虚実の時

神在琉葵(かみありるき)

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 (皆はどう思うだろう?
 事故だったと思うだろうか?
それとも……)



 幸いにも雨は上がったが、どんどん暗くなって行く山の中で、セザールは膝を抱え、家族を想い胸を痛めた。



 (本当にごめんよ。
でも……僕にはこんな方法しか思いつかなかったんだ……)



そう考えてもやはり彼の心は傷んだ。



 『今なら戻れる』
もう一人の自分がセザールに囁いた。

ヨットの操舵にしくじって、大岩にぶつかり小島まで流されていた……そんなことでも言って戻れば、誰も傷付けることはない。



 (……だめだ!!)



セザールは、拳で地面を叩きつけた。



 長い時間をかけ、ようやく下した決断を、セザールはやはり覆すことは出来なかった。



 (僕は、自分の人生を歩くことを決めたんだ!
たとえ、まわりに迷惑をかけることになっても、僕は、親に決められた人生なんてまっぴらだ。
 僕は、僕の意思でエレナと結婚し、絶対に幸せになるんだ!!)

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