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おかしな人

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「やぁ!」

 不意にかけられた声に驚いて目を向けると、見知らぬ若い男が私の隣に腰を降ろしてた。
なんて無作法な人なんだろうと、私が不快感を顕わに厳しい視線で睨み付けても、まるで動じる様子はない。
それどころか子供みたいに無邪気な笑顔を浮かべてる。



 「ねぇ、交換しない?」

 「……は?」

 「君の記憶を僕におくれよ。
 君には忘れてしまいたい記憶があるんでしょう?」

 「な……」



まるで、心の中を見透かされているようで……
でも、そんなこと出来るわけがない。
そうだ…きっとこの男は心理カウンセラーか何かなんだ。
こんな人気のない公園のベンチに一人でじっと座ってたら、おかしいって思われるのも無理はない。



 「こ、交換って言ったわね?
 私の記憶と引き換えに、あなたは何をくれるっていうの?」

 本気にしていたわけじゃない。
ただ……きっと、私は寂しさからついそんな反応してしまったんだと思う。



 「じゃーーん!
これだよ。」

 男が懐から取り出したのは、数枚の紅葉の葉っぱ。



 「これはね…幸せになれる魔法の葉っぱなんだ。
 君の記憶によって、どれをあげるか決めさせてもらうね。」



 男は、今時、子供でも信じないようなおかしなことを誇らしげに話してくれた。
もしかしたら、この男……カウンセラーじゃなくてただのアブナイ人なのかもしれない。
 私がそうっと席を立とうとしたら、男とばっちり視線が合って……
仕方なく私は精一杯の作り笑顔を浮かべ、座り直した。
 誰か人が通ったら、知り合いのふりをして席を立とう…そんなことを頭の中でシミュレーションする。



 「ねぇ、早く交換しようよ。
 君が忘れたいと思ってる人の記憶とこれを!」

その言葉に私の心臓はドクンと大きく飛び跳ねた。



この男は私が淳のことを忘れたい事を知ってるの!?
そんな筈はない…そう思うのに、私の鼓動はなかなか速度を緩めない。
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