2 / 4
プロローグ: 因習村の狐神2
しおりを挟む
仁は父が購入した別宅に一人住んでいるらしい。
商社を営む彼の父は、拠点の日本に彼を置いて、妻と異国を飛び回っているそうだ。
俺は仁に誘われるがまま別宅へと向かう事にした。
部屋の調度品は綺麗にまとまり、優美さよりも実用性を重視した、まさに学者らしい無機質な部屋であった。
応接室に促され、高級そうなカップとソーサーで茶を出された。
錆色だが不思議な香りで、英国でよく飲まれているとの事だった。
「改めて自己紹介するが、俺は池内宗太郎と言って、武家出身の元軍人だ。見ての通り、左目が見えねぇ。一応体力や腕力には自信があるんだが……」
「そのあたりは問題ありません。事前調査済みです」
あの阿久津が俺の情報を渡していないはずないもんな。
俺は出された茶をすする。
何だ、意外と美味いじゃないか。
「外だから詳しく聞けなかったけどよ、なんだってあんな依頼引き受けたんだ?見たところ金に困っているようでもないし」
「阿久津さんに紹介いただいた通り、私は民俗学を主に研究しています。最近では近代化で昔の風習が薄れ行きつつありますから、その保全活動が主です。それとは別に、あの村の狐神について前から気になっていたのですが、個人的な興味に国家予算を使う訳にはいきませんし、一人で調べる事ができるほど裕福ではありませんから、研究室に協力依頼が来た時は正に渡りに船でした」
先程見せられた絵巻も、かなり苦労をして手に入れたそうだ。門外不出の村を調べるには個人ではどうにもならない事も多いのだろう。
「なる程、そりゃおかしな条件でも手を挙げる訳だ。それで、どこまで村について分かったんだ?」
すると、仁が不思議そうな顔をした。
「あなたは私が見初めた、村とは関係のない出自の夫という設定ですので、詳しい情報は必要がないのではないでしょうか?」
この男は嫌味ではなく、本気で何のために?と思っているらしかった。
「アンタ、学者先生のくせに文武両道という言葉を知らないのか?俺は当てずっぽうに攻め込むタチじゃねえんだよ。しっかり戦略を立てて相手の弱点を見据えて挑みたいんだ。不安要素を事前に潰さねえと、勝てるものも勝てない。戦いというものは力が全てではないんだ」
「なるほど、納得できる回答です。不確定要素も多いのですが、わかる範囲で共有させていただきます」
先ほど阿久津からも説明があった通り、あの村の若者に兵役の通達が送られた。
すると、3日後に母親から彼を含む5人の15歳~20歳の若者が忽然と姿を消したと警察へ通報があった。
「随分と早いな」
「はい。準備もなく、人目につかないように村を出る必要がありますよね。それに、彼らはあの村内で婚姻しているため親族の殆どはあの村に居るので、外への手引きが難しい。それなのに、彼らが近隣の宿に泊まったという形跡もないそうです」
警察は、近隣の村や集落に聞き込みをしたが、だれも知らないという。
すると村の長老が、お狐様が助けてくださったのだ。と騒ぎ始めたのだそうだ。
昔、あの村は疫病や災害により飢饉が発生し、一時期は半分以上の村人が亡くなったというのだ。
そんな時現れたのが、狐神である。
「あの神は少し変わっていまして、最初は悪戯をする悪い神様だと言われていたそうです」
狐神は、元は子どもを連れ去ってしまう悪い神だった。だが水害が発生した時、連れ去られた子ども達は災害から守られ、全員無事だったというのだ。
「村人達は、神に感謝し共生の方法を模索したそうです」
「都合のいい話だな」
そこからはさっき見た絵巻の通り、狐神が村の再生に尽力していた。
「これは、狐神様が身籠る為のまぐわいの義です」
大きな焚き火の前で男と絡み合い、その周りには複数の目が向けられていた。
「村全員で見てんのか?悪趣味な」
しかし、身籠った狐神は村を去ってしまった。
「神様はどこ行っちまったんだ?」
「それが分からないのです。この結末、違和感があると思いませんか?私は本当の結末は歴史に葬り去られたのではないかと考えているんです」
「村中に行為の監視されちゃあ、誰だって逃げたくもなるってもんだ」
「では、何故身籠った後に逃げたのでしょうか」
商社を営む彼の父は、拠点の日本に彼を置いて、妻と異国を飛び回っているそうだ。
俺は仁に誘われるがまま別宅へと向かう事にした。
部屋の調度品は綺麗にまとまり、優美さよりも実用性を重視した、まさに学者らしい無機質な部屋であった。
応接室に促され、高級そうなカップとソーサーで茶を出された。
錆色だが不思議な香りで、英国でよく飲まれているとの事だった。
「改めて自己紹介するが、俺は池内宗太郎と言って、武家出身の元軍人だ。見ての通り、左目が見えねぇ。一応体力や腕力には自信があるんだが……」
「そのあたりは問題ありません。事前調査済みです」
あの阿久津が俺の情報を渡していないはずないもんな。
俺は出された茶をすする。
何だ、意外と美味いじゃないか。
「外だから詳しく聞けなかったけどよ、なんだってあんな依頼引き受けたんだ?見たところ金に困っているようでもないし」
「阿久津さんに紹介いただいた通り、私は民俗学を主に研究しています。最近では近代化で昔の風習が薄れ行きつつありますから、その保全活動が主です。それとは別に、あの村の狐神について前から気になっていたのですが、個人的な興味に国家予算を使う訳にはいきませんし、一人で調べる事ができるほど裕福ではありませんから、研究室に協力依頼が来た時は正に渡りに船でした」
先程見せられた絵巻も、かなり苦労をして手に入れたそうだ。門外不出の村を調べるには個人ではどうにもならない事も多いのだろう。
「なる程、そりゃおかしな条件でも手を挙げる訳だ。それで、どこまで村について分かったんだ?」
すると、仁が不思議そうな顔をした。
「あなたは私が見初めた、村とは関係のない出自の夫という設定ですので、詳しい情報は必要がないのではないでしょうか?」
この男は嫌味ではなく、本気で何のために?と思っているらしかった。
「アンタ、学者先生のくせに文武両道という言葉を知らないのか?俺は当てずっぽうに攻め込むタチじゃねえんだよ。しっかり戦略を立てて相手の弱点を見据えて挑みたいんだ。不安要素を事前に潰さねえと、勝てるものも勝てない。戦いというものは力が全てではないんだ」
「なるほど、納得できる回答です。不確定要素も多いのですが、わかる範囲で共有させていただきます」
先ほど阿久津からも説明があった通り、あの村の若者に兵役の通達が送られた。
すると、3日後に母親から彼を含む5人の15歳~20歳の若者が忽然と姿を消したと警察へ通報があった。
「随分と早いな」
「はい。準備もなく、人目につかないように村を出る必要がありますよね。それに、彼らはあの村内で婚姻しているため親族の殆どはあの村に居るので、外への手引きが難しい。それなのに、彼らが近隣の宿に泊まったという形跡もないそうです」
警察は、近隣の村や集落に聞き込みをしたが、だれも知らないという。
すると村の長老が、お狐様が助けてくださったのだ。と騒ぎ始めたのだそうだ。
昔、あの村は疫病や災害により飢饉が発生し、一時期は半分以上の村人が亡くなったというのだ。
そんな時現れたのが、狐神である。
「あの神は少し変わっていまして、最初は悪戯をする悪い神様だと言われていたそうです」
狐神は、元は子どもを連れ去ってしまう悪い神だった。だが水害が発生した時、連れ去られた子ども達は災害から守られ、全員無事だったというのだ。
「村人達は、神に感謝し共生の方法を模索したそうです」
「都合のいい話だな」
そこからはさっき見た絵巻の通り、狐神が村の再生に尽力していた。
「これは、狐神様が身籠る為のまぐわいの義です」
大きな焚き火の前で男と絡み合い、その周りには複数の目が向けられていた。
「村全員で見てんのか?悪趣味な」
しかし、身籠った狐神は村を去ってしまった。
「神様はどこ行っちまったんだ?」
「それが分からないのです。この結末、違和感があると思いませんか?私は本当の結末は歴史に葬り去られたのではないかと考えているんです」
「村中に行為の監視されちゃあ、誰だって逃げたくもなるってもんだ」
「では、何故身籠った後に逃げたのでしょうか」
0
あなたにおすすめの小説
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー
AI比較企画作品
姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王
ミクリ21
BL
姫が拐われた!
……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。
しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。
誰が拐われたのかを調べる皆。
一方魔王は?
「姫じゃなくて勇者なんだが」
「え?」
姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる