嘘を重ねた私たちは

白波

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邂逅

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 一夜限りの相手だったからこそ、美月は自分自身を曝け出した。
 後悔するかもしれない。だけどもう二度とないのなら、本心に従おうと覚悟を決めることができた。

 それなのに。
(同じ部署で働くなんて……)

「相沢くんは前職でも営業をやっていたこともあるから、すぐにうちに慣れるだろう」
「慣れるまでは御迷惑をかけるとは思いますが、よろしくお願いします」

 立ち姿に品がある。営業マンらしいさっぱりとした黒髪。端整な横顔はやや鋭く見えてしまうが、実のところ情深い人であることを美月は知っている。
 理性的な瞳に見つめられれば、言葉が上手く紡げなかった。
 昔も顔の良い男だったが、年を取り精悍さが増していた。
 女性職員たちから熱っぽい視線を送られても嘉月は眉ひとつさえ動かさない。男性職員から向けられる嫉妬と強い好奇心の視線も慣れたように受け止めている。

(先輩、変わってないなあ)

 気にするだけ無駄だから、と顔を見合わせて間もない美月に言ったのは若かったからなのだろう。
 現在の嘉月と過去の嘉月を重ねながら見つめていた美月は反応が遅れてしまった。

「──というわけで藤堂に社内の案内をしてもらってくれ。藤堂もいいな?」
「え? わかりました」

 聞き逃したとは言えず、条件反射で頷いた美月はこちらに近づいてくる男を見上げる。
 身長百五十センチの美月が顎を上げないと視線が合わないほど嘉月は長身だ。学生の頃でさえ百八十は超えており、まだ伸びているのだとそんなことを言っていた気がする。

。藤堂さんですね。お手数おかけしますが、お願いできますか?」
。承知致しました。今から車内をご案内いたしますね」

 大人の対応なのか、それとも昨夜の相手だと気が付いていないのか。
 美月の心の裡などいざ知らず、嘉月はにこやかに微笑んでいる。
 女性陣の熱い眼差しと含みのある鋭い視線から逃れるように美月は嘉月を伴って部屋を出た。
 
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