ステータス表記を変えて貰ったら初期設定に戻ってたー女神公認のハーレム漫遊記ー

ささやん

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5章 表舞台へ、静かに階段を上る

64話 海千山千の相手に食い下がる男

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「来たぞ、何の用だ?」

 路地裏の端っこに座る少年、いや、幼児、小学低学年程度の身長ぐらいの特別特徴がない子供に話しかけた。

 俺はあの複雑で意味が分からないルートを通って情報屋の下にやってきたわけだが……

 早朝訓練を終えて、朝食を食べようとした時に情報屋の使いだというおっさんに「話があるから来てくれ」という伝言を受けて、いつも情報屋が座ってる位置にこの子供がいたので極力平然と声をかけた。

 前回は女ぽかったとか突っ込まないからなっ! 驚いたり、挙動不審になったら馬鹿にされそうだし、堂々と言ってやった……出来てるよな?

 俺の前にいる幼い男の子はポカンとした表情で俺を見上げているのを見て、ちょっと内心慌てる。

 どきどき

 じ、情報屋だよな? 俺、イタイ感じな人になってないよな?

 必死に内心、慌ててる気持ちを隠す俺に幼い男の子はポカンとした表情から急に口の端を上げるイヤラシイ大人の笑みを浮かべる。

「何の用? 今、アンタをわざわざ呼び付ける用事って言えば、銀狼族の女の話か、もしくは……」
「もしくは、元締めとのコンタクトに成功したか?」

 ニタニタとした幼い男の子、もとい、情報屋が俺の内心を見透かすように肩を微かに震わせて小さな笑い声を洩らす。

 コイツ、初めから俺をからかうつもりもあったな? じゃなければポカンとした演技要らないしな……性格、ワルゥ

 ふぅ、と肩を露骨に下げる溜息を零した俺は誤魔化しが効かないと割り切り、内心を隠さず憮然とした表情を見せ、情報屋を半眼で睨むように見つめる。

「ティテールがあの情報を精査し終えるにはまだ時間が足りてないし、アレと接触出来る機会も早くても3日後……つまり、消去法で元締めとコンタクトが取れて会う算段が付いた。えらく早くないか、お前が言ってた日数と開きがあるが?」
「俺は嘘吐きにはなりたくないからな」
「それは同感だが、嘘吐きと詐欺師との境界線が俺とお前の考え方に違いがありそうだから話し合いたいと思うんだがどうだろう?」

 俺の言葉に情報屋は悪びれた様子も見せずに小さな肩を竦めるようにして両手を上げて「後日にな」とヘラッと笑って見せた。

 うーん、正直、ちょっとこの前まで駆け引きと無縁の生活をしてた俺は情報屋の掌の上で転がされ続けかねないと危惧している。
 精一杯、虚勢を張って背伸びをしているような状態が俺であり、それも当然のように情報屋に見抜けれてると思う。

 すぐさま、俺を裏切るつもりはないとは思うんだが……

 何やら、ゴブリンキング事件から俺に対して恩を感じてるらしいから協力的だ。まあ、協力するに当たってなんらかの思惑もあるだろうが俺に力を貸す事にメリットは感じてるようだから今は大丈夫だろうけど。

 それでも俺から打てる手は打っておきたいと思っていた。

 今回の事も正直に言えば流しても良かった内容であったし、実際に元締めが俺に興味を持ってるから会えるのが早いかも、とは聞かされていたし、普通なら数ヶ月待ちになるからと言われていたので本来は俺が文句を言う事がお門違いだ。

 情報屋は嘘を言ってないし、俺を騙そうという意図はなかった。

 なのに、何故、俺は噛みつくように突っかかった行動を取ったかというと、情報の駆け引きは色々あるだろうが、俺でも分かる簡単なのに騙されたと気付かされ難い術。

 『嘘は言ってない。言わなかっただけ』

 これはかなり厄介である。

 字面だけ見ると誠実にも見えるが実体はかなり極悪だ。

 嘘を吐くのは不誠実だから、言わずに済ませたと取れるが、実際、そのような意味でした行動ではない。

 ないとは言わないがあっても稀だろう。

 これは嘘を吐くという不誠実な人物と見られたくないが、相手に教える事によって生まれる不利益を被るのを避けた、もしくは、相手が得する事、損を回避するのを嫌ったから情報を遮断したという見方が自然だ。

 昔、割と有った設定で余命宣告された人にばれないように口を閉ざしたって感じのがあったと思う。

 あれって知らされなかった人は感謝したのだろうか?

 特に寝たきりじゃなく、多少は日常生活が出来る人であれば「もっと早く教えて欲しかった」と思う人が多いのではないだろうか?

 どうせ、死ぬと分かれば、リアル都合で行くのを我慢して行けてなかった旅行などをしてみたいとか思ったり、自分が生きてきた足跡を辿りたいと思ったりするんじゃないだろうか?

 本当に色々有ると思う。

 なのに何故、黙ったか……死と直面した相手と寄り添うのを恐れたからだ。

 確かに自殺を誘発するからという言い訳もあるが話の持って行き方次第であるし、余命宣告されてる時点で早いか遅いかの違いである。なので残りの時間の使い方を模索してあげるのが相手への想いやりではないだろうか。

 相手の性格、異様に打たれ弱いなど、多感な子供であれば、多少は見方が変わるがそれなりに判断が出来る年齢であれば避けようがない現実なのだから、先に述べたような事に協力するなり、奇跡に縋り、闘病生活をすると決断したりした場合、バックアップするのが誠実なのではないだろうか?

 結局、何を言いたいかと言うと前振りが長くなったが、この行動、言動を友達、恋人、夫婦、家族などどれでもいい。

 それら相手にされた時、貴方は昨日と同じように信頼出来ますか?

 『嘘は言ってない。貴方の為に言わなかっただけ』

 と言われて感謝出来るか?

 俺は少なくとも出来ないし、昨日までのような信頼も出来なくなる。特にそれが相手への思い入れの強さに比例して信頼が激減し、酷い場合、不信になってしまう。

 あれだけ好きだったのに信頼が出来なくなった瞬間、「なんでコイツの事が好きだったんだろう?」と思ってしまった事はないだろうか。

 特に恋人や夫婦で信頼が崩れた瞬間にままある出来事のように思う。

 だから、俺は情報屋との信頼を失いたくないという思いを込めて、あのように伝えた。
 直接的な言葉にしなかったのは初回であるし、最初にも言ったが流しても良い状態だったから今後は止めて欲しいという意味合いを汲んで貰いたかったからだ。

 情報屋は俺の意図を汲めたようで、今回はからかう意味もあってした行動だっただろうし、直接的な言い回しを避けた俺にたいして深刻ぶらずに肩を竦めて引き下がった。

 後日に、というのは情報屋が感じた俺の意図と差異があるなら話し合いをする場を設けるという真摯な態度だと俺は思う。

 多少、違ったとしてもその擦り合わせをする気はあると情報屋が言ったのは間違いないと判断して問題なさそうだ。

 俺が黙り込んだのを見て、少しバツ悪そうに頬を掻く情報屋。

 それを見た俺は自分が思っている程、情報屋も図太くないのかもしれないと思い始める。

 それとも俺が思う以上にゴブリンキングの件で俺がした行動が情報屋にとって重要な結果を生み、本気で俺に感謝してたりするのか?

 どちらだとしても少し情報屋に対する好感度が上がった俺は苦笑いをして、気付けば肩に力が入っていたようで力を抜くように吐息をして肩を竦めて話の筋を戻すと情報屋の表情も若干和らぐ。

「で、元締めとコンタクトが取れたんだよな?」
「……ああ、俺が思ってた以上に元締めがアンタにご執心だったようで……」

 少し戸惑いを見せ、そう言った後、一度口を閉ざした情報屋が「むしろ、元締めがコンタクト待ちしてたんじゃないかと思える」と声を顰めて言ってくる。

 コンタクト待ちしてた? あくまで情報屋の主観、情報などと照らし合わせがあるんだろうがおかしくないか。
 どうして俺が接触してくると思っていたんだろう。

 今回の事は偶発的で俺が情報屋と相談しなかったら生まれなかった機会なはずだ。

 だいたい、資金難に陥ったのも『ワイバーンの襲来』があって、避難民、失業者などの受け入れがあったからであり……

 待てよ? 一般に言われている『名もなき英雄』が俺と分かっており、人となりを理解して農場の事も把握しているうえで、リモメ王国にも深く情報の網が広がっているとしたら予測出来た結果なのか?

 予測出来たとして会いたいと思っているなら待てるものなのか? 普通なら遠隔で人やモノを使って誘導したくなるものだ。

 元締め経由で接点があると思われる情報屋はおそらくグルではなさそうだ。情報屋の考えを告げた時の戸惑いは嘘じゃないように感じるし、さっきの今、嘘を絡ませた話をした後でそれはないと信じたいという思いもあるが信用しても良さそうだ。

 おいおい……予測に対する自信もあったのかもしれないが『鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギス』の人かよ。

 こりゃ手強いぞ。

 気付けば額に汗を滲ませる俺を見た情報屋が俺を見定めるように目を細めて言ってくる。

「元締めと会うか? 会わないという選択肢もあるが」

 見定めるように見えた視線だったが良く見ると労わるような温かさがそこにあった。

 負けん気を起こしたように鼻の下を親指で擦り、口の端を上げて笑みを浮かべる。

「会う。会わないと知る事が出来ない事が多そうだ。どこまで元締めの書いた絵なのか、怖いけどな」

 虎穴に入らずんば虎子を得ず、ってか?

 頷いた俺に情報屋が立ち上がると「付いてこい」と言われ、路地裏から出ると用意されていた馬車に乗せられて俺はプリットを後にした。
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