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真なる聖女
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「どう、私のお母さんとお父さん?」
リリカの魂が、自慢げに問いかけてくる。
「貴女、甘やかされすぎよ!」
「そうかな?」
「そうよ!」
そのやり取りに、私もつい笑ってしまう。あの甘さを、少しだけ私も味わってしまった。
「そろそろ戻りましょう!」
「そうね」
私は深く息を吸い、意識を浮上させた。痛みがどれほど襲うのか――いや、それより大事なことがある。
「ドノバン、どこ?」
瞼を開けた瞬間、叫んでいた。
「ここだよ、リリカ様。重いよ」
お尻の下から元気な声がする。
「悪かったわね! レディに対する口の聞き方がなってない」
声に弾みが戻るのを自分でも感じた。ふうっと息を吐き、周囲を見渡す。
「……はぁ?」
ついさっきまで光り輝いていた床も壁も天井も、すべて漆黒に染まっていた。
油をぶちまけたように暗く、ぽたりぽたりと黒い雫が落ちてくる。指先で触れると、温かい。黒油ではなく――魔力の結晶だった。
「違う、これは……私の魔力」
暴走した闇魔術。それなのに、愛する者を傷つけず、守ってくれた。胸が締めつけられ、涙が滲む。
「どっこらしょっと」
セバスチャンが両腕で抱き上げてくれる。ドノバンも私の下からやっと抜け出した。
「恥ずかしいからやめてよ! それよりガンツは?」
「お嬢、安心しろ。いつでも行けるぜ!」
片腕は三角巾、もう片方は壊れた魔法盾を抱え、切断された腕はポーションで辛うじて繋がれていた。戻るといい……そう願うしかない。
「あれ? 敵は?」
「目の前にいるぞ!」
かつて光り輝いていた王子――レクセルは、私の闇魔術を受け、黒い案山子のように硬直していた。
「固まってる?」
「そうみたいだが……死んで……元々死んでるか。いや、まだ動いている」
ドノバンが言い直す。
状況は深刻なのに、なぜか笑いが込み上げた。心に妙な余裕がある。
「トドメを刺してやろう!」
ドノバンの声で空気が再び引き締まる。
私は剣に炎魔術を重ねる。刃が震え、渦巻く炎が剣技場での熱量を遥かに超えて伝わってきた。
「苦しい……助けてくれ……!」
黒い人形となったレクセルの喉から漏れる怨嗟が空気を震わせる。
「ああ、楽にしてやるよ!」
ドノバンの一閃。
王子は、一瞬で灰となり消えた。衝撃が神殿に走り、亀裂が広がっても扉は開かない。
「フーガ、出て来なさい! 緑の尻尾、丸見えよ!」
「偉そうに……この私に命令するとは。せっかく作った宮殿、お前のせいで壊れたではないか」
フーガもまた、闇に侵食されたように黒く変貌していた。
「それは残念ね」
周囲の闇の中、ぽたりと落ちる魔力の結晶が、かえって温かい光を放つ。
彼女が呼び出そうとしていた死の戦士たちは、姿を現した瞬間、闇に溶けるように消えていった。
「お前がそんな魔術を……計算外だったぞ。嘘つきめ!」
フーガは地に降り立ち、悔しさと苦しさを滲ませていた。
ドノバンが踏み込み、一撃を振り下ろす。
だが、その剣は空を切った。
「遅いわ」
フーガは床を滑るように移動し、まるで瞬間移動のように軌跡を残さない。
「ははは、ここじゃ、ここじゃ!」
「くそっ!」
彼女の魔術が展開され、ドノバンを襲う。避けきれず、暴風に巻き上げられた。
私はすぐ風魔術を発動し、彼が床に叩きつけられる前に受け止める。
着地したドノバンは体勢を整え、全員が自然と密集陣形を取る。
「ドノバン、一人で突っ込まないで。全員で対抗するわよ!」
「おう! お嬢、任せておけ!」
「わかりました、リリカ様」
ガンツが前衛、真ん中にドノバン、私が後方、セバスチャンが遊軍。
私はガンツの半壊した盾に闇魔術を込める。即座に彼女が顔をしかめる。
「待て待て、話をしに降りて来たのだ」
また時間稼ぎ? 私は彼女の動きを観察する。
「何の用?」
「考えてみれば、お前たちと戦う理由は無いだろう。王子はもういない」
「目的は王子?」
「そうだ。お前は血縁者だが……まあいい、見逃してやろう」
その足元だけ、黒く染まった床に白い光が戻りつつあった。魔力を吸い上げている――。
「話じゃなくて、魔力を回収しに来たのね?」
「ははは、めざとい娘だ。この床には私の魔力が埋めてある」
彼女は高笑いした。
「お前に理由がなくても、こっちにはある。ダンジョンの魔物を放置できるわけないだろ」
ドノバンが私へ小さく合図。私はセオの剣に闇魔術を重ねた。
フーガはそれに気づき、天井近くまで一気に浮上する。
「交渉決裂だな。ここで死ね!」
光の槍が大量に降り注ぐ。
ドノバンが剣を振り弾き返し、壁へ散った光が床を抉り、神殿に大穴を開けた。
フーガはさらに距離を取り、天井近くで嗤っていた。
「ははは、助かったよ。殺されるところだった。『決着の扉』はどちらかが死なねば開かんからな」
「逃げるな!」
「安心しろ。神殿もダンジョンもこのまま地下深くに戻る。お前たちと一緒にな。二度と魔物は出てこないぞ。よかったな?」
「ふざけるな!」
「リリカよ、気づかぬのだな。お前の闇魔術は我ら魔女のそれとは違う。それは“真の聖女”しか使えぬ力だ。こんな場所で死ぬとは、口惜しいだろう。それだけでも私は嬉しい。はははははは」
響かないはずの空間に、愉悦に満ちた笑い声が何度も反響した。
神殿は崩れ始め、私たちは必死に逃げ道を探した。
リリカの魂が、自慢げに問いかけてくる。
「貴女、甘やかされすぎよ!」
「そうかな?」
「そうよ!」
そのやり取りに、私もつい笑ってしまう。あの甘さを、少しだけ私も味わってしまった。
「そろそろ戻りましょう!」
「そうね」
私は深く息を吸い、意識を浮上させた。痛みがどれほど襲うのか――いや、それより大事なことがある。
「ドノバン、どこ?」
瞼を開けた瞬間、叫んでいた。
「ここだよ、リリカ様。重いよ」
お尻の下から元気な声がする。
「悪かったわね! レディに対する口の聞き方がなってない」
声に弾みが戻るのを自分でも感じた。ふうっと息を吐き、周囲を見渡す。
「……はぁ?」
ついさっきまで光り輝いていた床も壁も天井も、すべて漆黒に染まっていた。
油をぶちまけたように暗く、ぽたりぽたりと黒い雫が落ちてくる。指先で触れると、温かい。黒油ではなく――魔力の結晶だった。
「違う、これは……私の魔力」
暴走した闇魔術。それなのに、愛する者を傷つけず、守ってくれた。胸が締めつけられ、涙が滲む。
「どっこらしょっと」
セバスチャンが両腕で抱き上げてくれる。ドノバンも私の下からやっと抜け出した。
「恥ずかしいからやめてよ! それよりガンツは?」
「お嬢、安心しろ。いつでも行けるぜ!」
片腕は三角巾、もう片方は壊れた魔法盾を抱え、切断された腕はポーションで辛うじて繋がれていた。戻るといい……そう願うしかない。
「あれ? 敵は?」
「目の前にいるぞ!」
かつて光り輝いていた王子――レクセルは、私の闇魔術を受け、黒い案山子のように硬直していた。
「固まってる?」
「そうみたいだが……死んで……元々死んでるか。いや、まだ動いている」
ドノバンが言い直す。
状況は深刻なのに、なぜか笑いが込み上げた。心に妙な余裕がある。
「トドメを刺してやろう!」
ドノバンの声で空気が再び引き締まる。
私は剣に炎魔術を重ねる。刃が震え、渦巻く炎が剣技場での熱量を遥かに超えて伝わってきた。
「苦しい……助けてくれ……!」
黒い人形となったレクセルの喉から漏れる怨嗟が空気を震わせる。
「ああ、楽にしてやるよ!」
ドノバンの一閃。
王子は、一瞬で灰となり消えた。衝撃が神殿に走り、亀裂が広がっても扉は開かない。
「フーガ、出て来なさい! 緑の尻尾、丸見えよ!」
「偉そうに……この私に命令するとは。せっかく作った宮殿、お前のせいで壊れたではないか」
フーガもまた、闇に侵食されたように黒く変貌していた。
「それは残念ね」
周囲の闇の中、ぽたりと落ちる魔力の結晶が、かえって温かい光を放つ。
彼女が呼び出そうとしていた死の戦士たちは、姿を現した瞬間、闇に溶けるように消えていった。
「お前がそんな魔術を……計算外だったぞ。嘘つきめ!」
フーガは地に降り立ち、悔しさと苦しさを滲ませていた。
ドノバンが踏み込み、一撃を振り下ろす。
だが、その剣は空を切った。
「遅いわ」
フーガは床を滑るように移動し、まるで瞬間移動のように軌跡を残さない。
「ははは、ここじゃ、ここじゃ!」
「くそっ!」
彼女の魔術が展開され、ドノバンを襲う。避けきれず、暴風に巻き上げられた。
私はすぐ風魔術を発動し、彼が床に叩きつけられる前に受け止める。
着地したドノバンは体勢を整え、全員が自然と密集陣形を取る。
「ドノバン、一人で突っ込まないで。全員で対抗するわよ!」
「おう! お嬢、任せておけ!」
「わかりました、リリカ様」
ガンツが前衛、真ん中にドノバン、私が後方、セバスチャンが遊軍。
私はガンツの半壊した盾に闇魔術を込める。即座に彼女が顔をしかめる。
「待て待て、話をしに降りて来たのだ」
また時間稼ぎ? 私は彼女の動きを観察する。
「何の用?」
「考えてみれば、お前たちと戦う理由は無いだろう。王子はもういない」
「目的は王子?」
「そうだ。お前は血縁者だが……まあいい、見逃してやろう」
その足元だけ、黒く染まった床に白い光が戻りつつあった。魔力を吸い上げている――。
「話じゃなくて、魔力を回収しに来たのね?」
「ははは、めざとい娘だ。この床には私の魔力が埋めてある」
彼女は高笑いした。
「お前に理由がなくても、こっちにはある。ダンジョンの魔物を放置できるわけないだろ」
ドノバンが私へ小さく合図。私はセオの剣に闇魔術を重ねた。
フーガはそれに気づき、天井近くまで一気に浮上する。
「交渉決裂だな。ここで死ね!」
光の槍が大量に降り注ぐ。
ドノバンが剣を振り弾き返し、壁へ散った光が床を抉り、神殿に大穴を開けた。
フーガはさらに距離を取り、天井近くで嗤っていた。
「ははは、助かったよ。殺されるところだった。『決着の扉』はどちらかが死なねば開かんからな」
「逃げるな!」
「安心しろ。神殿もダンジョンもこのまま地下深くに戻る。お前たちと一緒にな。二度と魔物は出てこないぞ。よかったな?」
「ふざけるな!」
「リリカよ、気づかぬのだな。お前の闇魔術は我ら魔女のそれとは違う。それは“真の聖女”しか使えぬ力だ。こんな場所で死ぬとは、口惜しいだろう。それだけでも私は嬉しい。はははははは」
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