虚実の時

神在琉葵(かみありるき)

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次の日の朝、一行はバルバスの町を離れた。
まだ意識の戻らないセザールは、今までとは別の荷車に載せられ、エリックの手によって慎重に運ばれた。
 奇しくもセザールは、彼の予定通りに…しかも彼が乗るはずだった出航時刻の船に乗り、バルバスの町に着いた。
ただ、そこに着いた時の自分自身が瀕死の状態だとは、予想もしないことだった。
さらに、その町に落ち着くはずが、ずいぶんと離れた場所へ移ってしまった。



 移民達のあらたな村までは、徒歩で五日かかった。
その間も、アニエスは夜通しセザールの容態を見守った。
 相変わらず、彼の意識は戻ることはなかったが、死ぬこともなかった。
その生命力の強さには、医師もただただ驚くばかりだった。

 山の奥の小さな村は、長い間、住む者もいなかったらしく、ずいぶんと荒れ果ててはいたが、朽ち果てた家はいくつもあった。
 長い旅の末、ひさしぶりに屋根の下で眠れることに…そして、ようやく落ち着く場所にたどり着いたという安堵に、村人達は感謝と幸せを感じていた。
もちろん、それはアニエスも同じことだった。
 荷車に載せられているだけとはいえ、一日の大半を移動する旅は、セザールの体調に良くないことはわかっていた。
 落ち着いた環境になれば、セザールは良くなるのではないかと、アニエスは小さな希望に
胸を膨らませた。



そして、その夜……



(あ……)



 「せ、先生!
 起きて下さい!
あの人が……!」

アニエスのただならぬ様子に、医師は飛び起きた。



 「あ……!」

ベッドに寝かされたセザールが、うっすらと目を開けていることに医師は気付き、思わず小さな声を上げた。



 「君!僕の声が聞こえるかい?
 具合はどうだ?
どこか痛むか?」

 興奮した医師の声に、セザールは低いうめき声を出した。



 「……頭が痛い……」

 「そうだろう。
 君は崖から落ちて、頭に酷い傷を負ったんだ。」

 「崖から落ちて…?傷…?」

 「詳しいことはこれからおいおい聞いていくことにしよう。
とにかく、今は身体を休めることだ。
さぁ、ゆっくりと眠るんだ。」

セザールは医師の言葉に素直に従い、目を閉じたかと思うとそのまますぐに眠りに就いた。

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