彼女が残した物語

藤代みのこ

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プロローグ-むかし、むかしのお話-

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むかし、むかし。
ある町に、器量のいい娘がいた。町一番の美人で、誰からも愛される人気者。
そのうえ度胸もあり、腕っぷしも強かった。

ある日、隣国の王子が彼女に一目惚れをした。
王子は求婚したが、娘は首を横に振り、その見合いを断った。

町の人々は娘を守った。
誰一人として娘を渡そうとはしなかった。

その行動に王子は怒り狂った。
「娘が嫁に来ないなら、町全員を火あぶりにする!」
王子はそう叫んだ。

娘は町や町の人々を守るため、自ら嫁ぐことを決めた。
婚姻の準備を整え、王子が差し向けた馬車に乗り、隣国へ向かった。

……道のりは三日。
だが、出発した夜、馬車の馬が暴れ、御者が馬を追って去ってしまった。娘は一人きりになった。

「まだ町を出たばかりだし、夜明けになってから嫁げばいい」
そう考え、娘は馬車に書き置きを残して町へ駆け戻った。
足取りは軽く、また皆に会える喜びで胸がいっぱいだった。

だが、町に戻った娘の目に飛び込んできたのは――。
赤く燃える炎。
十字架に吊るされ、黒くなった人影。

娘は走った。
かろうじて息のある青年を見つける。

「……王子は、お前が出発したあと、大勢の兵士を寄越した……町の人全員が火あぶりの刑に……」
青年は、慕っていたことを告げ、笑顔のまま息絶えた。

娘は空に向かって雷鳴のような声で叫んだ。

その瞬間、空から雨粒が落ち、土砂降りとなり、町の炎は沈下していった。

隣国はその後、日照りに見舞われ、農作物が育たず内乱が起き、王族は全員いなくなった。
ただひとりの王子の姿を見たものはいない。
町に送り出された兵士たちも姿を消し、誰一人として戻ることはなかった。

国民の誰かが呟いた。
「あの町の娘の呪いだ……」
だが、誰一人として娘を見た者はいなかった。

しかし滅びた町には町人分の墓があり、そこには誰も植えていないのに一面花畑が広がっていた――。




ガタン、ゴトンと車輪の音が、夜道に響いていた。
荷馬車の中、最初はほんの数人だけが耳を傾けていたが、やがて乗っている全員が身じろぎもせず、その物語に聞き入っていた。

「かわいそうな女の子……その王子が悪いんだ!」
鼻水をすすりながらそう言ったのは、まだ幼い女の子だ。

「そうじゃのう……わしが小さいころに教えてもらった話じゃ。本当かどうかも分からん、昔話じゃよ」
白いひげを撫でながら、老人がふぉふぉふぉと笑う。

「そんな昔からある話なら、本当にあったことかもしれねえな」
顎に手を当てて呟くのは、その女の子の父親だった。

「なぁに、年寄りの独り言じゃ。気になさらんでええ。お嬢さん、この世の中は平和じゃ。お嬢さんのように優しい人間であふれとる。物語のような悲しいことにはなりはせんぞ」

「うん! わたしも、みんなに優しくなれる人になる!」
少女の声に、荷馬車の中の人々の顔が自然とほころんだ。




物語が終わる頃に馬車が目的地へと着き、乗客は早々と降り、
老人は御者の手を借りてゆっくりと馬車から降りる。
御者が笑って言う。
「爺さんの話のおかげで、急げと文句を言う客がいなくて助かったよ!」

老人は手を少しあげ、宿を探そうと歩きだした。
そのとき、目の前にカツンと指輪が転がってきた。
拾い上げて、目線の先にいるフードを被った青年に声をかける。

「もし、フードの青年よ。指輪を落とされ……た……」

その指輪を見て老人は固まった。
青年――いや、赤髪に緑の瞳を持つ少女が振り向き、微笑んだ。

「ありがとう。大切なものなんだ」

その姿は、物語の中で語り継がれてきた“娘”の姿そのものだった。




「この指輪は…」
指輪を持つ手が震える。

「あぁ。その指輪を知っているということは…ラウスの子孫なのかな?」
少女は少し困ったように笑い、物語に登場した誰にも伝えていない青年の名を呼ぶ。

少女は老人に近づき、指輪を受け取ると、
「次に会った時は、ラウスの墓に連れて行ってくれ。あの時の告白の返事をするよ」

指輪を薬指にはめ、ウインクする少女。
老人の目からはとめどなく涙が溢れた。



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