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5章 表舞台へ、静かに階段を上る
71話 姉弟の想い会う心を隣で見送った男
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ここではある研究が進められ、破棄されたがその残り香というべきかその研究の失敗過程で生まれた副産物を使って人体実験して最後に本当に捨てられた場所。
その最後の人体実験の結果すらだ。
その研究所跡の入口付近には3~4mぐらいある二足歩行する巨躯な狼がただ佇んでいる。
誰も帰ってくる事がない研究所を守る番犬として存在していた。
護る者、護る物がないと言うのに、製作者が面白半分に破棄するよりとそう設定してしまったのである。
長い運用を考えられた実験ではなかったので放っておいても1年以内、ティテールが利用され始めて同じ期間ぐらい過ぎ、残された命は持って数日という。
巨躯の狼の彼の名はザン。
ティテールの弟だ。
今の彼には理性も以前の記憶も残っていない。
だから、助けようと近寄ったティテールを認識出来ずに殺す気で攻撃したのだから。
そして、再び、ティテールはシーナを連れ立って今度は救う為にここにやってきた。
遠目にザンを捉える事に成功した俺達。
巨躯の狼男と言えば想像出来る姿だ。
情報屋とシズクから得た情報から見た目はただの狼男だが、内情は全然違うモノにされている所謂キメラだと聞かされている。
横にいるティテールを見る。
悔しそうにはしてるが落ち着いている様子に胸を撫で下ろす。
良かった。結果論ではあるがあの激しい葛藤を性欲で発散した事で賢者タイムのような効果か何かで落ち着いてくれたようで。
ホッとしているとスキル製造機が
『私は優秀なので』
煩いよ!
間違ってはいないが一歩間違えれば最悪の事態もあったのも事実。
かと言って他に俺の代案がなかったので多くは文句は言えない。
それ以外にも救う術を伝え、その力を自覚した時にだいぶ落ち着いたように見えたから本能的に自分を信じる指針が出来たのが大きいのかも。
俺はザンを見つめながら告げる。
「ザンは俺が確実に抑える。抑えたら……」
「分かってる。そのチャンスで私がザンを救う」
強い視線を俺に向けてくるティテールに俺も強く頷き返す。
俺は剣を抜刀し、姿勢を低くするとティテールに言う。
「何があっても飛び出してくるな。俺の合図があるまで」
ティテールが頷くのを確認した俺は飛び出す。
飛び出した俺を視認しているはずだが、まだ動かない。
それは一定の距離に来るまで迎撃行動を起こさないと聞かされていたので驚きはないが悲しみはある。
やっぱりザンの意識、考える事は出来ないか……
そう迎撃システムのように範囲に入ったモノを攻撃するだけの存在に成り下がっている。
俺がその範囲に入ったようで緩慢に動き始めるザン。
ウオォォォ――――!!
そう叫ぶとザンの背中から触手が生まれ、俺に襲いかかってくる。
ヌメヌメとしていて捕まったら気持ち悪そうだ。
エロ漫画で女の子が捕まるシチュエーションがあるアレな感じだ。
俺は構わず飛び込むようにして剣を振るう。
「俺が捕まっても需要がねぇ―よ!」
襲いかかる触手を一刀で切断してその勢いで思わずザンまで斬ろうとしたが慌てて剣を引き戻す。
危ない流れでそのまま斬り殺すところだった。
倒すだけなら容易だ。
何より、ザンの寿命は尽きようとしてる、まさに風前の灯なのだから。
本来ならティテールでも殺すだけなら出来ただろうというぐらいに弱っている。
だが、目的が違うので殺す事は出来ても無力化、捕縛は無理だったのだ。
こうやって戦ってる間にも寿命が、いや、この戦闘で寿命が加速的に尽きようとしている時間はかけられない。
俺は水魔法でザンの下半身に球体を生みだして拘束する。
そして
「これで完全に拘束する!」
水で生み出された水球を凍らせる。
俺は振り返ってティテールの名を呼ぶ。
「今だ、やれ、ティテールっ!!」
振り返った先のティテールは俺の言葉が来る前からスタンバっていたようで全身に黄色のオーラを纏ってこちらを見据えていた。
ティテール達の種族は銀狼族。
銀狼族の男は変身能力に目覚める。これを利用されて実体実験されてしまったザンであるが女性であるティテールにはそれはない。
だが、女性だけが発現する能力がある。
この能力、ザンの変身能力もだが本来は両親から伝えられ、継承する形で自覚していく能力だ。
今回は情報屋とシズクから情報を得た俺がした。
その能力は変身解除だ。それも1回こっきりしか使う事が出来ない。
変身能力は強力だが扱いが難しい。
そのせいか力に溺れる者、自我を失ってしまうものが過去にそれなりにいたようだ。
生命の不思議と言っていいのかその相方にはそれを止める手段が存在した、それが変身解除だ。
変身能力でおかしくなった者を止めるのは
時には母親、妻、恋人、姉妹といった同種族の女性達であった。
ティテールは纏った黄色のオーラを右拳に集中させ始める。
前に防具屋のチロなどから聞いた話でザンが生命力が流れるという話があった。あれは人間形態になってもなってしまうという奇病で変身能力を使っている時にも起こってしまう。
銀狼族は情厚き一族である。
例え、力に溺れようと自我を失おうと殺して止めるというのは種族的性格上難しい。
変身能力に飲まれて使い続けると魂まで消滅すると一族では伝承されている。それはシズクに確認を取ったところ本当の事らしい。
変身解除に対象された相手は絶命してしまうが魂は守られる。
「うおおおぉぉ!」
ティテールは涙を流しながら拳を振り上げ、そして俺に拘束されるザン目掛けてオーラを放つ為に拳を突き出す。
せめて、愛する家族、兄弟、恋人を人として逝かせて上げたいという願いを込められた能力。
銀狼族の女性達はこの能力を変身解除とは呼ばない。彼女達はこの能力を……
ティテールは放つ為に叫ぶ。
『ラストラブ』
そう呼ぶ。
言葉通りに愛する人に最後に出来るたった一つの方法。
助ける事が出来ず、救う事しか出来ずに苦しむ女の最後の愛。
ティテールの黄色のオーラが飛び、ザンに命中すると頭を抱えて苦しみ出す。
自分が下した結果から決して目を逸らさないとばかりに涙を流すティテールはジッと見つめる。
すると、ザンの体から半透明な姿のティテールの面影がある少年が現れる。
「……ザンっ!」
どうやら本来の弟のザンらしい。優しい瞳をしてティテールを見つめ返している。
俺はこの場で何かを発言するのは相応しくない。だが、ラストラブを放ったティテールがふらつくのに気付いてソッと肩を抱いて立たせる。
「姉さん、有難う。僕を救ってくれて」
「ざ、ザンっ!」
ティテールは先程から弟の名しか呼べずにいる。きっと名以外の事を口にすると感情が爆発して泣き崩れてしまい、ザンを見送れない事を分かってしまっているのだろう。
だから、せめて俺は崩れてしまわないように体を支えよう。
「途中から僕の記憶がないけど、きっと姉さんは僕を助ける為に頑張って、ううん、頑張り過ぎたんだろうね。本当にごめんね?」
申し訳なさそうにするザンに頑張ってない苦労してないと言いたいのだろうが力なく首を横に振るのが精一杯なティテール。
そんなティテールを愛おしそうに見つめるザンの視線が俺に移る。
「姉さんをお願いしていいかな? こう見えて弱い所もある人だから」
「任せろ。俺の可能な限り、その願い叶えるから」
「ありがとう」
二コリと笑うザンの体の透明度が上がり始める。
ティテールも俺もそれに気付くが当の本人も気付いたようだ。
「そろそろ時間みたい」
「ま、待て、私は何もお前に何一つ伝えてない!」
感情が爆発したティテールが激昂する。
そんなティテールに微笑みかけるザンは
「ううん、いっぱい、本当にいっぱい僕の心に届いているよ」
「待て、ザン!」
俺の腕から飛び出したティテールがザンの体を抱いて止めようとするが消えていく。
最後に顔が消える直前、ザンの最後の言葉。
「姉さん、幸せになってね」
ザンを抱くはずだった腕で自分を抱き締めるティテールの慟哭が森の中で木霊した。
それから2時間ぐらい経っただろうか。だいぶティテールの様子が落ち着きを見せ始めた。
ザンの本来の狼男になっていた体はザンが消えたと同時に塵になって土に返った。
小康状態になったティテールの様子を見て少し安堵する。
ちょっと後追い自殺をしかねないと思ってしまったからだ。
そろそろ声をかけても大丈夫かな?
そう思っていると背後、街がある方向から激しい音が響き渡る。
「なっ!!」
振り返ると遠い先が真っ赤になっているのを見て目を見開く。
「な、何が起きているんだ!」
「始まったようじゃな」
俺は慌てて声がした木々の方向に目を向けると片眼鏡をした老執事姿を発見する。
そこにいたのは先代元締めゾロ。
先日あったから忘れないがどうしてここに、と思ってしまったがそれよりも確認したい事がある。
「ゾロさん、始まったって!?」
詰め寄るようにゾロさんに近づいて行くが掌で止められ街がある方向に顔を向ける。
「フェレチオ子爵を覚えているか? アレが遂に『名もなき英雄』を捕える為になり振り構わなくなったようだな」
落ち着いた様子で言うのを見てある事に気付く。
「ま、まさかこうなる事を想定してた、のか」
俺の問いに「ああ」とあっさりと頷く。
激昂した俺がゾロの胸倉を掴み上げる。
「どうして事前に教えてくれなかった! 俺を仲間に引き込みたかったのじゃないのか!」
「その通りだ。仲間に引き込みたかった。だがら下僕になりたかった訳じゃない。ケツに火が点いている事にも気付かず返事を保留にしたお前に全ての情報を開示する義務はないはずだが?」
吊るし上げられているのにも関わらず苦しそうにするどころか涼しい顔で俺を見下してくる。
くっ! 確かにゾロさんの言う通りだ……何も提供出来ない、してない俺がクレクレと言っているヤツに提供出来るものはない。
だが……
葛藤する俺に片眼鏡を整えるゾロが言う。
「ここでノロノロしていていいのか? ここで無駄に時間を過ごせばどんどん手遅れになるが」
俺はゾロを解放してすぐに飛び出そうとしたが躊躇ってしまう。
俺の後ろでは弟を失って悲しむティテールの事があったからだ。
「私はもう大丈夫だ。すぐに向かうといい。あの街は私にとっても大事で恩人もいる」
後から自分も向かうとまだ目は赤いがしっかりとした瞳で見つめ返してくるティテールに頷いて返す。
今度は迷わず俺は飛び上がると空を駆ける。
俺の大事なモノが詰まった街に向かって全力で飛んだ。
その最後の人体実験の結果すらだ。
その研究所跡の入口付近には3~4mぐらいある二足歩行する巨躯な狼がただ佇んでいる。
誰も帰ってくる事がない研究所を守る番犬として存在していた。
護る者、護る物がないと言うのに、製作者が面白半分に破棄するよりとそう設定してしまったのである。
長い運用を考えられた実験ではなかったので放っておいても1年以内、ティテールが利用され始めて同じ期間ぐらい過ぎ、残された命は持って数日という。
巨躯の狼の彼の名はザン。
ティテールの弟だ。
今の彼には理性も以前の記憶も残っていない。
だから、助けようと近寄ったティテールを認識出来ずに殺す気で攻撃したのだから。
そして、再び、ティテールはシーナを連れ立って今度は救う為にここにやってきた。
遠目にザンを捉える事に成功した俺達。
巨躯の狼男と言えば想像出来る姿だ。
情報屋とシズクから得た情報から見た目はただの狼男だが、内情は全然違うモノにされている所謂キメラだと聞かされている。
横にいるティテールを見る。
悔しそうにはしてるが落ち着いている様子に胸を撫で下ろす。
良かった。結果論ではあるがあの激しい葛藤を性欲で発散した事で賢者タイムのような効果か何かで落ち着いてくれたようで。
ホッとしているとスキル製造機が
『私は優秀なので』
煩いよ!
間違ってはいないが一歩間違えれば最悪の事態もあったのも事実。
かと言って他に俺の代案がなかったので多くは文句は言えない。
それ以外にも救う術を伝え、その力を自覚した時にだいぶ落ち着いたように見えたから本能的に自分を信じる指針が出来たのが大きいのかも。
俺はザンを見つめながら告げる。
「ザンは俺が確実に抑える。抑えたら……」
「分かってる。そのチャンスで私がザンを救う」
強い視線を俺に向けてくるティテールに俺も強く頷き返す。
俺は剣を抜刀し、姿勢を低くするとティテールに言う。
「何があっても飛び出してくるな。俺の合図があるまで」
ティテールが頷くのを確認した俺は飛び出す。
飛び出した俺を視認しているはずだが、まだ動かない。
それは一定の距離に来るまで迎撃行動を起こさないと聞かされていたので驚きはないが悲しみはある。
やっぱりザンの意識、考える事は出来ないか……
そう迎撃システムのように範囲に入ったモノを攻撃するだけの存在に成り下がっている。
俺がその範囲に入ったようで緩慢に動き始めるザン。
ウオォォォ――――!!
そう叫ぶとザンの背中から触手が生まれ、俺に襲いかかってくる。
ヌメヌメとしていて捕まったら気持ち悪そうだ。
エロ漫画で女の子が捕まるシチュエーションがあるアレな感じだ。
俺は構わず飛び込むようにして剣を振るう。
「俺が捕まっても需要がねぇ―よ!」
襲いかかる触手を一刀で切断してその勢いで思わずザンまで斬ろうとしたが慌てて剣を引き戻す。
危ない流れでそのまま斬り殺すところだった。
倒すだけなら容易だ。
何より、ザンの寿命は尽きようとしてる、まさに風前の灯なのだから。
本来ならティテールでも殺すだけなら出来ただろうというぐらいに弱っている。
だが、目的が違うので殺す事は出来ても無力化、捕縛は無理だったのだ。
こうやって戦ってる間にも寿命が、いや、この戦闘で寿命が加速的に尽きようとしている時間はかけられない。
俺は水魔法でザンの下半身に球体を生みだして拘束する。
そして
「これで完全に拘束する!」
水で生み出された水球を凍らせる。
俺は振り返ってティテールの名を呼ぶ。
「今だ、やれ、ティテールっ!!」
振り返った先のティテールは俺の言葉が来る前からスタンバっていたようで全身に黄色のオーラを纏ってこちらを見据えていた。
ティテール達の種族は銀狼族。
銀狼族の男は変身能力に目覚める。これを利用されて実体実験されてしまったザンであるが女性であるティテールにはそれはない。
だが、女性だけが発現する能力がある。
この能力、ザンの変身能力もだが本来は両親から伝えられ、継承する形で自覚していく能力だ。
今回は情報屋とシズクから情報を得た俺がした。
その能力は変身解除だ。それも1回こっきりしか使う事が出来ない。
変身能力は強力だが扱いが難しい。
そのせいか力に溺れる者、自我を失ってしまうものが過去にそれなりにいたようだ。
生命の不思議と言っていいのかその相方にはそれを止める手段が存在した、それが変身解除だ。
変身能力でおかしくなった者を止めるのは
時には母親、妻、恋人、姉妹といった同種族の女性達であった。
ティテールは纏った黄色のオーラを右拳に集中させ始める。
前に防具屋のチロなどから聞いた話でザンが生命力が流れるという話があった。あれは人間形態になってもなってしまうという奇病で変身能力を使っている時にも起こってしまう。
銀狼族は情厚き一族である。
例え、力に溺れようと自我を失おうと殺して止めるというのは種族的性格上難しい。
変身能力に飲まれて使い続けると魂まで消滅すると一族では伝承されている。それはシズクに確認を取ったところ本当の事らしい。
変身解除に対象された相手は絶命してしまうが魂は守られる。
「うおおおぉぉ!」
ティテールは涙を流しながら拳を振り上げ、そして俺に拘束されるザン目掛けてオーラを放つ為に拳を突き出す。
せめて、愛する家族、兄弟、恋人を人として逝かせて上げたいという願いを込められた能力。
銀狼族の女性達はこの能力を変身解除とは呼ばない。彼女達はこの能力を……
ティテールは放つ為に叫ぶ。
『ラストラブ』
そう呼ぶ。
言葉通りに愛する人に最後に出来るたった一つの方法。
助ける事が出来ず、救う事しか出来ずに苦しむ女の最後の愛。
ティテールの黄色のオーラが飛び、ザンに命中すると頭を抱えて苦しみ出す。
自分が下した結果から決して目を逸らさないとばかりに涙を流すティテールはジッと見つめる。
すると、ザンの体から半透明な姿のティテールの面影がある少年が現れる。
「……ザンっ!」
どうやら本来の弟のザンらしい。優しい瞳をしてティテールを見つめ返している。
俺はこの場で何かを発言するのは相応しくない。だが、ラストラブを放ったティテールがふらつくのに気付いてソッと肩を抱いて立たせる。
「姉さん、有難う。僕を救ってくれて」
「ざ、ザンっ!」
ティテールは先程から弟の名しか呼べずにいる。きっと名以外の事を口にすると感情が爆発して泣き崩れてしまい、ザンを見送れない事を分かってしまっているのだろう。
だから、せめて俺は崩れてしまわないように体を支えよう。
「途中から僕の記憶がないけど、きっと姉さんは僕を助ける為に頑張って、ううん、頑張り過ぎたんだろうね。本当にごめんね?」
申し訳なさそうにするザンに頑張ってない苦労してないと言いたいのだろうが力なく首を横に振るのが精一杯なティテール。
そんなティテールを愛おしそうに見つめるザンの視線が俺に移る。
「姉さんをお願いしていいかな? こう見えて弱い所もある人だから」
「任せろ。俺の可能な限り、その願い叶えるから」
「ありがとう」
二コリと笑うザンの体の透明度が上がり始める。
ティテールも俺もそれに気付くが当の本人も気付いたようだ。
「そろそろ時間みたい」
「ま、待て、私は何もお前に何一つ伝えてない!」
感情が爆発したティテールが激昂する。
そんなティテールに微笑みかけるザンは
「ううん、いっぱい、本当にいっぱい僕の心に届いているよ」
「待て、ザン!」
俺の腕から飛び出したティテールがザンの体を抱いて止めようとするが消えていく。
最後に顔が消える直前、ザンの最後の言葉。
「姉さん、幸せになってね」
ザンを抱くはずだった腕で自分を抱き締めるティテールの慟哭が森の中で木霊した。
それから2時間ぐらい経っただろうか。だいぶティテールの様子が落ち着きを見せ始めた。
ザンの本来の狼男になっていた体はザンが消えたと同時に塵になって土に返った。
小康状態になったティテールの様子を見て少し安堵する。
ちょっと後追い自殺をしかねないと思ってしまったからだ。
そろそろ声をかけても大丈夫かな?
そう思っていると背後、街がある方向から激しい音が響き渡る。
「なっ!!」
振り返ると遠い先が真っ赤になっているのを見て目を見開く。
「な、何が起きているんだ!」
「始まったようじゃな」
俺は慌てて声がした木々の方向に目を向けると片眼鏡をした老執事姿を発見する。
そこにいたのは先代元締めゾロ。
先日あったから忘れないがどうしてここに、と思ってしまったがそれよりも確認したい事がある。
「ゾロさん、始まったって!?」
詰め寄るようにゾロさんに近づいて行くが掌で止められ街がある方向に顔を向ける。
「フェレチオ子爵を覚えているか? アレが遂に『名もなき英雄』を捕える為になり振り構わなくなったようだな」
落ち着いた様子で言うのを見てある事に気付く。
「ま、まさかこうなる事を想定してた、のか」
俺の問いに「ああ」とあっさりと頷く。
激昂した俺がゾロの胸倉を掴み上げる。
「どうして事前に教えてくれなかった! 俺を仲間に引き込みたかったのじゃないのか!」
「その通りだ。仲間に引き込みたかった。だがら下僕になりたかった訳じゃない。ケツに火が点いている事にも気付かず返事を保留にしたお前に全ての情報を開示する義務はないはずだが?」
吊るし上げられているのにも関わらず苦しそうにするどころか涼しい顔で俺を見下してくる。
くっ! 確かにゾロさんの言う通りだ……何も提供出来ない、してない俺がクレクレと言っているヤツに提供出来るものはない。
だが……
葛藤する俺に片眼鏡を整えるゾロが言う。
「ここでノロノロしていていいのか? ここで無駄に時間を過ごせばどんどん手遅れになるが」
俺はゾロを解放してすぐに飛び出そうとしたが躊躇ってしまう。
俺の後ろでは弟を失って悲しむティテールの事があったからだ。
「私はもう大丈夫だ。すぐに向かうといい。あの街は私にとっても大事で恩人もいる」
後から自分も向かうとまだ目は赤いがしっかりとした瞳で見つめ返してくるティテールに頷いて返す。
今度は迷わず俺は飛び上がると空を駆ける。
俺の大事なモノが詰まった街に向かって全力で飛んだ。
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