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外伝
アマリの冒険者修行
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「こんにちは」
ネフェルが去り、夏の暑さが和らぐ頃、アマリはノルドの元を訪れるようになった。二人で森を探索するのが日課となり、リコも孤児院の仕事が休みの日は必ず同行する。
ヴァルは先導役を務め、魔物の気配を慎重に探りながら進んでいく。ノルドは、罠にかかった魔兎を見つけ、すぐに押さえつけた。そして、アマリにトドメを刺させる。
アマリは少し躊躇いながらも、静かにその役目を果たした。鋭い一刺しを放つと、魔兎は静かに命を落とす。ノルドが素早く下拵えに取りかかり、血抜きと解体の作業に入った。
その横で、アマリも手を汚しながら作業を手伝う。彼女の小さな手が血に染まり、服もすぐに汚れていった。冒険用に準備されたその服は、まだ少し大きく、血のシミが痛々しく映る。
「ねえ、アマリ。血抜きは僕がやろうか?」
「いいえ、ノルド。私、やりたいの。お姉ちゃんは、一人で何でもできたから」
アマリの目が遠くを見つめる。彼女の心に焼きついているのは、ネフェルの姿だ。ネフェルは、森に住む魔物や動物を次々と倒し、巧みに料理を作り出していた。その力強さが、アマリにとっては目指すべき姿だった。
すでに冒険者として実力を発揮しているノルドもまた、アマリにとっては目指すべき身近な存在だ。
「私は、料理人になりたいな」リコがはっきりと言った。
「私は……お姉さんみたいになりたいの」アマリが小さな声で答える。
「じゃあ、聖女様になるの?」と、ノルドが笑う。
「ううん。お姉ちゃんみたいに、強くて優しい人に」
その時、前方のヴァルが急に立ち止まり、低く吠えた。魔物の気配を察知したらしい。
「アマリ、準備して!」
ノルドの声に、アマリは力強く頷き、教わった投げダーツを手に取って駆け出す。木の上に潜んでいる魔蛇の姿を確認し、その動きを追う。
「どこにいるか、わかる?」
「ええ、あそこね」
ノルドですら見逃しそうな魔蛇。周囲に溶け込むような色合いで、じっとしていても目を凝らさない限り姿を捉えることが難しい。
しかし、アマリにはその魔蛇の動きがはっきりと見えていた。精霊の子たちが、ふわふわとその周りを飛び交っていたからだ。
「まったく、精霊を何だと思ってるのよ! 酷い使い方ね!」と、ビュアンが現れ、目を光らせながら叫んだ。
「いえ、私は……別に、そんなお願いは……」アマリは思わず肩をすくめ、下を向いた。
「ビュアン、アマリが困ってるから、精霊たちが助けてくれてるんだよ」ノルドが微笑んで言う。
「まあ、私のノルドに付き纏わないだけ、あいつらも弁えてるってことよ。でも、あんたの匂いは確かに惹きつけるものがあるわね」
アマリの周りには、森に入ってからずっと精霊たちが付き従っていた。それは、彼女の無意識の力を引き出すように導いていたのだ。
アマリは再び息を整え、ダーツを構える。だが、力が足りず、ダーツは目標を外れて地面に落ちるかと思われた——が、その瞬間、風がひと吹き吹き抜け、ダーツは魔蛇の体に向かってまるで誘導されたかのように突き刺さった。
「そんな……当たった……?」アマリは驚き、目を大きく見開く。
風の精霊が手助けをしたのだ。
「わぁい、倒せた!」アマリが嬉しそうに駆け寄る。
「待って。トドメを刺すときが、一番危険だからね。気をつけて」
ノルドの警告と同時に、魔蛇の体がビクリと動く。生きていたのだ。死んだふりをして、アマリを油断させようとしていた。
その瞬間、魔蛇が飛びかかろうと身をよじる——だが、次の瞬間、魔蛇の頭部に小さな火花が灯り、すぐに水が滴って火を消す。その直後、魔蛇はぐったりと力を失い、完全に動かなくなった。
火と水の精霊たちが、同時にその力を発揮したのだ。
「やあっ!」アマリはナイフをしっかりと握り、恐怖を振り払うように、魔蛇の息の根を確実に止めた。
「……何なの、その倒し方」木の上で魔蛇との戦いを終えたリコが、呆れたような顔で見つめていた。
「そういえば、帰りには、家に寄ってって、母さんが言ってたよ」
リコがにっこりと笑って言った。それは、アマリが帰って何をもらうか分かっているからだ。
※
「ただいま」
家に着くと、セラとアマリのメイドたちが、お茶をしながら待っていた。
「お帰りなさい。早かったわね」
「うん、予定より早く回れてしまって」
ノルドが答えると、セラは少し安心したような表情を浮かべた。
その日も、森の奥に入ると、アマリの護衛としてグリフォンが同行してきた。ネフェルが使役するそのグリフォンは、静かにアマリの周囲を見守っていた。
魔物を捕まえ、弱らせてからアマリの前に次々と差し出す。アマリは躊躇うことなくトドメを刺す。その様子を見て、リコがまたつぶやいた。
「その倒し方……」
「パワーレベリングってやつだよ。貴族の子息が経験を積むために使う方法、って本で読んだんだ」
「私、貴族じゃないもん」
アマリは少し不満げに、でもどこか照れたように言った。
「ワオーン」ヴァルが、食事の催促をした。
ネフェルが去り、夏の暑さが和らぐ頃、アマリはノルドの元を訪れるようになった。二人で森を探索するのが日課となり、リコも孤児院の仕事が休みの日は必ず同行する。
ヴァルは先導役を務め、魔物の気配を慎重に探りながら進んでいく。ノルドは、罠にかかった魔兎を見つけ、すぐに押さえつけた。そして、アマリにトドメを刺させる。
アマリは少し躊躇いながらも、静かにその役目を果たした。鋭い一刺しを放つと、魔兎は静かに命を落とす。ノルドが素早く下拵えに取りかかり、血抜きと解体の作業に入った。
その横で、アマリも手を汚しながら作業を手伝う。彼女の小さな手が血に染まり、服もすぐに汚れていった。冒険用に準備されたその服は、まだ少し大きく、血のシミが痛々しく映る。
「ねえ、アマリ。血抜きは僕がやろうか?」
「いいえ、ノルド。私、やりたいの。お姉ちゃんは、一人で何でもできたから」
アマリの目が遠くを見つめる。彼女の心に焼きついているのは、ネフェルの姿だ。ネフェルは、森に住む魔物や動物を次々と倒し、巧みに料理を作り出していた。その力強さが、アマリにとっては目指すべき姿だった。
すでに冒険者として実力を発揮しているノルドもまた、アマリにとっては目指すべき身近な存在だ。
「私は、料理人になりたいな」リコがはっきりと言った。
「私は……お姉さんみたいになりたいの」アマリが小さな声で答える。
「じゃあ、聖女様になるの?」と、ノルドが笑う。
「ううん。お姉ちゃんみたいに、強くて優しい人に」
その時、前方のヴァルが急に立ち止まり、低く吠えた。魔物の気配を察知したらしい。
「アマリ、準備して!」
ノルドの声に、アマリは力強く頷き、教わった投げダーツを手に取って駆け出す。木の上に潜んでいる魔蛇の姿を確認し、その動きを追う。
「どこにいるか、わかる?」
「ええ、あそこね」
ノルドですら見逃しそうな魔蛇。周囲に溶け込むような色合いで、じっとしていても目を凝らさない限り姿を捉えることが難しい。
しかし、アマリにはその魔蛇の動きがはっきりと見えていた。精霊の子たちが、ふわふわとその周りを飛び交っていたからだ。
「まったく、精霊を何だと思ってるのよ! 酷い使い方ね!」と、ビュアンが現れ、目を光らせながら叫んだ。
「いえ、私は……別に、そんなお願いは……」アマリは思わず肩をすくめ、下を向いた。
「ビュアン、アマリが困ってるから、精霊たちが助けてくれてるんだよ」ノルドが微笑んで言う。
「まあ、私のノルドに付き纏わないだけ、あいつらも弁えてるってことよ。でも、あんたの匂いは確かに惹きつけるものがあるわね」
アマリの周りには、森に入ってからずっと精霊たちが付き従っていた。それは、彼女の無意識の力を引き出すように導いていたのだ。
アマリは再び息を整え、ダーツを構える。だが、力が足りず、ダーツは目標を外れて地面に落ちるかと思われた——が、その瞬間、風がひと吹き吹き抜け、ダーツは魔蛇の体に向かってまるで誘導されたかのように突き刺さった。
「そんな……当たった……?」アマリは驚き、目を大きく見開く。
風の精霊が手助けをしたのだ。
「わぁい、倒せた!」アマリが嬉しそうに駆け寄る。
「待って。トドメを刺すときが、一番危険だからね。気をつけて」
ノルドの警告と同時に、魔蛇の体がビクリと動く。生きていたのだ。死んだふりをして、アマリを油断させようとしていた。
その瞬間、魔蛇が飛びかかろうと身をよじる——だが、次の瞬間、魔蛇の頭部に小さな火花が灯り、すぐに水が滴って火を消す。その直後、魔蛇はぐったりと力を失い、完全に動かなくなった。
火と水の精霊たちが、同時にその力を発揮したのだ。
「やあっ!」アマリはナイフをしっかりと握り、恐怖を振り払うように、魔蛇の息の根を確実に止めた。
「……何なの、その倒し方」木の上で魔蛇との戦いを終えたリコが、呆れたような顔で見つめていた。
「そういえば、帰りには、家に寄ってって、母さんが言ってたよ」
リコがにっこりと笑って言った。それは、アマリが帰って何をもらうか分かっているからだ。
※
「ただいま」
家に着くと、セラとアマリのメイドたちが、お茶をしながら待っていた。
「お帰りなさい。早かったわね」
「うん、予定より早く回れてしまって」
ノルドが答えると、セラは少し安心したような表情を浮かべた。
その日も、森の奥に入ると、アマリの護衛としてグリフォンが同行してきた。ネフェルが使役するそのグリフォンは、静かにアマリの周囲を見守っていた。
魔物を捕まえ、弱らせてからアマリの前に次々と差し出す。アマリは躊躇うことなくトドメを刺す。その様子を見て、リコがまたつぶやいた。
「その倒し方……」
「パワーレベリングってやつだよ。貴族の子息が経験を積むために使う方法、って本で読んだんだ」
「私、貴族じゃないもん」
アマリは少し不満げに、でもどこか照れたように言った。
「ワオーン」ヴァルが、食事の催促をした。
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