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4章 求められる英雄、欲しない英雄
42話 避けようのない未来があるかもと男は被り振る
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陽が昇り始めた頃、俺は完全武装のエルの盾に斬りつける。
それに一瞬怯んだ様子を見せたエルは俺の斬りつけに圧されてたたら踏む。
「恐れるな、エルが最前線で抜かれたら無防備な仲間が後ろにいるんだぞ!」
「は、はい!」
慌てて身構えるエルに俺は剣を振り上げて言う。
「次はもっと強いの行くぞ! 恐れずに前に踏み出せ!」
振り下ろすと顔には怯えはあったが、歯を食い縛って一歩前に出る動きで俺の剣に体重をかけた盾をぶつけてくる。
俺の剣を一瞬、止める事が出来た事に喜んだ瞬間、エルは吹き飛ばされる。
「一瞬止めたからって油断するな!」
「はいぃぃ~」
叱責を飛ばした俺の言葉で涙目になったエルに俺は近づいて行って栗色のショートヘアをワシャワシャと撫でる。
「でも、最後の踏み出しの1歩、良く踏み出せた。初日で出来たのは凄いぞ」
そう褒めると嬉しそうに俺に頭を撫でられ続ける。
エルを褒めていると頬を土埃で汚れるレティアが不満顔でやってきた。
「何なのアンタ? スリングした石を剣の柄で叩き落として、更にその動作から攻撃してくるなんて!」
「まあ、レティアは割といい動きしてたが、自分の速度に自信を持ち過ぎだ。それより速い相手にいい様やられ放題だぞ?」
言われたレティアは赤面して自分のお尻を隠すように触れる。
不用意に近づいたレティアに詰め寄るとバックステップで逃げようしたので背後に回り込んで足払いをかけてやり、受け身も取れずに尻モチをついたせいで痛いらしい。
「勢いだけではどうにもならないんだからな? これはマロンにも言えるんだぞ?」
マロンに目を向けるとプイと顔を背ける。一見、反抗しているように見えるが照れているのだ。
最近、分かった事なのだが、マロンは女の子扱い、なんというかお姫様やお嬢様を扱うようにされるのに非常に耐性がないらしい。
今日も木に登り「隙ありぃ!」と飛び蹴りを放ってきた所を綺麗に避けて、落下中のマロンを抱えた。
お姫様抱っこで。
顔を真っ赤にして身を縮こまらせるマロンに「お嬢さん、お転婆はほどほどにね?」と言ったら暴れる事、暴れる事。
普通に注意したり、折檻しても効果はないマロンだが、この手だと割と反省するので俺のマイブームだったりする。
チラチラと見てくるマロンが恥ずかしそうにしているので俺の内心はニヤニヤだ。
「あの、先輩。質問があるんですが、どうしたら先輩に私の魔法が当たるようになりますか?」
振り返ると不安そうに両手を握るスイの姿があった。どことなく自信を失っているように見える。
ここ最近、攻撃のバリエーションに困っているようで、今日も俺に掠らせる事も動きの阻害すら出来ずに避けられていた。
「スイの攻撃は素直で狙いが分かり易い。魔物相手ならいいかもしれないけどな」
「でも、知恵のある魔物もいます……」
悲しそうに俯くスイの肩に手を置いて「問題ない!」とサムズアップして笑ってやる。
俺は人がいなさそうな方向を確認してファイアアローを1本飛ばして、飛んで行くファイアアローがある程度離れた時、拳を握る。
「うわっ! 爆発した!」
そう、俺が拳を握ったタイミングでファイアアローが小さな爆発を起こした。
「どうだ? 今のを目の前や避けたと思ったヤツの背後でああなったら、一泡噴かせられると思わないか?」
「す、凄いです、先輩。私も出来るようになりますか?」
「なれるさ、明日からは魔力制御の訓練を中心にいこう」
はい! と嬉しそうにするスイの後ろでは羨ましそうに人差し指を唇にあてるキャウの姿があった。
俺はキャウにニコッと笑いかけ、キャウが気付いたと同時に飛び出して間合いを詰める。
「――ッ!」
思わず、目を瞑って身を硬くして杖を抱え込むようにするキャウ。
キャウが瞑ってしまった目を開くタイミングで杖を持つ手に俺の手を添え、顔を近づける。
目を開けたらすぐ傍に俺の顔があるのが分かると目をグルグルさせて赤面するキャウ。
「キャウ、お前は全体的にいい感じに纏まってきてるが、不意の動きを恐れて目を瞑る癖は治した方が良いな。後、接近された時の身の守り方、対処方法を重点的に鍛えていこうな?」
飛び離れるキャウが真っ赤な顔でウンウンと頷くのを見た後、周りを見て言う。
「よし、訓練はここまでにしようか? 先に水浴びしてくれていいけど、予定が詰まってるから早めにな?」
そう言うと井戸の方に向かうマロン達、だが、1人、俺に駆け寄ってくるエルがいた。
「先輩、先輩、ボクはまだ頑張れます!」
「はっはは、その意気は良しなんだが、この後、スラムの病人を連れてくるって言ってただろ?」
俺に言われて、アッと声を上げて、シュンとしたエルの頭をワシャワシャと撫でてやる。
「明日もしっかり面倒見てやるから、気を落とすな。水浴びしてこい」
「……はいっ! 分かりました!」
走り去りながら、時折、振り返って「きっとですよ!」と手を振ってくる。
俺もエルに手を振りながら思う。
訓練を始めて、すぐにエルが自分に自信がないタイプだと分かった俺は、些細な事でも全力で褒め、時に尻を叩くように色々とした結果……
めっさ、懐かれた。
悪い事じゃないんだが、ちょっと背徳感が拭えない。
そんな俺の背後でクスクスと笑う声がする。
「先輩が板についてきたんじゃないか?」
「そうかな?」
振り返ると一緒に訓練していたパメラが口許を拳で隠すようにして柔らかい笑みを浮かべていた。
最近、どんどん表情が柔らかくなってきて、笑みに優しさをパメラは感じさせる。
出会った時とは別人のように色々と丸くなった。
そういう意味では、ターニャは出会った時より、素の感情をぶつけてくるようになったように思う。
やたらと世話を焼きたがるし、おかんみたいなところもあるが不意に女の子の顔を見せてくる辺りがずるい。
「今のエルだって最初は過剰に褒めすぎだと思っていたが、あれは結果良い方向に転がったと私は思うよ。身体的に恵まれていたが自信のなさが成長を阻んでいたようだが、あの子はこれからメキメキと強くなる」
「だといいけどな」
まあ、俺も今日1日だけだが、精神的に解き放たれただけでこれだけの違いを見せたエルならそうなるかもなと俺も思ってはいた。
惚ける俺の背中を叩くパメラは俺を置いて離れていく。
「そういう事にしておこう。じゃ、私も水浴びをしてくる」
去る大きな褐色のお尻、じゃないパメラを見送って溜息を零す。
「最近、ターニャとパメラに見透かされ過ぎな気がするんだよな……特にパメラにさ」
タオルで汗を拭いながら近くにあった木に凭れかけた。
嫌な気分ではないんだが……分かるやん?
俺はコリコリと頬を掻いて誰にとなく言い訳じみた事を考える自分に呆れて溜息を零す。
水浴びを終えて、俺達はスラムへと向かった。
事前にラフィにどこに居て、何人いるかとは聞かされていたが、正直、スラムを舐めてた。
道らしい道がないのでゴミで阻まれたり、建物が崩れてたりして思ったように進めない。
スラム出身のマロン達がいなければ、相当時間がかかったか、農場に戻ってラフィに泣きつくしかなかったかもしれない。
マロン達にこんなんだと生活し辛いだろ? と問うとスラム以外の奴等から逃げ隠れるのに便利らしい。
まあ、生きていく上で良くないと分かってる事をする事もあるし、ラフィのように娼婦の客が紳士な訳がなく、逃げて身を守るには打ってつけだと教えてくれた。
これも生きる知恵とも言えなくもないか。
マロン達の先導で次々の病人を連れて家に戻る。
一応、空き部屋が2つあるので症状の重さで部屋を別けようかと思っていたが、重病人は不幸中の幸いでいなかった。
一番、酷い人で肺炎のなりかけで処置は難しくなさそうだ。
大半の人は清潔にして栄養を取って寝ていれば治りそうなレベルだった。
まあ、回復魔法とポーションを併用して、回復を早める方向でいこうか。
肺炎になりかけの人は焦らず治す方向でしよう。
それはともかく、清潔にする為に体を拭いてあげないといけない。冷たい水は論外なのでお湯を沸かして各自拭いていく事にする。
よし、俺も手伝うか!
俺はある女性に目を向ける。風邪と栄養不足でやつれ気味だが綺麗なお姉さんがいた。
汗などのせいで汚れているお姉さんを見て、俺は思った。
お救いせねば、と!!
ターニャは農場でルイーダさんと料理に勤しんでる今がチャンス、もとい、手が減ってるのを俺がカバーせねば!
お湯に浸したタオルをギュッと絞った俺は、いざ行かんと前に出るとスイとキャウにトウセンボされる。
「先輩、駄目です!」
「駄目ですよ~」
2人はプンプンという擬音が聞こえそうな頬の膨らませ方をして俺を阻んでくる。
ちゃうねん、俺は本当に善意で……
2人を説得しようと前に一歩出た所でパメラに肩を掴まれる。
「シーナ、私は悲しい。きっとターニャも悲しむ」
「あがが……ど、ど、ど、どうか、ご、ご内密におねげーしますだぁ!」
全身をガタガタと震わせるだけでなく、歯がカチカチと鳴らし、冷や汗が止まらない。
俺はきっと今、魔王が襲来したと言われてもこれほどの恐怖は感じずに済んだだろうと確信した。
そして、俺は追い出されて、先に農場に行くように女の子達に言われて肩を落として農場を目指す為に西門へと向かっていた。
拭くのを諦めて、拭き残しがあるか確認を手伝おうとしただけなのに、キャウには怒られるし、スイには首筋に噛みついて血を吸われる。
俺が何をした!
こんな事をのたまうのをターニャに見られたら、間違いなく右ストレートが俺の頬を抉っていただろう。
頭の後ろで腕を組みながら歩いていると城門の辺りで小さな子供が10人ぐらいいるのに気付いて駆け寄るとスラムの子供達と分かる。
駆け寄ると向こうも俺だと分かって手を振ってくる。
「お、ちっちゃい子達の連れて来てくれたのか?」
「うんっ! そろそろご飯だから連れてきなさいって言われた!」
小さい子の手を掴んでいる、多分、5,6歳の女の子が嬉しそうに歯を見せる大きな笑みを浮かべて鼻の下を指で擦る。
俺が初見だと思われる5歳以下の子供達は指を咥えて俺を見上げているので、怖くないよ、と伝えるように笑ってみせると笑い返される。
「俺も農場に行くところだったから一緒に行こう」
「うんっ!」
一緒に歩き出すと馬車が来るのが見えたので馬車側に俺が立って両手を広げる。
「馬車が来たから隅に寄ろうな、危ないぞ?」
「馬車来たぞ」
「危ないって」
ん? と思って横を見ると年長組の子達が俺の真似をして年少組を端に寄せようとしている。
子供って何でも真似するよな……
だからこそ、傍で馬鹿をする訳にはいかないとも言える!
馬車が通り過ぎたのを確認した俺は近くの子の手を取って歩き始めた。
時折、後ろを振り返っていない子がいたりしないかとか確認して歩く。
そして、ふと、気付いてしまう。
あれぇ? なんか俺、保父さんやってねぇ!?
そう思うと俺の腹の底からわき上がるものがあり、それが口から噴き出す。
「くっくく、わはははははっ!」
いきなり笑い出した俺に子供達がキョトンとした顔をしたが、1人の男の子が俺を真似て笑い出すと連鎖するようにみんなが真似を始める。
「わははははっ!」
「あははははっ!」
途中から何が楽しいのか分からないが俺と子供達は笑いながら農場へと向かった。
そして、到着した時、笑っている俺を見つけたターニャが、
「何、バカ笑いしてるの?」
と聞かれたが答えられる解答が思い付かない俺が黙ってると最初に真似した子が
「お兄ちゃんが楽しそうだったから真似した」
そう言うとターニャの目が馬鹿を見る目に変わると
「子供に馬鹿な事を教えてるんじゃない!」
怒鳴られて折檻された。
結局、パメラに密告されなくてもグーで殴られた俺は、メソメソと泣くと子供達も一緒に泣いてくれた。
それに一瞬怯んだ様子を見せたエルは俺の斬りつけに圧されてたたら踏む。
「恐れるな、エルが最前線で抜かれたら無防備な仲間が後ろにいるんだぞ!」
「は、はい!」
慌てて身構えるエルに俺は剣を振り上げて言う。
「次はもっと強いの行くぞ! 恐れずに前に踏み出せ!」
振り下ろすと顔には怯えはあったが、歯を食い縛って一歩前に出る動きで俺の剣に体重をかけた盾をぶつけてくる。
俺の剣を一瞬、止める事が出来た事に喜んだ瞬間、エルは吹き飛ばされる。
「一瞬止めたからって油断するな!」
「はいぃぃ~」
叱責を飛ばした俺の言葉で涙目になったエルに俺は近づいて行って栗色のショートヘアをワシャワシャと撫でる。
「でも、最後の踏み出しの1歩、良く踏み出せた。初日で出来たのは凄いぞ」
そう褒めると嬉しそうに俺に頭を撫でられ続ける。
エルを褒めていると頬を土埃で汚れるレティアが不満顔でやってきた。
「何なのアンタ? スリングした石を剣の柄で叩き落として、更にその動作から攻撃してくるなんて!」
「まあ、レティアは割といい動きしてたが、自分の速度に自信を持ち過ぎだ。それより速い相手にいい様やられ放題だぞ?」
言われたレティアは赤面して自分のお尻を隠すように触れる。
不用意に近づいたレティアに詰め寄るとバックステップで逃げようしたので背後に回り込んで足払いをかけてやり、受け身も取れずに尻モチをついたせいで痛いらしい。
「勢いだけではどうにもならないんだからな? これはマロンにも言えるんだぞ?」
マロンに目を向けるとプイと顔を背ける。一見、反抗しているように見えるが照れているのだ。
最近、分かった事なのだが、マロンは女の子扱い、なんというかお姫様やお嬢様を扱うようにされるのに非常に耐性がないらしい。
今日も木に登り「隙ありぃ!」と飛び蹴りを放ってきた所を綺麗に避けて、落下中のマロンを抱えた。
お姫様抱っこで。
顔を真っ赤にして身を縮こまらせるマロンに「お嬢さん、お転婆はほどほどにね?」と言ったら暴れる事、暴れる事。
普通に注意したり、折檻しても効果はないマロンだが、この手だと割と反省するので俺のマイブームだったりする。
チラチラと見てくるマロンが恥ずかしそうにしているので俺の内心はニヤニヤだ。
「あの、先輩。質問があるんですが、どうしたら先輩に私の魔法が当たるようになりますか?」
振り返ると不安そうに両手を握るスイの姿があった。どことなく自信を失っているように見える。
ここ最近、攻撃のバリエーションに困っているようで、今日も俺に掠らせる事も動きの阻害すら出来ずに避けられていた。
「スイの攻撃は素直で狙いが分かり易い。魔物相手ならいいかもしれないけどな」
「でも、知恵のある魔物もいます……」
悲しそうに俯くスイの肩に手を置いて「問題ない!」とサムズアップして笑ってやる。
俺は人がいなさそうな方向を確認してファイアアローを1本飛ばして、飛んで行くファイアアローがある程度離れた時、拳を握る。
「うわっ! 爆発した!」
そう、俺が拳を握ったタイミングでファイアアローが小さな爆発を起こした。
「どうだ? 今のを目の前や避けたと思ったヤツの背後でああなったら、一泡噴かせられると思わないか?」
「す、凄いです、先輩。私も出来るようになりますか?」
「なれるさ、明日からは魔力制御の訓練を中心にいこう」
はい! と嬉しそうにするスイの後ろでは羨ましそうに人差し指を唇にあてるキャウの姿があった。
俺はキャウにニコッと笑いかけ、キャウが気付いたと同時に飛び出して間合いを詰める。
「――ッ!」
思わず、目を瞑って身を硬くして杖を抱え込むようにするキャウ。
キャウが瞑ってしまった目を開くタイミングで杖を持つ手に俺の手を添え、顔を近づける。
目を開けたらすぐ傍に俺の顔があるのが分かると目をグルグルさせて赤面するキャウ。
「キャウ、お前は全体的にいい感じに纏まってきてるが、不意の動きを恐れて目を瞑る癖は治した方が良いな。後、接近された時の身の守り方、対処方法を重点的に鍛えていこうな?」
飛び離れるキャウが真っ赤な顔でウンウンと頷くのを見た後、周りを見て言う。
「よし、訓練はここまでにしようか? 先に水浴びしてくれていいけど、予定が詰まってるから早めにな?」
そう言うと井戸の方に向かうマロン達、だが、1人、俺に駆け寄ってくるエルがいた。
「先輩、先輩、ボクはまだ頑張れます!」
「はっはは、その意気は良しなんだが、この後、スラムの病人を連れてくるって言ってただろ?」
俺に言われて、アッと声を上げて、シュンとしたエルの頭をワシャワシャと撫でてやる。
「明日もしっかり面倒見てやるから、気を落とすな。水浴びしてこい」
「……はいっ! 分かりました!」
走り去りながら、時折、振り返って「きっとですよ!」と手を振ってくる。
俺もエルに手を振りながら思う。
訓練を始めて、すぐにエルが自分に自信がないタイプだと分かった俺は、些細な事でも全力で褒め、時に尻を叩くように色々とした結果……
めっさ、懐かれた。
悪い事じゃないんだが、ちょっと背徳感が拭えない。
そんな俺の背後でクスクスと笑う声がする。
「先輩が板についてきたんじゃないか?」
「そうかな?」
振り返ると一緒に訓練していたパメラが口許を拳で隠すようにして柔らかい笑みを浮かべていた。
最近、どんどん表情が柔らかくなってきて、笑みに優しさをパメラは感じさせる。
出会った時とは別人のように色々と丸くなった。
そういう意味では、ターニャは出会った時より、素の感情をぶつけてくるようになったように思う。
やたらと世話を焼きたがるし、おかんみたいなところもあるが不意に女の子の顔を見せてくる辺りがずるい。
「今のエルだって最初は過剰に褒めすぎだと思っていたが、あれは結果良い方向に転がったと私は思うよ。身体的に恵まれていたが自信のなさが成長を阻んでいたようだが、あの子はこれからメキメキと強くなる」
「だといいけどな」
まあ、俺も今日1日だけだが、精神的に解き放たれただけでこれだけの違いを見せたエルならそうなるかもなと俺も思ってはいた。
惚ける俺の背中を叩くパメラは俺を置いて離れていく。
「そういう事にしておこう。じゃ、私も水浴びをしてくる」
去る大きな褐色のお尻、じゃないパメラを見送って溜息を零す。
「最近、ターニャとパメラに見透かされ過ぎな気がするんだよな……特にパメラにさ」
タオルで汗を拭いながら近くにあった木に凭れかけた。
嫌な気分ではないんだが……分かるやん?
俺はコリコリと頬を掻いて誰にとなく言い訳じみた事を考える自分に呆れて溜息を零す。
水浴びを終えて、俺達はスラムへと向かった。
事前にラフィにどこに居て、何人いるかとは聞かされていたが、正直、スラムを舐めてた。
道らしい道がないのでゴミで阻まれたり、建物が崩れてたりして思ったように進めない。
スラム出身のマロン達がいなければ、相当時間がかかったか、農場に戻ってラフィに泣きつくしかなかったかもしれない。
マロン達にこんなんだと生活し辛いだろ? と問うとスラム以外の奴等から逃げ隠れるのに便利らしい。
まあ、生きていく上で良くないと分かってる事をする事もあるし、ラフィのように娼婦の客が紳士な訳がなく、逃げて身を守るには打ってつけだと教えてくれた。
これも生きる知恵とも言えなくもないか。
マロン達の先導で次々の病人を連れて家に戻る。
一応、空き部屋が2つあるので症状の重さで部屋を別けようかと思っていたが、重病人は不幸中の幸いでいなかった。
一番、酷い人で肺炎のなりかけで処置は難しくなさそうだ。
大半の人は清潔にして栄養を取って寝ていれば治りそうなレベルだった。
まあ、回復魔法とポーションを併用して、回復を早める方向でいこうか。
肺炎になりかけの人は焦らず治す方向でしよう。
それはともかく、清潔にする為に体を拭いてあげないといけない。冷たい水は論外なのでお湯を沸かして各自拭いていく事にする。
よし、俺も手伝うか!
俺はある女性に目を向ける。風邪と栄養不足でやつれ気味だが綺麗なお姉さんがいた。
汗などのせいで汚れているお姉さんを見て、俺は思った。
お救いせねば、と!!
ターニャは農場でルイーダさんと料理に勤しんでる今がチャンス、もとい、手が減ってるのを俺がカバーせねば!
お湯に浸したタオルをギュッと絞った俺は、いざ行かんと前に出るとスイとキャウにトウセンボされる。
「先輩、駄目です!」
「駄目ですよ~」
2人はプンプンという擬音が聞こえそうな頬の膨らませ方をして俺を阻んでくる。
ちゃうねん、俺は本当に善意で……
2人を説得しようと前に一歩出た所でパメラに肩を掴まれる。
「シーナ、私は悲しい。きっとターニャも悲しむ」
「あがが……ど、ど、ど、どうか、ご、ご内密におねげーしますだぁ!」
全身をガタガタと震わせるだけでなく、歯がカチカチと鳴らし、冷や汗が止まらない。
俺はきっと今、魔王が襲来したと言われてもこれほどの恐怖は感じずに済んだだろうと確信した。
そして、俺は追い出されて、先に農場に行くように女の子達に言われて肩を落として農場を目指す為に西門へと向かっていた。
拭くのを諦めて、拭き残しがあるか確認を手伝おうとしただけなのに、キャウには怒られるし、スイには首筋に噛みついて血を吸われる。
俺が何をした!
こんな事をのたまうのをターニャに見られたら、間違いなく右ストレートが俺の頬を抉っていただろう。
頭の後ろで腕を組みながら歩いていると城門の辺りで小さな子供が10人ぐらいいるのに気付いて駆け寄るとスラムの子供達と分かる。
駆け寄ると向こうも俺だと分かって手を振ってくる。
「お、ちっちゃい子達の連れて来てくれたのか?」
「うんっ! そろそろご飯だから連れてきなさいって言われた!」
小さい子の手を掴んでいる、多分、5,6歳の女の子が嬉しそうに歯を見せる大きな笑みを浮かべて鼻の下を指で擦る。
俺が初見だと思われる5歳以下の子供達は指を咥えて俺を見上げているので、怖くないよ、と伝えるように笑ってみせると笑い返される。
「俺も農場に行くところだったから一緒に行こう」
「うんっ!」
一緒に歩き出すと馬車が来るのが見えたので馬車側に俺が立って両手を広げる。
「馬車が来たから隅に寄ろうな、危ないぞ?」
「馬車来たぞ」
「危ないって」
ん? と思って横を見ると年長組の子達が俺の真似をして年少組を端に寄せようとしている。
子供って何でも真似するよな……
だからこそ、傍で馬鹿をする訳にはいかないとも言える!
馬車が通り過ぎたのを確認した俺は近くの子の手を取って歩き始めた。
時折、後ろを振り返っていない子がいたりしないかとか確認して歩く。
そして、ふと、気付いてしまう。
あれぇ? なんか俺、保父さんやってねぇ!?
そう思うと俺の腹の底からわき上がるものがあり、それが口から噴き出す。
「くっくく、わはははははっ!」
いきなり笑い出した俺に子供達がキョトンとした顔をしたが、1人の男の子が俺を真似て笑い出すと連鎖するようにみんなが真似を始める。
「わははははっ!」
「あははははっ!」
途中から何が楽しいのか分からないが俺と子供達は笑いながら農場へと向かった。
そして、到着した時、笑っている俺を見つけたターニャが、
「何、バカ笑いしてるの?」
と聞かれたが答えられる解答が思い付かない俺が黙ってると最初に真似した子が
「お兄ちゃんが楽しそうだったから真似した」
そう言うとターニャの目が馬鹿を見る目に変わると
「子供に馬鹿な事を教えてるんじゃない!」
怒鳴られて折檻された。
結局、パメラに密告されなくてもグーで殴られた俺は、メソメソと泣くと子供達も一緒に泣いてくれた。
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