シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部

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二部

別れの言葉

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 チャリティが終わり、簡単な打ち上げが行われた。それは、ニコラ・ヴァレンシア孤児院の卒業生たちにとって、小さな同窓会でもあった。

 島主のガレア、進行役を務めたメグミには、惜しみない賞賛と、少し皮肉交じりの激励が贈られた。
「この島を、これからも守れよ! 孤児院もな!」
「良いイベントだった。……あんたたちにしては上出来だ。」笑い声もあった。
 けれど、誰もが心の奥で、言葉にできない想いを抱えていた。

――ニコラのことだ。
 病に伏した彼女には、誰も面会を許されなかった。今回、約束を破って島に戻ってきたことに、後ろめたさを覚えている者も多かった。

 彼らにとって、ニコラはただの育ての親ではない。厳しく、優しく、泣きながら、怒りながら――
たった一人で、何十人もの子どもたちを、大人になるまで育て上げた、かけがえのない母だった。


……今も忘れない。
島を離れる朝、港で、ニコラは一人ひとりを、両腕でぎゅっと抱きしめた。

「絶対に、負けるな」と、耳元で囁いた。
泣くのを我慢していた彼らの背中を、無言で何度も何度も叩いた。

 笑って見送るはずだったのに、最後、ニコラの目からはどうしても涙が溢れた。
「戻ってこなくていい。――胸を張れる大人になって、どこかで生きろ」それが、ニコラの最後の言葉だった。振り返るなと教えられた。

 でも、誰もが、振り返らずにはいられなかった。
港に小さくなるニコラの姿は、ずっと、心の奥に焼き付いている。


 ガレアが立ち上がり、終了の挨拶をしようとしたときだった。会場の扉が静かに開き、リコが車椅子を押して現れた。

――その上にいたのは、ニコラだった。
一瞬で、会場の空気が凍りついた。
 そこにいたのは、あの日、笑って送り出してくれた、あの誇り高い母の姿ではない。
痩せ細り、土色の顔に浮かぶ骨ばった頬。
抜け落ちた髪。
 くぼんだ目だけが、それでも変わらぬ強い光を宿して、彼らを見つめていた。
 誰もが立ち尽くし、ただその姿を、呆然と見つめるしかなかった。

 小さな、小さな声が、会場の沈黙を破った。
「――お前たち、何で帰ってきた?」
絞り出すようなその声に、誰も答えることができなかった。

「……一流になったか? ……それが、お前たちの……全力か?」問いかけは、叱責でも責めでもない。

 ただ、あの朝、港で背中を叩いてくれたときと同じ、底知れぬ愛情と誇りに満ちた声だった。
 ニコラは、震える手で必死に笑顔を作った。
 かつて、何度もそうして、幼かった彼らを励まし、導いてきた、あの笑顔で。

「……会いたかったよ。嬉しかった」

 胸の奥で、何かが静かに、音を立てて崩れた。誰かが、小さくすすり泣く声を漏らした。唇を噛み締め、拳を握りしめる者もいた。

 それでも、誰一人として、声を上げて泣くことはできなかった。

 ニコラは、小さく頷き、震える声で、最後の言葉を贈った。
「助け合って……生きていけ。……私の、大切な、息子たち、娘たち」

 その声は、まるで祝福のようにあたたかく、

 けれど、取り返しのつかない別れの響きを帯びていた。

 やがて、会場には、誰のものとも知れない涙の音だけが、静かに響き渡った。


 そして、夏祭りは、二日目最終日を迎えた。

 二日目は、一日目以上の良い天気に恵まれた。ヴァレンシア孤児院のかき氷は、大人気となり、飛ぶように売れていた。

 そして、夕刻になる。全ての屋台は片付けられる。あとは、聖女様の登場を待つだけだ。広場には、島民も来島者も集まって来ている。

「ノルド、お願いがあるの?」

「どうしたの?」セラに頼まれて、ヴァルとカノンを探していたノルドのところに、メイド姿のリコがやって来た。

「どうしたの?」

「かき氷用の、特製シロップを一つ用意して欲しいの。ばぁばに食べさせたくて。夏祭りの気分を味わって欲しいの。もう少ししたら来るの」

「わかった。それで氷は?」

「今から、港の倉庫に撮りに行く。出来てると良いんだけど。売れすぎちゃって……」リコは表情を暗くした。

「それなら私が作ってあげるわ」すっと現れたのは、妖精ビュアンだ。

「ビュアン、氷できるようになったんだ! 凄い! じゃあ、僕はシロップを作るよ。材料は、持ち歩いてるからね!」

「ありがとうございます。ビュアン様! 妖精様の氷なんて、ばぁばも喜ぶよ」

「ふふん、任せなさい。犬っころ」

リコは頭を下げ、ビュアンは胸を張った。

 広場の隅の高台に、ニコラ用のテントが設営されている。そこで、かき氷を作ることになった。
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