虚実の時

神在琉葵(かみありるき)

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「知ってるって……何を……」

 「私、画廊に行って来たの。
そして、聞いたわ。
ローランが画家の居所を調べてること。
あの絵に描かれてる女性は、あなたの恋人だそうね。
それを聞いて、私、すべてがわかったわ……
なにもかもわかったのよ!!
あなたは、あの絵を見て……いいえ、あの人を見てずっと忘れていた記憶を思い出した……そうよね?
そして、あなたはローランをあの人の所へ行かせた……
私を捨て、あの人と二人でこの先の人生を歩むために……」

アニエスの声はすっかり理性を失い、涙でぐっしょりと濡れた顔を向け、ミカエルのことを恨めしげにみつめた。



 「そ、そうじゃない。
いや、確かに君の言う通りだ。
あれは僕の恋人だったエレナで、あの絵のおかげで僕は記憶を取り戻した。
でも、僕は……」

 「どうして…?どうしてなの?
……あなたは言ってくれたわ。
 私のことを一生愛するって……
私……その言葉を信じてたのに……あなたを信じてたのに……!」

アニエスは、ミカエルの話をさえぎり、なお一層感情的な声で叫ぶ。



 「き、聞いてくれ、アニエス……
僕はエレナに……」

 事情を説明しようとしたミカエルに、アニエスがゆっくりと近付き、その身体がかぶさった。



その途端、まるで時が止まったかのように二人の動きや声は止まり、それとは裏腹に時を刻む秒針の音だけが部屋の中に大きく響いた。



 「アニ…エス……な……ぜ……」



 苦しげに顔を歪ませたミカエルの言葉が途絶えると同時に、彼の身体はどさりと床の上に崩折れた。
 彼の口と腹からは、赤い血がまるで生き物のように床に広がっていく……



「行かせない……」



アニエスの口から小さな呟きが漏れた。
 赤く染まったナイフが、放心したアニエスの手を離れて落ちて……



まるで糸の切れた操り人形のように、アニエスはその場に座り込んだ。

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