ステータス表記を変えて貰ったら初期設定に戻ってたー女神公認のハーレム漫遊記ー

ささやん

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5章 表舞台へ、静かに階段を上る

72話 自分にこんな強い感情がある事を知る男

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 街に全力で飛んでいた俺は手前にあった農場の入口に降り立った。

 そこにはターニャ達が俺を見つけて手を振って呼んでいた事に気付いたからだ。

 降り立った俺に駆け寄るターニャ達に迎えられる。

「みんな無事か?」
「うん、無事よ。ここを襲ってきた輩は撃退して今、捕縛中よ」

 そうターニャが言いながら離れた場所でマロン達、冒険者見習いズがテキパキと悪漢を縛りあげている姿があった。

 ホッとする気持ちと共に怒りが沸いてくる。

 本当に見境なくやってきてやがる!

「シーナ、これってフェレチオ子爵が……」
「ああ、『名もなき英雄』の炙り出しが目的だ」

 握り締める俺の拳にソッと手を添えてくれるのはルイーダ。

 まるで貴方が全部背負う事じゃないっと言ってくれているような気がした俺は逆に情けなくなって歯を食い縛る。

 守りたいと思ってる人達に何、守られてるんだ、俺!

 悔しくて歯を食い縛る俺の顔を両手で掴むターニャはキスをするのかという距離で目を見つめてくる。

「いい? シーナが悪い訳じゃない。シーナは確かに面倒臭がりなところはあるよ。でも表舞台に出るのを決めるのはシーナ、それをどうこう言うヤツはウチがぶん殴る」
「……ありがとう」

 惚れた嫁の言葉は嬉しい。だが、それ以上に悔しい? 良く分からない感情を俺を支配する。

 これは情けないって思ってるんだな、俺……

 ゾロの言うようにもっと早く決断出来ていれば事前に対策を取る事は出来たはずで避けれた未来だった。

 それを理由を付けてのらりくらりしたのは俺だ。

「シーナ……」

 俺を心配そうに見つめるラフィ達3人。

 それに精一杯笑みを浮かべる俺だがきっと笑えてない。

 駄目だ、駄目だ、俺がこんな情けないと心配ばかりかけてしまう。

 被り振った俺はターニャに質問する。

「パメラはどうしたんだ?」

 ここにいないもう1人の嫁の所在を確認する。

「パメラは警備隊と合流して治安維持に出てる」
「そうか、俺も手伝ってくる」

 気合いを入れてそう言う俺は農場のみんなは頼むと集まったみんなに告げる。

「シーナも気を付けてね。任せて、必ず守り切ってみせる」

 そう送り出してくれるターニャ達に頷くと俺は空に飛び上がり、街を目指した。


 街に到着した俺は上空から見える景色に悲しみで目を細める。

「やっとワイバーン騒動の復興が落ち着いてきたところなのに……」

 至る所から煙が立ち昇り、道の端に怪我したらしき人を治療しようとしている姿が見える。

 色んな所から戦うような音がしている。

 どこから手を付ければいいんだ。

「そうだ、こういう時は……」

 俺はこういう情報が回ってそうな場所の心当たりが2つあった。1つは警備隊で残る1つは冒険者ギルドである。

「パメラが警備隊にいるなら俺は冒険者ギルドだな」

 そう決めた俺は急いで街の中心地へ飛ぶ。

 冒険者ギルドを目指しているとその入口付近にたむろう人の姿を確認してそこに降り立つ。

 降り立った先の光景に思わず絶句した俺がふらつく足で近寄る。

 俺の姿に気付いた受付嬢のスピアが目端に涙を浮かべて俺の名を呼ぶ。

「シーナ君、無事だったのね」
「は、はい。そ、それよりも……」

 スピアの周りにいるのは冒険者で顔見知りのベアの姿もあるが誰もが無事とは言えない様子である。

 そちらも心配だが、俺の視線はスピアの腕の中にいるモヒカン頭の男に釘付けになってしまった。

「……俺は……何もし、知らない。知ってても、話す事は……」
「モ、モヒンさんは何も喋らなかったわ。どれだけ暴行を受けようとも」

 ギュッと腕で気絶するモヒンを抱き締めるスピア。

 フェレチオ子爵の使いだと言う奴等に冒険者に『名もなき英雄』がいるはずだと乗り込んできたらしい。

 最初は貴族と対立を避けたかったみんなは知らないとしか言わなかったそうだ。

 だが、モヒンは

「お前等になんぞに『名もなき英雄』が会う訳ないだろうが! さっさと帰れ」

 と捲し立てたら、モヒンから情報が得れると信じた子爵の使い達が暴行という尋問を始めたらしい。

 どれだけ殴られようと刃物を突き付けられようとモヒンは怯まなかった。

 暴行してくる子爵の使いに血が混じった唾を吐きつけ

「俺は何も知らないし、知ってても話す事はねぇ! 帰ってママのオッパイでも咥えてな!」

 と啖呵を切ったそうだ。

 怒り心頭になった子爵の使い達に激しい暴行を受け、気絶したモヒンにトドメを刺そうとした時になってベアを筆頭に冒険者達が立ち上がった。

 そしてやっとの思いで追い返しての今らしい。

 スピアは目端に留めていた涙を流しつつモヒンを胸に抱き続ける。

「モヒンさんはいつも言っていたわ。シーナ君は俺の可愛いコーハイで絶対に守ってかっこいいパイセンであり続けるって」

 そこまで言うとスピアは我慢の限界を迎えたようで声を上げて泣き始める。

 周りにいる冒険者達は見てられないとばかりに視線を逸らす。


「安いとこなんだろうが、コーハイは気が抜けてそうだし、少し良いとこ泊った方がいいな。一泊、銅貨10枚イケるか?」


 初めて冒険者ギルドに行った時に宿を紹介してくれたモヒン。本当に嬉しかった右も左も分からなかった俺に世紀末に現れるザコみたいだと失礼な事を考えていた俺に親切にしてくれた。

 装備もない俺を心配してチロの店を勧めてくれたのもモヒンだった。

 ルイーダに惚れたモヒンが義理を通す為に俺に土下座までしてきた事もあった。

 勿論、当人同士が納得すればと俺は思っていた。

 残念ながらモヒンの想いは届かず、悲しい結果になったが一切モヒンは俺を責めず、責めるどころか感謝すらしてくれたぐらいだ。

 本当に尊敬出来る人だと常々思っている。

 面倒見の良い先輩、何より最初にこの世界に俺にようこそと言ってくれたように感じた人。

 俺は心が冷えたかのような感覚に襲われる。

 静かにポーションを手当たり次第にスピアの前に並べていく。

「ごめんなさい。魔法で癒したいけど制御出来る気がしないんです」

 並べ終えると俺は立ち上がるとスピア、モヒンから背を向ける。

「後はお願いします」

 そう言うと俺は冒険者ギルドからある場所を目指して歩き出す。

 この世界に来るキッカケになった200回殺されたと言われても「うわぁ、マジかよ」ぐらいにしか思わなかった。

 負の感情を長く維持するのが苦手な性分なのだろう。

 だからそういった強い感情を持った事がなかった。

 だが……

 目指す場所を睨みつける俺は呟く。

「そうか、そうか、それがお前達の望みなんだな。だったらお前達がいる舞台で叩き潰してやる」

 シーナ人生で初めて感じる感情、怒りが限界突破した瞬間である。

 こうして『名もなき英雄』が舞台に上がる階段に漸く歩を進めた。
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