アルカディア・クロノクル ゲーム世界に囚われた俺を救うのは、妹か、かつての仲間か

織部

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負けない娘

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峠の休憩所。そこは、オーガの魔術師アルドとオークの戦士ザルム、それぞれの配下が数匹いるだけの、実に寂れた拠点だった。

戦闘員以外といえば、捕虜のゴブリンや預けられた子どもが少しいる程度。主力のオーガ部隊は、すでにウエストグレンを占領してこの場を離れている。

「ここには、本当に何もないからな。誰も来たがらん」
 毒薬の調合を中断し、アルドがぼやく。
「困ったものですね」
 ザルムが肩をすくめる。

 とはいえ、この峠には人族の屋敷が十軒以上もあった。だが彼らが襲撃した時には、全員とっくに逃げていた。察知されていたのだろう。
「まあ、気楽でいいがな」
「確かに」

「それでどうする? ゴブリン王は王子を仕留めたと自慢しておったぞ。“これで十分だろう、追加の報酬を寄越せ”とな」
「本当は生け捕りがよかったが……次はオーガ王に報酬を出させるか」

 そう呟いた瞬間だった。
「アルド様、ザルム様! 大きな戦闘が起きました!」
 ゴブリンが守る柵の方から、濃い煙がのぼっている。

「偵察へ行け!」
 ザルムは怒鳴るが、胸の奥に悪寒が走る。
「王子を殺されて、黙っているわけがないか」
「結末は見えているようなものだがな」
 本来なら、ゴブリンたちが難なく撃退するか、激戦の末に勝利するはずだった。

 ――負けるなど、誰も想像すらしていなかった。
 しかし、その油断は瞬時に裏切られる。
「奴らが……奴らがいました!」
 偵察に出たオーク兵が、息を切らして戻ってきた。

「‘奴ら’じゃわからん!」
「牙狼です! あの牙狼が、狼を従えて……その数、数十匹!」
 ザルムは歯を鳴らした。
 見たくなかった“敗北”の影が、静かに形を成していく。

 ワオーン!
 ワオーン! ワオーン!
 すでに牙狼の群れは、休憩所のすぐ近くまで来ていた。
「迎え撃つしかないな。迎撃体勢をとれ!」
 アルドは杖を掴む。


 物見台から覗くと、狼たちは柵から離れた場所で座り込んでいた。
「狼の跳躍力では柵を越えられず、諦めているのでしょう」
 部下が言うと、アルドは首を振った。

「いや、罠に気づいているのだろうな」
「匂いには我らより敏感ですから」
 ザルムも頷く。
 狼たちには戦意すらなく、眠っている者までいる。

 戦場に、不気味な沈黙が流れた。
 やがて、馬と兵の足音。マリスフィア侯爵軍、数百。
 しかし彼らも罠を警戒し、むやみに近づいてこない。

「ゴブリンに罠を教えたのは失敗だったかもな。同じ罠にかかるはずもない」
「どうします?」
「待つしかあるまい。まだ射程に入ってない」
 しかし侯爵軍は隊形を変えながらも進軍しない。

「……いや、あれは――大筒だ。退避しろ!」
 どっかーん! どっかーん!
 砲弾が柵を吹き飛ばし、罠ごと地面を抉り、最後の一発は物見台を直撃した。
「間一髪だったな。坂から撃ってるのに外さないとは」

「どうします?」
「感心してる場合じゃない。当初の予定通り、ここでゲリラ戦だ」
 あとは――いつ逃げ出すか、だ。
 乱戦中が最適。アルドはそう判断していたが、ザルムも同じだった。

 しかし、配置につこうとした時だった。
「あら、どこ行くの? こそこそ隠れても無駄よ」
 突然、目の前に現れたのは牙狼族の剣士――セレナ。背後には狼の群れ。

「お前たち、さっきは座り込んでたじゃ……」
「負け組よ。狩りの点が足りなかったからお留守番組。さ、始めるわよ」
 セレナが剣を抜くと、狼たちは別の獲物を探しに散っていった。

「ほう、二対一で勝てるつもりか?」
 アルドはザルムの後方に回り、構える。
 セレナは挑発するように微笑む。
 次の瞬間、ザルムが斬りかかり、アルドの土槍が後ろから飛ぶ。

「やるじゃない!」
 セレナは舞うようにターンし、死角から降り注ぐ土と炎の槍を、すべて一瞬で斬り払った。
 術者から離れて発動する本来のアルドの魔術。その威力は桁違い。

 だが――彼女の剣は、それすら容易に打ち消した。
「はぁ?」
 アルドが呆然と声を漏らす。
「服が汚れるの、嫌なのに……」
 火の粉や粉塵が服をかすめ、彼女は軽く塵を払った。

 その隙にザルムが斬り込む。“討ち取った”と確信した瞬間――手応えがない。
「ザルム、それ幻影だ!」
 アルドの叫びが届く頃、ザルムの身体はセレナの剣に切り刻まれていた。

 速すぎて、斬撃が見えない。
 があっ……ぐわっ……
 体力がみるみる削られる。倒れれば終わりだ。
「丈夫だけど、動きが遅い。遅すぎよ!」

 異次元の剣士――――そんな存在へと変貌しつつあるセレナは、笑う。
「汚いぞ!」
「へえ? そこら中に罠仕掛けてるあなたたちが言うの?」

 セレナが罠の残骸を剣で指す。
 ザルムは痛む身体を引きずりアルドの後ろへ逃げようとする。
「こっち来るな!」
 アルドも逃げ出し、手には猛毒の薬と爆弾。

 追わせ、隙を突くつもりだった。
 だが牙狼族が、そんな危険物の匂いに気づかないはずがない。
「つまんないな。――雷剣!」
 セレナが剣を掲げると、狼たちが一斉に吠えた。

 次の瞬間、雷が落ち、アルドとザルムを直撃する。
 アルドの手の爆弾はそこで破裂し、
 ザルムは、うめき声をあげて崩れ落ちた。
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