アルカディア・クロノクル ゲーム世界に囚われた俺を救うのは、妹か、かつての仲間か

織部

文字の大きさ
84 / 138

アズーリア村攻防戦

しおりを挟む
 アズーリア村では、冒険者たちとオークたちの激しい攻防戦が始まろうとしていた。

かつての穏やかな村の面影は、すでにほとんど失われている。周囲では荒々しい土木工事が進行中で、裏手には魔物の森が広がり、他の三方は深い水堀によって囲まれていた。

「飛び越えるのは、無理そうだな」

冒険者たちは王都組、セーヴァス組、ウエストグラン組の三手に分かれて、それぞれの地点で作戦を練っていた。互いに警戒を怠らず、少しずつ位置を調整しながら、相手の動きを探っている。

「……だが、敵の姿が見えない」

廃墟となった村の瓦礫は、敵の潜伏場所として最適だった。探知スキルを駆使しても、その気配は霧のように掴むことができない。

「本当にいるのか? 大型のオーガがいるはずだったが……」

その疑念を打ち消すかのように、瓦礫の隙間から時折、槍が飛んできた。それは確かに、そこに“何か”が隠れている証拠だった。

「昨日、斥候が何人も帰ってきていない。油断するな」

年季の入った外套を羽織ったベテラン冒険者が、周囲を見渡して声を上げた。その声には緊張感が漂う。酒の匂いがほのかに漂い、手はわずかに震えていたが、その目は鋭かった。

「またあのおっさんかよ。引退間際のくせに、説教ばかりだな」

「まあ、あいつ、ソロで来てるらしいぜ。仲間もいないんだろ」

「昨日、手が震えてたし、目もうつろだったぞ。あれで戦えるのか?」

「バカだな。今回の募集、希望者全員通ったんだよ。元々は選抜だったが、逃げた奴が多すぎてな。報酬で釣ってるだけさ」

その時、王都組が橋の架設を始めた。盾を構えたタンク職が前に立ち、後方では戦士たちが木材を継ぎ足し、慎重に仮橋を運び込んでいる。

「ははっ、こんな時こそ船の出番だろ」

セーヴァス組は動かず、遠巻きにその様子を眺めていた。ただし、すぐにでも突撃できるよう陣形を整え、静かに前線を詰めていく。

その瞬間だった。

対岸の瓦礫から、オークたちが一斉に姿を現した。十体。そのうち一体は、他のオークたちとは異なる威圧感を放ち、指揮官のような存在だった。

奇妙なことに、彼らはただ姿を見せるだけで、攻撃の気配を一切見せなかった。

「オーク……? 話が違うな。大型のオーガがいるはずだったのに……」

「まあ、数ではこちらが圧倒している」

「……にしても、なぜ何もしない?」

全員が同じ考えに至った。――橋を渡り、総攻撃に移るべきだと。

だが、その刹那。

「やめろ! 渡るな! 殺される!」

「頼む……こっちに来ないでくれ!」

「リーダー……助けてくれっ!」

叫び声が響いた。その声の主を探すと、村の中央――唯一開けた空き地に、磔にされた四人の冒険者が見えた。

無理やり服を剥がされたのか、彼らの身体はほぼ裸。傷だらけで血まみれの姿が痛々しく晒されている。足元にはオークの警備兵が二体。槍を構え、今にも突き刺しそうにしていた。

その背後、瓦礫の上には指揮官らしきオークを含む七体が陣取っており、合計で九体がその一角を防衛している。

「魔法で狙えるか? いや、距離があるし、こちらはバラバラだ。連携もない」

「一度退いて、作戦を立て直すべきだろう」

「犠牲はつきものだ。突入すれば、全員は無理でも何人かは助けられる」

「ふざけるな! うちのシーフを見殺しにする気か!」

怒声が飛び交い、冒険者たちの間で口論が勃発した。数人は取っ組み合いに発展する。

「やめろ! 敵に背を向けるな!」

ベテラン冒険者が叫び、辺りを鋭く見渡す。空気が張り詰める。

実際、ここにいる冒険者の四つのグループは、すでにシーフを一人ずつ失っていたのだ。

議論の末、仮橋は一度引き上げられ、全体での協議が行われることとなった。

「提示された条件と違う。オークが二十体近く、村を要塞化している。撤退すべきだ」

何人かが荷物をまとめ始める。

「ちょっと待て! これだけ人数がいるんだ。やればすぐに片付けられる!」

「人質がいる。オークがこんな戦術を取るなんて、聞いたことがない。これは普通じゃない」

「わかった。司令部に連絡して、指示を仰ごう。無断撤退は罰則対象だ!」

その場の分裂は、なんとか回避された。伝令係の冒険者が馬に乗り、司令部へ向かう。しかし、時間が経過しても、戻ってくることはなかった。

「遅い……何かあったのか……」

そして、日が傾き、夕闇が迫ったその時。

「ぴー」

鋭い口笛が響く。直後、瓦礫の陰からオークたちが現れ、一斉に魔物の森へと駆け出していった。

「援軍か……? だが、馬の音はしない」

その時、磔にされた人質の足元で異変が起きる。見張りのオークが無言で槍を振り上げ――

「ズブッ」

肉を貫く重い音が響き、悲鳴が上がった。

「ぐあああっ!」

他の人質も、次々と頭を垂れ、ぐったりと崩れ落ちていく。

その上で、指揮官のオークが悠然と姿を見せ、こちらを一瞥してにやりと笑った。何事もなかったかのように、森の奥へと引き上げていった。

「……一体、何が起こっているんだ!?」

「そんなことより、急げ! 助けられるうちに!」

「よし! もう一度橋を渡す!」

冒険者たちは再び前進を始めた。空はすでに暗く、夜が辺りを包み始めていた。

橋を渡った彼らは、倒れた人質のもとへ駆け寄る。

「魔物の反応、なし」

「こちらも異常なし」

暗闇の中、冒険者たちは臨戦態勢を維持しながら救助を試みる。松明と光魔法が、わずかに周囲を照らしていた。

「しっかりしろ、今助ける!」

だが――。

「どかん!」

轟音が夜を裂いた。渡ってきた橋が爆発し、崩れ落ちた。

アズーリア村に取り残された冒険者たち。水堀は深く、絶望が静かに押し寄せてくる。

「まずい……!」

我先にと水際へ走る者が現れ、次々に冷たい水へと飛び込んでいく。

「俺たちも逃げよう!」

暗闇の中、雪崩のように走り出す冒険者たち。その先頭にいたのは、あの慎重だったベテランだった。恐怖に負け、戦場からの脱出を最優先したのだ。

「ここで……名をあげようと思っていたのに――」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部
ファンタジー
 ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。  背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。  母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。  セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。  彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。  セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。 「セラ、ウミ」 「ええ、そうよ。海」 ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します! カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。

世界一簡単にレベルアップ ~魔物を倒すだけでレベルが上がる能力を得た俺は、弱小の魔物を倒しまくって異世界でハーレム作る事にしました~

きよらかなこころ
ファンタジー
 シンゴはある日、事故で死んだ。  どうやら、神の手違いで間違って死んでしまったシンゴは異世界に転生することになる。  転生する際にオマケに『魔物を倒すだけでレベルが上がる』能力を貰ったシンゴ。  弱小の魔物を倒してレベルを上げ、異世界でハーレムを作る事を企むのだった。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

処理中です...