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絶望の果て
しおりを挟む「行くぞ!」
ドノバンが敵へと斬り込み、ガンツは彼の死角を消すように盾を構えて続く。私は魔術で二人を補助し、セバスチャンはレクセルの動きを監視していた。
「馬鹿が! 狙いはドノバン一人だ、全員でかかれ!」
レノバンの兵が一斉に殺到する。
私はすかさず、ドノバンの剣とガンツの盾へ、炎と風の付与魔術を施した。
セオの剣は、うなりをあげて炎をまとい、狂ったように輝く。
「エンチャントだと、威力が落ちにくい!」
レクセルの兵は斬撃で真っ二つにされ、切り傷は燃え上がる。
殺到する兵に気を取られていたその瞬間、私の目の前にジュリアンが迫っていた。
「死ね! リリカ!」
まずい。
セバスチャンに腕を引かれ、私は騎士の剣をぎりぎりで避ける。
追撃はセバスが剣で受け、二人は激しい打ち合いを始めた。
ジュリアンは聖女のパーティをクビになったとはいえ、一流の剣士だ。
「お前ごときに遅れはとらん!」
セバスチャンも負けていない。ノクスフォード家随一の剣士である。
私が援護魔術を準備した、そのとき。セディオが近づいてきた。
「リリカ、お前の相手は俺だ!」
この場では遠距離魔術はほとんど効かない。特に、彼のように魔力量の少ない者には顕著だ。
近接での魔術戦。彼も傷を負うが、私も無傷ではいられない。
気づけば全員の監視がレクセルから外れていた。
眩い光の方向に目を細めると、アウレリクスを高々と掲げるレクセルの姿があった。
彼はただ見上げていたのではない。魔剣に魔力を込めていたのだ。
「お終いだ!」
レクセルがドノバンめがけて一直線に剣を振り下ろす。
「危ない!」
ガンツが危険に気づき、盾を掲げて飛び込んだ。
途中にいた兵士たちを光線が無慈悲に切り裂く。
恐るべき力だ。この空間では他属性の魔術と違い、減衰どころか逆に増幅されているように見える。
ガンツが魔術盾で受け止めようとしたが、その盾すら粉砕された。
砕けた破片が地面に散り、ガンツの腕は切断され、その勢いのままドノバンに直撃する。
「ぐぅうう……」
ドノバンは腹を押さえて崩れ落ち、ガンツも意識を失って倒れる。
「呆気ないものだ。次はお前たちだ!」
レクサルは再び剣を振り上げ、喜びを浮かべている。
一刻も早くドノバンたちの元へ――。
その前に立ち塞がるのは、魔術教授セディオ。
王国随一の魔術師と言われながら、聖女に重用されなかった男。
能力ではなく彼の野心が見抜かれていたことに気づかず、擦り寄って拒絶された男が、ここで道を塞ぐ。
「ははは、もう虫の息だぞ!」
「ふざけるな! 邪魔だ、どけ!」
私はセディオに触れるほど距離を詰め、全力の魔術を叩き込む。
彼は、まさか私のほうから間合いを詰めるとは思わなかったのだろう。
一瞬の躊躇――それが勝敗を決めた。所詮、学者だ。
魔術師の全身を、土の槍と炎が貫く。
「これで、永眠できるだろう」
セバスとジュリアンの戦いも決着していた。相打ちに近いが、セバスが勝ったようだ。
「セバス、大丈夫?」
「はい。ノクスフォード家の名誉にかけて、セリオ家の者に負けるわけにはいきません」
その通りだ。そして、何より父の暗殺の引き金となる聖蛇騎士団の盗難事件の容疑者。セバスは片膝をつきながらポーションを飲んでいる。
私はドノバンの元へ走った。
ポーションを取り出して、彼の口元へ。息はある。私は安心した。
「丁度良い、まとめて殺してやろう」
レクセルの剣が、うなりをあげる。もう一撃喰らえば、死から逃れられない。
「許して下さい、レクセル王子」
「は? 何を言ってる」
「私たちの負けです。降参します」
彼は、私の言葉に混乱した。少しでも時間稼ぎたい。
「ふざけるな!」
「私たちが戦う理由なんて無いわよね」
交戦的だった彼は完全に固まった。
ドノバンの傷が閉じられて、血の気が戻ってきているのを感じる。もう少しで動けるだろう。
「何をしておる。わしに、こいつらの死を捧げるので、無いのか?」
天空からフーガの怒声が聞こえた。
「は、すぐに始末いたします!」
レクセルの目つきが変わってしまった。
彼は、手に持った剣を振り下ろした。恐るべき光の魔術が、広がり飛んでくる。逃げることは不可能だ。
「リリカ様」セバスの声が聞こえる。
意識を取り戻したドノバンが私を掴む。私の前に立とうとする。
「だめ、ドノバン」 私たちは、光に飲み込まれた。
※
「起きなさい……リリカ」
耳を震わせたのは、すでにこの世を去ったはずの母の声だった。
瞼を開くと、視界に広がったのはノクスフォード公爵家の客間――
「ここは……どこなの?」
震えを帯びた声で問いかける。
「わかるでしょう。それより――大切なことを、忘れてはいない?」
「ごめんなさい……ごめんなさい。私が……母さんを……」
「違うわ、リリカ。思い出しなさい。真実を」
扉が軋み、冷たい風が吹き込んだ。
あの日、惨劇の発端となった魔物――悍ましく歪んだ影が姿を現す。
母は、ためらいも見せず私の前へと歩み出た。
込み上げる恐怖に、私の魔術は暴走する。
内側から黒い奔流が噴き上がり、制御を失った闇が渦を巻く。
まただ。――また、あの闇魔術が。
「だめ……やめて……また母さんを殺してしまう!」
叫びも祈りも届かず、闇は広がり、世界を呑み込むかのように揺らめく。
「よく見なさい、リリカ」
母の声は、不思議なほど穏やかだった。
「私が命を落としたのは、あなたのせいではない。――魔物よ。そして、あなたの魔術は人には触れない。恐れなくていいの」
母が振り返り、静かな微笑みを浮かべた。
その腹部には、かつて魔物に貫かれた傷が赤く刻まれて――
しかし、光のような何かがそれを覆い、傷跡は瞬く間に消えた。
「母さん……今、手当を――」
「いいのよ。もう癒えているわ」
魔物は呻き声もなく崩れ落ち、塵のように散った。
私はそのまま母へと身を投げ寄せる。温もりは確かにそこにあった。
「リリカ、目覚めたのだな」
深い声が室内に響く。父が入ってきた。
その眼差しは厳しくも温かく、私を一目見て、わずかに和らぐ。
「ええ。立派に育ったわね」
母が、懐かしい声音で父に言う。
「ああ、我が誇りだ」
父は短く返し、私の頭をそっと撫でた。
「……そろそろだな。セバスによろしく伝えてくれ」
「ごめんなさい、父さん……私……」
「謝ることは何もない」
父の声は揺るぎなかった。
「己を信じろ。お前は光の盾の子――その名に恥じぬ生を歩め」
母もまた、優しく告げる。
「行きなさい、リリカ。あなたがここへ来るには……まだ早すぎるわ」
両親の言葉に導かれ、私は静かに部屋を後にした。
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