【完結】王国魔法騎士団の赤い薔薇 〜男前騎士団長は幼馴染の聖女(男)から狙われてます〜

葉瀬満月(はせみつき)

文字の大きさ
3 / 58

第3輪 例のアレ

しおりを挟む
 グラキエスを縛りつけてから五分後。イグニスはきらびやかな装飾や、シャンデリアで明るい室内の白いソファーに座っていた。目の前には、脇まで伸びた絹のような金色の髪、紫色の瞳をした美しい少女が座っている。人形のように白い肌は薄っすらとピンク色へ染まり、大きめな瞳がイグニスを見つめていた。

 後ろには従者や執事、侍女たちがずらりと並んで重圧感もある。落ち着きを払う少女から漂うのは王族としての威厳だ。本来なら副団長のグラキエスも横にいるのだが、“やんごとなき事情”で遅れていると話している。

 紅茶を啜る彼女に呼び出されたのは、ある調査依頼だった。

「大変な時に申し訳ございません。どうしても……御二人へ調査をお願いしたく」
「いえ、第一王女殿下の謝罪は不要です。どうぞ、いかようにお使い下さい」
「それでは……」

 普段口の悪いことでも評判なイグニスだが、さすがに王族へ対しての作法は分かっているし、態度も改めている。グラキエスが揃っていない中、カーラからの依頼は王宮書庫で出ると噂されている幽霊の調査依頼だった。内容を聞いてすぐ、理解不能で固まるイグニスにカーラは涙を浮かべる。当然、従者たちの圧を感じたイグニスは短く息を吐いてから詳細を尋ねた。

「……幽霊、は一旦置いておいて。その話は王女殿下が実際にご覧なさったのですか? それとも、複数の目撃者が? 時間帯などの詳細もお願い致します」
「……はい。実は、先日の黄昏たそがれ時に侍女と共に見てしまいました……。他にも目撃者はいるようです。ただ、姿形はなぜか朧気でして……」
「……複数の目撃者がいて、黄昏たそがれ時ですか。分かりました。まず、その時間帯で張ってみます」
「引き受けて頂き感謝致します。何卒、で宜しくお願い致しますね……ローゼン団長様」

 なぜか強めに二人を強調するカーラへ首を傾げながら承諾する。頭を深く下げて部屋を出ると、青いカーペットが敷かれた長い廊下を歩いて下の階へ向かった。イグニスがいた階は王族だけしか住んでいない場所で、限られた者だけに許可されている。そのため、階段の横にも二人体制で騎士団が配置されていた。イグニスの顔を見て背筋を伸ばして敬礼する部下の横を過ぎて、下の階に行くとホッと息を吐く。

「……第一王女殿下は、どうしてか苦手なんだよなぁ……。どこか、グラスに似たものを感じるというか……アクアも」

 グラスはグラキエスの愛称で、イグニスだけが名前の長さを理由に呼んでいた。緊張から解放されてすぐ、廊下を高速で走る足音に気づくと嫌そうに眉を寄せる。規律を守らない人間は自分以外で一人しかいないからだ。

「イグニスー‼ 一人で大丈夫だった⁉ 寂しくなかったー?」

 勢い余って抱きつこうとする男を軽く払い除け、廊下に突っ込んだ後ろ姿へ盛大なため息で返す。まともじゃないのはいつものことで、気にせずカーラから依頼された内容を聞かせた。イグニスしか眼中にない残念な聖女のグラキエスだが、依頼や仕事も完璧で抜け目のないため、早速今日から調査しようと張り切ってどさくさ紛れにイグニスの手を掴んで連れて行く。

 すぐに引き剥がされてしょんぼりするグラキエスを放置して、問題の王宮書庫へ足を運んだ。まだ時間じゃないため幽霊はいないだろうが、事前調査に当たる。今日はカーラに呼び出される日だったため、事前に騎士団の仕事を部下へ一任していた。お茶もご馳走になってしまったことで、もう少ししたら昼時の中、空腹を感じてお腹を擦る。扉を開けると、吹き抜けで二階まである大部屋の中にずらりと巨大な本棚が並んでいた。古書の埃っぽさも感じさせないほど整理された本の数に圧倒される中、中央にある城内で一番大きな窓から差す光が天井にぶら下がるシャンデリアで反射する。この世界の明かりはすべて魔石を動力としていた。二人も入ることを許可されているが、資料を取りに数回訪れる程度のため、久しぶりな室内へ歓喜する。喜んだのも束の間だった。

 バタン‼ といきなり扉が閉まる。明らかに魔法の反応で、グラキエスが扉を開けようと試みるがびくともしない。さすがのイグニスも王宮を破壊するわけにはいかず、前へ向き直る。

 すると、先ほどまで完全に置かれていなかった場違いな家具が中央へ鎮座していた。
 飴色をした木材で出来た白くてふかふかした羽毛布団に白いマットのベッドである。思考が追いつかないイグニスとは違って、グラキエスはすぐに犯人が分かったようで両手で自分の口を押さえた。

「――グラキエス、これはどう言うことだ?」
「えーっと……僕は関わってないんだよ? でも、多分……犯人は分かったかなって」
「誰だ」
「うーん……言ってもいいのかなぁ。まぁ、王女殿下だねー」
「えっ……」

 すべては王女が仕組んだことだったと判明して困惑するイグニスに対して、グラキエスは両手を組む。イグニスとグラキエスの関係は王宮関係者なら誰もが知っていた。主に、グラキエスがイグニスを好きだということを……。

 それに、二人用のベッドを一瞬で運ぶことが可能なのは王族だけ。答えは明らかだった。

「……王族にしか使えない『固有魔法』か……」
「そういうことー。でも、せっかく王女殿下が用意してくれたものだし……使っちゃう?」
「――この俺が、使うって言うと思ってるのか? 脳みそぶち撒けられたいらしいな……」

 怒りで震える拳を振り下ろすイグニスに「キャー」とわざとらしい声を上げて逃げるグラキエスを追い回す。そのときベッド横にある姿見を発見した。王宮書庫に鏡は不要なため置かれていない。事前に置かれたものだ。

 姿見の前に歩み寄ると、両手を組んだ状態で辛うじて強張った笑顔を向ける。

「王女殿下……この悪戯はどう言うことでしょうか? 幽霊の件は嘘だったと……」

 少しの沈黙から姿見に、魔法で書かれた文字が浮かび出した。

 『申し訳ございません。わたくし、御二人をお慕いしておりまして、仲が深まるよう出過ぎた真似を致しました。ベッドは良ければ使って下さいませ。幽霊の件も、嘘ではございません。お伝えしました通り、黄昏たそがれ時でございますが』

 依頼は本当だけど、カーラの純粋な好意でしたことだったと分かる。何も言えないイグニスは頭を抱えて、姿見を反対側へ向けてから背後のグラキエスに向き直った。カーラのした事とはいえ、グラキエスが元凶であることには変わらない。笑いながら一歩ずつ後ろへ下がるグラキエスは、ベッドに足を引っかけて布団の上で倒れる。

「……万事休すだな。今回は許さねぇ――」

 左手を伸ばして魔法を唱えようとしたときだった。なんの気配すら感じなかった後ろから思い切り背中を押されて前のめりになる。

 ふわっと布団が潰れた軽い音だけが、部屋の中に響いた。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

兎森りんこ
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

氷鉄の騎士団長に拾われたスラムのオメガは、無自覚な溺愛に溶かされる

水凪しおん
BL
スラム街で泥とハーブの匂いにまみれ、オメガであることを隠して生きてきた少年ノア。 ある雨の日、発情の熱と寒さに震える彼を拾い上げたのは、王国最強と謳われる「氷鉄の騎士」ヴァレリウスだった。 「お前からは、雨に濡れた花のような匂いがする」 冷徹と恐れられる騎士団長は、ノアを汚いものとして扱うどころか、その匂いに安らぎを見出し、不器用ながらも全力で愛を注いでくる。 温かい食事、ふかふかのベッド、そして何よりも甘く強烈なアルファの庇護。 これは、孤独な二人が運命の番として惹かれ合い、心と体を溶かし合っていく、極上の溺愛救済BL。 ※本作は性的な描写(キスや愛撫、発情期の描写など)を含みます。15歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。

経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!

中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。 無表情・無駄のない所作・隙のない資料―― 完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。 けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。 イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。 毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、 凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。 「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」 戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。 けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、 どこか“計算”を感じ始めていて……? 狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ 業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!

【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話

須宮りんこ
BL
【あらすじ】 高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。 二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。 そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。 青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。 けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――? ※本編完結済み。後日談連載中。

処理中です...