101 / 238
二部
讃美歌と聖女の話
しおりを挟む観客たちは次々と立ち上がり、視線を舞台に向ける。
アマリが、両手を天に差し伸べる。そして、唇を開いた。
それは、島に古くから伝わる祈りの唄。
最初はかすかだったその声が、子供たち、リコ、ノルドの声と重なっていき、やがて広場全体に広がる。
空には星が瞬いていた。その中に、ひとつだけ不規則に動く光がある。精霊の子供――舞い降りた小さな光が、アマリの頭上を円を描いて回る。それに気づいた観客が、ざわめきをあげる。
「おい、あれは虫じゃないぞ! 何なんだ、あの光は?」
「あれは精霊の子だよ。エルフツリーで見かけるやつだ」
冒険者の一人が、周囲に向けてささやく。
唄が進むにつれ、精霊たちの数が増えていく。まるで、かつて妖精王の神殿で見た光景の再来。しかし今回は、それを凌駕する光の波が天を覆い尽くす。
「尋常な数じゃない……。この島中の精霊が、集まっているのか?」
観客たちは見上げる。無数の妖精たちが、唄に呼応して天を舞い、その羽の輝きが星空に重なって、広場全体を祝福の光で包んでいた。
二番が終わっても、唄は止まらない。
旅立つ君よ、風を受けて
遥かな空へ羽ばたけよ
永遠に宿る 母のまなざし
君の帰りを 島で待とう
それは、前日のチャリティでも披露された歌詞。リコが、子供たちと共に考えた。
この島が母であるならば、彼らの歌は、旅立つすべての子への祈りだ。
風の島よ、精霊の島よ
永遠に揺るがぬ 母の地よ
君が歩んだ 遠き日々にも
変わらぬ祈り ここにある
母の祈りは、時を越え、風に乗り、いつか君を包む――。
歌が終わったその瞬間。
夜空を埋め尽くしていた光が、まるで拍手の代わりを務めるように、一斉に消えた。
アマリたちは深々と礼をし、舞台から降りる。
すると次の瞬間、静寂を破るようにして、絶え間ない拍手が広場にこだました。
「ああ、緊張した……」
舞台袖で、アマリがしゃがみ込む。立っているのもやっとの様子だ。
そこに、ネフェルが近づき、力強く抱きしめた。
「よくやったわね! 自慢の妹よ!」
「はい……姐さんに恥をかかせないように、頑張りました」
「ありがとう。じゃあ、お姉ちゃんの凄いところ――観ててね」
いつも飄々としているネフェルが、今回は違った。目に灯るのは、真剣な光。声も低く、凛としている。
「あ、いけない、いけない。忘れ物」
ふっといつもの調子に戻り、ネフェルは傍らの袋を手に取ると、軽やかに舞台へ上がっていった。
※
聖女の登場を待っていた観客から、大歓声があがる。
舞台慣れ、いや天性の落ち着きを持つ彼女は、観客席に目をやる。
「見つけた!」セイとグラシアスの間にいる女性を。
ネフェルは、観客に語り始めた。
「今晩は。お招き頂きありがとう。私は、ネフェル。ところで、さっきの讃美歌はどうだった?」
観客は、遠慮しながらも声を出す。
「最高だった!」
「素晴らしかった!」
「一生の思い出だ!」
ネフェルは聞こえてくる声に、いちいち頷きながらも、満足げだ。
「そう。良かったわ。それじゃあ、これからも歌い継いで行ってね。それと、今回私のシシルナ島訪問に、同行してくれた随行員を紹介するわ」
彼女が手招きして、随行員が全員舞台に上がった。実は、政治的な配慮で予め決まっていたことだ。
「せっかくだし、一人ずつ挨拶をしてもらうわ。そうね、この島の良いところも一言お願いね」ネフェルは、悪戯が成功した子供のように笑った。
年長者から名前と所属、それとシシルナ島のことについて一人づつ話していく。元々、優秀で場慣れしている者達だ。グラシナスの考えた島内旅行のおかげもあり、詰まることもなく、堂々と挨拶をこなしていく。
最後、最年少のガブリエルの番になった。
「共和国からまいりましたガブリエルです。この島についての感想ですが……」
カノンは、最前席。セラの横で、彼の顔を間近で見ている。両手で祈るように。ガブリエルの顔が、カノンに向いた。
「この島は、母なる島です。いつかまた、必ず、立派になって戻ってきます。それまでみなさんもお元気で」深く礼をした。ガブリエルは涙を流していた。
「今回の随行にあたり、私よりシシルナ島で作ったクロスを皆さんに贈呈します」
そして、一人ずつ。ネフェルが、随行員の首にかけていく。高級な装飾が施されたクロスである。それは、元々グラシアスが手配していたものだ。
最後に、ガブリエル。彼にだけは、形が歪な、宝石の代わりに、シシルナ島の天然の鉱石が散りばめられていたクロスだった。
「大切にするように、取り扱うように」ネフェルが告げる。
「はい、一生大切に致します」
それは、カノンの手作りのクロス。マルカスとセラに教えられて、ノルドの秘密基地に籠り一生懸命作ったものだった。
「この渡し方が一番だからね。誰にも文句は言えないわ。だって、聖女様の手から授けられてものだもんね」セラが、カノンに言った。
カノンの涙は止まることが無かった。
3
あなたにおすすめの小説
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【 完 結 】スキル無しで婚約破棄されたけれど、実は特殊スキル持ちですから!
しずもり
ファンタジー
この国オーガスタの国民は6歳になると女神様からスキルを授かる。
けれど、第一王子レオンハルト殿下の婚約者であるマリエッタ・ルーデンブルグ公爵令嬢は『スキル無し』判定を受けたと言われ、第一王子の婚約者という妬みや僻みもあり嘲笑されている。
そしてある理由で第一王子から蔑ろにされている事も令嬢たちから見下される原因にもなっていた。
そして王家主催の夜会で事は起こった。
第一王子が『スキル無し』を理由に婚約破棄を婚約者に言い渡したのだ。
そして彼は8歳の頃に出会い、学園で再会したという初恋の人ルナティアと婚約するのだと宣言した。
しかし『スキル無し』の筈のマリエッタは本当はスキル持ちであり、実は彼女のスキルは、、、、。
全12話
ご都合主義のゆるゆる設定です。
言葉遣いや言葉は現代風の部分もあります。
登場人物へのざまぁはほぼ無いです。
魔法、スキルの内容については独自設定になっています。
誤字脱字、言葉間違いなどあると思います。見つかり次第、修正していますがご容赦下さいませ。
モフモフテイマーの、知識チート冒険記 高難易度依頼だって、知識とモフモフモンスターでクリアします!
あけちともあき
ファンタジー
無能テイマーとしてSランクパーティをクビになったオース。
モフモフテイマーという、モフモフモンスター専門のテイマーであった彼は、すぐに最強モンスター『マーナガルム』をテイムするが……。
実はオースこそが、Sランクパーティを支える最強メンバーだったのだ。
あらゆるモンスターへの深い知識。
様々なクラスを持つことによる、並外れた器用さ。
自由になったオースは、知識の力で最高の冒険者へと成り上がっていく。
降って湧いた凶悪な依頼の数々。
オースはこれを次々に解決する。
誰もがオースを最高の冒険者だと認めるようになっていく。
さらに、新たなモフモフモンスターが現れて、仲間も増えて……。
やがて、世界を巻き込む陰謀にオースは関わっていくのだ。
「平民が聖女になれただけでも感謝しろ」とやりがい搾取されたのでやめることにします。
木山楽斗
恋愛
平民であるフェルーナは、類稀なる魔法使いとしての才を持っており、聖女に就任することになった。
しかしそんな彼女に待っていたのは、冷遇の日々だった。平民が聖女になることを許せない者達によって、彼女は虐げられていたのだ。
さらにフェルーナには、本来聖女が受け取るはずの報酬がほとんど与えられていなかった。
聖女としての忙しさと責任に見合わないような給与には、流石のフェルーナも抗議せざるを得なかった。
しかし抗議に対しては、「平民が聖女になれただけでも感謝しろ」といった心無い言葉が返ってくるだけだった。
それを受けて、フェルーナは聖女をやめることにした。元々歓迎されていなかった彼女を止める者はおらず、それは受け入れられたのだった。
だがその後、王国は大きく傾くことになった。
フェルーナが優秀な聖女であったため、その代わりが務まる者はいなかったのだ。
さらにはフェルーナへの仕打ちも流出して、結果として多くの国民から反感を招く状況になっていた。
これを重く見た王族達は、フェルーナに再び聖女に就任するように頼み込んだ。
しかしフェルーナは、それを受け入れなかった。これまでひどい仕打ちをしてきた者達を助ける気には、ならなかったのである。
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
転生したら鎧だった〜リビングアーマーになったけど弱すぎるので、ダンジョンをさまよってパーツを集め最強を目指します
三門鉄狼
ファンタジー
目覚めると、リビングアーマーだった。
身体は鎧、中身はなし。しかもレベルは1で超弱い。
そんな状態でダンジョンに迷い込んでしまったから、なんとか生き残らないと!
これは、いつか英雄になるかもしれない、さまよう鎧の冒険譚。
※小説家になろう、カクヨム、待ラノ、ノベルアップ+、NOVEL DAYS、ラノベストリート、アルファポリス、ノベリズムで掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる