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後日談
君を甘やかしたいから
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仕事が終わったイグニスは、寝る準備をしたあとベッドへ入ってソワソワしていた。
理由は一つだけ。非番だったグラキエスが、またも魔法薬部で何か怪しい薬を作っていたと部下から聞いたからだ。
経験上。グラキエスの性格からして完成したらすぐイグニスへ持ってきていた。そして、即試す。イグニスが寝ていようと関係なく寝室へ侵入して、起きるのを待って勝手に添い寝する男だ。
だが、日頃の疲れから睡魔に抗えず瞼は閉じていく――。
月明かりだけが照らす暗い部屋で、誰かの視線を感じて薄っすらと瞼を開いた。
寝ぼけていることもあって、ぼんやり暫く眺めてしまう顔が急に破顔する。一気に頭が覚醒すると、肩を揺らして布団ごと飛び起きた。
「なっ……てめぇ、また不法侵入しやがって」
「えー? 恋人の夜這いなんて可愛いものでしょ?」
「……まったく可愛くねぇ」
いつから添い寝していたのか分からない男の顔は眠気など一切感じられないほど据わっている。これは魔法薬が成功して興奮したときのグラキエスだった。本人曰く、体の熱が沸騰したように燃えているのだと言う。
恋人になったことで前より調子に乗っている男は悪びれた様子もなく、だらしのない笑顔を向けた。
但し、スッと布団の中から取り出された緑色の薬物が入った小瓶を見て、冷ややかな眼差しを向ける。
「そんな顔しないでよー。今回のはイグニスのために作ったし。間違った薬じゃないからさ」
「……危ない薬を作るんじゃねぇ」
またも実証済みだと言って、じりじりと体を近づけてきた。明日はイグニスの非番だが、まだ朝でもなく眠たい思考を奮い起こす。
「これ、人体に影響しないよう作ったから少し時間かかるからさー。ね? これ飲んでから朝まで寝よう?」
「ふざけ――んぐっ!?」
イグニスの嫌なことはしないと言った口はどの口か……。
夜の営み以外で強引なことをする男じゃなかったが、興奮してタガが外れているようだった。
思い切り口から流し込まれ、少量だったためゴクンと飲み込んでしまう。しかし、薬に睡眠促進剤でも入っているのか、瞼が重くなり頭が揺れた。
サッと伸ばされた長い手に抱き締められ、薄い胸板へ頬が触れる。
「……大丈夫だよ。僕も飲んだから、一緒に朝まで寝ようねー?」
空になった二つの小瓶を揺らして見せられ、そのままベッドへ横たわらされると、抱きしめられたまま思考を手放した。
翌朝、小鳥の囀りと大きな窓から溢れる陽の光で目を覚ましたイグニスは体を起こす。
暫くぼんやりして白い布団を眺めていると、横を向いた。
確かに昨日の深夜に夜這いしてきた男の影すらない。
しかし今日は非番なため、ゆっくりベッドから這い出て姿見で自分を映す。特別変わった変化はなく、次第に思考が鮮明となり着替えを済ませた。
確か、今日はグラキエスの仕事も書類だけで多忙じゃない。
自然と恋人の予定を頭で考えながら欠伸を零す。そのときだった。軽く扉を叩く音で、視線を向ける。
イグニスが起きる時間を把握したかのような訪問は一人しかない。
「……開けていいぞ」
「おはよう、イグニス~。元気ー? 眠そうだね」
「……誰のせいだと思ってんだ……」
「それよりも、何か変化はない?」
変化と言われて再び自分を見てみるが、気になる部分はなかった。グラキエスの手には朝食と紅茶の入った銀のトレーがある。それから、見慣れない魔法具を持っていた。
少しだけ警戒するイグニスに笑って近づくグラキエスは、当然副団長の服装をしている。
私服のイグニスは同じ団服姿じゃないことに少しだけ動揺していた。小さな変化すら見逃さない男はクスッと笑う。
「なーにー? イグニスって、もしかして……制服好きなの?」
「なっ……ちげぇよ。なんか、俺のが下に感じるような……」
「実はコレ。年齢を測る魔法具なんだよー」
ベルトのような形をした魔法具に、また怪しい拘束具かと思っていたイグニスは拍子抜けた顔をした。疑う眼差しへ気づいたグラキエスが手本を見せるように細い腕に嵌めて見せてくる。
なんの変哲もないベルト型の魔法具は薄っすらと光って数字が浮かんだ。年齢を表すと言っていたのが本当なら少しだけ間違っている。
魔法具が表した数字は二十七だった。
「……それ、壊れてねぇか?」
「え? 成功だよ? それじゃあ、次はイグニスねー」
サッと取り外して付けられる。本来なら二十七と表示されるだろう数字は二十五だった。
自分たちの年齢が逆になっているのではないかと混乱する中、終始笑顔のグラキエスは魔法具を取り外す。
そして、どこか年上のような含みのある顔で笑ってみせた。グラキエスを見て、いつもとは違う感覚に気づく。
いつもなら何かしら年下であるグラキエスの世話をしていた。気持ちの面でも。その気持ちが一切なくなっていた。
「まさかと思うが……」
「あっ、分かったー? 正解は、僕とイグニスの年齢を逆にする薬でしたー」
以前飲まされた体の入れ替わりよりは優しそうな薬だったが、同時に疑問が浮かぶ。年齢を逆にしてなんの意味があるのかと……。
だが、いままで何度か話した内容を思い出す。
「……もしかして、年下から同じか年上になりたかったって」
「うん、そうだよー? 僕たちの二年じゃ肉体的な変化は分からないけど……ちゃんとイグニスは年下だから」
思ったよりも子供らしい理由に面食らったイグニスは、呆れてため息を漏らした。
そこまで明確に言い切られると、どこかそわそわした気持ちになってくる。
体が年齢に引っ張られているような不思議な感覚だった。たかが二歳と思っていたイグニスは、事実それを気にしていたわけで複雑な顔をする。
まず初めに朝食の変化だった。注がれる紅茶を渡されて感謝を口にする。いつもと変わらない光景のはずなのに、なぜかむず痒さがあった。それは年上にしてもらっている感覚。年下にされていたのもどうかと思っていたが、何かが違った。甘やかされている感覚に襲われる。
「あー……なんか、変な感じがする」
「んー? そうなの? じゃあ、朝食も僕が食べさせてあげよっか」
「なっ……ふざけたこと言ってんじゃねぇ」
「……イグニスー? 口が悪いよ?」
なぜか優しい注意に対して肩が揺れた。いつもは年上だったことで気にしたことがなかった言葉遣いである。しかも、グラキエスは敢えてわざとらしくイグニスの真似をして感じられた。
そして、それは本人の意志と反して自然と口から漏れる。
「わ、悪い……え?」
「ふふっ……良い子だね、イグニスは――」
優しく頭を撫でられると胸がほっこりした。食事が済んで少し経ったあと、イグニスは自分の精神と格闘する。
なぜか無性にグラキエスへ甘えたい衝動に駆られていた。普段なら年下を良いことに無理難題を言ってきたり、行動するグラキエスが一切何もしてこない。それがかえってイグニスの精神を煽っていた。
「ぐっ……たかが二歳だぞ。これは、薬のせいだ……きっと、副作用……」
「イグニス、どうかした? 僕の休憩もあと三十分はあるから、して欲しいことあったらしてあげるよ?」
「……調子に乗るな」
三十分というタイムリミットに悶々するイグニスを知ってか知らない振りをするグラキエスは優雅なお茶を嗜んでいる。
いつもより大人っぽく見えるのも年齢逆転によるものなのか分からない。次第に頭が混乱してきたイグニスは、ソファーから立ち上がろうとしてふらついた。
足がもつれて危なくテーブルへ倒れかけたのを、抱きしめる形で受け止められる。
「あぶなー……大丈夫? イグニスは、たまにおっちょこちょいだよね」
「うぐっ……違……」
グラキエスの薄い胸板へ顔を埋める形になったイグニスは顔が熱くなっていった。「てめぇのせいだ」と言いたい言葉を飲み込んで、ドクンと聞こえてくる規則正しい心音へ目を細めてしまう。
いまは、肩の力を抜いて甘えていいのだと言われているようで、顔を上げたイグニスはグラキエスの肩へ額を擦りつけた。
思っていなかった行動だったのか、満面の笑みを浮かべるグラキエスが頭を撫でてくる。何度かイグニスがしてきたことだった。
「――いまは、僕に甘えてくれていいんだよ」
「……これは、薬の影響だ……」
「……うん。イグニス、いつもお疲れさま。格好良くて、可愛い僕の愛しい人――」
膝に置いていた片手を取られると触れるだけの口づけをされる。それに対して羞恥心や嬉しさのような感情よりも、自然な笑みを浮かべて目を閉じた。
理由は一つだけ。非番だったグラキエスが、またも魔法薬部で何か怪しい薬を作っていたと部下から聞いたからだ。
経験上。グラキエスの性格からして完成したらすぐイグニスへ持ってきていた。そして、即試す。イグニスが寝ていようと関係なく寝室へ侵入して、起きるのを待って勝手に添い寝する男だ。
だが、日頃の疲れから睡魔に抗えず瞼は閉じていく――。
月明かりだけが照らす暗い部屋で、誰かの視線を感じて薄っすらと瞼を開いた。
寝ぼけていることもあって、ぼんやり暫く眺めてしまう顔が急に破顔する。一気に頭が覚醒すると、肩を揺らして布団ごと飛び起きた。
「なっ……てめぇ、また不法侵入しやがって」
「えー? 恋人の夜這いなんて可愛いものでしょ?」
「……まったく可愛くねぇ」
いつから添い寝していたのか分からない男の顔は眠気など一切感じられないほど据わっている。これは魔法薬が成功して興奮したときのグラキエスだった。本人曰く、体の熱が沸騰したように燃えているのだと言う。
恋人になったことで前より調子に乗っている男は悪びれた様子もなく、だらしのない笑顔を向けた。
但し、スッと布団の中から取り出された緑色の薬物が入った小瓶を見て、冷ややかな眼差しを向ける。
「そんな顔しないでよー。今回のはイグニスのために作ったし。間違った薬じゃないからさ」
「……危ない薬を作るんじゃねぇ」
またも実証済みだと言って、じりじりと体を近づけてきた。明日はイグニスの非番だが、まだ朝でもなく眠たい思考を奮い起こす。
「これ、人体に影響しないよう作ったから少し時間かかるからさー。ね? これ飲んでから朝まで寝よう?」
「ふざけ――んぐっ!?」
イグニスの嫌なことはしないと言った口はどの口か……。
夜の営み以外で強引なことをする男じゃなかったが、興奮してタガが外れているようだった。
思い切り口から流し込まれ、少量だったためゴクンと飲み込んでしまう。しかし、薬に睡眠促進剤でも入っているのか、瞼が重くなり頭が揺れた。
サッと伸ばされた長い手に抱き締められ、薄い胸板へ頬が触れる。
「……大丈夫だよ。僕も飲んだから、一緒に朝まで寝ようねー?」
空になった二つの小瓶を揺らして見せられ、そのままベッドへ横たわらされると、抱きしめられたまま思考を手放した。
翌朝、小鳥の囀りと大きな窓から溢れる陽の光で目を覚ましたイグニスは体を起こす。
暫くぼんやりして白い布団を眺めていると、横を向いた。
確かに昨日の深夜に夜這いしてきた男の影すらない。
しかし今日は非番なため、ゆっくりベッドから這い出て姿見で自分を映す。特別変わった変化はなく、次第に思考が鮮明となり着替えを済ませた。
確か、今日はグラキエスの仕事も書類だけで多忙じゃない。
自然と恋人の予定を頭で考えながら欠伸を零す。そのときだった。軽く扉を叩く音で、視線を向ける。
イグニスが起きる時間を把握したかのような訪問は一人しかない。
「……開けていいぞ」
「おはよう、イグニス~。元気ー? 眠そうだね」
「……誰のせいだと思ってんだ……」
「それよりも、何か変化はない?」
変化と言われて再び自分を見てみるが、気になる部分はなかった。グラキエスの手には朝食と紅茶の入った銀のトレーがある。それから、見慣れない魔法具を持っていた。
少しだけ警戒するイグニスに笑って近づくグラキエスは、当然副団長の服装をしている。
私服のイグニスは同じ団服姿じゃないことに少しだけ動揺していた。小さな変化すら見逃さない男はクスッと笑う。
「なーにー? イグニスって、もしかして……制服好きなの?」
「なっ……ちげぇよ。なんか、俺のが下に感じるような……」
「実はコレ。年齢を測る魔法具なんだよー」
ベルトのような形をした魔法具に、また怪しい拘束具かと思っていたイグニスは拍子抜けた顔をした。疑う眼差しへ気づいたグラキエスが手本を見せるように細い腕に嵌めて見せてくる。
なんの変哲もないベルト型の魔法具は薄っすらと光って数字が浮かんだ。年齢を表すと言っていたのが本当なら少しだけ間違っている。
魔法具が表した数字は二十七だった。
「……それ、壊れてねぇか?」
「え? 成功だよ? それじゃあ、次はイグニスねー」
サッと取り外して付けられる。本来なら二十七と表示されるだろう数字は二十五だった。
自分たちの年齢が逆になっているのではないかと混乱する中、終始笑顔のグラキエスは魔法具を取り外す。
そして、どこか年上のような含みのある顔で笑ってみせた。グラキエスを見て、いつもとは違う感覚に気づく。
いつもなら何かしら年下であるグラキエスの世話をしていた。気持ちの面でも。その気持ちが一切なくなっていた。
「まさかと思うが……」
「あっ、分かったー? 正解は、僕とイグニスの年齢を逆にする薬でしたー」
以前飲まされた体の入れ替わりよりは優しそうな薬だったが、同時に疑問が浮かぶ。年齢を逆にしてなんの意味があるのかと……。
だが、いままで何度か話した内容を思い出す。
「……もしかして、年下から同じか年上になりたかったって」
「うん、そうだよー? 僕たちの二年じゃ肉体的な変化は分からないけど……ちゃんとイグニスは年下だから」
思ったよりも子供らしい理由に面食らったイグニスは、呆れてため息を漏らした。
そこまで明確に言い切られると、どこかそわそわした気持ちになってくる。
体が年齢に引っ張られているような不思議な感覚だった。たかが二歳と思っていたイグニスは、事実それを気にしていたわけで複雑な顔をする。
まず初めに朝食の変化だった。注がれる紅茶を渡されて感謝を口にする。いつもと変わらない光景のはずなのに、なぜかむず痒さがあった。それは年上にしてもらっている感覚。年下にされていたのもどうかと思っていたが、何かが違った。甘やかされている感覚に襲われる。
「あー……なんか、変な感じがする」
「んー? そうなの? じゃあ、朝食も僕が食べさせてあげよっか」
「なっ……ふざけたこと言ってんじゃねぇ」
「……イグニスー? 口が悪いよ?」
なぜか優しい注意に対して肩が揺れた。いつもは年上だったことで気にしたことがなかった言葉遣いである。しかも、グラキエスは敢えてわざとらしくイグニスの真似をして感じられた。
そして、それは本人の意志と反して自然と口から漏れる。
「わ、悪い……え?」
「ふふっ……良い子だね、イグニスは――」
優しく頭を撫でられると胸がほっこりした。食事が済んで少し経ったあと、イグニスは自分の精神と格闘する。
なぜか無性にグラキエスへ甘えたい衝動に駆られていた。普段なら年下を良いことに無理難題を言ってきたり、行動するグラキエスが一切何もしてこない。それがかえってイグニスの精神を煽っていた。
「ぐっ……たかが二歳だぞ。これは、薬のせいだ……きっと、副作用……」
「イグニス、どうかした? 僕の休憩もあと三十分はあるから、して欲しいことあったらしてあげるよ?」
「……調子に乗るな」
三十分というタイムリミットに悶々するイグニスを知ってか知らない振りをするグラキエスは優雅なお茶を嗜んでいる。
いつもより大人っぽく見えるのも年齢逆転によるものなのか分からない。次第に頭が混乱してきたイグニスは、ソファーから立ち上がろうとしてふらついた。
足がもつれて危なくテーブルへ倒れかけたのを、抱きしめる形で受け止められる。
「あぶなー……大丈夫? イグニスは、たまにおっちょこちょいだよね」
「うぐっ……違……」
グラキエスの薄い胸板へ顔を埋める形になったイグニスは顔が熱くなっていった。「てめぇのせいだ」と言いたい言葉を飲み込んで、ドクンと聞こえてくる規則正しい心音へ目を細めてしまう。
いまは、肩の力を抜いて甘えていいのだと言われているようで、顔を上げたイグニスはグラキエスの肩へ額を擦りつけた。
思っていなかった行動だったのか、満面の笑みを浮かべるグラキエスが頭を撫でてくる。何度かイグニスがしてきたことだった。
「――いまは、僕に甘えてくれていいんだよ」
「……これは、薬の影響だ……」
「……うん。イグニス、いつもお疲れさま。格好良くて、可愛い僕の愛しい人――」
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