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初めての茶道①
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桐生に初めて出会った日から多少暑さが和らいだものの、未だに連日の厳しい暑さが続いている。
会社の先輩に聞いたおすすめお茶菓子を持った玲は緊張しながらガラスに反射する自分が写る度に髪を撫で付ける。
今日は待ちに待った桐生に茶道を教わる日だ。
ダサいやつだと思われたくなくて服を選んだらこの暑い中全身真っ黒になってしまった。
先輩に教わった下町で有名な練り切りを手土産にはやる気持ちを抑え、足早に店へと向かった。
「ごめんください…」
麻の暖簾をくぐり店内に声をかける。
以前と同様に、ひのきの良い香りがした。
緊張して少し声が上擦ってしまった。
「あ、川瀬さん、いらっしゃい。まだまだ外は暑いですねぇ。その後足の方はいかがですか?」
桐生は今日も相変わらずよく着物が似合っている。紺の縦縞模様の着物は良く見る定番の柄なのに桐生が着るとどこか上品に見えた。
「その節はありがとうございました。すっかり良くなりました。これ、良ければ…お礼のお土産です。」
玲は和菓子の入った紙袋を差し出す。
「わぁ、これ華月堂じゃないですか!すごく並んだでしょう。せっかくだからこのお土産でお茶をいただきませんか?」
桐生のふんわりとした笑顔にこちらまで嬉しくなる。
ヨシ!先輩に感謝しないと…!
「では、川瀬さん。荷物はその籠へどうぞ。準備できたらこちらでお待ちください。」
玲は身支度をして手を洗い、カフェの端にある畳のスペースへ着席した。
慣れない畳につい背筋が伸びる。
奥からお盆を持った桐生が出てきた。
「お待たせしました。では、本日はよろしくおねがいします。」
桐生は美しい所作で手を前につけお辞儀をした。
「あ、は…はい!よろしくおねがいします!!」
「楽にして構いませんよ。今日は楽しんでくださいね。」
この一角は茶室をイメージして設置したのだそうだ。
小さいスペースながら炉畳もしっかりある。
本来ならば襖の開け方、座り方、歩き方等の作法があるらしい。
「あくまでここは体験ですからね。もし今後畳の上に上がる事がある時は、とりあえずは親指と人差し指を畳の目に沿って滑るように座りながら移動すると覚えておくといいですよ。」
覚えておいて損はないだろうが、今後そんな機会あるのだろうか。
「お茶は通常お菓子を先にいただきます。色々方法はありますが今回はお皿を個別に分けました。」
「お菓子を食べる場合も何か作法はあるんですか?」
「そうですね、川瀬さんが買ってくださった練り切りやなんかは主菓子といって、2~3口に切って食べます。それ以上細かく切るのはマナー違反とされていますね。」
「なる程、元々こんなに小さくて職人が美しく作った和菓子を楽しむものなのに、細かく刻むのは確かにマナー違反なのは納得です。」
「お菓子を拝見し感想を言ったりもします。お茶は四季折々の美しい和菓子を楽しんだり、季節に合わせた器を眺めて褒めたりするんですよ。」
「褒めるって日本の文化にしては意外かも…!厳しい修行で辛ければいいみたいなところあるじゃないですか。お菓子やお茶の味ももちろんですが、雰囲気を楽しむのがお茶なんですね。」
「ふふっそうですね。あとは、亭主にお菓子をどうぞ。と言われたら食べ始める…くらいでしょうか。でも最初なんですから気軽に食べてくださいね。」
「これはこちらで用意していたお干菓子なのですが、せっかくなので懐紙に包んで持ち帰ってください。」
落雁や金平糖のような乾いたお菓子をお干菓子という。
桐生が胸元から何やら布のようなものを取り出し、一緒に挟んであった綺麗な和紙を渡してくれた。
鳥獣戯画に似せた可愛らしいうさぎが描かれたこの和紙は懐紙といい、季節や干支に合わせて様々な懐紙があるらしい。
この懐紙を利用してお菓子を取り分けたりするそうだ。
「胸元に帛紗と一緒に挟んでおくんです。帛紗、古帛紗、懐紙の順で帛紗が体の外側、懐紙が内側です。」
「ふくさ…って聞いた事あります。」
「帛紗で茶道具を拭いたりするので、入れ方は使いやすい順番と覚えるとわかりやすいですね。人によってはその間に挟むものも変わってきますが、先ずはこれが基本ですね。」
わの向きは…と言いかけて
はっ。と桐生は口に手を押さえた。
「あ、いきなりすみません。話し出したら止まらなくて。
知識として聞き流してくれると嬉しいな。また着物を着付けする事があればその時に教えますね。」
川瀬さん話しやすいからつい…と桐生は笑うがその声色すら心地良い。
▼▼▼▼
※次も丸々一話お茶レッスンが続きます
会社の先輩に聞いたおすすめお茶菓子を持った玲は緊張しながらガラスに反射する自分が写る度に髪を撫で付ける。
今日は待ちに待った桐生に茶道を教わる日だ。
ダサいやつだと思われたくなくて服を選んだらこの暑い中全身真っ黒になってしまった。
先輩に教わった下町で有名な練り切りを手土産にはやる気持ちを抑え、足早に店へと向かった。
「ごめんください…」
麻の暖簾をくぐり店内に声をかける。
以前と同様に、ひのきの良い香りがした。
緊張して少し声が上擦ってしまった。
「あ、川瀬さん、いらっしゃい。まだまだ外は暑いですねぇ。その後足の方はいかがですか?」
桐生は今日も相変わらずよく着物が似合っている。紺の縦縞模様の着物は良く見る定番の柄なのに桐生が着るとどこか上品に見えた。
「その節はありがとうございました。すっかり良くなりました。これ、良ければ…お礼のお土産です。」
玲は和菓子の入った紙袋を差し出す。
「わぁ、これ華月堂じゃないですか!すごく並んだでしょう。せっかくだからこのお土産でお茶をいただきませんか?」
桐生のふんわりとした笑顔にこちらまで嬉しくなる。
ヨシ!先輩に感謝しないと…!
「では、川瀬さん。荷物はその籠へどうぞ。準備できたらこちらでお待ちください。」
玲は身支度をして手を洗い、カフェの端にある畳のスペースへ着席した。
慣れない畳につい背筋が伸びる。
奥からお盆を持った桐生が出てきた。
「お待たせしました。では、本日はよろしくおねがいします。」
桐生は美しい所作で手を前につけお辞儀をした。
「あ、は…はい!よろしくおねがいします!!」
「楽にして構いませんよ。今日は楽しんでくださいね。」
この一角は茶室をイメージして設置したのだそうだ。
小さいスペースながら炉畳もしっかりある。
本来ならば襖の開け方、座り方、歩き方等の作法があるらしい。
「あくまでここは体験ですからね。もし今後畳の上に上がる事がある時は、とりあえずは親指と人差し指を畳の目に沿って滑るように座りながら移動すると覚えておくといいですよ。」
覚えておいて損はないだろうが、今後そんな機会あるのだろうか。
「お茶は通常お菓子を先にいただきます。色々方法はありますが今回はお皿を個別に分けました。」
「お菓子を食べる場合も何か作法はあるんですか?」
「そうですね、川瀬さんが買ってくださった練り切りやなんかは主菓子といって、2~3口に切って食べます。それ以上細かく切るのはマナー違反とされていますね。」
「なる程、元々こんなに小さくて職人が美しく作った和菓子を楽しむものなのに、細かく刻むのは確かにマナー違反なのは納得です。」
「お菓子を拝見し感想を言ったりもします。お茶は四季折々の美しい和菓子を楽しんだり、季節に合わせた器を眺めて褒めたりするんですよ。」
「褒めるって日本の文化にしては意外かも…!厳しい修行で辛ければいいみたいなところあるじゃないですか。お菓子やお茶の味ももちろんですが、雰囲気を楽しむのがお茶なんですね。」
「ふふっそうですね。あとは、亭主にお菓子をどうぞ。と言われたら食べ始める…くらいでしょうか。でも最初なんですから気軽に食べてくださいね。」
「これはこちらで用意していたお干菓子なのですが、せっかくなので懐紙に包んで持ち帰ってください。」
落雁や金平糖のような乾いたお菓子をお干菓子という。
桐生が胸元から何やら布のようなものを取り出し、一緒に挟んであった綺麗な和紙を渡してくれた。
鳥獣戯画に似せた可愛らしいうさぎが描かれたこの和紙は懐紙といい、季節や干支に合わせて様々な懐紙があるらしい。
この懐紙を利用してお菓子を取り分けたりするそうだ。
「胸元に帛紗と一緒に挟んでおくんです。帛紗、古帛紗、懐紙の順で帛紗が体の外側、懐紙が内側です。」
「ふくさ…って聞いた事あります。」
「帛紗で茶道具を拭いたりするので、入れ方は使いやすい順番と覚えるとわかりやすいですね。人によってはその間に挟むものも変わってきますが、先ずはこれが基本ですね。」
わの向きは…と言いかけて
はっ。と桐生は口に手を押さえた。
「あ、いきなりすみません。話し出したら止まらなくて。
知識として聞き流してくれると嬉しいな。また着物を着付けする事があればその時に教えますね。」
川瀬さん話しやすいからつい…と桐生は笑うがその声色すら心地良い。
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