。
「ゴブリンに罠を教えたのは失敗だったかもな。同じ罠にかかるはずもない」
「どうします?」
「待つしかあるまい。まだ射程に入ってない」
しかし侯爵軍は隊形を変えながらも進軍しない。
「……いや、あれは――大筒だ。退避しろ!」
どっかーん! どっかーん!
砲弾が柵を吹き飛ばし、罠ごと地面を抉り、最後の一発は物見台を直撃した。
「間一髪だったな。坂から撃ってるのに外さないとは」
「どうします?」
「感心してる場合じゃない。当初の予定通り、ここでゲリラ戦だ」
あとは――いつ逃げ出すか、だ。
乱戦中が最適。アルドはそう判断していたが、ザルムも同じだった。
しかし、配置につこうとした時だった。
「あら、どこ行くの? こそこそ隠れても無駄よ」
突然、目の前に現れたのは牙狼族の剣士――セレナ。背後には狼の群れ。
「お前たち、さっきは座り込んでたじゃ……」
「負け組よ。狩りの点が足りなかったからお留守番組。さ、始めるわよ」
セレナが剣を抜くと、狼たちは別の獲物を探しに散っていった。
「ほう、二対一で勝てるつもりか?」
アルドはザルムの後方に回り、構える。
セレナは挑発するように微笑む。
次の瞬間、ザルムが斬りかかり、アルドの土槍が後ろから飛ぶ。
「やるじゃない!」
セレナは舞うようにターンし、死角から降り注ぐ土と炎の槍を、すべて一瞬で斬り払った。
術者から離れて発動する本来のアルドの魔術。その威力は桁違い。
だが――彼女の剣は、それすら容易に打ち消した。
「はぁ?」
アルドが呆然と声を漏らす。
「服が汚れるの、嫌なのに……」
火の粉や粉塵が服をかすめ、彼女は軽く塵を払った。
その隙にザルムが斬り込む。“討ち取った”と確信した瞬間――手応えがない。
「ザルム、それ幻影だ!」
アルドの叫びが届く頃、ザルムの身体はセレナの剣に切り刻まれていた。
速すぎて、斬撃が見えない。
があっ……ぐわっ……
体力がみるみる削られる。倒れれば終わりだ。
「丈夫だけど、動きが遅い。遅すぎよ!」
異次元の剣士――――そんな存在へと変貌しつつあるセレナは、笑う。
「汚いぞ!」
「へえ? そこら中に罠仕掛けてるあなたたちが言うの?」
セレナが罠の残骸を剣で指す。
ザルムは痛む身体を引きずりアルドの後ろへ逃げようとする。
「こっち来るな!」
アルドも逃げ出し、手には猛毒の薬と爆弾。
追わせ、隙を突くつもりだった。
だが牙狼族が、そんな危険物の匂いに気づかないはずがない。
「つまんないな。――雷剣!」
セレナが剣を掲げると、狼たちが一斉に吠えた。
次の瞬間、雷が落ち、アルドとザルムを直撃する。
アルドの手の爆弾はそこで破裂し、
ザルムは、うめき声をあげて崩れ落ちた。
0
あなたにおすすめの小説
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣
織部
ファンタジー
ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。
背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。
母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。
セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。
彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。
セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。
「セラ、ウミ」
「ええ、そうよ。海」
ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します!
カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。
世界一簡単にレベルアップ ~魔物を倒すだけでレベルが上がる能力を得た俺は、弱小の魔物を倒しまくって異世界でハーレム作る事にしました~
きよらかなこころ
ファンタジー
シンゴはある日、事故で死んだ。
どうやら、神の手違いで間違って死んでしまったシンゴは異世界に転生することになる。
転生する際にオマケに『魔物を倒すだけでレベルが上がる』能力を貰ったシンゴ。
弱小の魔物を倒してレベルを上げ、異世界でハーレムを作る事を企むのだった。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる