7 / 23
着物を着てみましょう①
しおりを挟む
本格的にレッスンを続けるにあたって連絡先を交換した。
僕の方が年下なんだし玲と呼び捨てでいいですよ。と言ったのだが、じゃあ僕も樹で。とお互いが名前で呼び合うという結果で譲歩した。
忙しくなる日々に、樹とのやりとりは唯一の癒しだった。
「うぉーい川瀬!展示パネルの初稿上がってるから校正よろしく。」
「はーい。他にWチェックいります?」
「いや、一旦俺の方で見たしこれに関してはとりあえずは大丈夫。直し入りそうなら教えて。」
「はいはーい。了解でーす。」
「どうした川瀬、入稿前なのに元気じゃん?いつもならエナドリキメてるのに。」
そう話しかけてきたのは西谷だ。
お茶の際決まって世間話をするのでどうしても毎日仕事が忙しい…になってしまう。
焦って余裕がない自分を樹に見せる事を考えたら自然と冷静でいられた。
「私生活が充実してるって顔してるな。」
実際のところ充実しているのは間違いない。ただそれが西谷が思っている内容とは違うけれど…。
「デジタルデトックスみたいなものだよ。いいぞ、デジタルからの解放。」
「なんだぁ~?今度彼女の写真見せろよー。」
「だから彼女なんていないってば。」
彼女どころか、女でもないんだけど。
ーーーー
「では、お茶を出されたら頂戴いたしますと軽くお礼をしてください。指先は揃える感じで…」
「頂戴いたします…」
「今は柄が玲さん側に向いているからこのまま柄に口をつけないようにしてください。二度右回りで半回転をして亭主側に柄が見えるようにしましょう。」
「45度は目安なのでぴったりでなくても、多少ずれていても問題ないです。」
「ああいった柄が無い器はどうするんですか?」
玲は棚に飾ってある織部焼きを指差す。
「ああいったものは亭主がここを正面としたい気に入った部分が正面になります。けど大体が釉薬が特徴的な垂れ方をしているかな。ざっくりとした説明ですみません。」
「それも何となくここが正面かな?で大丈夫ですか?」
「はい、それに関しては正解は無いですからね、出されたらとりあえず同じく半回転を2回と思って大丈夫です。」
「お茶を飲み干したら器を拝見して楽しみます。両肘をついて両手で包み込むように器を持ち上げてください。」
「こんな感じですか?」
「はい。そしたら何か感想を言ってあげてください。もし何も思いつかない場合は季語を選ぶといいですよ。」
「季語って初春の…みたいなやつですよね。わーそれも覚えるとなると大変だぁ。」
「例えば、可愛らしい桜の模様ですね。でもいいんですよ。気負わず褒めてあげてくださいね。」
今日は久しぶりのお茶の日だ。月に2回、その日が来るのが待ち遠しい。
「玲さん、お疲れみたいですね。お仕事忙しいんですか?ちゃんとお休み取ってます?」
一通り終わって一息ついていたが樹に目元のクマを心配される。
「今繁忙期なんですよ。会社のイベントに向けて準備で忙しくて…」
「ああ、ネットの経済ニュースで見ました。大型のEXPOであの話題になっていた朝ドラに出演していた女優さんがゲストとかで…あの手のイベントでタレントさんを招くのは初だとか。」
「そうなんです。僕もあれを見てお抹茶に興味を持っていつか挑戦してみたいなと思ったんです。」
「そうでしたか。いや、しかしあの時は大変でしたよ…レッスンの問い合わせが凄くて僕が昔教わっていた先生からヘルプの連絡が来て。実はあのお茶の演技指導をしたのは僕の先生なんですよ。だから余計にパンクしてしまって…」
「えぇ!そうだったんですか!!ニュースで殺到とだけは見かけました…メーカーのサーバーが一時停止したとかで。でもあのシーンめちゃくちゃ感動しましたよ!けど感激だな。僕がお茶に挑戦するきっかけとなった番組が実は樹さんと関係があったなんて。」
「あの方は本当に素晴らしい女優さんでしたね。一度キャストさんへ先生が振る舞うから僕もお運びとしてお手伝いに行ったんですが、すごく物腰が柔らかくて。ですがあの若い方は…」
といいかけて樹は口籠る。
こういうのって巡り合わせですからね…と何やら濁されてしまった。
僕の方が年下なんだし玲と呼び捨てでいいですよ。と言ったのだが、じゃあ僕も樹で。とお互いが名前で呼び合うという結果で譲歩した。
忙しくなる日々に、樹とのやりとりは唯一の癒しだった。
「うぉーい川瀬!展示パネルの初稿上がってるから校正よろしく。」
「はーい。他にWチェックいります?」
「いや、一旦俺の方で見たしこれに関してはとりあえずは大丈夫。直し入りそうなら教えて。」
「はいはーい。了解でーす。」
「どうした川瀬、入稿前なのに元気じゃん?いつもならエナドリキメてるのに。」
そう話しかけてきたのは西谷だ。
お茶の際決まって世間話をするのでどうしても毎日仕事が忙しい…になってしまう。
焦って余裕がない自分を樹に見せる事を考えたら自然と冷静でいられた。
「私生活が充実してるって顔してるな。」
実際のところ充実しているのは間違いない。ただそれが西谷が思っている内容とは違うけれど…。
「デジタルデトックスみたいなものだよ。いいぞ、デジタルからの解放。」
「なんだぁ~?今度彼女の写真見せろよー。」
「だから彼女なんていないってば。」
彼女どころか、女でもないんだけど。
ーーーー
「では、お茶を出されたら頂戴いたしますと軽くお礼をしてください。指先は揃える感じで…」
「頂戴いたします…」
「今は柄が玲さん側に向いているからこのまま柄に口をつけないようにしてください。二度右回りで半回転をして亭主側に柄が見えるようにしましょう。」
「45度は目安なのでぴったりでなくても、多少ずれていても問題ないです。」
「ああいった柄が無い器はどうするんですか?」
玲は棚に飾ってある織部焼きを指差す。
「ああいったものは亭主がここを正面としたい気に入った部分が正面になります。けど大体が釉薬が特徴的な垂れ方をしているかな。ざっくりとした説明ですみません。」
「それも何となくここが正面かな?で大丈夫ですか?」
「はい、それに関しては正解は無いですからね、出されたらとりあえず同じく半回転を2回と思って大丈夫です。」
「お茶を飲み干したら器を拝見して楽しみます。両肘をついて両手で包み込むように器を持ち上げてください。」
「こんな感じですか?」
「はい。そしたら何か感想を言ってあげてください。もし何も思いつかない場合は季語を選ぶといいですよ。」
「季語って初春の…みたいなやつですよね。わーそれも覚えるとなると大変だぁ。」
「例えば、可愛らしい桜の模様ですね。でもいいんですよ。気負わず褒めてあげてくださいね。」
今日は久しぶりのお茶の日だ。月に2回、その日が来るのが待ち遠しい。
「玲さん、お疲れみたいですね。お仕事忙しいんですか?ちゃんとお休み取ってます?」
一通り終わって一息ついていたが樹に目元のクマを心配される。
「今繁忙期なんですよ。会社のイベントに向けて準備で忙しくて…」
「ああ、ネットの経済ニュースで見ました。大型のEXPOであの話題になっていた朝ドラに出演していた女優さんがゲストとかで…あの手のイベントでタレントさんを招くのは初だとか。」
「そうなんです。僕もあれを見てお抹茶に興味を持っていつか挑戦してみたいなと思ったんです。」
「そうでしたか。いや、しかしあの時は大変でしたよ…レッスンの問い合わせが凄くて僕が昔教わっていた先生からヘルプの連絡が来て。実はあのお茶の演技指導をしたのは僕の先生なんですよ。だから余計にパンクしてしまって…」
「えぇ!そうだったんですか!!ニュースで殺到とだけは見かけました…メーカーのサーバーが一時停止したとかで。でもあのシーンめちゃくちゃ感動しましたよ!けど感激だな。僕がお茶に挑戦するきっかけとなった番組が実は樹さんと関係があったなんて。」
「あの方は本当に素晴らしい女優さんでしたね。一度キャストさんへ先生が振る舞うから僕もお運びとしてお手伝いに行ったんですが、すごく物腰が柔らかくて。ですがあの若い方は…」
といいかけて樹は口籠る。
こういうのって巡り合わせですからね…と何やら濁されてしまった。
45
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡
なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。
あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。
♡♡♡
恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!
宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている
飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話
アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。
無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。
ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。
朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。
連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。
※6/20追記。
少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。
今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。
1話目はちょっと暗めですが………。
宜しかったらお付き合い下さいませ。
多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。
ストックが切れるまで、毎日更新予定です。
氷の支配者と偽りのベータ。過労で倒れたら冷徹上司(銀狼)に拾われ、極上の溺愛生活が始まりました。
水凪しおん
BL
オメガであることを隠し、メガバンクで身を粉にして働く、水瀬湊。
※この作品には、性的描写の表現が含まれています。18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。
過労と理不尽な扱いで、心身ともに限界を迎えた夜、彼を救ったのは、冷徹で知られる超エリートα、橘蓮だった。
「君はもう、頑張らなくていい」
――それは、運命の番との出会い。
圧倒的な庇護と、独占欲に戸惑いながらも、湊の凍てついた心は、次第に溶かされていく。
理不尽な会社への華麗なる逆転劇と、極上に甘いオメガバース・オフィスラブ!
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる