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3章 白いアレを求めて三千里

25話 冒険者見習いという制度について男は語る

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 3人の少女の前にやってくると、赤髪でお団子頭のくりりとした瞳が愛らしさが溢れる身軽さを意識した短パンの少女が、背筋を伸ばして敬礼してくる。

「シーナ先輩、討伐ですか? 今日こそ討伐ですよね?」
「マロン……先輩は最低でも敵を押さえ付けられる前衛が入るまでは禁止って何度も言ってるわ。ギルドも自衛目的以外、見習いは討伐は控えるようにとなってるから」
「ええっ! スイも本当はちょっとやってみたいと思ってるよね?」

 お団子頭の少女、マロンに嘆息しながら諭すのは3人の少女の真ん中に立っていた、白髪赤目の少女で腰まである長い髪を一番先を縛る事で広がらないようにしている。

 落ち着いた様子で幼さを若干は残しているが綺麗な少女である。12歳と言われないと分かり難い。

 白髪赤目の少女、スイは、軽装鎧にバックラーに剣を身に付けている。

 俺に似た格好だって? それはそうだ、俺の格好を見本にしてスイが選んだのだから。
 スイは俺と似たタイプの戦闘スタイル。いうなれば、魔法剣士と言えるだろう。

 俺はスキルの恩恵でどちらでも出来るタイプだが、スイは剣士としても出来るというだけで間違いなく適性は魔法寄りである。

 嫌な事を思い出すスイは眉間に皺を作って被り振る。

「これっぽっちも思ってないわ。余りにマロンが騒ぐから1度だけ先輩がゴブリンと戦う機会を設けてくれた時、私も切実に本職の前衛が必要と身を持って知らされたわ」
「あの時は本当に大変でしたね~」
「ええっ~、アタシはヒリヒリする感じがして冒険者って思ってて、キャウも同じ気持ちだと思ってたのに!」

 最後の1人、神官服を身に纏う肩の辺りで揃えられている黒髪の少女が頬に手を当てながら間延びした声音で「スイさんと同じく、まったく思ってません~」と穏やかな声音なのにバッサリいく。

 この子も12歳と言われても分かり難い。神官服を押し上げる胸がとてもその年だと分からさない。何せ、ターニャと比べてどうだろう? と思わされるサイズだ。

 この件でターニャは僅差で勝っていると俺の胸倉を掴んで持ち上げながら言っていたのでそういう事にしとこうぜ、なぁ、みんな?
 ぶっちゃけ、12歳と知らなかったら声をかけてたかもしれない。単純に背が低い子なんだと勘違いしてな!

 でも、俺は15歳以下は手を出さないポリシー。いえす、ろりーたー、のーたっち、の精神に近いかもしれない。
 俺は肉体年齢ではなく、精神年齢を重視するタイプだ。

 脱線したが、スイが言うようにマロンに森の中で騒がれて、困ってる時にターニャに「このまま騒がせていたら結局、同じじゃないかな?」と言われて間引きして体験させてあげた事があった。

 一応、前衛として戦う事になったスイが盾をしていたが、残念というべきか、女の子として致し方がないとみるべきか、明らかにウェイトが足らずに上手くゴブリンを確保出来なかった。

 もう泥仕合、本当に土埃に汚れた3人が、べそをかいて座り込んで愚図るのあやして連れて帰るのは大変だった。
 スイに至っては終わったという安堵で腰が抜けてしまい、俺におんぶされて帰ってきた。

 おんぶをした事で気付いた事をスイに口止めされている。

 まあ、初陣で泥仕合になるほど必死に戦えば、男でもしゃーないよな、と思える事を背中に沁みるものがあったので……まあ、察してやって欲しい。

 俺と目があったスイが瞬間湯沸かし器のように一瞬で赤面すると顔を背ける。

 大丈夫だよ、この秘密は墓まで持って行く気だから。

 まあ、正直、3人が冒険者を辞めると言い出さなかったな、と思う。しかし、マロンは少しは懲りた方がいいと思うが……

 冒険者で本気で生計をたてていくと腹が決まってるからかもしれないが、この1点は本当に3人を評価したい。

 3人がやんやと話をしてるのを眺めながら、この子達に出会った2週間前の事を思い出す。


 ゴブリン神との戦いはプリットに色んな変化を与える結果になった。

 前に述べたポーション然り、プリットの冒険者の岐路ともなった。

 俺がゴブリン神などの討伐の主張をしなかったので、素材も込みで報酬が頭数割りになった。
 一部は無くなった者の家族に見舞金が払われたが、それでも1人頭の額は相当なものになり、その額、1人、金貨2枚が支払われた。

 俺が前にここの貨幣価値を元の世界の金額に照らし合わせが合っているなら、銀貨1枚で30000円だ。つまり、金貨2枚、200倍すると600万になる。

 みんなが600万を手にしたらどうする? 冒険者のような仕事を今してるとして?

 選択肢はいくつかあると思う。プリットの冒険者が取った選択肢は大きく分けて4つだった。

 1つ目は危険な冒険者を辞めて、店を始める。

 勿論、いきなり店持ちの商人は無理だ。酒場や食堂などは器用だったり、嗜みがあるからとやり始めた者もいたが、大半は行商人だ。

 2つ目は、更なる高みを目指してプリットより大きな街、大抵の者は王都で冒険者をする為に旅立った。

 俺もいずれ、シズクの事もあるから王都に行くが、お金が手に入ったからという勢いだけで行くものではないよな? と思っている。

 3つ目は、2つ目に似てるがまったく違う理由で旅が主目的で世界を見に行くとプリットを後にした。

 これには思わず俺も同調しそうになった。まだ見ぬ世界を見て廻るトラベラー、冒険してるよな!

 4つ目は、難しくも何ともない。プリットの冒険者ギルドに残ったというだけ。

 俺とかがそうであり、ベアさんもモヒン先輩も残留組だ。

 で、最初に言った変化と岐路の結果、冒険者ギルドに何が起きたか……

 冒険者の枯渇である。

 討伐依頼だけを回すのであれば、残った面子でも何とかなる。というより、討伐依頼でしかも緊急性があるものなど稀で、討伐依頼が元々、それほど多くない。

 さすがに王都に行けば、そうとも言えないらしい。まあ、その辺りがプリットから出た冒険者の理由にも繋がっている。

 話を戻すが、冒険者ギルドの大半の依頼は街中の雑用だ。

 その依頼は住人の数だけある。これは大袈裟に言い過ぎたが、そう言いたくもなるほどあるので、基本的に冒険者は仕事に困る事がない。

 そんな状況下で冒険者が枯渇した……どうなるかなど説明は不要だろう。

 困った冒険者ギルドは特別緊急処置を行使した。

 その名を『冒険者見習い』制度である。

 本来、冒険者は成人15歳になるまで登録が出来ない。しかし、街、特に村などになると元々、成人した冒険者が不足する事態が起こりうる。

 そこで冒険者ギルドの決まりの特記に書かれている条件付きで12歳以上の者を冒険者見習いとして登録出来るという特別緊急処置が用意されていた。

 正規の冒険者でEランク以上の者の下で指導を受けながらであれば、冒険者の依頼を受けれるというものだ。

 まあ、ぶっちゃけると雑用依頼を捌く為の苦肉の策である。

 大半、指導員になる冒険者は名前貸しといった感じで、指導せずに街中の依頼のみをさせるのが普通である。

 そうしないと本業が疎かになるので冒険者ギルドも何も言ってこない。だが、指導する、俺とかみたいな物好きな奴は結果的に評価の低くなる依頼を冒険者見習いと一緒にする事が多いのでランクが上がり難い。

 そして、冒険者見習いは、指導員に少ないが冒険者見習いがした依頼報酬の中から1依頼に付き、銅貨1枚を冒険者ギルドから天引きされ、教育代として支払われる。

 例え、まったく指導員が手伝い、同行すらしてなくてもだ。

 それと分かっていても、冒険者見習い制度を求める者は多い。

 一応、WinWinの関係とも言えなくもない。

 何故なら、口減らしの為に奴隷として売り払われる恐れがあるからだ。

 俺も最近知ったが合法で奴隷が存在する。

 それほど多くはないらしいが、実際に売り払う親も存在するし、一緒に住んでる時にどうしても必要な金が出来た場合、自分から売られる者もいるとか。

 だが、一度、家から出て独立した後でそういう事態に陥ったとしても「出来る範囲はするが、奴隷落ちするまではする気はない」と突っ撥ね易くなるから早く独立したい子供が多い。

 中にはまったく違う理由で、生活苦とは無縁の理由で冒険者見習いになる物好きがいる。

 目の前にいるスイとキャウが良い例だ。


 などと思い返していると袖を引っ張られて我に返る。

「シーナ先輩、今日は街の外で仕事だよね!」
「マロン、先輩は昨日、昼過ぎに終われる依頼をすると仰ってたでしょ?」
「その後、訓練してくださると言ってました~」

 そう、俺はこの子達が正規の冒険者になった時に苦労しないように鍛え、経験を積ませてあげようと思っている。

 スイとキャウに駄目だしされたマロンが唇を尖らせて文句を言う。

「ちぇっ、シーナ先輩じゃなく、外の依頼をバンバン受けさせてくれる指導員だったら良かったのに」
「そんな人いる訳ないでしょ? 先輩以外だと何もしてくれない名前貸ししかしないわ。先輩ほど面倒見が良い人といえば……モヒンさんぐらいですが……」
「あ~、あの人も良い人なんでしょうけどぉ~、生理的にごめんなさいですね~」

 キャウの言葉にスイは申し訳なさそうにするが否定はしない。

 この子は素直過ぎて思った事をそのまま言う事が多いから結果、毒を吐く事が多い。

 モヒン先輩、マジで良い人なんだけどねぇ……思春期の女の子から見るとあのビジュアルはしょうがないのかもしれない。

 実際の話、最初は敬遠されるモヒン先輩だが、今、指導されている男2女2の冒険者見習いから凄く評判はいい。
 この4人に陰で『お母さん』と呼ばれているが、俺は絶対にモヒン先輩の耳に届かせないつもりだ。

 嫌だろうし、知ってナチュラルに後輩に優しい先輩じゃなくならせるのは惜しいからだ。

 俺もモヒン先輩、他の指導員に言える事だが俺達から指導する相手を指名する事は出来ない。逆も然りだ。

 違いがあるとすれば、俺達側には拒否権があるのにたいして、冒険者見習い側には拒否権がない。

 正確に言うならあるが、した時点で冒険者見習いは無かった事にされる。

 指導員になってくれる冒険者は少ないが冒険者見習いになりたい子は沢山いる。

 特にプリット、クラスの街で冒険者見習いを募集したのが異例で指導員待ちをしている冒険者見習い候補はかなりおり、凄い数の順番待ちしているので引き止められる事などありはしない。

 このマッチングは冒険者ギルドがしている。冒険者ギルドの考えで問題が起きにくい組み合わせがなされている。

 例えば、目の前の3人は幼いが間違いなく美少女と呼ぶに相応しい可愛らしい子達だ。
 これが、幼くてもいい、見た目がいい、女であればなどという指導員と組まされたらどうなるだろうか?

 おそらく想像通りの展開が待っている。

『冒険者見習いでいたかったら……分かるよな?』

 である。

 なのに、俺に指導員要請がきたかというと俺の『いえす、ろりーたー』の精神が認められ……た訳じゃなく、ターニャが目を光らせると判断された為であった。

 周りの認識では俺はターニャに尻に敷かれてる事になってるらしい。

 俺は尻に敷かれてない! 俺の上で激しく腰を使う時以外では!

 などと邪な事を考えている俺を見上げるスイが「先輩?」と言ってくる。

 俺は咳払いをして3人を見渡す。

「何でもない。そろそろ冒険者ギルドに行こうか? あ~、それとそろそろ良いんじゃないか?」
「何をですか?」

 スイがそう聞き返して、隣にいる2人に目配せして続きが分かっている者がいないと分かると俺に視線を戻す。

「俺達もだいぶ仲良くなれたと思う。出会った頃から言ってるがそろそろ先輩を卒業して『お兄ちゃん』と呼んでくれてもいいんじゃないだろうか?」
「絶対に嫌だよ!」
「お断りしますわ」
「それは困りますぅ~」

 シーナは痛恨のダメージを受けた。

 ど、どちて、俺のステータスの枠が赤いお?

 出会った時に言った時は凄く嫌そうな顔をされたが、今は嫌悪感はなさそうなのに即答なの!?

「ねっねっ、俺って良いヤツだと思うぜ? 妹に優しい良い兄になるって自負してるって! せめて、そろそろ理由ぐらいさ」
「否定はしないけど、絶対に嫌」
「事情を説明するのもお断りしますわ」
「本当に色々と困るんで~」

 天井を見上げる俺はみんなに言いたい。

 泣いてないからっ!!

 そんな俺の脇腹を殴られる。

「あうちっ」
「何を馬鹿をしてるの?」

 俺達の弁当を持っているターニャが呆れた顔をして俺を見ていた。どうやら脇腹を叩いたのはターニャのようだ。

「この子達の依頼は昼過ぎまでなんだよね? それが終わったらウチはしたい家事があるんだから、さっさと行くよ」

 そう言うと脇腹を押さえている俺は力なく「はい」と返事を返す。

 あれぇ? なんか俺、ターニャに尻に敷かれてねぇ?

 そんなターニャの背中を見送っているとマロン達に3人に両手を掴まれ引っ張られる。

「先輩、さあ、お仕事に行きましょう」
「今日こそは訓練でシーナ先輩に一太刀入れて見せるからねっ!」
「さぁ~先輩も一緒に頑張りましょうねぇ~」

 俺に弾ける笑みを向ける3人娘を見て俺は納得がいかない。

 こんな笑みを向けるのにどうして俺をお兄ちゃんと呼んでくれない?

 俺はこの子達が15歳になった時に独り立ち出来るようにしてあげるのが目標だが、もう1つ作ろうと思う。

 この子達が巣立つまでにお兄ちゃんと呼ばれるのを2つ目の目標として頑張って行こう。

 3人娘に手を引かれて俺は新しい目標を胸に、冒険者ギルドに向かう為に家を後にした。
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