誘惑の茶室〜箱入り息子は異国の男に恋をする〜

メカラウロ子

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ep.7

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あの日以来アダムは必死にいつも通り振る舞ってはいても、キスした事を忘れておらずその動揺を隠しきれずギクシャクしている。

「ねぇアダム見てこれ」

夏樹は身体をずいっと近づけソファに座るアダムの太ももの内側に手を置きするすると撫でるような動きをして際どい位置スレスレに触れる。

「……!」

アダムは耳を真っ赤にして顔を背けた。

拗ねた。可愛いやつめ。

夏樹はアダムの反応が面白くて、ついつい揶揄からかってしまう。

夏樹の持論だが恋愛は、まだ付き合っていないけどお互いがなんか良いな、相手も絶対自分の事好きだろうなって時が一番楽しい。

「ちょっと拗ねないでよ、せっかくお抹茶点てようと思ってたのに」

荷物が日本から届いてるよ。とアダムに言われて受け取った箱には、日本からの日用品やお菓子や調味料、それにお抹茶と茶筅が入っていた。

お抹茶と茶筅は、祖母の店の手伝いをしている従兄弟の樹に頼んで送ってもらったものだ。

夏樹には姉と兄が居るが、二人とも茶道に興味を示さなかったようで家族でできるのは夏樹と母だけ。

従兄弟の樹とは同じ先生に稽古をつけてもらっていたため親族の中では比較的仲が良くこうして時折連絡を取り合っている。

10歳以上離れた樹は夏樹からしたら姉や兄よりも腹を割って話しやすい相手だった。


先日スーパーで見つけた"日本のティー"の写真を送り、こちらでできた友人に振る舞いたいから正しいお抹茶を送って欲しいと樹に頼んでおいた。

最近おばあちゃんの体調が悪いみたいだから心配ではあるけれど。

先日の公園や街並みの写真を送るだけで気晴らしになるからと喜んでくれていた。

「お抹茶…グリーンティーって事?」

夏樹の手の中にあるお抹茶に興味を持ち、アダムは振り返ってきた。

知識欲には抗えなかったらしい。

「アダムはお抹茶点てるの見た事ある?」

「お抹茶…?武士が正座でくるくる回して戦に行く前に飲んでるグリーンティー?」

「おぉ…そうそう、よく知ってるね。まあ、戦に行く前に飲むだけのものじゃないけどね」

「映画で見た事がある。けど、マッチャ味は苦手だよ。苦いから」

「ふっふっふ…アダムくんは美味しいお抹茶を飲んだ事がないからそんな事言えるのさ」

じゃん!と茶筅を取り出してみせた。

「何これ、小さい箒?触っていい?」

アダムは突如見せられた得体の知れない物体に怪訝けげんな顔をしながらも興味を持った。

「これは茶筅って言って、お抹茶を点てる時に使うんだよ。さっき言ってたくるくるってやつね!」

夏樹がお茶を点てるジェスチャーをするとアダムは明らかに嬉しそうにソワソワし始めた。

「どうしてこんな形してるんだろ…」

「抹茶をキメ細かく混ぜる為じゃないかな?」

こんなに喜ぶなら茶器一式送ってもらっても良かったかな?

「お抹茶茶碗があるといいんだけど…あれくらいのサイズの器ある?」

「ある!ちょっと待ってて」

アダムは小さめのサラダボウルのような器を持ってきた。

ケトルで沸かしたお湯で器を温めながら、茶筅を通す。

中のお湯を捨て、ティースプーンで抹茶を救いお湯を入れる。

「ねえ、どうしてお湯を捨てるの?」

「器を温めるためだよ」

シャカシャカと点て始めると、アダムが小さくおぉ…と声を漏らした。

試しに自分で飲んでみる。

「うん、まあ…こんなもんかな」

今度はアダムにお茶を点て目の前へ、スッと差し出した。

「くれるの?」

「うん、どうぞ。飲んでみて」

恐る恐るアダムがお茶に口をつけた。

「!!!…苦くない」

今までの常識を覆されたかのような顔をしている。

「どうして苦くないの?」

「そもそもお抹茶からして別物だもん」

抹茶を混ぜる事によってまろやかさが出るとは聞くが、海外のものはそのレベルまで達していない気がする。

抹茶ではなくMATCHAなのだ。

ただの苦い緑の粉だ。

本当に茶葉を使っているのかすら疑わしい。

「ふふ…良かった。茶筅の先にこうして泡が付いてると上手く点てた証拠なんだって」

「どうして泡立つの?」

「サポニンっていう成分のせいらしいよ」

赤ずきんに質問されているお婆さんのふりした狼の気分だ。

「美味しい」

「僕の従兄弟のお兄さんのはもっと美味しいんだよ。茶道何年もやってるけどあんな風にはならないなぁ…」

「俺もやってみたい」

「いいよ」

何度も何度も試すがアダム的には納得がいく仕上がりにならないらしい。



「ほら、こう」

後ろから手を回しアダムの手に添え力加減を教える。

耳を真っ赤にしながらも一生懸命にお茶を点てる姿がいじらしい。

「バーのカクテルを作る時に似てるからもっと簡単にできると思ってた…」

お抹茶をバーテンダーとは新しい発想かも。

「最初は泡立たなくて当然だよ。僕も難しくて全然出来なかったもん」

「手先が器用だねってよく褒められるから自信あったんだけどな」

「筆とはまた別物だよね」

アダムならコツを掴めばすぐ上手くできそうだけどな。

「夏樹は凄いな、魔法使いみたい」

アダムは優しい笑顔を向けてきた。

「やっと顔見て話してくれるようになったね」

そう言われてアダムは観念したという顔をした。
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