ステータス表記を変えて貰ったら初期設定に戻ってたー女神公認のハーレム漫遊記ー

ささやん

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5章 表舞台へ、静かに階段を上る

73話 男はスケベで惚けた竜と言われる

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 とある屋敷、フェレチオ子爵の邸宅はシーンと静まり返っている。

 普段であるならば屋内屋外問わず私兵が詰めているので騒がしいのだが、今は『名もなき英雄』を拿捕する為にほとんどを外に出している。

 プリットの街を破壊する事できっと『名もなき英雄』は姿を現すであろうという浅はかで愚かしい命令をしていた。
 その過程で正体だけでも確定したら儲けモノということらしい。

 そんな静まっている邸宅の一室、フェレチオ子爵の私室に2人だけがいる。

 1人はここの執事のコカロンとフェレチオ子爵当人である。

「お言葉が過ぎるかとは思いますが復興が見え始めた街を破壊するような事をされて良かったので?」
「構わぬ。『名もなき英雄』の身柄を巫女様がお求めだ。今回出る街の被害の補填も保障されているしな」

 ワイングラスをゆっくりと揺らし、そのグラス越しに見える外の様子を見てほくそ笑む。

 ワインを一口飲むフェレチオ子爵はルパ○の漫画に出てきそうなガリガリの容姿にちょび髭を生やした風貌だ。

「成程、どおりで思い切った手を使われると思ったらそういうカラクリですか」
「誰だっ!」

 その場には自分含めて男2人しかいないはずの場所に女の声がしたのに反応したフェレチオ子爵は慌てて声がした方向にあるドアを振り向くと眼鏡をかけた青髪の小柄な少女に見える人物がいた。

 ピッチリとしたスーツとスカートを履く少女に見える彼女はゆっくりとフェレチオ子爵との距離が10歩程の所で足を止める。

 フェレチオ子爵の隣で見ていたコカロンは目を細めて敵意を滲ませる。

「確か、王国調査官の……」
「ええ、貴方に門前払いされた王国調査官トリルヴィで間違いありません」

 覚えてたらしいコカロンに少し皮肉交じりに言い返すトリルヴィは口許だけの笑みを浮かべる。

 視線をコカロンからフェレチオ子爵に移すと話しかける。

「初めてお目にかかります。今、紹介したようにそこの執事に門前払いされた王国調査官のトリルヴィでございます。フェレチオ子爵を勝手な想像で樽のような豚のようなイメージを持っていた恥ずかしい者です」

 恥じております、と言っているにも関わらず無表情で先程と同じで口許だけ笑みを浮かべる。

 フンッと鼻を鳴らすフェレチオ子爵は不機嫌そうに言う。

「会う約束をした覚えはないぞ。出ていくといい」
「ええ、当然してません。取次を頼んでも前回と同じく門前払いにされていたでしょうし、会えたとして先程洩らしていた巫女様との裏取引がある以上、私の話は聞いて貰えなかったでしょうしね」

 だから、無許可で入ってきたと平然に言ってのけるトリルヴィ。

 平然とするトリルヴィに苛立ちが募るフェレチオ子爵。確かに爵位的にはフェレチオ子爵の方が上ではあるが役職込みで考えるならトリルヴィはフェレチオ子爵に謙る必要はない。

 だが、巫女様がバックにいるというのを知っても態度を変えない事が気になって強行に追い出すという選択を取れずにいる。

「聞く気がないと分かってるなら帰ったらどうだ?」
「ええ、貴方が聞く気がないのは最初から承知の上、ついでに言うなら今回の騒動は事前に掴んでいたので貴方が思うような話はする気はありません」

 知られていた事を驚くフェレチオ子爵に「気付いてたのは私だけではないようですよ」と口だけの笑みを浮かべる。

 もう起こってしまっている事態の糾弾だと思っていたフェレチオ子爵は眉を寄せて考え込もうとしたのを阻止するようにトリルヴィが話しかける。

「これからの貴方の為になる話をしにきました」

 更に疑惑を深めるフェレチオ子爵にトリルヴィは続ける。

「とある所にいる惚けた竜の話です」

 ちょっとスケベで目立つのが好きじゃない、そうお昼寝が好きと言われたら思わず納得してしまうような竜の話を始める。

「人の間では竜の尾を踏むという言葉があります。尾を踏んで怒りを買うという話です。ですがその竜は踏まれても自分から尾の位置を変えるだけでそのまま寝てしまうような呑気な竜なのですよ」
「お前は何を言いたいんだ?」

 トリルヴィの意図が分からず困惑するフェレチオ子爵。

 遠くから聞こえる小さな爆発音が届く。

 トリルヴィはフェレチオ子爵の反応を気にした様子もなく続ける。

「先程の言葉で竜の逆鱗に触れるというのもあります。竜にとっての弱点、人の身である貴方にも分かり易く言うなら股間を遠慮もなく叩かれたら怒りますよね? それと同じ話。ですが、この竜の呑気さはびっくりで守って届かない距離に追い払えればそれでヨシ。しつこく来るなら叩きつぶす」

 そう、ハエに対処するのと変わりません、と肩を竦めるトリルヴィ。

 遠くから聞こえていた爆発音は徐々に近くなってきており、フェレチオ子爵の背後にある窓からも火の手が見えている。

 ますますトリルヴィが何を言いたいか分からなくなり、言い知れない恐怖を覚え始める。

「私は思うのですよ。そのハエを駆逐する力がある竜に立ち上がって欲しいと。しかし、この竜を動かすのは容易じゃありません」

 惚けた顔で話し合いで何とかならないと言いかねない危機感が足りてないと嘆息するトリルヴィに我慢が出来なくなってきた少し声が裏返りながら怒鳴る。

「だから、お前は何の話をしてるんだ!」
「何の話? 今、貴方が置かれている状況を例え話で教えて上げているのですよ」

 そうトリルヴィが言うと同時に更に爆発音が強くなり、遂にはフェレチオ子爵の背後の窓のガラスに衝撃が走り、ビリビリと音をさせる。

 思わず振り返ったフェレチオ子爵の視界には邸宅の近くが燃えているのが見える。

 私兵達には邸宅近くでは決してボヤのレベルでもしないように徹底している。

「王国にたかるハエは貴方達。尾が宝玉を手に入れようと裏でコソコソしていた事、逆鱗はワイバーン騒動です。ですが今回、本当の意味での竜(かれ)の逆鱗に貴方は触れた」

 爆発音は更に酷くなり、窓ガラスにひびが入る。

「触れてはいけない場所を触れようとしているのを私は知っていたにも関わらず、竜(かれ)に伝えなかった貴方達と同じ悪人。それでも私はどうしても巫女様に対抗、王国を救う為には立って貰わないといけなかった」

 本当はスケベで惚けた優しい竜には惰眠を貪って欲しかった。しかし、自分が守りたいものはその竜の力がなくては成り立たない事をどれだけ何度も悔しく思ったか分からない。

 その竜が深い悲しみに包まれる事になっても。

 いつまでも舞台袖の黒子では困るとトリルヴィは思う。

「お、お前が言う竜というのは……」
「ええ、貴方が捜している……」

 そうトリルヴィが言いかけたと同時にフェレチオ子爵の背後の窓が爆発し、フェレチオ子爵とコカロンが情けない悲鳴を上げながらトリルヴィが居る方向に吹き飛ばされ来る。

 窓の所には汚い外套を着た白い仮面を付けた人物がいた。

 倒れるフェレチオ子爵よりも更に1歩前に出て片膝を付けて彼の前で頭を垂れる。

「遂に立つ覚悟が出来ましたでしょうか? 『名もなき英雄』様」
「ああ。今日程、自分の優柔不断さが嫌になった事もない」

 『名もなき英雄』も更に1歩詰める。

 魔力を込め始める『名もなき英雄』はこの場にいる4人を中心に竜巻を起こす。

 その力は凄まじく邸宅が紙クズのように切り裂かれていき粉々になる。

 邸宅が瓦礫の山になり、フェレチオ子爵とコカロンが腰が抜けたらしく必死に後ずさりするのをチラリと見るトリルヴィが前を見据えて言う。

「今度は眼鏡を割る事はありませんよ? 予備もありませんし、高いので勘弁して頂きたいのですが」
「ああ。今回、割るのは……」

 『名もなき英雄』は迷いもなく自分が被っている白い仮面に拳を打ちつけて叩き割る。

 割れた仮面の下にあるのは普段ならどこか眠いのか惚けた顔をする少年の顔ではなく男の顔をしていた。

 尻を擦りながら逃げようとするフェレチオ子爵達に指を突き付ける『名もなき英雄』。

「プリットの冒険者シーナがこの喧嘩買ったっ! 巫女にこっちから出向いてやるから首を洗ってろ、と伝えておけ!」

 『名もなき英雄』ことシーナが高らかに宣言した。
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