嘘を重ねた私たちは

白波

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邂逅

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 決まった時間に起床して手早く朝支度を済ませたら家を出て人で溢れかえった満員電車に乗る。
 揺れるたびに押されては押し返し、綺麗に整えた髪は会社に着く頃にはぐしゃりと乱れてしまっている。
 就業五分前に着席してメールをチェック。溜まっている仕事を片付けて、また新たな仕事を渡されてはの繰り返しだ。
 社会人八年目の藤堂美月とうどうみつきは鈍い痛みが走る腰に手を当てる。痛みが軽減されるはずもなく、立ち上がろうとするとずきりと痛んだ。

「腰痛いんですか?」
「ん、まあちょっと……。痛めちゃったのかな」

 隣の席の後輩である結城春奈ゆうきはるなは痛ましそうな表情を浮かべた。去年入社した彼女は二十三歳で、三十代に足を踏み入れた美月からすればぴかぴかの若者だ。

「この仕事、基本座りっぱなしですもんね」
「デスク仕事だからね」

 無理なく、と含みのない可愛らしい笑顔で労わられ美月もまた小さな笑みで返した。
 嘘はついていない。しかし春奈が思っている原因とは全く異なっている。


 ──すごい……濡れてる。

 揶揄のように聞こえたが、その声には熱っぽい響きが含まれていた。
 筋張った大きな手はゆっくりと美月の身体を這って、過敏なところへと触れる時は慎重な手つきへと変わった。
 久々の性行為だったのに、くちゅりと水音が下肢の方から聞こえるほど高ぶっていた。
 
「っ……!」

 昨夜の濃厚な時間を思い出してひとり赤面する。
 余裕のある手つきが自分でも知らなかった一面を暴いた。快感を与えられ身体だけではなく心も満足させられた。

(あれは一夜の遊びみたいなものだから……)

 であったからなのだろうか。
 感傷に浸った美月は熱を逃すようにため息をついた。

 
 就業から一時間が過ぎ届いたメールに返信を返し終わったところで美月の直属の上司が姿を現す。隣に見知った男性を連れて。

「……嘘」
「先輩?」

 思わず洩れた美月の呟きは周りの音にかき消され、隣に座っていた春奈にだけ届いた。

「──というわけで、本日づけで営業部に入ってくれる相沢嘉月あいざわかづきくんだ」
「相沢嘉月です。どうぞよろしくお願い致します」

 昨夜一夜を共にした男は爽やかな笑みを浮かべた。
 
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