【完結】王国魔法騎士団の赤い薔薇 〜男前騎士団長は幼馴染の聖女(男)から狙われてます〜

葉瀬満月(はせみつき)

文字の大きさ
55 / 58
後日談

君を甘やかしたいから

しおりを挟む
 仕事が終わったイグニスは、寝る準備をしたあとベッドへ入ってソワソワしていた。
 理由は一つだけ。非番だったグラキエスが、またも魔法薬部で何か怪しい薬を作っていたと部下から聞いたからだ。

 経験上。グラキエスの性格からして完成したらすぐイグニスへ持ってきていた。そして、即試す。イグニスが寝ていようと関係なく寝室へ侵入して、起きるのを待って勝手に添い寝する男だ。

 だが、日頃の疲れから睡魔に抗えず瞼は閉じていく――。


 月明かりだけが照らす暗い部屋で、誰かの視線を感じて薄っすらと瞼を開いた。
 寝ぼけていることもあって、ぼんやり暫く眺めてしまう顔が急に破顔する。一気に頭が覚醒すると、肩を揺らして布団ごと飛び起きた。

「なっ……てめぇ、また不法侵入しやがって」
「えー? 恋人の夜這いなんて可愛いものでしょ?」
「……まったく可愛くねぇ」

 いつから添い寝していたのか分からない男の顔は眠気など一切感じられないほど据わっている。これは魔法薬が成功して興奮したときのグラキエスだった。本人曰く、体の熱が沸騰したように燃えているのだと言う。

 恋人になったことで前より調子に乗っている男は悪びれた様子もなく、だらしのない笑顔を向けた。
 但し、スッと布団の中から取り出された緑色の薬物が入った小瓶を見て、冷ややかな眼差しを向ける。

「そんな顔しないでよー。今回のはイグニスのために作ったし。間違った薬じゃないからさ」
「……危ない薬を作るんじゃねぇ」

 またも実証済みだと言って、じりじりと体を近づけてきた。明日はイグニスの非番だが、まだ朝でもなく眠たい思考を奮い起こす。

「これ、人体に影響しないよう作ったから少し時間かかるからさー。ね? これ飲んでから朝まで寝よう?」
「ふざけ――んぐっ!?」

 イグニスの嫌なことはしないと言った口はどの口か……。
 夜の営み以外で強引なことをする男じゃなかったが、興奮してタガが外れているようだった。
 思い切り口から流し込まれ、少量だったためゴクンと飲み込んでしまう。しかし、薬に睡眠促進剤でも入っているのか、瞼が重くなり頭が揺れた。
 サッと伸ばされた長い手に抱き締められ、薄い胸板へ頬が触れる。

「……大丈夫だよ。僕も飲んだから、一緒に朝まで寝ようねー?」

 空になった二つの小瓶を揺らして見せられ、そのままベッドへ横たわらされると、抱きしめられたまま思考を手放した。

 翌朝、小鳥の囀りと大きな窓から溢れる陽の光で目を覚ましたイグニスは体を起こす。
 暫くぼんやりして白い布団を眺めていると、横を向いた。
 確かに昨日の深夜に夜這いしてきた男の影すらない。

 しかし今日は非番なため、ゆっくりベッドから這い出て姿見で自分を映す。特別変わった変化はなく、次第に思考が鮮明となり着替えを済ませた。
 確か、今日はグラキエスの仕事も書類だけで多忙じゃない。
 自然と恋人の予定を頭で考えながら欠伸を零す。そのときだった。軽く扉を叩く音で、視線を向ける。

 イグニスが起きる時間を把握したかのような訪問は一人しかない。

「……開けていいぞ」
「おはよう、イグニス~。元気ー? 眠そうだね」
「……誰のせいだと思ってんだ……」
「それよりも、何か変化はない?」

 変化と言われて再び自分を見てみるが、気になる部分はなかった。グラキエスの手には朝食と紅茶の入った銀のトレーがある。それから、見慣れない魔法具を持っていた。
 少しだけ警戒するイグニスに笑って近づくグラキエスは、当然副団長の服装をしている。

 私服のイグニスは同じ団服姿じゃないことに少しだけ動揺していた。小さな変化すら見逃さない男はクスッと笑う。

「なーにー? イグニスって、もしかして……制服好きなの?」
「なっ……ちげぇよ。なんか、俺のが下に感じるような……」
「実はコレ。年齢を測る魔法具なんだよー」

 ベルトのような形をした魔法具に、また怪しい拘束具かと思っていたイグニスは拍子抜けた顔をした。疑う眼差しへ気づいたグラキエスが手本を見せるように細い腕に嵌めて見せてくる。

 なんの変哲もないベルト型の魔法具は薄っすらと光って数字が浮かんだ。年齢を表すと言っていたのが本当なら少しだけ間違っている。
 魔法具が表した数字はだった。

「……それ、壊れてねぇか?」
「え? 成功だよ? それじゃあ、次はイグニスねー」

 サッと取り外して付けられる。本来なら二十七と表示されるだろう数字はだった。
 自分たちの年齢が逆になっているのではないかと混乱する中、終始笑顔のグラキエスは魔法具を取り外す。

 そして、どこか年上のような含みのある顔で笑ってみせた。グラキエスを見て、いつもとは違う感覚に気づく。
 いつもなら何かしら年下であるグラキエスの世話をしていた。気持ちの面でも。その気持ちが一切なくなっていた。

「まさかと思うが……」
「あっ、分かったー? 正解は、僕とイグニスの年齢を逆にする薬でしたー」

 以前飲まされた体の入れ替わりよりは優しそうな薬だったが、同時に疑問が浮かぶ。年齢を逆にしてなんの意味があるのかと……。
 だが、いままで何度か話した内容を思い出す。

「……もしかして、年下から同じか年上になりたかったって」
「うん、そうだよー? 僕たちの二年じゃ肉体的な変化は分からないけど……ちゃんとイグニスはだから」

 思ったよりも子供らしい理由に面食らったイグニスは、呆れてため息を漏らした。
 そこまで明確に言い切られると、どこかそわそわした気持ちになってくる。
 体が年齢に引っ張られているような不思議な感覚だった。たかが二歳と思っていたイグニスは、事実それを気にしていたわけで複雑な顔をする。

 まず初めに朝食の変化だった。注がれる紅茶を渡されて感謝を口にする。いつもと変わらない光景のはずなのに、なぜかむず痒さがあった。それは年上に感覚。年下にされていたのもどうかと思っていたが、何かが違った。甘やかされている感覚に襲われる。

「あー……なんか、変な感じがする」
「んー? そうなの? じゃあ、朝食も僕が食べさせてあげよっか」
「なっ……ふざけたこと言ってんじゃねぇ」
「……イグニスー? 口が悪いよ?」

 なぜか優しい注意に対して肩が揺れた。いつもは年上だったことで気にしたことがなかった言葉遣いである。しかも、グラキエスは敢えてわざとらしくイグニスの真似をして感じられた。
 そして、それは本人の意志と反して自然と口から漏れる。

「わ、悪い……え?」
「ふふっ……良い子だね、イグニスは――」

 優しく頭を撫でられると胸がほっこりした。食事が済んで少し経ったあと、イグニスは自分の精神と格闘する。
 なぜか無性にグラキエスへ甘えたい衝動に駆られていた。普段なら年下を良いことに無理難題を言ってきたり、行動するグラキエスが一切何もしてこない。それがかえってイグニスの精神を煽っていた。

「ぐっ……たかが二歳だぞ。これは、薬のせいだ……きっと、副作用……」
「イグニス、どうかした? 僕の休憩もあと三十分はあるから、して欲しいことあったらしてあげるよ?」
「……調子に乗るな」

 三十分というタイムリミットに悶々するイグニスを知ってか知らない振りをするグラキエスは優雅なお茶を嗜んでいる。
 いつもより大人っぽく見えるのも年齢逆転によるものなのか分からない。次第に頭が混乱してきたイグニスは、ソファーから立ち上がろうとしてふらついた。
 足がもつれて危なくテーブルへ倒れかけたのを、抱きしめる形で受け止められる。

「あぶなー……大丈夫? イグニスは、たまにおっちょこちょいだよね」
「うぐっ……違……」

 グラキエスの薄い胸板へ顔を埋める形になったイグニスは顔が熱くなっていった。「てめぇのせいだ」と言いたい言葉を飲み込んで、ドクンと聞こえてくる規則正しい心音へ目を細めてしまう。
 いまは、肩の力を抜いて甘えていいのだと言われているようで、顔を上げたイグニスはグラキエスの肩へ額を擦りつけた。
 思っていなかった行動だったのか、満面の笑みを浮かべるグラキエスが頭を撫でてくる。何度かイグニスがしてきたことだった。

「――いまは、僕に甘えてくれていいんだよ」
「……これは、薬の影響だ……」
「……うん。イグニス、いつもお疲れさま。格好良くて、可愛い僕の愛しい人――」

 膝に置いていた片手を取られると触れるだけの口づけをされる。それに対して羞恥心や嬉しさのような感情よりも、自然な笑みを浮かべて目を閉じた。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

兎森りんこ
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

氷鉄の騎士団長に拾われたスラムのオメガは、無自覚な溺愛に溶かされる

水凪しおん
BL
スラム街で泥とハーブの匂いにまみれ、オメガであることを隠して生きてきた少年ノア。 ある雨の日、発情の熱と寒さに震える彼を拾い上げたのは、王国最強と謳われる「氷鉄の騎士」ヴァレリウスだった。 「お前からは、雨に濡れた花のような匂いがする」 冷徹と恐れられる騎士団長は、ノアを汚いものとして扱うどころか、その匂いに安らぎを見出し、不器用ながらも全力で愛を注いでくる。 温かい食事、ふかふかのベッド、そして何よりも甘く強烈なアルファの庇護。 これは、孤独な二人が運命の番として惹かれ合い、心と体を溶かし合っていく、極上の溺愛救済BL。 ※本作は性的な描写(キスや愛撫、発情期の描写など)を含みます。15歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。

経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!

中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。 無表情・無駄のない所作・隙のない資料―― 完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。 けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。 イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。 毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、 凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。 「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」 戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。 けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、 どこか“計算”を感じ始めていて……? 狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ 業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!

【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話

須宮りんこ
BL
【あらすじ】 高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。 二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。 そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。 青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。 けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――? ※本編完結済み。後日談連載中。

処理中です...