虚実の時

神在琉葵(かみありるき)

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 「ただいま。」



 夜が更け、人々が眠りに就く頃になって、疲れた様子のローランが帰宅した。



 「父さん…?いないの?」

いつもなら、すぐに返って来る「おかえり」の声がないことを不審に思ったローランは、そのまま奥へ進み、そこで予想さえしなかった異常な事態を目にする。



 「と…父さん!!」



ローランは、一目でミカエルがすでに死んでいることに気付いた。



 「母さん…なにがあったんだ!
ど、どうしてこんなことに……!」

ローランは震える声で、アニエスに問いかけた。



 「……この人が私を裏切ったからよ。」

 血の海に座り込み、虚ろな目をしたアニエスが、小さな声で答えた。



 「裏切る?父さんが何を……
ま、まさか!!母さん…父さんがあの人と会おうとしていることを知って……」

 「ええ、そうよ!
 私、知ってるんだから!
あの人が私を捨てて、あの絵の女性の所へ行こうとしていたことを……」

アニエスは、顔を上げてローランを睨みつけ、高ぶった声で叫んだ。



 「か、母さん、何を言ってるんだ…!
 確かに、父さんはエレナさんに会いたがっていた。
でも、それは母さんが思ってるようなことじゃない!
エレナさんに謝るためだって言ってた。
 彼女に昔、何かとても酷いことをしてしまったんだって。
 僕も最初は母さんと同じようなことを考えた。
だから聞いたんだ。
そしたら、父さん、大きな声で笑って……
 ……確かにエレナさんは恋人だった人だけど、今は、母さん以外に愛してる人はいないって。
 母さんはかけがえのない人だって言ったんだよ!」

 「……そ、そんなの嘘よ……!」

アニエスは急に落ち着きを失い、両手で頭を抱え込んだ。
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