16 / 138
監視塔
しおりを挟むその場所は、川に囲まれた小さな島のようで、低い岩の柵が見え、塔の隣には建物が立っていた。川は昨日の雨の影響で、激しい流れを続けている。
「アキラ、泳ぐ?」
「いや、流されそうだ。渡れる場所を探そう」川上に進むと、川幅が狭まる場所を見つけた。
「これは、橋じゃないか?」川の中に島まで続く沈下橋を発見した。
しばらくすると川の水位が少し下がり、橋が姿を現した。
しかし、渡るのが危険であることには変わりはない。時折、川の水が橋の上を越え、古い橋には壊れている箇所もいくつか見受けられた。
「急いで渡ろう。セレナ、ロープを持って行って」
「わかった、ルナ」そう答えると、セレナはルナをロープで繋ぎ、まるで散歩にでも行くかのように橋へと駆け出していった。
彼女たちは俊敏な動きで、滑るように橋を渡り切った。
一方、アキラにとって、この橋は見た目以上に厄介だった。
橋の表面には苔がびっしりと生え、滑りやすくなっている上、時折、川の水が橋を越えて足元を不安定にする。
残り三分の一ほどの地点で、アキラは足を滑らせ橋から転落してしまった。
「まずい!」濁流に飲まれかけるアキラ。
「アキラ、つかまって!」セレナがロープで繋がれたルナをアキラに向けて放った。
ルナはアキラにしっかりとしがみつき、セレナの力で岸へと引き上げられた。ルナが体を大きく振ると、水しぶきが四方に飛び散った。
「助かった……ありがとう!」
アキラは情けなさを感じつつも、仲間の頼もしさに心が温かくなった。
体を伝う水はとても冷たく、彼はテントを出し、下着に着替えて焚き火をして服を乾かした。
島に上陸すると、険しい坂を登り、岩の柵を越えて、高台にそびえる監視塔とその隣の建物にたどり着いた。塔は細長い石造りで、遠くまで見渡せる物見の塔だ。
「セレナ、人や魔物の気配は?」
「何もいない」
アキラも自身のマップ機能を確認したが、反応はなかった。
まずは、監視塔の隣にある建物を調べることにした。
それは小屋というには立派な建物で、平屋ながらも横に長く、石壁に囲まれた頑丈な木造だった。
鍵はかかっておらず、彼らは玄関から中へ足を踏み入れた。ぎぃ、と重い扉が音を立てる。
中には古びた空気が漂っており、外の新鮮な空気が入り混じる。
部屋には暖炉のある小さな台所兼食堂、四つの狭い寝室、乾燥室、洗面所、浴室、そして書斎があった。
どの部屋もきちんと整理整頓され、物はまるで時が止まったかのように綺麗に整えられている。死体や生物の痕跡は一切なかった。
物見の塔の入り口には、しっかりと鍵がかかっていた。
どうするか悩んでいるアキラに、セレナが「やぁ!」と短剣で鍵を壊して開けた。
「アキラ、開いたよ!登ろう」
悪びれる様子もなく、小狼を従えて階段を上っていくセレナ。
塔の頂上にある物見台からは、四方が見渡せた。彼らが歩いてきた川向こうの平原を見ると、大平原はぐるりと川で囲まれ、その外側には大森林が広がっていた。
さらにその先には険しい山々が連なっている。楕円形の大地の中心には砂色の窪地があり、まるで巨大なクレーターのように見えた。
アキラはこれまでの旅路を振り返り、大森林に沈む夕日を見ながら感慨に耽った。
下流では、二つの川が合流し、一つの大河となって大森林の間へと流れ込んでいた。それはまるで輪を描くロープのようだ。
「思ったより危険だったな」アキラは現実に引き戻された。
足元の島は、まるで大平原に浮かぶ出島のようで、想像以上に広く、地盤も高い。他にも施設があるようだが、これまでの探索では大きな発見はなかった。
※
「アキラ、あそこを見て!」
セレナが指差したのは、島と大森林の間にあるエリアだった。そこには船の渡し場と、大森林へ続く橋がかかっていた。
「行ってみよう」船の渡し場には使用された形跡が残っていた。
ここから川を下っていたのだろう。
橋は丈夫な石造りだったが、途中で壊れており、このままでは渡ることができない。
橋を修繕する必要があるだろう。
「木を切り出して架けよう」
「わかった!」
セレナは走り去ろうとしたが、アキラは彼女を引き留めた。
「明日ね。それより夕飯を食べよう。この小屋を借りよう」
「そうする!準備する!」
セレナはアキラから食料が入ったリュックを受け取り、駆け降りていった。
監視塔にはアキラだけが残された。
「ラピさん、ここは今は使っていないのですね?」
「そうですね、今は使われていません」
セレナとルナが夕食の準備をしている間、アキラは小屋の中を再度捜索することにした。
倉庫として使われている地下室を見つけた。
そこには建築工具や改修に必要な材料、壊れた武具しかなく、食糧庫は空っぽだった。
地下室だけでなく、どの部屋も高価な物や大事な物は持ち帰り、不要な物は捨てたのだろう。
小屋を引き払った責任者は非常にしっかりしているなとアキラは感心した。
「アキラ、ご飯できたよ!」
セレナの声に、捜索を諦めたアキラは、川の水を入れた桶から冷やしたビールを取り出し、食卓でコルク栓を抜いた。
セレナが興味深げに見ていたので、「一口飲んでみる?」と渡すと、「苦い!やっぱりいらない」と返してきた。
どうやら彼女には合わなかったようだ。
セレナとルナが集めたキノコと保存していた兎肉、香辛料で味付けされた「兎肉とキノコの炒め物」は、家のフライパンで炒められ、出た旨みたっぷりのソースをパンに浸して楽しんだ。
ビールにも合う! たった二本しかないので、一本だけで泣く泣く我慢する。
食事の後片付けが終わると、セレナとルナは寝室に向かった。
アキラも部屋に戻った。狭い部屋には、寝床と、机、椅子くらいしか無い。
「ラピさん、誰もここにはいなかったね」少し残念そうにアキラが呟いた。
「そうですね。大丈夫ですか?」
ラピスが心配そうに尋ねる。
「大丈夫。ビール美味しかったよ。ラピさんも飲んだ?」
「もちろんです」
彼女の机には、飲み終えたビールのコップとナッツの小皿が置かれていた。
「眠い…」すっかりお酒に弱くなったアキラがベッドの上の布を剥がし、シュラフを準備しようとした時、一通の手紙が滑り落ちた。
手紙には何も書かれていなかったが、封蝋には白百合と二つの剣の紋章が刻まれていた。
5
あなたにおすすめの小説
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣
織部
ファンタジー
ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。
背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。
母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。
セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。
彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。
セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。
「セラ、ウミ」
「ええ、そうよ。海」
ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します!
カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。
世界一簡単にレベルアップ ~魔物を倒すだけでレベルが上がる能力を得た俺は、弱小の魔物を倒しまくって異世界でハーレム作る事にしました~
きよらかなこころ
ファンタジー
シンゴはある日、事故で死んだ。
どうやら、神の手違いで間違って死んでしまったシンゴは異世界に転生することになる。
転生する際にオマケに『魔物を倒すだけでレベルが上がる』能力を貰ったシンゴ。
弱小の魔物を倒してレベルを上げ、異世界でハーレムを作る事を企むのだった。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる