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蠱惑の魔剣
寄付という名の信仰
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共和国都パリスの外れ ノクティルの森に魔物が出て困っている。
聖王国へと陳情が上がってきた。
全ての陳情は、ルカ大司教の元に集まってくる。ネフェル聖女への謁見等は基本全て却下され、祭典への出席は政治的な考慮で判断される。
ただし、魔物や土地の汚染などは、ネフェルに必ず確認することになっている。
「どう致しましょうか?」
「詳細を教えてくれない? 食事をしながら聞くわ」
聖王国都を見下ろす小高い丘のルカ私邸は、ネフェルの別邸でもある。
ネフェルは、リコの作るシシルナ島風の朝食を、アマリやノルドたちと楽しんでいる。
「ノルドの収納倉庫から出された魚は新鮮だものね」
「私の調理と魚の目利きのおかげですよ!」
リコは、少し不機嫌だ。
「ごめんごめん。それが一番だね」
ノクティルの森の話を、資料を元に、ルカが自ら読み上げた。
開拓は、原因不明の惑乱によって頓挫した。
続いて討伐のため冒険者ギルドに正式な依頼が出されたが、それすら失敗している。
森の奥には、かなり高位の冒険者までもが足を踏み入れたという――それでも、だ。
「魔人が住んでいて、邪魔をしてくるのではないか?」
その話を聞いて、ネフェルが尋ねた。
「それで、共和国民に被害は出ているのかしら?」
ルカが、資料をめくる。
「いえ、特には……」
「ふうん、じゃあ却下ね。私は冒険者じゃないのよ」
「もちろんでございます。ですが、依頼主の共和国モルディス男爵は、聖王国へ多額の寄付をしている者でして」
ルカは、ネフェルの機嫌を損ねないように、事情を説明した。
「その男爵は、私が依頼を受けないと寄付をしないような男なの?」
「いえ……そのような者では無いと……却下いたします」
「良かったわ。そうだ。私の代わりにアマリを派遣しましょう」
「えー。姉ちゃん……」
「ノルドも一緒だったら?」
「それなら行くわ。ね、ノルド!」
※
ヴァルの牽く客車に、ノルド、リコ、アマリが乗って共和国へと向かった。海沿いを走る楽しい旅だった。
「お待ちしておました」
ノクティルの森で出迎えたのは、モルディス男爵だ。
「ネフェル聖女はどちらに?」
「姉ちゃん、忙しいみたい」
「そうでしたか、それは仕方ありませんね」
アマリが答えると、男爵は苛立って答えているのがわかった。
その後、彼が部下と小声で話をしているのが、ノルドの耳に入った。
「多額の寄付もしてるのに。私も見下されたもんだ。だが、聖女の妹だ、利用価値はある」
ノクティルの森は、夕刻になり暗くなっていた。
「本日は歓迎会をして、明日早朝から」
男爵の誘いをアマリは断った。
「いえ、夜に惑わすと聞いています。疲れていませんしこのまま森に入ります。それと同行はお断りします」
「ですが、何かあったら?」
「お断りです。何かあったら姉が来ますよ!」
アマリが珍しく厳しい口調で言った。
「ワオーン!」ヴァルが、大きな遠吠えをする。
「……立派な従魔がおられますね。それではでお待ちしております。帰ろう」
男爵は、パリスに帰って行った。
「ヴァル、邪魔な奴らを排除して!」
「ワオーン!」
森に入ると、後をつけてくる男爵の兵を気絶させた。兵達には、奴隷紋があった。兵というよりも、盗賊、暗殺者のジョブ持ちらしい動きだ。
だが、ヴァルの敵ではない。
「さて、奥に向かいましょう!」
アマリの周りには、既に精霊の子達が森を照らし、小さな魔物を蹴散らしていた。
「仕事がないんだけど……」リコはつまらなそうだ。
「小物の相手は、あの子達にさせとけばいいのよ」ビュアンがノルドの肩に乗って呟いた。
「それより、今頃になって思い出したんだけど。この匂いって?」
ノルドが、リコとヴァルに聞いた。
「あー。フィオナとブランナだ」
「ワ、ワオーン!」
「会いに行こう、ヴァル!」
※
ブランナとフィオナと再会を果たすと、事情を聞いた。
「だってここは私たちの土地だもの」
「勝手に開拓なんてさせないわ」
「幻影魔術で帰らせてただけなんだけど、しつこくて」
彼女達も困っていたらしい。修道院の仕事もあるのだ。
「どうしようかな」
「じゃあ、聖王国にこの土地を寄付させましょう!」
「はぁ……」
アマリが、ネフェル化している。
夜遅く、ノルド達は、パリスにあるモルディス男爵の屋敷を尋ねた。
「どちら様でしょうか?」 男爵の屋敷には、奴隷らしき者達が多く働いていた。
「アマリです」
「お早いお戻りで。ご無事でしたか。連絡が無いので軍隊を派遣するところでした」
出迎えた男爵は、ノルド達の様子をジロジロと眺めた。
「男爵の兵が寝てたので連れてきました。安心してください」
「チッ」
「そうだ、姉さん、そろそろ着きますよ」
天空から、月を背景に大きな翼の魔獣が降りてきた。神獣ドラゴンだ。
「モルディスだっけ? 私に会いたいの⁇」
「え、ええ、ええええ」
男爵は、尻餅をついた。
「起こしてあげるわ」 聖女ネフェルは、ドラゴンから飛び降りると、彼の手を取った。
「いや、いやいや」
「遠慮しなくていいのよ。奴隷商人のモンクって言うのね? 寄付には感謝してるわ」
「は、はい」
「アマリ、森はどうだった?」
「あの森は、魔人の森。聖王国で管理するべきです。姉さん」
「そう、モンク。寄付してもらえるかしら? そうして欲しいんだけど?」
ずっと、ネフェルの手から祝福の光が、彼を包んでいる。
「もう、許して、許してください」
「許すも何も、感謝してるって。あなた達は書類が大好きよね。作ってくれる?」
「も、もろちんです。ですから手を」
「女の子の手を離したいって、モテないわよ」
※
パリス一の屋敷。ブロイ侯爵邸。
「やはり、恐ろしいお方だった」
モルディス男爵は、ブロイ伯爵に報告をしていた。
「お前なぁ、男爵にしてやった恩を忘れて。俺に売るという話だったろ?」
「そうなんですが……聖女様が……」
「そして、俺がガブリエルに頼まれて、聖王国なり、魔人なりに寄付する物語だったのに?」
「いやぁ、聖女様には……それと、ブロイ様もそんなに固執するなら無理やりにでも」
モンクはそう言いながら、どこか嬉しそうだった。
大陸で唯一、彼が恐れる相手。最悪のジョブですら救済する聖なる者。
その尊敬する存在に、名を覚えられ、個人的に祝福を受けた。
いつも「政治的な寄付だ」と言い訳をしながら、見返りも求めず多額の金を差し出していた。今の表情は、救われる側であることを疑わない、信者の顔だった。
「五月蝿い! ガブリエルに嫌われたらどうしてくれる?」
その時、部屋に彼女の孫娘 リリナンヌが入ってきた。
「ガブリエル様のご友人達がパリスに来ています。この屋敷にご招待をしたいの。お祖父様よろしい?」
「ああ、もちろんだ。最高級のもてなしをしよう!」
大陸一の老練政治家が、微笑んだ。
聖王国へと陳情が上がってきた。
全ての陳情は、ルカ大司教の元に集まってくる。ネフェル聖女への謁見等は基本全て却下され、祭典への出席は政治的な考慮で判断される。
ただし、魔物や土地の汚染などは、ネフェルに必ず確認することになっている。
「どう致しましょうか?」
「詳細を教えてくれない? 食事をしながら聞くわ」
聖王国都を見下ろす小高い丘のルカ私邸は、ネフェルの別邸でもある。
ネフェルは、リコの作るシシルナ島風の朝食を、アマリやノルドたちと楽しんでいる。
「ノルドの収納倉庫から出された魚は新鮮だものね」
「私の調理と魚の目利きのおかげですよ!」
リコは、少し不機嫌だ。
「ごめんごめん。それが一番だね」
ノクティルの森の話を、資料を元に、ルカが自ら読み上げた。
開拓は、原因不明の惑乱によって頓挫した。
続いて討伐のため冒険者ギルドに正式な依頼が出されたが、それすら失敗している。
森の奥には、かなり高位の冒険者までもが足を踏み入れたという――それでも、だ。
「魔人が住んでいて、邪魔をしてくるのではないか?」
その話を聞いて、ネフェルが尋ねた。
「それで、共和国民に被害は出ているのかしら?」
ルカが、資料をめくる。
「いえ、特には……」
「ふうん、じゃあ却下ね。私は冒険者じゃないのよ」
「もちろんでございます。ですが、依頼主の共和国モルディス男爵は、聖王国へ多額の寄付をしている者でして」
ルカは、ネフェルの機嫌を損ねないように、事情を説明した。
「その男爵は、私が依頼を受けないと寄付をしないような男なの?」
「いえ……そのような者では無いと……却下いたします」
「良かったわ。そうだ。私の代わりにアマリを派遣しましょう」
「えー。姉ちゃん……」
「ノルドも一緒だったら?」
「それなら行くわ。ね、ノルド!」
※
ヴァルの牽く客車に、ノルド、リコ、アマリが乗って共和国へと向かった。海沿いを走る楽しい旅だった。
「お待ちしておました」
ノクティルの森で出迎えたのは、モルディス男爵だ。
「ネフェル聖女はどちらに?」
「姉ちゃん、忙しいみたい」
「そうでしたか、それは仕方ありませんね」
アマリが答えると、男爵は苛立って答えているのがわかった。
その後、彼が部下と小声で話をしているのが、ノルドの耳に入った。
「多額の寄付もしてるのに。私も見下されたもんだ。だが、聖女の妹だ、利用価値はある」
ノクティルの森は、夕刻になり暗くなっていた。
「本日は歓迎会をして、明日早朝から」
男爵の誘いをアマリは断った。
「いえ、夜に惑わすと聞いています。疲れていませんしこのまま森に入ります。それと同行はお断りします」
「ですが、何かあったら?」
「お断りです。何かあったら姉が来ますよ!」
アマリが珍しく厳しい口調で言った。
「ワオーン!」ヴァルが、大きな遠吠えをする。
「……立派な従魔がおられますね。それではでお待ちしております。帰ろう」
男爵は、パリスに帰って行った。
「ヴァル、邪魔な奴らを排除して!」
「ワオーン!」
森に入ると、後をつけてくる男爵の兵を気絶させた。兵達には、奴隷紋があった。兵というよりも、盗賊、暗殺者のジョブ持ちらしい動きだ。
だが、ヴァルの敵ではない。
「さて、奥に向かいましょう!」
アマリの周りには、既に精霊の子達が森を照らし、小さな魔物を蹴散らしていた。
「仕事がないんだけど……」リコはつまらなそうだ。
「小物の相手は、あの子達にさせとけばいいのよ」ビュアンがノルドの肩に乗って呟いた。
「それより、今頃になって思い出したんだけど。この匂いって?」
ノルドが、リコとヴァルに聞いた。
「あー。フィオナとブランナだ」
「ワ、ワオーン!」
「会いに行こう、ヴァル!」
※
ブランナとフィオナと再会を果たすと、事情を聞いた。
「だってここは私たちの土地だもの」
「勝手に開拓なんてさせないわ」
「幻影魔術で帰らせてただけなんだけど、しつこくて」
彼女達も困っていたらしい。修道院の仕事もあるのだ。
「どうしようかな」
「じゃあ、聖王国にこの土地を寄付させましょう!」
「はぁ……」
アマリが、ネフェル化している。
夜遅く、ノルド達は、パリスにあるモルディス男爵の屋敷を尋ねた。
「どちら様でしょうか?」 男爵の屋敷には、奴隷らしき者達が多く働いていた。
「アマリです」
「お早いお戻りで。ご無事でしたか。連絡が無いので軍隊を派遣するところでした」
出迎えた男爵は、ノルド達の様子をジロジロと眺めた。
「男爵の兵が寝てたので連れてきました。安心してください」
「チッ」
「そうだ、姉さん、そろそろ着きますよ」
天空から、月を背景に大きな翼の魔獣が降りてきた。神獣ドラゴンだ。
「モルディスだっけ? 私に会いたいの⁇」
「え、ええ、ええええ」
男爵は、尻餅をついた。
「起こしてあげるわ」 聖女ネフェルは、ドラゴンから飛び降りると、彼の手を取った。
「いや、いやいや」
「遠慮しなくていいのよ。奴隷商人のモンクって言うのね? 寄付には感謝してるわ」
「は、はい」
「アマリ、森はどうだった?」
「あの森は、魔人の森。聖王国で管理するべきです。姉さん」
「そう、モンク。寄付してもらえるかしら? そうして欲しいんだけど?」
ずっと、ネフェルの手から祝福の光が、彼を包んでいる。
「もう、許して、許してください」
「許すも何も、感謝してるって。あなた達は書類が大好きよね。作ってくれる?」
「も、もろちんです。ですから手を」
「女の子の手を離したいって、モテないわよ」
※
パリス一の屋敷。ブロイ侯爵邸。
「やはり、恐ろしいお方だった」
モルディス男爵は、ブロイ伯爵に報告をしていた。
「お前なぁ、男爵にしてやった恩を忘れて。俺に売るという話だったろ?」
「そうなんですが……聖女様が……」
「そして、俺がガブリエルに頼まれて、聖王国なり、魔人なりに寄付する物語だったのに?」
「いやぁ、聖女様には……それと、ブロイ様もそんなに固執するなら無理やりにでも」
モンクはそう言いながら、どこか嬉しそうだった。
大陸で唯一、彼が恐れる相手。最悪のジョブですら救済する聖なる者。
その尊敬する存在に、名を覚えられ、個人的に祝福を受けた。
いつも「政治的な寄付だ」と言い訳をしながら、見返りも求めず多額の金を差し出していた。今の表情は、救われる側であることを疑わない、信者の顔だった。
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