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プロローグ:仮初夫婦2
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仮初夫婦生活に慣れる為、俺の家は帝都よりも離れているから、潜入までは仁の屋敷に厄介になる事になった。
世話になっている農家に挨拶をし、荷物をまとめる際に、なんか顔が生き生きしちょるねぇ。なんて言われてしまった。
俺には特別秀でた才能はない。だから努力して、努力して、基礎を怠らず、体力づくりをし、機会を待っていた。
だから身体の欠損は俺の人生に大きな亀裂を生んだ。
悔しいが、阿久津には感謝している。跡取りでもない次男坊の俺には、どんなに努力しても超えられない壁がある。
俺は久しぶりに身体中に血が巡るのを感じていた。
やはり俺は武人で、この力を持ってして功績を挙げたかった。
……だが。
「いつまで手を握っているんだ。このままだと俺たちはじじいになるぞ」
「ですが、番には……積み重ねた信頼関係が……」
「積み重ねる余裕なんか無いと言っているんだ」
最初に仁と話してから、俺たちの仮初夫婦生活はずっとこの調子だった。
手を握れば真っ赤になり、肩を寄せれば妙な呻き声を上げる。
顔だけ見れば女に困っていなさそうなこの男の非常に初心な反応に、俺はヤキモキしながら応じていた。
潜入まであと一週間もない。あの絵巻を見るに、狐神の子孫として潜入するのであれば、この反応ではいけない。
それを指摘すると、
「だったら、あなたが好きに動いたらどうです?」
と、仁は拗ねてそっぽを向いてしまった。
くそ、阿久津の野郎、あいつ分かっていて俺を呼んだな。
学生時代もそうだった。下の代の世話をするのはいつも俺で、それなのに阿久津は銃が上手いから、年下に持てはやされていたのだ。
別にちやほやされたいわけじゃないが、いいとこ取りで腹立たしいと思うくらいは許してほしい。
「言ったな?後悔するなよ」
このままじゃいつまで経っても終わりそうにないし、揉めて軋轢を生んだまま任務に当たるのは危険すぎる。
仁は知識に貪欲で、吸収も早い。人との関わりが希薄なだけだ。
触れ合いに慣れさせる必要がある。
俺は仁を抱き寄せ、両頬に口づけた。
これは洋風の挨拶だと異国の男が言っていた。
手の甲にもする場合があるらしいが、頬の方が親愛度が高いのだそうだ。
俺ですら最初は抵抗があったのだ。田舎者ばかりの閉鎖的な村に見せるには十分だ。
仁は母が異国の者みたいだし、慣れているだろう。そう考えていたのだが。
仁は情けない声をあげて飛び退いた。
「あなたは……キスッ……することに抵抗が無いんですか!!」
「きす……?こんなもん、挨拶だろう?舶来の男達だってしていたじゃねえか。それに、昔飼ってた犬にいくらでもしてやったぞ?」
「い、犬……?」
「ああ、喜んで尻尾を振って可愛いもんだったよ。あいつもよく俺の口を舐めてきてなあ、口にするんじゃないんだ。そう変わらんさ」
「いぬ……」
「ん?挨拶なんじゃねえのか?」
「あ、あいにく!私は日本育ちなものですから。あなたという人は、随分と"スケコマシ"なのですね」
「ああん?言ったな?」
「わっ!いきなり何を……」
俺はそのまま三人掛けソファに仁を押し倒した。
「何赤くなってる。元よりここまでする予定だったんだろ?春画を見せて、何するか丁寧に教えてくれたじゃねえか」
俺は仁の腰を撫でてやった。思っていたよりも細く、一瞬手が止まる。
「あっ……そこは……まだ洗ってな……ッ」
するすると腰から腹へ移動させる。
「ま、待って……っう、あっ、あっ、な、何?」
そのまま仁の腹をグッグッと押してやった。声を出したまま腹を押され、仁は子どもが持っている蛙の玩具のように喘ぎ声を出す。
「あっ、ちょ、ちょっ、う、まて、待って!!」
「こうすると、喘いでるように聞こえるだろ?」
「ぇ……?」
「布団を被っちまえば中が見えないから一番いいんだがな、何が何でも上着は死守するぞ」
「何を……」
「何って、俺たちは夜毎"コレ"をしている関係なんだろ?何もあけすけに見せる必要はない。そう思わせればいいんだから」
「……阿久津さんが、あなたに任せれば心配ないと言っていた理由が分かりました」
「あいつが俺を褒めるなんて、明日は雹が降るんじゃねえか?」
「いえ、判断力と応用力に優れ、観察眼も鋭い。あなたが戦場に居たら敵は苦渋を嘗めさせられた事でしょう。それだけに……惜しいですね」
仁は俺の、使い物にならなくなった左目に手を添えた。
世話になっている農家に挨拶をし、荷物をまとめる際に、なんか顔が生き生きしちょるねぇ。なんて言われてしまった。
俺には特別秀でた才能はない。だから努力して、努力して、基礎を怠らず、体力づくりをし、機会を待っていた。
だから身体の欠損は俺の人生に大きな亀裂を生んだ。
悔しいが、阿久津には感謝している。跡取りでもない次男坊の俺には、どんなに努力しても超えられない壁がある。
俺は久しぶりに身体中に血が巡るのを感じていた。
やはり俺は武人で、この力を持ってして功績を挙げたかった。
……だが。
「いつまで手を握っているんだ。このままだと俺たちはじじいになるぞ」
「ですが、番には……積み重ねた信頼関係が……」
「積み重ねる余裕なんか無いと言っているんだ」
最初に仁と話してから、俺たちの仮初夫婦生活はずっとこの調子だった。
手を握れば真っ赤になり、肩を寄せれば妙な呻き声を上げる。
顔だけ見れば女に困っていなさそうなこの男の非常に初心な反応に、俺はヤキモキしながら応じていた。
潜入まであと一週間もない。あの絵巻を見るに、狐神の子孫として潜入するのであれば、この反応ではいけない。
それを指摘すると、
「だったら、あなたが好きに動いたらどうです?」
と、仁は拗ねてそっぽを向いてしまった。
くそ、阿久津の野郎、あいつ分かっていて俺を呼んだな。
学生時代もそうだった。下の代の世話をするのはいつも俺で、それなのに阿久津は銃が上手いから、年下に持てはやされていたのだ。
別にちやほやされたいわけじゃないが、いいとこ取りで腹立たしいと思うくらいは許してほしい。
「言ったな?後悔するなよ」
このままじゃいつまで経っても終わりそうにないし、揉めて軋轢を生んだまま任務に当たるのは危険すぎる。
仁は知識に貪欲で、吸収も早い。人との関わりが希薄なだけだ。
触れ合いに慣れさせる必要がある。
俺は仁を抱き寄せ、両頬に口づけた。
これは洋風の挨拶だと異国の男が言っていた。
手の甲にもする場合があるらしいが、頬の方が親愛度が高いのだそうだ。
俺ですら最初は抵抗があったのだ。田舎者ばかりの閉鎖的な村に見せるには十分だ。
仁は母が異国の者みたいだし、慣れているだろう。そう考えていたのだが。
仁は情けない声をあげて飛び退いた。
「あなたは……キスッ……することに抵抗が無いんですか!!」
「きす……?こんなもん、挨拶だろう?舶来の男達だってしていたじゃねえか。それに、昔飼ってた犬にいくらでもしてやったぞ?」
「い、犬……?」
「ああ、喜んで尻尾を振って可愛いもんだったよ。あいつもよく俺の口を舐めてきてなあ、口にするんじゃないんだ。そう変わらんさ」
「いぬ……」
「ん?挨拶なんじゃねえのか?」
「あ、あいにく!私は日本育ちなものですから。あなたという人は、随分と"スケコマシ"なのですね」
「ああん?言ったな?」
「わっ!いきなり何を……」
俺はそのまま三人掛けソファに仁を押し倒した。
「何赤くなってる。元よりここまでする予定だったんだろ?春画を見せて、何するか丁寧に教えてくれたじゃねえか」
俺は仁の腰を撫でてやった。思っていたよりも細く、一瞬手が止まる。
「あっ……そこは……まだ洗ってな……ッ」
するすると腰から腹へ移動させる。
「ま、待って……っう、あっ、あっ、な、何?」
そのまま仁の腹をグッグッと押してやった。声を出したまま腹を押され、仁は子どもが持っている蛙の玩具のように喘ぎ声を出す。
「あっ、ちょ、ちょっ、う、まて、待って!!」
「こうすると、喘いでるように聞こえるだろ?」
「ぇ……?」
「布団を被っちまえば中が見えないから一番いいんだがな、何が何でも上着は死守するぞ」
「何を……」
「何って、俺たちは夜毎"コレ"をしている関係なんだろ?何もあけすけに見せる必要はない。そう思わせればいいんだから」
「……阿久津さんが、あなたに任せれば心配ないと言っていた理由が分かりました」
「あいつが俺を褒めるなんて、明日は雹が降るんじゃねえか?」
「いえ、判断力と応用力に優れ、観察眼も鋭い。あなたが戦場に居たら敵は苦渋を嘗めさせられた事でしょう。それだけに……惜しいですね」
仁は俺の、使い物にならなくなった左目に手を添えた。
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