ミステリーSS集

奇跡の後で

１

「夏美、俺と結婚してくれ！」

 「……ごめん。
 私、まだやりたいことがいっぱいあるから。」




 俺のプロポーズは、夏美のその一言で脆くも玉砕した。
もちろん、俺は説得した。
やりたいことは結婚してからだって出来る。俺はおまえの自由を奪ったりしない、と。
だけど、夏美の気持ちが変わることはなかった。



 彼女はあんな風に言ったけど…もしかしたら、そもそも俺とは本気じゃないってことなんだろうか？
 信じたくはないが、彼女には悪いうわさがある。
 俺以外にも付き合ってる男がいるという噂だ。
 直接、夏美に問いただしてみたこともあったが、それはただの男友達だと言った。
 俺はそのことを信じていたが、真実は違うということか？



たとえ、その悪い噂が本当だったとしても、俺は夏美を諦めるつもりはない。
 絶対に、俺の方を振り向かせてみせる！
とはいえ、そんな自信があるわけでもない。
 俺は特に金があるわけでもないし、容姿が良いわけでも、頭が良いわけでもなんでもない。
 極めて普通の男だから。



 （やっぱり、無理なのかなぁ…）

 俺は、沈んだ気持ちで家路についた。