執着の茶室〜無垢なスーツは和装男子に暴かれる〜

メカラウロ子

文字の大きさ
4 / 23

初めての茶道①

しおりを挟む
桐生に初めて出会った日から多少暑さが和らいだものの、未だに連日の厳しい暑さが続いている。

会社の先輩に聞いたおすすめお茶菓子を持った玲は緊張しながらガラスに反射する自分が写る度に髪を撫で付ける。

今日は待ちに待った桐生に茶道を教わる日だ。

ダサいやつだと思われたくなくて服を選んだらこの暑い中全身真っ黒になってしまった。

先輩に教わった下町で有名な練り切りを手土産にはやる気持ちを抑え、足早に店へと向かった。



「ごめんください…」

麻の暖簾をくぐり店内に声をかける。

以前と同様に、ひのきの良い香りがした。

緊張して少し声が上擦ってしまった。

「あ、川瀬さん、いらっしゃい。まだまだ外は暑いですねぇ。その後足の方はいかがですか?」

桐生は今日も相変わらずよく着物が似合っている。紺の縦縞模様の着物は良く見る定番の柄なのに桐生が着るとどこか上品に見えた。

「その節はありがとうございました。すっかり良くなりました。これ、良ければ…お礼のお土産です。」

玲は和菓子の入った紙袋を差し出す。

「わぁ、これ華月堂じゃないですか!すごく並んだでしょう。せっかくだからこのお土産でお茶をいただきませんか?」

桐生のふんわりとした笑顔にこちらまで嬉しくなる。

ヨシ!先輩に感謝しないと…!

「では、川瀬さん。荷物はその籠へどうぞ。準備できたらこちらでお待ちください。」



玲は身支度をして手を洗い、カフェの端にある畳のスペースへ着席した。

慣れない畳につい背筋が伸びる。

奥からお盆を持った桐生が出てきた。

「お待たせしました。では、本日はよろしくおねがいします。」

桐生は美しい所作で手を前につけお辞儀をした。

「あ、は…はい!よろしくおねがいします!!」

「楽にして構いませんよ。今日は楽しんでくださいね。」

この一角は茶室をイメージして設置したのだそうだ。

小さいスペースながら炉畳もしっかりある。

本来ならば襖の開け方、座り方、歩き方等の作法があるらしい。

「あくまでここは体験ですからね。もし今後畳の上に上がる事がある時は、とりあえずは親指と人差し指を畳の目に沿って滑るように座りながら移動すると覚えておくといいですよ。」

覚えておいて損はないだろうが、今後そんな機会あるのだろうか。



「お茶は通常お菓子を先にいただきます。色々方法はありますが今回はお皿を個別に分けました。」

「お菓子を食べる場合も何か作法はあるんですか?」

「そうですね、川瀬さんが買ってくださった練り切りやなんかは主菓子おもがしといって、2~3口に切って食べます。それ以上細かく切るのはマナー違反とされていますね。」

「なる程、元々こんなに小さくて職人が美しく作った和菓子を楽しむものなのに、細かく刻むのは確かにマナー違反なのは納得です。」

「お菓子を拝見し感想を言ったりもします。お茶は四季折々の美しい和菓子を楽しんだり、季節に合わせた器を眺めて褒めたりするんですよ。」

「褒めるって日本の文化にしては意外かも…!厳しい修行で辛ければいいみたいなところあるじゃないですか。お菓子やお茶の味ももちろんですが、雰囲気を楽しむのがお茶なんですね。」

「ふふっそうですね。あとは、亭主にお菓子をどうぞ。と言われたら食べ始める…くらいでしょうか。でも最初なんですから気軽に食べてくださいね。」



「これはこちらで用意していたお干菓子なのですが、せっかくなので懐紙かいしに包んで持ち帰ってください。」

落雁や金平糖のような乾いたお菓子をお干菓子という。

桐生が胸元から何やら布のようなものを取り出し、一緒に挟んであった綺麗な和紙を渡してくれた。

鳥獣戯画に似せた可愛らしいうさぎが描かれたこの和紙は懐紙といい、季節や干支に合わせて様々な懐紙があるらしい。

この懐紙を利用してお菓子を取り分けたりするそうだ。

「胸元に帛紗ふくさと一緒に挟んでおくんです。帛紗、古帛紗、懐紙の順で帛紗が体の外側、懐紙が内側です。」

「ふくさ…って聞いた事あります。」

「帛紗で茶道具を拭いたりするので、入れ方は使いやすい順番と覚えるとわかりやすいですね。人によってはその間に挟むものも変わってきますが、先ずはこれが基本ですね。」

わの向きは…と言いかけて

はっ。と桐生は口に手を押さえた。

「あ、いきなりすみません。話し出したら止まらなくて。
知識として聞き流してくれると嬉しいな。また着物を着付けする事があればその時に教えますね。」

川瀬さん話しやすいからつい…と桐生は笑うがその声色すら心地良い。





▼▼▼▼

※次も丸々一話お茶レッスンが続きます
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

氷の支配者と偽りのベータ。過労で倒れたら冷徹上司(銀狼)に拾われ、極上の溺愛生活が始まりました。

水凪しおん
BL
オメガであることを隠し、メガバンクで身を粉にして働く、水瀬湊。 ※この作品には、性的描写の表現が含まれています。18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。 過労と理不尽な扱いで、心身ともに限界を迎えた夜、彼を救ったのは、冷徹で知られる超エリートα、橘蓮だった。 「君はもう、頑張らなくていい」 ――それは、運命の番との出会い。 圧倒的な庇護と、独占欲に戸惑いながらも、湊の凍てついた心は、次第に溶かされていく。 理不尽な会社への華麗なる逆転劇と、極上に甘いオメガバース・オフィスラブ!

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました

ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。 タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。

処理中です...