虚実の時

神在琉葵(かみありるき)

文字の大きさ
17 / 42

17

しおりを挟む
「皆さん、お疲れ様です。
お昼の準備が出来てますから、どうぞ。」

 「おぉ、ちょうど腹がすいてたところなんだ。
いつも、すまないな。」

 近くの広場のテーブルの上に、男達の食事が準備してあった。



 「代わり映えのしないものですみません。」

 「なに言ってんだ。
ここにはろくな食べ物もないのに、いつも本当によくやってくれてるよ。」

 「アニエスはおふくろさんに似て、料理上手だもんな。」

 何気ない男の一言が、アニエスの顔に暗い影を落とした。
それに気付いた男達は、気まずい雰囲気をどう解決しようかと焦りながら頭をひねる。



 「アニエス…あ、あの……」



 「わぁ、このジャム、最高だね!
ねぇ、アニエス…これは何のジャムなんだい?」

パンを頬張ったミカエルは、無邪気な笑顔でアニエスに問いかけた。



 「え…あ…あぁ、それは…山でみつけたアプリコットのジャムよ。」

 「アプリコットかぁ…
この甘酸っぱさ…たまらないね!
あ、そうだ!このジャムを町で売ったらどうだろう?
アプリコットはこのあたりにしか自生してないし、第一、こんなに美味しいんだもん。
きっと売れるよ。」

 「そ、そんなことないわ…こんなものなんて……」

 「いや、確かにミカエルの言う通りだ。
こりゃあ本当に美味い!
 甘いばっかりじゃなくて、アプリコットの風味がすごく生きてるな。」

 二人に釣られて、他の男達もアプリコットジャムのトーストに手を伸ばし、そして、皆一様に笑顔を浮かべながら、ジャムの味を絶賛した。



 「ここのアプリコットは成長がとても良いですし、味に癖がなくて、他にもいろいろなお菓子に使えそうです。
それに、アプリコットの種はちょっとした薬にもなるんですよ。」

 「そういや、アニエスの父さんは…」

 「ジャック!!」

 「え……あ……あ、俺……」



 「アニエスのご両親は、どちらも素敵な人だったんだね。」

 屈託のない笑顔を浮かべるミカエルに、アニエスは涙をこらえ、ゆっくりと頷いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幸せになれると思っていた

里見知美
恋愛
18歳になったら結婚しよう、と約束をしていたのに。 ある事故から目を覚ますと、誰もが私をいないものとして扱った。

あなたが決めたことよ

アーエル
恋愛
その日は私の誕生日パーティーの三日前のことでした。 前触れもなく「婚約の話は無かったことにしよう」と言われたのです。 ‪✰他社でも公開

【完結】その約束は果たされる事はなく

かずきりり
恋愛
貴方を愛していました。 森の中で倒れていた青年を献身的に看病をした。 私は貴方を愛してしまいました。 貴方は迎えに来ると言っていたのに…叶わないだろうと思いながらも期待してしまって… 貴方を諦めることは出来そうもありません。 …さようなら… ------- ※ハッピーエンドではありません ※3話完結となります ※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

嫌われたと思って離れたのに

ラム猫
恋愛
 私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。  距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

聖女エーステリアの死

倉真朔
恋愛
聖女エーステリアはなぜ最愛の人に断罪されたのか。切ない物語です。 この作品は、カクヨム、小説家になろうにも掲載中。

処理中です...